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パナソニックアプライアンス、デザインセンターを京都に一本化、茶筒スピーカーも製品に

 パナソニックは、これまで大阪および滋賀に分散していたアプライアンス社デザインセンターの拠点を京都に一本化し、「Panasonic Design KYOTO」として、2018年4月2日から稼働。4月24日に、Panasonic Design KYOTOの内部を公開するとともに、同社のデザイン戦略などについて説明した。

 また2015年11月から開始していた、京都の伝統産業とともに新たな家電デザインを研究する共創プロジェクト「Kyoto KADEN Lab.」の第2弾製品群を発表するとともに、第1弾のなかから開化堂とコラボレーションした「響筒」を、2019年春を目標に製品化することも明らかにした。

 さらに、国立大学法人京都大学工学研究科と、生活空間や家電製品のイノベーション創出に向けた協力関係を構築することに合意した。

パナソニックが開設した「Panasonic Design KYOTO」

ASPIRE TO MORE~住空間に心地良いデザインを

 パナソニックでは、アプライアンス社、エコソリューションズ社、コネクティッドソリューションズ社に、それぞれデザインセンターを設置。アプライアンス社デザインセンターは、白物家電およびAV機器のデザインを担当している。

 パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長は、「パナソニックは、2018年3月1日に新たな家電ビジョンを発表し、そこで家電はいつの時代も、暮らしの憧れを届ける存在でありたいと打ち出し、それをASPIRE TO MOREという言葉に込めた。モノからコトへ、機能から体験へと変化する時代において、暮らしの憧れを作る鍵になるのが、デザインである。家電単品としてのデザインを磨き上げるだけでなく、つながる価値をいかにデザインするのか、体験までをどう描くのかといった点で、デザインに課せられた意義は大きい」とコメント。

パナソニック 専務執行役員 アプライアンス社社長の本間哲朗氏
パソナニックの家電事業では「ASPIRE TO MORE」を打ち出している

 「国や地域ごとに異なる生活文化があるが、それぞれの暮らしに寄り添いながらも、日本のメーカーとしてパナソニックらしいデザインを提案したいと思っている。そのためには、多くの人たちとコラボレーションするための環境が必要であると考え、デザイン部門を京都に集結することを決めた。家電商品には、デザインがとても重要であることを認識しているが、これまでは、事業部ごとにデザインを最適化するという傾向が強かった。住空間という観点で、心地のいいデザインを提供することが必要であり、これを急ピッチで進めてきた。それをPanasonic Design KYOTOから作り上げていく」とした。

 また、「京都は、創業者である松下幸之助がPHP活動の拠点としつつ、施策を練る場でもあり、さらに歴史的景観の保存などの観点でもつながりがあった。だが、パナソニックの家電事業の100年の歴史を見ても、モノづくり機能を本格的に京都に構えるのは今回が初めてである」とし、京都の伝統工芸後継者によるクリエイティブユニット「GO ON」とのコラボレーションによるKyoto KADEN Lab.での経験があったことや、京都市の門川大作市長から、「家電にとって、デザインは付加価値ではなく、価値そのものである」という言葉を聞き、これがアイデアとして温めていた京都へのデザインセンター移転を、本格的に検討するきっかけになったことを明かした。

 京都市の門川大作市長は、「デザインは、価値そのものであり、戦略でもある。京都にデザイン拠点を作り、製品の価値の向上、人々の幸せのために貢献することに期待したい。京都には74の指定された伝統産業があり、すばらしい職人がいるが、生活様式の変化により厳しい状況にある。響筒での、開化堂の茶筒を使い、音楽を聞くための宝箱にするという発想には感激した。私はかつてのナショナルブランドの家電が持つすばらしい性能、すばらしいデザインが大好きである。これを一層発展させてほしい。京都の計り知れない価値を存分に生かしてほしい」と述べた。

京都市の門川大作市長
茶筒の構造からヒントを得たコンパクトスピーカー「響筒」

トレンドやコンセプトを製品に落とし込む「DRIP」

 Panasonic Design KYOTOは、四条通と新町通の交差点にある。四条烏丸の交差点からも近い。9階建てビルの4階~9階の約3,000m2を使用し、滋賀県の白物家電のデザイナーと、大阪府のAV機器のデザイナーの合計150人を集結させた。

 パナソニック アプライアンス社デザインセンター所長の臼井重雄氏は、「この建物は、コーヒーが滴り落ちるようなイメージから、『DRIP(ドリップ)』を全体コンセプトとしている。最上階となる9階はオープンスペースとして、セミナーやワークショップを開催し、最新のトレンドやコンセプトを吸収。8階はミーティングスペースとして、外部とより緊密な関係を構築。7階や6階はデスクスペースとして、上層階から降りてきた情報をアイデアへと変換。5階はアジャイルな開発ができるラボ空間、4階はより精密なモデルを制作するなど、最終アウトプットに落とし込む空間にしている」と説明した。

パナソニック アプライアンス社デザインセンター所長の臼井重雄氏
9階はオープンスペースとして、セミナーやワークショップを開催できる
8階のミーティングスペース。開放的な空間だ
4階のワークショップエリア

 また、「パナソニックは、日本で初めてインハウスデザインを開始した企業であり、企業内デザイン部門としては最も古い。だが、いまのデザインは、感性価値や体験が伴わなくては未完成である。便利な道具から、豊かな体験、憧れの暮らしへとシフトするなかで、感性を扱うデザイン部門が果たす役割は大きくなっている。憧れは時代とともに変わる。グローバルで起こる急激な変化に対応し、その先を行く提案ができなくてはならない。そのためには、これまでのパナソニックが持っているデザインのレガシーを引き継ぎつつ、新たなことに大胆に挑戦していく組織に変革することを決意した。それを、Transitionsという言葉に込めた」とした。

パナソニックは1951年にインハウスデザイン部門を設置した
全員が立ったままで会議をするブース
個別に作業ができるスペースも用意
次期掃除機の開発に使用しているモック。掃除機らしい曲面に様々な塗装を施している
3Dプリンターを設置した部屋もある

 さらに、「これまでは、モノづくりの現場に近いことを最優先し、拠点を分散していたが、これでは人材も分散し、機能的な最適配置がしにくいという課題があった。Panasonic Design KYOTOは、グローバルのデザイン本社拠点に位置づけ、東京、ロンドン、上海、クアラルンプールの開発センターをコントロールすることのになる」と述べた。

 東京では、商品開発を切り離したビジョンや先行提案を行い、人材活性化の場として、2年サイクルで交代。知見や人脈や商品開発のなかに生かす。ロンドンでは調理小物製品のグローバル開発や先端情報の収集、上海およびクアラルンプールで現地向け製品をデザインするという。さらに、米シリコンバレーで展開しているPanasonic βにも6人のデザイナーを派遣しており、デザインシンキングを活用した開発に着手しているという。

 そのほか、スポーツアパレルブランドからCMFスペシャリストを採用したり、社内の他部門からもデザインエンジニアやインサイトリサーチャーを獲得。また、英ロンドンのトップデザインコンサルティング会社のひとつであるシーモアパウエルから、デザインストラジストの池田武央氏を迎え、「FLUX」と呼ぶ専門家集団を設置。「デザインの人材強化によって内部を活性化させ、個人の専門性や生産性を高めていく」とした。

グローバル開発拠点をコンロトールするデザイン本社機能を持つ
シーモアパウエルから、デザインストラジストの池田武央氏を迎えるなど人材を強化
「FLUX」と呼ぶ専門家集団を設置する

 FLUXでは、国内外において質の高いインサイトの収集や、デザインの全体戦略の立案、カラー質感などの研究や商品への落とし込み、サローネ展示などを通じた対外発信を行なうという。また、年1回の開催だったテーマ検討会を複数回開催し、「小さな失敗を繰り返しながら、成功に向かっていくアジャイルなスタイルに変革していく」とした。

 また、「京都は日本の文化的な首都である。日本らしい価値を生み出し続ける創造力がある。外国人デザイナーの採用においても、京都に拠点があることで、海外から多くの応募もあり、ここにも京都のメリットがあると考えている」とした。

 一方、京都大学との協力では、建築学、機械工学、情報学、経営学、心理学といった学部を超えて、デザインの観点から連携。京都大学が持つデザインの知見を、商品開発やビジョンの構築に生かすことになる。

 京都大学の先生を対象にしたエキスパートインタビューや講演など、オープンな議論を進める「エキスパートとの人的ネットワークの構築」、京都大学の先生とワークショップなどを通じて気づきや指導をもとに発想を飛躍させ、家電の新たな商品開発の可能性を探る「デザイン開発におけるインサイト(気づき・きっかけ)の獲得」を行う。

 京都大学工学研究科の椹木哲夫教授は、「京都大学は3つのキャンパスに分かれているが、そのうちの吉田キャンパスと桂キャンパスの移動中の真ん中がここの場所になるので、この立地を生かしたい。日本は要素技術で勝って、システムで負けるといわれるが、これはデザインに課題がある。

 京都大学では、文部科学省からの補助金を得て、6年前からデザイン学をスタートし、日本の置かれている現状と超高齢化時代において、システムや社会そのものをデザインできる五感力と独創力を育て、十字型人材を育成することに取り組んできた。地の利、知見を生かし、産業界とのつながりによって、社会でなにが求められているかを、実感をもって知り、研究、教育に反映したい。これまで培ってきた知見を、新たな産学連携に生かしていきたい」と語った。

京都大学工学研究科の椹木哲夫教授

Kyoto KADEN Lab.第2弾として発表された5製品

 今回のPanasonic Design KYOTOの公開にあわせて、Kyoto KADEN Lab.の第2弾として、5つの製品を発表した。

 Hi to tokiは、枝竹炭が持つ導電性と、パナソニックの電気制御技術を組み合わせ、自然の形で浮かび上がる熾火と、木炭の器によって、火が持つ独特の美しさを表現する製品。しいていえば、照明器具に分類されるものになるだろう。「うつろいゆく熾火に魅入る心地よい時間」がテーマだ。

枝竹炭が持つ導電性とパナソニックの電気制御技術を組み合わせたHi to toki
実際の枝竹炭を燃やし、「うつろいゆく熾火に魅入る心地よい時間」を実現する

 Soyo guは、竹籠の技法を用い、全体を竹のソフトカバーでデザインした送風扇。大きな羽根がゆっくりとまわり、そよ風のような風を生むことができる。「こころ満たす優しいそよ風」を実現する。

Soyo guは、竹籠の技法を用い、全体を竹のソフトカバーでデザインした送風扇
透明の大きな羽根がゆっくりとまわり、そよ風のような風を生むことができる

 To gakuは、ライトユニットと様々なパーツを組み合わせることで、使われる心地よいあかりを実現することができる照明。建具に光を反射させたり、透過させたりすることで、淡く、滑らかなあかりを実現する日本建築の技術を活用。障子の素材などを利用することで、「心地よいあかりに包み込まれる場」を実現する。ライトユニットはバッテリー内蔵であることから、好きな場所に設置できるようになっている。

To gakuは、建具に光を反射させたり、透過させたりすることで、淡く、滑らかなあかりを実現する日本建築の技術を活用
ライトユニットと様々なパーツを組み合わせることで、使われる心地よいあかりを実現する

 Kasaは、刺激を与えると消えてしまうというユニークなコンセプトの照明。近づいたり、触れたりすると消えてしまうあかりが、人とモノとの新たな関係性を築くという。モノをそっと置く動作を自然に引き出すことで、そのモノを壊れにくくしたり、モノづくりの考え方を変えるきっかけになることを生み出す実験的な試みを持ったプロダクトだという。「反応することで人の振る舞いを引き出す灯り」がコンセプトだ。

Kasaは、刺激を与えると消えてしまうというユニークなコンセプトの照明

 Oto no Kotowariは、振動や水、光で生じる音の波形を眺めることで、音の変化や余韻を繊細に感じ取ることができるスピーカー。様々な音や音楽を聞き流している生活者に対して、暮らしなかの音ひとつひとつに意識を向けることで、豊かさにつながることを目指した。「音に見惚れる水紋の囁き」をテーマにしている。

Oto no Kotowariは、振動や水、光で生じる音の波形を眺めることで、音の変化や余韻を繊細に感じ取ることができるスピーカー

 今回の発表した製品は、いずれも商品化が決まっているものではないが、「これまでのKyoto KADEN Lab.では、工芸家と一緒に作ることを重視した結果、大量生産ができないものが中心となっていたが、Oto no Kotowariでは、筐体に樹脂を採用するなど、量産化も可能にしている。工芸家のマインドを生かしながら、大量生産まで行えるモノづくりに進化している」(パナソニックの臼井所長)という。

 なお、2015年11月からスタートした第1弾の製品群のなかで、「響筒」を、2019年春をめどに製品化することを発表した。響筒は、蓋の開閉にあわせて、音をオン/オフできるスピーカーで、手作り茶筒の老舗である開化堂が作った茶筒の蓋の優雅な動きを楽しみながら、音を楽しむことができる。

 「響筒は、耳で聞く音楽を手に触れて感じるという新たな体験を提案するものになる。真鍮製の外装は触れれば触れるほど変化し、持つ人によって異なる素材の変化が見られる。2つと同じものはなく、いままでの家電製品の考え方にはないものになる」とした。価格などについては現在では未定としている。

右が2019年春をめどに製品化することが決定した「響筒」。左は原型となった開化堂の茶筒