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ミツフジの三寺 歩社長が語る、ウェアラブルデバイスの現状と未来
2018年5月16日 18:48
ミツフジは、導電性を備えた銀メッキ繊維(糸)「AGposs(エージーポス)」を製造販売する京都の繊維メーカー。このAGpossを採用した着衣型ウェアラブルデバイスと、センサーやBluetoothなどを内蔵した着脱式トランスミッターとを組み合わせてユーザーの生体データを取得し、トランスミッターからスマートフォン、専用アプリに転送しつつクラウドで解析するまでをワンストップで提供するのが、「hamon(ハモン)」サービスだ。
そんなミツフジが「hamon」の二次代理店、チャネルパートナーのほか、新たなサービスを共同開発するデベロップメントパートナーを募集している。今回は、都内で行なわれた販売代理店プログラム説明会にて、同社の代表取締役社長・三寺 歩氏が語った、ミツフジやhamonの、今後のビジョンを聞いてきた。
市場はある、お金もあるウェアラブル市場
登壇した三寺氏は、まず現在のウェアラブル市場について、自らの考えを次のように語った。
「hamonは、ウェアラブルのセンサーからクラウドシステムまで、すべて日本の企業が開発して展開する、ウェアラブル市場では珍しい製品です。さらに日本で作られているにも関わらず、世界で戦っていける製品だと自負しています。
ウェアラブル市場に関しては、ものすごく積極的な方もいれば、ものすごく消極的な方もいます。世界で話題となったリストバンド型ウェアラブル端末を販売している企業の、株価の推移を見てみると、上場後に一気に上昇しました。でも、すぐに95%も下落しています。現在も、売上に対して、赤字が100億円くらいあります。
ある雑誌で、ウェアラブルはB to Cマーケティングには厳しいと書かれていました。なぜか? それは“So What?”のマーケティングだからだと分析していました。
ウェアラブルでデータは取れます、毎日取っています……でも、だから何なんだ? それで何ができるんですか? と。お客様が求める、何ができるのか? という問いに、明確な答えを出せていないということです」
「市場はあります。お金もあります。だけれども、やり方を間違えると、すごく難しくなる」
それが現在のウェアラブル市場だと、三寺氏は冒頭で語った。
マーケットの変化に応じて、開発環境も変えていく
hamonは、シャツとトランスミッター、スマートフォンアプリ、クラウドで構成されている。シャツとトランスミッターにより、現在はユーザーの心電・心拍、活動量などの生体情報が取得できる。取得データは、Bluetoothでスマートフォンに転送され、アプリまたはクラウドで、ユーザーの身体の状態をリアルタイムで把握可能だ。
具体的には、ユーザーが転倒したとか、眠気やストレスを感じているなどが分かるという。例えば、ロジスティクス企業や建設業であれば、長距離トラックの運転手や現場の作業員などに着てもらい、遠隔地にいる管理者がスマートフォンアプリやPCで、運転手の眠気や、作業員の熱中症などを予見できるとする。
今後はトランスミッターを改良していき、呼吸や筋電、温度・湿度の情報も取得できるようにする。さらにスポーツや医療の分野でも、幅広く活用できるよう、開発を進めているという。
「当社の強みは、世界で唯一、糸からクラウドまでを1社で作れるという点です。
ただしこの強みは、あと1年半で終わります。なぜ終わるかというと、そんなことを言っても仕方がないマーケットが来るからです。一気通貫でワンストップチャネルで開発販売する価値と言うのは、今のアーリーアダプターにしか通用しないと考えています。
今は、巨大企業が100着とか200着だけ売ってほしいとおっしゃいます。100着なのだけど、あれもこれも出来るようにしたいとおっしゃる。ただし、十分な開発費をきちんと払ってくれます。
マーケットが今の状況であれば、シャツやトランスミッター、アプリやクラウドなどを分断して別々の会社が開発していくよりも、当社が全て開発した方が良いと考えています」
現在はhamonサービスの全てを1社で開発していることが最大の強みだが、この強みはすぐに弱みとなり得ると三寺氏はいう。なぜかと言えば、クラウド分野などが足を引っ張るのではないかという。
「開発リソースが、それぞれに均等に掛けられるかといえば、そうではありません。当社のリソースはワンストップを続けるには不足しています。ですから、今のやり方を続けていけば、突然死してしまいます。
そこは冷静に判断し、一気通貫にこだわらず、クラウド分野はその分野に強い企業と組むなど、パートナリングをかなり強化していくつもりです。あくまでも、今現在はこの体制でやっていますが、徐々にマスマーケットになっていくにつれて、我々は立ち位置を変えていくことになります」
三寺氏は、hamonサービスの肝となるのは、あくまでも取得データをクラウドで、どう解析していくかにあると考えている。取得するためのシャツやトランスミッターなどの技術は、すぐに追いつかれる。だが、取得データをどう活用するか、信頼できるアルゴリズムなどを開発できるかが重要なのだ。
ウェアやトランスミッターを無料で配布する理由
三寺氏は、ミツフジの製品群が勝つための戦い方については、次のように語った。
「よく、モノ消費からコト消費に変わって来たということが言われています。お客様が何に対してお金を払うかという、そうした感覚がどんどん変わってきている時代です。例えばhamonは1着5,800円です、と言われてもお客様はついてこられないんですよね。
例えば今は、お客様に100着買いたいと言われたとします。その時に、なんで100着いるんですかと聞くと、社員が30人いるから1日3着でしょう、だから余裕をみて100着くださいねと。社員は何人いるんですかって聞くと、300人いるんだけど、服を買う人は100人だなぁと言うように明確な根拠はなく言われたりします。
でもこれは、こちらがソリューションを売っていないからなんです。服は何着でトランスミッターが何個でシステム使用料は1カ月にいくらです、と売ってしまっている。すると、お客様は何を買って使うつもりなのか忘れてしまいます」
従来の営業の仕方では、できるだけ多くのウェアやトランスミッター、クラウドのシステムを売り込もうとしてしまう。一方で、顧客は何のために購入したのか、本来の目的を忘れてしまうというのだ。
「すると、お客様はウェアラブルを買ったところで、安心安全にはつながらず、単に服をたくさん持っているという状態になってしまいます。5年後には、お互いに不幸な結果にしかなりません。
我々は、お客様に安心安全を得られるようにするのが、我々の仕事です。そこで、ウェアとトランスミッターは無料で配布することにしました」
hamonサービスでは、何人のユーザーを見守るかによって導入コストが変わる。導入を決めた企業からすれば、従業員が何人いるからいくらかかるということが分かりやすい。
「無料で配布された瞬間に、お客様はモノを買うということではなく、何人の従業員を安全にしなきゃいけない、ということに意識をフォーカスしていくはずです」
ミツフジの目標は、世界的規模で訪れる少子高齢化や労働人口減少の問題に応えること
hamonの活用が想定されているのは、現在のところ、建設業や製造、運輸などの産業分野。加えて介護福祉分野での利用も訴求すべく、介護福祉用のウェアも開発した。
産業分野では、建設業や運輸・製造業における作業員の体調不良の検知、ストレスや疲労度の把握、眠気、転倒の検知などを可能にする。また、介護福祉分野では、高齢者の介護センター内での状態や位置、転倒の監視のほか、健康促進のバロメーターとなるデータの取得を目指す。
スポーツ分野で利用も視野に入れ、WBA世界ミドル級王者の村田諒太氏や、ボスケットボールのヨコハマビー・コルセアーズのハシーム・サビート氏などとともに共同開発を進めている。プレイヤーが着用することで、筋肉疲労などの把握、ストレスや緊張度の監視、最適心拍ゾーンの確認やポジションの確認などに役立つようにするためだ。
さらに、てんかん発作を予知できるシステムも既に大学などと共同開発中。hamonサービスが、簡易心電計となるほか、在宅診療サポートを可能にするを目指しているという。
「ミツフジは2025年をターゲットイヤーとして設定しています。最近のニュースを見ていると、小学生の登下校の列に、高齢者が運転する車で突っ込んでしまうというケースがあります。まさに今は、認知症の方が施設に入らずに、どのように生きていくかを考えていくべき時代です。
中国では、一人っ子政策の影響で、2人の夫婦が4人の親の面倒をみなければいけないという人口構造が近づいています。そういった時代を、2025年に、日本も迎えます。
我々は、認知症対策となる、有用でリーズナブルなサービスを、その2025年までに確立したいとも考えています。日本やアメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジアでの展開も進めています」
少子高齢化と労働人口の減少は、日本だけの問題ではなく、世界中において喫緊の課題となっている。その課題に応えられるサービスを2025年までに確立し、世界でビジネスを展開していくと三寺氏は語る。
「そのため、当社はメカニズムの解析に特化しています。なぜ疲れるのか? なぜ体調が悪いのか? なぜコンディションが落ちてきたのか……そうした多くの“なぜ”に対して、“こうだからです”と明確に答えられるアルゴリズムの開発、そして開発に必要なデータの収集に取り組んでいる段階です。お客様が知りたいのは、その“なぜ?”というところですからね」
我々の持つ知見やノウハウを広め、市場を大きくしていきたい
最後に三寺氏は、ウェアラブルマーケットでのビジネスは、甘くないという。と同時に、冒頭で指摘したように、そのマーケットは巨大でもあるとする。
「ミツフジの歴史を振り返ると、月5万円で借りていた掘っ立て小屋から始まっています。繊維産業がダメになった厳しい時代にあがきはしましたが、そこまで落ちました。
そこから、IT産業にいた私が帰ってきて助けたという風にみられています。でも、そこには抜けている話があります。周りの人が、助けてくれたんです」
「同業である大手繊維メーカーは、我々のビジネスを一切妨害しません。むしろ、頑張って上がってこいと言ってくれる。そうした繊維業の方々が温かく助けてくれる。頑張れ、そして一緒に市場を大きくしようと言ってくださったんです。
今度は我々が持っている知見やノウハウを広めて、一緒に市場を大きくする番だと考えています。2016年にhamonという製品を出し、今はまだ始まったばかりです。皆様のご指導をいただき、さらに市場を大きくしていきたいと思っています」