家電レビュー

パナソニックのビストロ炊飯器、備蓄米もいつものお米も安定の炊き上がり

可変圧力IHジャー炊飯器ビストロ SR-X910D

パナソニックから9月に発売された炊飯器の新製品「可変圧力IHジャー炊飯器ビストロ SR-X910D」(以下、ビストロ炊飯器)。同社の2025年圧力IH炊飯器の最上位モデルだ。直販価格は99,000円。我が家でいつも食べているお米で評価してみたいと思い、このほど実機をお借りして試させてもらった。

新米の季節になってもお米の値段はあまり下がることはなく、今も政府の備蓄米など古い米が食卓に欠かせない家庭は少なくないはず。

ビストロ炊飯器は「古米や備蓄米もおいしく炊ける」と宣言しているが、実際にこれまでの炊飯器と何が違うのだろうか? 新しく加わったセンサーなどハード面でも変化があり、それがどんな結果につながるのか気になったため、実際に試した結果をお伝えしたい。

高精細センサーで温度をリアルタイム検知 米の甘みを引き出す

パナソニックは、もともと「Wおどり炊き」と呼ぶ、独自の圧力技術の急減圧と、IH(電磁誘導加熱)技術の高速交互対流による手法でおいしいごはんを炊き上げることを特徴としている。

それが2023年にフラッグシップモデルを刷新。それまでの「おどり炊き」に加えて、「ビストロ」のブランド名を冠に付し、他の調理家電とデザイン性も統一された製品群として一新された。その際、新たに採用されたのが「ビストロ匠技AI」と呼ばれる独自の技術だ。

炊飯器に搭載されたセンサーが検知した結果に基づき、釜内の水分量の把握などを把握。圧力をかける時間やIHの火力など、複数のパラメーターを組み合わせて全部で9,600通りの中から米の状態に合わせた最適な炊き方を選択する。AIが参照するデータは、多様な米を取り寄せ、米の状態や水温、水加減、室温といった炊飯に必要な要素について同社が長年にわたって培ってきた炊飯技術の歴史とノウハウが蓄積されたものだ。

ユーザーは炊飯プログラムを設定する必要がなく、「炊飯」ボタンを押すだけで、どのような状態の米でもAIが自動で最適な炊飯プログラムにチューニングしてくれる。

新モデルでは、従来からの「釜底温度センサー」「沸騰検知センサー」「リアルタイム圧力センサー」に加えて、新たに「リアルタイム赤外線センサー」が追加された。「釜底温度センサー」は接触型のもので、炊飯器内を安定した温度で管理することには適しているが、細かな温度変化には対応できない弱点があった。

これに対して、今回、新たに追加した非接触型の「リアルタイム赤外線センサー」は、分解能0.1℃の精細さで温度変化をリアルタイムに検知できるのが特徴。炊飯器内の温度をより細かく管理できるようになり、主に米がおいしく炊けるかどうかを左右する昇温時に効果を発揮し、米の甘みをより引き出せるようになったという。

底面のセンサーに加えて、側面に「リアルタイム赤外線センサー」が追加された。非接触型で炊飯器全体の温度変化を0.1℃の精細さでリアルタイムに検知できる

内釜は5年保証の「ダイヤモンド竈釜」を採用。釜厚は約2.2mmと薄く、アルミ・ステンレスの内釜の内面に「遠赤ダイヤモンドプレミアムコート」と呼ぶコーティングを施し、発熱性や、蓄熱性、断熱性を高めている。鍋底には「ディンプル加工」という、くぼみ加工が施され、大きな泡をより多く発生させて対流を活性化させる役割を担う。

炭や土鍋を採用した内釜に比べると、薄くて軽いため、扱いやすいのが利点だ。しかし、実は厚い釜は、釜の温度と実際の米の温度に差が生じやすく、正確な温度検知が難しくなるため、センシング技術を駆使して高度な温度管理を行なう本製品では、非常に意味のある仕様とも言える。

内釜の釜厚は約2.2mm。片手で軽々と扱えると同時に、釜内の米粒の温度を正確に検知しやすいメリットがある
鍋底には大きな泡を多数発生させて対流を促すために、くぼみ加工が施されている

シンプル操作でわかりやすい

操作手順は、まずは米の種類を選択し、炊き方を選択するという流れ。米の種類や炊き方によっては食感を設定することも可能だ。画面に表示される手順に従っていくだけなのでシンプルでわかりやすい。

米の種類は、「白米」「無洗米」「玄米」「金芽ロウカット玄米」「発芽・分づき米」「麦ごはん」「雑穀米」「もち米」から選ぶことができる。

米の選択画面。「<」「>」ボタンで切り替わり、8種類が用意されている

米の種類を選んだ後は、炊き方を選択する。選んだ米の種類に応じて、選べる炊き方は異なる。

白米・無洗米の場合の選択肢は、ビストロ炊飯・銘柄炊き分け・高速・炊込み・すし・カレー用・冷凍用・おこげ・おかゆ・エコ炊飯の10通り。ここで銘柄炊き分けを選んだ後は、銘柄を指定する。プリセットされた銘柄は73種類だ。

炊き方を選ぶ画面。選択肢は10通り

雑穀米・玄米・ロウカット玄米の炊き方の選択肢は、ごはんまたはおかゆ。もち米は赤飯またはおこわ、麦ごはんと発芽・分づき米はごはんのみ。

ビストロ炊飯と銘柄炊き分けコースを選択すると、さらにそれぞれ食感を選ぶことができる。ビストロ炊飯は、ふつう・かため1~3・やわらか1~3・もちもち1~3・しゃっきり1~3の13通り。銘柄炊き分けは、ふつう・かため・やわらかの3段階で選択可能だ。

「ビストロ炊飯」の食感の設定画面。ふつう・かため・やわらか・もちもち・しゃっきりの5通りからまずは選ぶ
かため・やわらか・もちもち・しゃっきりを選んだ場合はさらに3段階で度合いを設定できる
「銘柄炊き分け」コースの場合は、銘柄を選んだ後、それぞれに3段階で食感を設定できる

備蓄米も安定感ある炊き上がり

新モデルでは、備蓄米などの古い米を含め、種類や炊く人にかかわらず、美味しいごはんを炊くことができ、新しいセンサーの追加によって従来よりもごはんの甘みがアップした点がアピールされている。

そこで、まずはコンビニで購入した備蓄米を炊いてみた。一般的に、精米から時間が経過している古米は含水率が低下して乾燥しているため、水加減は多めがよいという評判を目にするが、とりあえず目盛りどおりの水量で「ビストロ炊飯」、食感は「ふつう」を選択して炊飯した。

コンビニで購入した備蓄米を使用。国産の複数のお米がブレンドされているようだ

炊き上がりまでの所要時間は48分。結果は、ちょうどよい炊き加減で味は可もなく不可もなく。特徴がわかりづらかったので、同じ備蓄米で、試しに自宅にある他の2台(いずれも大手メーカー製の5万円クラスの高級機)の炊飯器でも炊いてみたが、本製品が優れていたのは、炊き上がりの安定度と食感だ。

他の炊飯器の場合、炊き上がった直後はみずみずしいものの、柔らかすぎて食べるとべチャッとしていた。それに対し、本製品は見た目の潤いは少なかったものの、食感はちょうどよい。数回試してみたが、他に比べて毎回安定度が抜群で、「ビストロ匠技AI」が米の含水率を検知し、自動で炊き方を調整してくれる効果を実感した。

「ビストロ炊飯」で炊いた備蓄米
カニ穴も見られたが、全体的にパラっとしており粘度は低め

炊き立てのみずみずしさに関しては他の炊飯器のほうが感じられが、時間が経つと劣化が早い傾向にあった。あくまで素人レベルの推測だが、古米は劣化しているため、米粒が脆く、もしかすると他の炊飯器では火力や圧力が強すぎたために細胞が壊れ、劣化が進むのが早かったのかもしれない。

10時間保温後の備蓄米。炊き立てに比べるとパサつきが目立つようになった

備蓄米はいろいろな米がブレンドされているというので、炊飯器にとっても炊き方が難しいのかもしれない。他の炊飯器は、炊き上がりの具合を見て、その後は水分量を調整してチューニングを行なっていたが、本製品は目盛りどおりの水分量でも最初から失敗なく炊けた。

風味に関しては、どの炊飯器も差は正直そこまでの差はなかった。評価は家族によっても分かれ、完全に好みの問題の範疇だった。備蓄米はそもそも風味が落ちているので、「おいしい」とまでは言えないが、いずれも各社の上位モデルということもあり、どの炊飯器も「ふつう」で、「まずい」というようなことはなかった。日常的に食べるには十分なレベルで、そのまま炊いただけで風味を復活させるのは難しいのかもというのが正直な感想だ。もしかすると安価な炊飯器と比較したら歴然とした差を感じるかもしれない。

共通点として、いずれの炊飯器も炊き立てはみずみずしくても、時間が経つと水分が少なく、粘り気が低いため、おにぎり用途には向かなかった。ただし、本製品の場合は食感を「もちもち」の最大値3にすることである程度補うことができた。炊き立てを食べきれず残ったごはんは、炒飯にすると遜色なく食べられた。

備蓄米で握ったおにぎり。米に粘り気がないため、引っ付かず、食べていると米粒がポロポロと分解されやすいが、「ビストロ炊飯」で「もちもち」レベル最大で炊くとなんとか形状は維持できる状態に

いつものお米も「銘柄炊き分け」で個性際立つ味わいに

次に家庭でいつも食べているお米を炊いてみた。「ハツシモ」という岐阜県産の珍しいお米だ。「大粒の晩成種で、初霜の降りる頃までじっくり育てられたことが名前の由来。ご飯の見栄えや歯ごたえのある食感がすばらしく、卓越した食味には定評があります」(JA全農岐阜ホームページより)と説明されている。銘柄炊き分けコースにも登録されていたが、まずは「ビストロ炊飯」の「ふつう」で炊いてみる。

炊き上がりは、みずみずしさもあり、ほどよくふっくらとしていて、粒感もあり、粒のほぐれもよい。ほどよい甘みで、クセのない、どんなおかずにも合わせやすい、“優等生”、“標準”のお手本ど真ん中といった炊き上がりだ。

「銘柄炊き分け」で炊飯した自宅のお米「ハツシモ」
備蓄米に比べるとやはり艶やかさも粒立ちも段違い。炊き立ての香りは特に違った

次に、「銘柄炊き分け」コースの「ふつう」で炊いてみたが、お米の個性が際立ち、個人的により美味しいと感じたのはこちらだった。食感の設定は3段階のみだが、おかずやメニューに応じて炊き分けるのに十分だ。

「ビストロ炊飯」の場合、13通りの食感で炊き分けができるが、個人的には細かすぎてどの設定をすべきかわからないというのが率直な感想。とはいえ、世の中にはさまざまな銘柄の新米だけでなく、備蓄米のように収穫から期間が経った古い米や、家庭での保存状態などによって水分量などの品質もさまざまだ。そうした中で、状態に合わせて精度よく最適に炊き上げるためには、使いながら好みの炊き加減を調整していく必要があり、細かい設定を用意しているというのも理解はできる。

また、白米・無洗米には、カレー用やすし、冷凍用といった特別な炊き方をするメニューも別途用意されている。ひととおり試してみた結果、我が家のお米に関しては「銘柄炊き分け」で炊いたほうが断然おいしかった。

多機能ゆえの使いこなしにくさも

本製品に限ったことではないが、多機能な炊飯器は高いポテンシャルを持っているが使いこなしが難しい。

本製品でも、ビストロ炊飯、銘柄炊き分けに加えて、カレー用、冷凍用、すし飯といった白米・無洗米用だけでも多彩なコースが用意されているが、正直なところ、どれを選んでいいか迷う。どれが最適なのかがわからず、結局、毎回同じ設定に固定されやすく、せっかく用意されていた機能が埋没してしまうというのはありがちだ。コースはもう少し整理されてもいいのかもと思った。

あるいは、多機能な炊飯器ほどWi-Fiを搭載し、スマホと連携したアプリによる操作が有効ではないだろうか。正直、使わないコースや設定がほとんどだと思うので、スマホでダウンロードしてカスタマイズできると使いやすくなりそうだ。

本製品の操作用の表示画面は、反転バックライトのフルドット液晶が採用されている。イラスト表示も可能なドットの細かい液晶だが、タッチパネルではなく、操作は画面下のタッチキーで行なう。一見、スマホライクなインターフェースなので、ついつい画面を触ってしまうこと多く、キーで操作しなければならないのはやはりもどかしかった。

モノクロだが高精細なフルドット液晶。文字の視認性はもちろんだが、炊飯中の様子を表すイラストが表示されるのもわかりやすい

また、トップ画面の構成は「高速」「コース」「りれき」「設定」の4項目。デフォルトで3つまで表示されているが、「設定」だけページ送りをしなければならない。頻繁に使わない設定画面かもしれないが、1画面に収まっているほうがわかりやすいだろう。

電源をオンにすると表示されるスタート画面。全部で4つの項目のうち、1つだけページ送りをしなければならず、できれば1画面に収まっているほうがわかりやすく操作もしやすい

また、お手入れ機能が「設定」の中にあるが、見つけづらい。取説を読めばわかるとはいえ、次のモデルからはメニュー画面の構成を少し再考してほしい。

「設定」の中に「お手入れ」機能の選択肢が含まれている。定期的に使う機能なので、トップ画面上に昇格したほうが便利かも
「お手入れ」機能は、内釜に水を入れて約30分で完了する。ニオイなどが気になる時に利用したい

銘柄炊き分けコースの、銘柄の選択はあ・か・さ・た・な行……の目次画面から進んでいく方式。インデックスがあることで、全体から選ぶよりもたどり着きやすい。反面、何が登録されているかわからないので一覧表示にも切り替えられるとより便利だろう。

「銘柄炊き分け」コースを選択した後は、50音のインデックスから頭文字を選ぶ仕様
「は行」で登録されているのは16銘柄。「<」「>」ボタンで順番に表示できる

一方、気が利いていると感じたのは、タイマー予約だ。低~中級価格帯モデルだと1つまたは2つ程度の仕様のものも多いが、3パターンまでメモリー登録をしておける。3つ設定しておけるので、1日3食、朝・昼・夜の時間帯で設定をいちいち変える必要がないのが便利だった。

タイマー予約の設定画面。3パターンをメモリーしておけるので、朝・昼・夜の時間帯で使い分けられる

その他「りれき」呼び出し機能もある。最近使用した設定をショートカットで呼び出すことができる機能だが、もしかするとスマホ連携よりもこの機能に割り切った形なのかもしれない。

「りれき」ボタンはトップ画面からアクセスできる

お手入れに関して、毎回お手入れが必要な部品は、内釜とふた加熱板の2点。ふた加熱板は食洗機にも対応している。その他前述のとおり、内部の脱臭や汚れを落とす「圧力お手入れ」機能も搭載している。いずれも昨今の上位モデルの炊飯器としては一般的な機能だ。

毎回お手入れが必要なのは内釜と内ふたの2点

保温機能は「うるおいキープ保温」を搭載。最長30時間までと長めの設定だ。保温中に「あつあつ再加熱」ボタンを押すと、再加熱して炊き立て時に近いホカホカが復活する。長時間保温で美味しさが損なわれたごはんがそのままよりも美味しく食べられる。

前モデルから刷新されたデザインは、丸いお櫃のような形状。同じ「ビストロ」シリーズの電気圧力調理鍋などと共通したカラーや質感の落ち着きのある洗練されたデザインを採用し、キッチンでコーディネートがしやすい。

本体サイズは、28.6×30×22.9cm(幅×奥行き×高さ)。パッと見は、一般的な直方体の炊飯器に比べて大きそうに見えたが、実際にキッチンに設置してみると、円形でも浮かず、内鍋の形状に対してデッドスペースが少なく、フットプリントは意外にコンパクトに収まる。壁や他のキッチン家電とのすき間にキッチンツールを置いたりもできる。

落ち着いたマットブラックのデザイン。大きそうに見えるが、フットプリントは意外にコンパクト。しゃもじと計量カップが同梱されている
本体上面の蒸気口。炊飯中は水滴が少し付くものの、湯気は発生しない

全体的な製品の特徴として、優れているのは炊き上がりの安定感。どんなお米でも最初から失敗なく炊けるというのは安心感がある。備蓄米に限らず、市場には目利きによるブレンド米も販売されているが、とりあえず「ビストロ炊飯」で炊けば問題ない。

家庭でも微妙に少量残ってしまって別のお米を混ぜて炊いたりということもあると思うが、そんな時にも水加減や保存状態などを気にせず、何も迷わず、炊飯器にお任せできるのは便利だ。

神野 恵美