パナソニックの理由(ワケ)あり家電~Panasonic 100th anniversary in 2018

「あこがれを創る会社」であるために、パナソニックが次の100年でやろうとしていること

2018年3月に100周年を迎えるパナソニック。国内の家電市場においてシェア27.5%を獲得するなど、名実ともに日本トップの家電メーカーだ。この連載では、パナソニックのものづくりに注目。100周年を迎える中で、同社がどのような思考でものづくりを続けてきたのか、各製品担当者に迫る

 パナソニックは2018年3月に創業100周年を迎えた。100周年を記念して行なわれた記者発表では、“家電ビジョン”として、家電事業に今後も注力していくこと、東京西川やNTTドコモとの協業、そして新規事業の創出促進を目指した投資会社の設立などが発表された。家電市場の国内占有率は30%に迫り、日本国内においてはまさに盤石の態勢を築いていると言える。

2018年3月に発表した“家電ビジョン”では、家電事業に今後も注力していくこと、東京西川やNTTドコモとの協業、そして新規事業の創出促進を目指した投資会社の設立などが発表された
パナソニック アプライアンス社 本間社長が会見中に何度も口にしたのは「憧れ」という言葉だ

 一方で、今後強化していかなければならないのが、海外市場だ。グローバルの白物家電市場においては、LGやサムスンといった韓国勢や中国のハイアールなどに大きく水をあけられている。3月1日に日本で開催されたパナソニック創業100周年の会見で、パナソニック アプライアンス社 本間社長は、何度も「憧れ」という言葉を口にし、「パナソニックは憧れを創り続ける会社」だと説明した。「憧れを創り続ける」ためには、次の100年でどういったことを進めるべきなのか。海外市場において、パナソニックが今最も注力している中国市場を追った。

2018年3月にパナソニックは創業100周年を迎えた。中国・上海で毎年開催されている「中国家電博覧会(AWE)」で行なわれた記者会見においてもそのことは大々的に取り上げられた

鄧小平と松下幸之助の握手から始まった中国との関係

 中国におけるパナソニックの歴史は古い。

 1978年に当時副首相だった鄧小平氏が来日し、パナソニックの創業者、松下幸之助氏と会見したことから始まる。鄧小平氏は、当時の松下電器産業のテレビ工場を視察し、技術や経営支援を松下幸之助氏に要請。これに応える形で1980年には松下電器のテレビを中国で発売開始、1987年にはブラウン管を製造する合弁会社を中国・北京に作った。2018年は、創業100周年であると同時に鄧小平氏と松下幸之助氏が協力関係を築いてから40周年というアニバーサリーイヤーでもあるのだ。

1978年に当時副首相だった鄧小平氏が来日し、パナソニックの創業者、松下幸之助氏と会見してから40周年を迎える
1980年に中国でブラウン管のテレビを発売する。それがパナソニックが中国で最初に売った製品だ

 現在、中国には28以上の拠点があり、約2万人の従業員がいる。白物家電を扱うアプライアンス中国は、Wi-Fi搭載の温水洗浄便座を日本に先駆けて発売するなど、独自の取り組みを続けている。

パナソニックは現在世界に100以上の拠点を持ち、7万人以上の従業員を抱える。中国には28の拠点を持ち、2万人の従業員が働く

 毎年3月に中国・上海で開催されている「中国家電博覧会(AWE)」のパナソニックブースには、日本国内では展開していない先進的な製品が並ぶ。例えば、家族の健康情報を総合的に管理し、家の中のポータルサイトとしても機能するマジックミラーや、Wi-Fiを搭載し、毎日便座に座るだけで体脂肪率を計測、血圧測定や尿検査の機能まで備えた温水洗浄便座など。これらはいずれもアプライアンス中国が独自に開発したもので、2018年度中には発売をスタートするという。

毎年3月に中国・上海で開催されている「中国家電博覧会(AWE)」
サニタリー空間の新たなポータルとして提案する「マジックミラー」。ミラー前に備えられた体重計で計測されたデータを表示、管理でき、さらにその健康状態に合わせた食生活のレコメンドまで行なう
Wi-Fiを搭載し、毎日便座に座るだけで体脂肪率を計測、血圧測定や尿検査の機能まで備えた温水洗浄便座
尿検査機能を新たに搭載。2018年度中には発売をスタートする

 従来は、日本で開発されたものを中国に持ってきて売るというスタイルだった。しかし、中国の急激な経済成長やIoT時代を迎え、かつてのやり方は通用しなくなり、2015年に中国市場でテレビ事業を撤退して以降、アプライアンス中国はずっと赤字だった。

 そこで、中国市場を独自にリサーチし、製品開発、製造、販売まで全て独自に行なうという“開製販一体”の体制を整え、EC(Electronic Commerce:電子商取引。インターネットで物の売買をしたりすること。ネット通販)に注力、Wi-Fi搭載の温水洗浄便座を発売するなど、独自の取り組みを続けてきた。2017年4月に中国人の呉亮氏をトップにしたことで、改革のスピードが加速、2017年度は、主要事業がすべて黒字に転じる見通しだ。

2017年度の黒字化は大きなブレークスルー

 パナソニック アプライアンス 中国の呉亮社長は、この黒字化には大きな意味があると語る。

 「松下幸之助は40年前に中国の消費者のため、幸せな生活のため、貢献すると約束した。アプライアンス中国はそれを達成するために、この40年努力してきた。ここ数年、中国の成長は著しく、発展のスピードに追い付くのに必死だった。我々は、ずっと変化を求めてきたが、ようやく中国の消費者が求める製品やサービスに追いつくことができた。2017年度の黒字化は、その結果が数字に現れたということだ。

 一番のポイントは中国の家電市場全体の成長率が109.6%なのに対して、アプライアンス中国の成長率が117%と、市場の伸び率を上回ったというところ。これは1つのブレークスルーであり、我々は成長し続ける」

パナソニック アプライアンス 中国の呉亮社長

 今回の黒字化の大きな原動力となったのが、ECに注力したということだ。中国では、冷蔵庫やエアコン、洗濯機といったいわゆるメジャー製品と呼ばれる家電製品全体の33%がECで取り引きされており、今後この数字は更に拡大していくと見られている。

 「特に冷蔵庫とエアコンに関してはECの専門部門を作って注力してきた。まだまだ比率は小さいが、一定の効果は出てきた。今年、ECで好調だったのが、マッサージチェア。計画比140%ほどを売り上げただけでなく、65%がECでの販売となった。アプライアンス中国においては、ECの比率はまだ15%前後を推移している状態。来年はこの比率を25%まで上げていく」

 “日本品質”のサービスにも注力している。オンラインで買った人、オフラインで買った人、どちらかが得をするということではなく、同じようにサービスを享受できるようなシステム構築を進める。広大な国土と、13億を超える人口を抱える中国において、どこに住んでいても同じサービスを受けられるというのは簡単なことではない。

 「オンラインとオフラインをそれぞれどう展開していくかは、この数年の課題であり、これまでずっともやもやしてきた。しかし、今ははっきりしている。どちらが重要かという問題ではなく、どちらも重要であるということだ。オンラインとオフライン、どちらも同じ価格、同じモデル、そして同じアフターサービスを受けられるようにすることが今の目標であり、これに向かって努力している。日系企業として、製品だけでなく、アフターサービスや購入前のサービスを充実させることは重要。日本を超えるサービスを構築するというのが、究極の目標」

異業種との協業で、他社を超えるチャンスを作る

 日本でアプライアンス社が今後、積極的に進めていくと明言した異業種との協業について、アプライアンス中国でも既にいくつかのプロジェクトを進めている。まず1つが食品専門の大学として知られる江南大学との健康レシピの共同開発だ。これらのレシピはオーブンレンジや冷蔵庫などのIoT家電を通じて、ユーザーに提供される。

 「中国の発展のテンポに追いつくためには、家電業界だけでなく、色々な分野の会社と連携していく必要がある。中でも重要なのが、ECサイトとの連携だ。中国ECサイト大手のアリババは今、生鮮食品の配達に注力している。このシステムを冷蔵庫に搭載することで、たとえば足りない食材があった時にその場ですぐに注文できる。こういった連携を強化していくことで、ユーザーによりよい体験を届けられると同時に、他社を超えるチャンスも生まれてくる」

食品専門の大学として知られる江南大学との健康レシピの共同開発や、足りない食材をすぐに購入できるシステムなどで、他社との協業を進める

 健康分野においても、異業種との連携を進めていく考えだ。アプライアンス中国では、Wi-Fiを搭載し、体脂肪を管理できる温水洗浄便座を発売しているが、今年は血圧や尿検査までできる温水洗浄便座を新たに発売する。

 「2018年9月末までには、尿検査ができる温水洗浄便座を発売する。これらのデータを有効活用することで、病院や医療機関、保険業界にも貢献できるような新たなビジネス展開も考えられる。我々は普通の家電ではできないことをしていかなければならない」

システムキッチンもECで選ぶ時代

 アプライアンス 中国では、2020年に現在の倍となる売上200億元を掲げる。そのためにブランド、マーケティング、プロダクト、スマートホームの4つを重点分野として挙げるが、中でも注力しているのが、スマートホーム、つまり住空間の分野だ。

 背景には法律の変更がある。中国では従来、建物と内装は別々にオーダーするのが一般的だった。マンションを買う時も、購入時には中の内装は全くしていない状態で、購入後に好みの内装を自分で発注していたのだ。しかし、今後着工する全ての不動産は、図面に内装を明記しなければならないといけないことになった。

 「これは我々にとって大きなチャンス。なぜならパナソニックは、日本では家も売っており、全ての建材や照明、システムキッチンなどを揃えている。中国国内のデベロッパーも、我々の多彩な商品ラインナップに注目してくれている」

AWEにおいても住空間の展示を強化。写真は、IHクッキングヒーターとダイニングテーブルが一体になった「いろりダイニング」

 住空間の提案においても、そのアプローチの仕方は日本とは全く異なる。

 「まずはオンラインで進める。1985年以降に生まれた世代はこれから結婚し、マンションを買う時期に入ってくる。この世代の消費習慣というのは、全てECであり、ECのプラットフォームを充実させないと、この世代の購買意欲を引き出すことはできない。例えばシステムキッチンのリフォームをしようと考えたら、スマートフォンやタブレットで製品を検索、VR(バーチャルリアリティ)によって、実際の設置イメージを確認、右手をスワイプさせると、価格帯が違うモデルや、他メーカーのシステムキッチンが表示される。気に入ったら、そのまま購入、設置工事も申し込める。そういうシステムを構築していかなくてはならない。技術は全て揃っている。あとは、ECサイトとの交渉、そして他メーカーの参入も不可欠になるだろう」

 アプライアンス中国にとっては、新ジャンルへの参入になるが、呉亮社長は大きな期待を寄せる。

 「この何年か、ローカルのメーカーに押されていたが、やっとの思いで業界を超えた成長をし、黒字化を達成した。今後の成長はより新しい分野で、パナソニックの底力を駆使、融合させて世の中に押し出していく必要がある。その1つの可能性が住空間。ここをうまく成長させていかないと、生きる道がないかもしれない。それくらい危機感、あるいは期待感をもって進めている。うまくいけば、3年後にはアプライアンス中国は新天地を切り拓いて、全ての消費者に対して、新しい住空間を提案できるようになるだろう。

 今、中国の家電市場において、シェア10%以上の製品というのはほとんどなく、多くの商品がシェア3~5%というのが現状。中国にはそれだけ多くのメーカーがあり、製品があるためだ。しかし、住空間の設備においては、20~30%の余地があると考えている。それは、中国という広い国土においても製品を流通させ、工事を行なうだけのノウハウが我々にはあるからだ。パナソニックチャイナとしても新しい領域・分野ではあるが、ローカルのメーカーを追いかけるのではなく、我々が先駆けて進めていく必要がある。今、不動産デベロッパーとの連携を模索しており、手応えは十分感じている」

増加する中間所得者層をターゲットにした「ミドルハイエンド」製品に注力

 一方で、従来掲げていた「プレミアム戦略」については、方向性の転換を明言した。従来は、高所得者層をターゲットとした製品を展開していくとしたが、高所得者向けの製品は、他社に有利性があるとして、中産階級をターゲットとした「ミドルハイエンド製品」を強化、2018年度中には全体の半分以上をミドルハイエンド製品にしていくという。

 「従来は高所得者層のいわゆる上澄みのところをターゲットとしていたが、同じプレミアム層でも、従来よりは少し下の層をターゲットにして、プレミアム商品の定義をし直した。中国の高所得者層には、ヨーロッパの製品が絶大な人気で、国内メーカーの製品であってもヨーロッパデザインのものが受けている。機能面にしても、本当にハイエンドの製品に関しては我々が負けているところもある」

 背景には、中国の急激な経済成長により、中間所得者層が増加していることがある。

 「昨年2億人だった中間所得者層が、現在は実感として3億人もしくはそれ以上に増えている。従来、上位の高所得者層15%だったのが、今はそれよりももっと広いところの25%くらい、4~5億人をターゲットとして考えている。具体的には、従来は世帯収入32万元(約540万円)としていたが、今は25万元(約420万円)くらいまで広げていく。中国国内のイメージだけでいうと、パナソニックはプレミアムなイメージが強いが、頭でっかちで売れないモノを作っても全く意味がない。我々が今現在、消費者に貢献できる製品はなにか、もう一度考えていく必要がある」

中国が勝たなければパナソニックの発展はない

 パナソニックは、中国では今もなお、「松下電器」として展開している。その知名度は抜群だが、一方で若年層のアプローチが足りないという課題もある。

 「40歳から上の人で、松下電器と聞いて知らない人はいないというくらい、絶大な知名度がある。80~90代の高齢者の方にも根強いファンが多い。一方で、若い人は、パナソニックと松下電器が一致しないという人も多い。我々は昔からのファンを大事にしながらも、若い世代へも認知度を広げていくということを同時にやっていかないといけない。新しい領域にチャレンジしながらも、高齢者向けのサービスや製品を新たに展開していくことも考えている」

 アプライアンス社としても、中国市場を最重要拠点の1つとして位置づける。3月に中国・上海で行なわれた記者会見には、本間社長自らが登壇。流暢な中国語でパナソニックにおける家電事業の位置づけ、そして中国市場の重要性を明言した。

 「パナソニック全体として、家電以外のBtoB事業を強化していくというのは、社長の津賀も明言していることだが、今年の会計年度において4つあるカンパニーの中で売上も利益も一番大きいのは家電を扱うアプライアンス社だった。産業界のテクノロジー競争において、最先端の技術を搭載しているのは、今や家電ではなくて、自動車にとって代わられてしまっているが、我々は100年の歴史の中で得た知見を通じて、新たなイノベーションを起こすことができると信じている。

 中国では、今まさに社会のあちこちで様々なイノベーションが起こっている。そのスピードは日本を凌ぐ。だからこそ、アプライアンス社では、中国市場を非常に重視しており、最先端の商品を中国で開発している」(本間社長)

中国・上海で行なわれた記者会見には、本間社長が来日。流暢な中国語で今後の方針を語った

 呉亮社長も、「創業100周年という瞬間に、アプライアンス中国の社長を中国人が務めているということに、感動を覚えている。本間社長にも、中国が勝たなければパナソニックの発展はないと言われている」と、決意を語った。

製品ではなく、暮らしやサービスをどう提案していくか

 13.79億人という世界最大の人口を抱える中国は、かつて日本メーカーが次に開いていくべき市場として注目を集めた。しかし、2018年現在、中国で本格的に展開している日系の家電メーカーはパナソニックのみというのが現状だ。

 その人口や、広大な国土だけでなく、中国と日本ではあまりにも色々なことが違う。例えば、新しいモノやコトに対しての感度や取り入れるまでの早さだ。中国ではすでに7億人以上が電子マネーを使いこなし、日常生活で現金を見ることはほとんどないという。大きな買い物はインターネットで済ませ、排気のない電気バイクがかつての自転車にとって代わっている。これからの中国で日本の家電メーカーに何ができるか、それは新しい技術の提供ではない。

 パナソニックがこれから中国、そして日本でやろうとしているのは、新しい技術を搭載した家電製品を売ることではなく、その製品を手に入れてからスタートする快適な暮らしやサービスの提供だ。家電製品はもちろん、システムキッチンやサニタリー製品、太陽光発電システム、さらには建材含む家そのものまで扱うパナソニックにとって、そういった“暮らし”の提案は本来得意なものであり、創業者の松下幸之助も“豊かな暮らし”を人々に提供することを願ってきた。次の100年、人々にとっての“豊かな暮らし”はどう変わっていくのか、パナソニックの次の一手に注目していきたい。

 今回で「パナソニックの理由(ワケ)あり家電~Panasonic 100th anniversary in 2018」は最終回となります。これまでご愛読いただき、ありがとうございました。

阿部 夏子