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「おにぎりロボット」「手作り味噌キット」など、パナソニックの"ゲーム・チェンジャー・カタパルト"が発表

 2018年8月8日と9日の2日間にかけて、"食&料理×テクノロジー"をテーマにキッチンの未来を描くカンファレンス「Smart Kitchen Summit Japan(スマートキッチン・サミット・ジャパン)2018」が開催された。

 2日目に行なわれたパナソニックのパートナーセッションでは、企業内アクセラレーター「Game Changer Catapult(ゲーム・チェンジャー・カタパルト)」として現在開発が進められている、「totteMEAL(トッテミール)」「Ferment(ファーメント) 2.0」「OniRobot(オニロボット)」の3つのプロジェクトの代表が登壇し、それぞれの取り組みについて語った。

手軽にお弁当などの食品の販売を実現する「totteMEAL」

 パナソニック アプライアンス社で「totteMEAL」の開発を担当する井上 貴之氏は、高層ビルなどで働いているビジネスパーソンがランチ時に感じる困りごとについて「お店が混んでて入れない、ダイエットしたいけどラインアップが限られているため、その中から選ばないといけない。エレベーターが混んでいてなかなか下に降りられないなど、さまざまな悩みがあると思います」と語った。

パナソニック アプライアンス社で「totteMEAL」の開発を担当する井上 貴之氏
高層ビルなどで働いているビジネスパーソンにとって、楽しみであり悩みの一つでもあるのが「ランチタイム」だ

 こういった"ランチ難民"を救うサービスとして「デリバリー」「出張販売」「置き販売」などがあるが、それぞれに共通の課題があるという。「デリバリーの場合、セキュリティが厳しいとオフィスまで運べません。出張販売だと人手をかけてお弁当を持っていかないといけないのでコストがかかります。置き販売の場合は貯金箱のようなものを置いてお金を入れてもらうのですが、回収の手間や在庫管理ができない、導入するオフィスにも手間がかかるなどの問題があります。こうした困りごとを解決するのが『totteMEAL』です」(井上氏)

"ランチ難民"を救う数々のサービス
"ランチ難民の救世主"としてのサービスにも数々の困りごとがある

 「totteMEAL」の始め方は次の通りだ。

 「スマートボックスをオフィスに設置してもらい、販売したい商品を配送します。『アンバサダー』が商品を受け取って販売します。購入はアプリや社員証などで行ない、売れ行きは管理画面で管理します。商品が減ったら補充するという流れです。専用のスマートボックスが必要と思われるかもしれませんが、専用ボックスは不要で、共用も可能です。購入履歴に応じて『次はこういうのを食べたらいいよ』というリコメンドもアプリでできますので、販売する方にとっても販売促進のきっかけになるのではないでしょうか」(井上氏)

スマートボックスをオフィスに設置するだけで、手軽にお弁当などの食品の販売をスタートできる

 また、後付けのユニットを冷蔵庫などに取り付けることで、「専用のスマートボックス不要」という手軽さを実現している。「置き販売をしている業者なら、冷蔵庫にアドオンユニットを後付けするだけでIoT BOXになるので、すぐにキャッシュレス販売が可能です。在庫管理もできますし、ユーザーの嗜好分析もできます。メイン機能は、手軽にキャッシュレス購入ができる『手のひらリモートストア』という機能と、購入履歴から次にどんなものを食べたらいいかをお勧めする『喫食レコメンド』機能ですが、それ以外にもダイエットや筋トレなどの目的をプリセットすることで現状の食傾向を点数表示する『食傾向プロフィール』もあります。また、販売者からすれば商品の説明をしたいはずですので『フードメディア』も提供します」(井上氏)

冷蔵庫にスマートロックやQRコードスキャナー、決済用のICカードリーダーなどを追加することで、専用のスマートボックスなしでサービスを開始できる
「totteMEAL」が実現するさまざまな機能
「totteMEAL・が提供するメインの4機能

 ビジネスパーソンにとっては、「購入するだけで意識せずにヘルシーな食事が食べられるので、結果的に健康につながる」こと、食品サービス企業にとっては「人手をかけずに安全に食品を販売できる」ことを井上氏はアピールしていた。

「totteMEAL」が目指す提供価値

スマートに味噌造りを楽しめる「Ferment 2.0」

 続いて紹介されたのは"手軽に味噌造りを楽しめる"というキットデリバリーサービスの「Ferment 2.0」だ。

 開発に携わる山本 尚明氏は「Ferment 2.0」を開発した背景として、「ていねいに作られたものを食べたいけど、なかなか食べられないという人が多いことを実感していました」と語る。

味噌造りを楽しめるキットデリバリーサービス「Ferment 2.0」の開発に携わる山本 尚明氏
「ていねいに作られたものを食べたいというニーズは多い」と山本氏は語る

 その元になったのが、2017年の本イベントで発表した発酵機「Ferment 1.0」だった。とはいえ、当時は「1.0」とは呼んでいなかったという。

 「発酵機とミールキットを世に届けられないかと考えて発表したのですが、メーカーとして取り組んでみると、菌が生き生きと繁殖するのは雑菌が繁殖する温度帯と同じということで、安全性の問題があって一旦検討が終了になりました」(山本氏)

 しかし「2.0」にバージョンアップするきっかけも、本イベントにあった。プロジェクト終了が決まってしまったのとほぼ同時期に、味噌メーカー大手のマルコメの担当者から声がかかったという。山本氏は「発酵機を作る上で本質的に必要なのは家電なのか」という点に疑問を持っており、「発酵状況のモニタリングがサポートできればいいのではないかと、書いていたスケッチを見てもらい、『こっそりやってみようか』という話になったのです」と山本氏は話す。

2017年に「スマートキッチン・サミット・ジャパン 2017」で発表した発酵機とミールキット
マルコメからの申し出によって「Ferment」が「2.0」へとバージョンアップする流れが生まれた
「味噌の発酵を温度で管理、予測できないか」という仮説からプロジェクトがスタートした

 「センサースティックを挿し、味噌を造る過程での温度変化を見ることで、味噌がいつできるのかが分かるのではないかということが見えてきました。それで味噌ライフを楽しめるキットデリバリーという形で大豆、麹、塩を提供し、不安なく作れるようにサポートできます」(山本氏)

大豆と麹、塩をセットにしたキットを配送し、温度センサーで温度を測ることで味噌造りをサポートする

 山本氏は味噌を中心につながるコミュニティ「Miso BALL CLUB」の草案も披露した。作っている味噌の温度を測ることで、そろそろ食べごろであることを伝えたり、つながっている友だちの味噌がそろそろ出来上がりつつあることが分かったりする。そこで友だちのところで味噌パーティーをしよう……といった行動に移ることも考えられると山本氏は話していた。

味噌を中心につながるコミュニティ「Miso BALL CLUB」

 なぜ味噌造りのキットをデリバリーするサービスを事業化しようかとしているのかについて、山本氏はこう語る。

 「味噌は元々各家庭で作っていたものですが、今はお店で買うのが当たり前です。しかし味噌はいろいろなものが作れます。知り合いの料理人で、四国の手島というところで取れるトウガラシ『本鷹』を使って味噌を作ってる人がいます。味噌にはいろいろ可能性があるというのを、いろいろな人が作ることで広がっていきます。メーカーが作って渡すだけではなく、コミュニケーションができる場を作ることで、味噌が広がっていくのではないかと思っています」

 今後の構想について、山本氏は続ける。

 「居酒屋には『ボトルキープ』という仕組みがありますが、味噌造りができるポットがあって『味噌キープ』ができれば、2~3カ月に1回、味噌ができたときに来店してもらえるとか、味の好みが分かればテーラーメードの味噌の量り売りなどもできるのではないかとか考えています。味噌を造って食べるだけでなく、いろいろな人のつながりや出会い、生活が変わる要素を持っています。味噌造りの会員になっていくことで、新たな食文化を作っていければと思います。パナソニックは全国にお店があるので、作った味噌を料理にするコミュニティーの核を作りたいと思っています」(山本氏)

米食文化を世界に広げるおにぎりロボット「OniRobot」

 最後にTeam OniRobotの加古 さおり氏が登壇し、おにぎりロボット「OniRobot」を紹介した。

 パナソニックで27年間、炊飯器開発に従事し続けた加古氏は、衰退の一途をたどる日本の米産業に強い危機感を覚えていたと話す。

 「消費量は毎年減っており、これはいくらお米がおいしくなっても止めることはできません。飼料米に変えようという流れも出てきています。そこで炊飯器の立場からお手伝いできないかと考え、目を付けたのが『おにぎり』です。調理しておにぎりの形にすると、手のひらの中のおにぎりの中には『日本のおいしいお米』『塩』『ご当地の食材』という日本食のすべての要素が詰まっているため、おいしいおにぎりを届けられないかと考えました」(加古氏)

おにぎりロボット「OniRobot」を開発するTeam OniRobotの加古 さおり氏
日本の米産業は衰退の一途をたどる(農林水産省「米国の需給及び価格の安全に関する価格の安全に関する基本方針」より)

 おいしいおにぎりとはどういうものなのか、突き詰めてみると「おにぎりの食感は3種類しかない」ことに気付いたと加古氏は話す。

 「1つは外と中が均質なもので、『型抜きおにぎり』や『バクダンおにぎり』のようなものです。次が外がしっかりして中がふっくらしているものです。外はしっかりしていて手で握っても崩れませんが、口に入れるとポロッとほぐれます。有名なおにぎり店のものはこういう感じです。もう1つはフワフワおにぎりです。おいしいご飯を味わうにはいいのですが、持ち歩くにはあまり適していません。日本ではだいたいその3つです」(加古氏)

「おにぎりの食感は3種類しかない」と加古氏は話す

 求める食感は、2つめの「外しっかり中ふっくら」というものだった。「いくら日本で訴求しても、米の消費量は減っていくから、今までご飯を食べたことない海外の人に伝えたいと考え、食堂で『OniRobot』を導入できないかと進めてきました」(加古氏)

開発中のOniRobot

 コンセプトは「健康をクイックチャージ」「できたてをすぐに」「毎日でも楽しめる」の3つ。

 「海外では日本の伝統的なおにぎりといってもダメなので『健康』『グルテンフリー』『オイルレス』、さらに『片手で食べられる』といったことを訴求します。ロボットで握るので、熱々のご飯でも握れますから、冷めて硬くなったおにぎりとは違う『温かさ』という付加価値もあります。具を変えれば、毎日でもいろんなバリエーションを楽しめます」(加古氏)

OniRobotのコンセプト

 OniRobotのプロトタイプに加えて、受発注の管理アプリなども用意。好みに応じたメニューの作成のサポートも可能だという。「海外のおにぎり屋さんの課題は職人さんです。型で握るのもありますが、職人を養成するのが難しいですし、腱鞘炎で辞めてしまうという話も聞きます。「OniRobot」なら重労働を技術で解決できますし、多様なラインアップへの対応も可能なので、属人的なオペレーションをシステムで解決できます。お客様もオーナーも従業員も幸せになるシステムによって、まだ出ていない地域に出店し、寿司とは違う付加価値を付けたいと思っています」(加古氏)

 伝統的なおにぎりを食べたことのない、知らない人に広げることで、「米食文化をけん引して、改めてご飯っておいしいんだよと見直してもらえるような世界を作りたいと思っています」と加古氏は語っていた。

「OniRobot」のプロトタイプに加えて、受発注の管理アプリ、パッケージも用意している
おにぎり店を海外に展開する上で出てくる課題を「OniRobot」は解決できるという
「OniRobot」の提供価値