e-bike試乗レビュー

カーボン並に軽いアルミ製のフルサスe-MTB! XROSS「DX612」は期待以上の楽しさだった

「e-bikeで遊ぶならフルサスe-MTBがオススメ!」というのは、これまで何度もお伝えしてきたメッセージではありますが、「とはいえお値段が……」というのが多くの方の本音でしょう(筆者もそう思います)。カーボンフレームを採用したフルサスe-MTBのトップグレードだと、安くても80万円台、100万円オーバーのモデルも普通ですから、おいそれと購入できるものではありませんよね……。

そこで狙い目なのが、アルミフレーム採用のセカンドグレードに位置づけられるモデルです。こちらなら、だいたい50万円台で購入が可能。100万円オーバーの予算はなくても、これくらいの価格なら「がんばればなんとかなるかも」と思えるのではないでしょうか。

「そうは言ってもカーボンフレームより重いのでは?」と思う人もいるでしょう。確かにカーボンに比べると多少は重くなりますが、その差は1~2kg。普通のMTBならいざしらず、バッテリーとドライブユニットを搭載しているe-MTBにとっては誤差の範囲です(そう思い込むことにしましょう)。特に今回紹介するXROSS(クロス)の「DX612」というモデルは22.2kg! というカーボンフレーム並の軽さを実現しています。それでいて、価格は566,500円。これならやり繰りをがんばってみようという気になりませんか?

XROSS「DX612」。価格は566,500円

独自の設計でカーボン並に軽いアルミフレームを採用

XROSSというブランド名を初めて耳にする人のために、少し解説しておきましょう。実はe-bikeという言葉が一般的になる前からスポーツタイプの電動アシスト自転車をリリースしている国産ブランドで、2014年には筆者の知る限り国内では初となるロードバイクタイプの「B1h」というモデルを発売しています。

このモデルは、搭載するバッテリーを最小限に抑えることで、ロードバイクの魅力である“軽さ”をスポイルしないというコンセプトで開発されたものでした。その重量は13.5kg。当時、試乗した際にはロードバイクならではの軽快な走りと、上り坂で“チート”できるようなアシストの感覚に感動したのを覚えています。その後、2017年にはヤマハから同様のコンセプトの「YPJ-R」が発売され、近年ではスペシャライズドの「TURBO CREO SL」もアシストの強さより軽さを活かした構成で支持を集めています。XROSSの先見性が感じられるでしょう。

そんなXROSSがe-MTBを手がけたというのを知ったのは、2018年のサイクルモードでした。フルサスとハードテイル、2タイプのe-MTBが展示されていて、ユニークなリンク機構に胸が高鳴ったのを覚えています。そこで見たフルサスタイプの「DX612」にようやく試乗することができましたので、レビューをお届けしたいと思います。まずは車体の詳細から見ていきましょう。

ドライブユニットはシマノSTEPS「E8080シリーズ」。少し角度を付けた状態で搭載されています
バッテリーは大容量504Whの「E8010」を搭載。流行りのインチューブ式ではありませんが、コンパクトなフレームに貢献しています
コンパクトなディスプレイを採用し、ハンドル周りがスッキリしています
ホイール径は前後とも27.5インチ。タイヤは2.6インチ幅の「MAXXIS MINION DHF」を履きます

前後のタイヤが27.5インチなこともあって、全体的にコンパクトに見えます。それを際立たせているのがXROSS独自のフレームデザイン。ドライブユニットの収まるモーターハウスとメインチューブを直線的にレイアウトすることで、コンパクトなフレームを実現しています。フレームがコンパクトであれば、金属製でも重量を軽くできますし、ドライブユニットやバッテリーといった重量物をできるだけ車体の中央に集めることで、運動性能を高めているとのこと。

見るからに前三角の小さいフレームデザイン。角度を付けて搭載されたドライブユニットから、メインチューブが真っ直ぐ伸びているのがわかるでしょうか
このコンパクトトライアングルフレームがカーボンフレーム並の軽さと、慣性モーメントの小さい運動性能を実現している要因です
リアサスペンションのリンク構造もユニークで、フレームの中にサスペンションを通すような作り。e-MTBならではの構成といえるでしょう。サスペンションは「MANITOU(マニトゥ) MCLEOD」
フロントサスペンションもMANITOU製。ややマニアックですが、精度と信頼性の高さには定評があるブランドです。「MANITOU MACHETE COMP」でトラベル量は140mm
前後ともシマノ「DEORE」の油圧式ディスクブレーキ。制動力・コントロール性ともに高いレベルにあるグレードです
リアディレーラーはシマノ「XT」グレード。1×12速の近年のMTBでは一般的になっているギアを採用しています。ちなみにシフターは「SLX」でした
ハンドルバーはXROSSオリジナルの「パフォーマンスバー」で幅は760mm。ステムもXROSSのオリジナルで35mmの短いものがついています
近年のMTBでは必須の装備になりつつあるドロッパーシートポストはTRANZX(トランズエックス)製。トラベル量は125mmを確保していて、整備のしやすいセミインテグレーテッドワイヤリングになっています
グリップはRACEFACE(レースフェイス)製で、グローブを付けても素手でも握りやすい「GRIPPLER GRIP」です

コンパクトで思いどおりに動いてくれる

スペックやパーツのアッセンブルを見るだけで期待の高まる「DX612」。e-bike部にとってはお馴染みの「トレイルアドベンチャー・よこはま」に持ち込んで試乗してみました。実はこの車両、一時期はコースに試乗車として置かれていて、非常に人気も高かったとのこと。期待がさらに高まります。

走行前の押し歩きでもスペックどおりか、それ以上に軽く感じます。前後27.5インチのホイールもあって、車体もコンパクトです。海外ブランドのe-MTBは29インチホイールが多いですが、日本人の体型だとこのくらいのサイズのほうが適する人が多いでしょう。

跨ってみても、コンパクトで軽量な印象は変わらず。ハンドルはライダーに近い位置にありますが、マウントの位置はあまり高くないので、上体は適度に前傾する感じです。「DX612」はワンサイズ展開ですが、身長175cmの筆者でも窮屈さは感じません。

ドロッパーシートポストの可動幅も大きいので、予想以上に幅広い体格に対応しそう

実際にペダルを踏んで走り出してもやっぱり軽い。22.2kgという重量はカーボンフレームのフルサスe-MTBではトレックの「Rail 9.7」(22.77kg)と同等かちょっと軽いくらい。同じ27.5インチホイールのサンタクルズ「Heckler 8」が21.52kgですが、あちらは100万円オーバーですからね……。

アシストの感覚はシマノSTEPS「E8080シリーズ」らしく、ケイデンスを高めてもムラなくスムーズ。アシストの力でグイグイ上って行くというより、ケイデンスに合わせてアシストが立ち上がっていく感覚です。「トレイルアドベンチャー・よこはま」のコースは前半は結構上りが続いていて、アシストなしのMTBで走ると上り切ったところで少し休みたくなるのですが、e-MTBだと続けて何周も走れてしまいます。

下りに入っても、軽快に動く車体がこちらの意図したとおりに反応してくれるので、めちゃめちゃ楽しい!! ギャップが連続するセクションではジャンプも軽くこなせますが、勝手に浮き上がるという感覚ではなく、跳ぼうと思ったところで跳べる感じ。左右に倒す動きも軽く、反応がいいのでコーナーリングも楽しいです。

ジャンプも意図したところで跳べるので、恐怖感なく楽しめます
コーナーリングもかなりコンパクトに曲がれるので、狭いトレイルに持ち込んでもおもしろそう
思いどおりに動いてくれる感覚が楽しくて、何周もグルグル走り続けてしまいました

乗る前からかなり期待値の高かった「DX612」でしたが、実際に試乗すると期待していた以上の楽しさでした。車体はコンパクトに感じますが、不安定なところはなく(コンパクトなe-MTBでアシストが強いと上りでフロントが浮き上がりそうになることがあります)上りも下りも安心して乗れます。小さく曲がれて取り回しも良いので、日本の狭いトレイルにちょうど良さそう。このへんは海外ブランドの29インチホイールのモデルと明確に違うところです。

軽量なだけでなく、重心が中央に集まっている効果で倒し込みの操作なども軽く感じるので、トレイルで振り回して乗るのには最適なアルミ製フルサスe-MTBだと思います。ワンサイズ展開ですが、適応する体格も幅広く、扱いやすいので初めてMTBに乗る人から、ベテランライダーまでオススメできます。ハンドルをマルチポジションタイプとしたアドベンチャーツーリング向きの「DX612A」というバリエーションもあるので、次はそちらのモデルにも乗ってみたいと感じました。

増谷茂樹

乗り物ライター 1975年生まれ。自転車・オートバイ・クルマなどタイヤが付いている乗り物なら何でも好きだが、自転車はどちらかというと土の上を走るのが好み。e-bikeという言葉が一般的になる前から電動アシスト自転車を取材してきたほか、電気自動車や電動オートバイについても追いかけている。