大河原克行の白物家電 業界展望
昭和の花柄ポットに歴代ロゴも、創業100周年を迎えた象印「まほうびん記念館」フォトレポート
2018年7月2日 07:00
象印マホービンが2018年5月21日に、「まほうびん記念館」を大阪市天満の本社1階にリニューアルオープンしてから、約1カ月が経過した。2008年に、同社の創業90周年を記念してオープンしたまほうびん記念館は、今年、創業100周年を迎えるのにあわせて、新たな展示内容を加える形でリニューアル。同社の歴史に留まらず、まほうびん業界全体の歴史に触れることができる内容となっている。実際に、まほうびん記念館を訪れてみた。
実は、まほうびん記念館を取材した日は、大阪府北部で最大震度6弱の地震が発生した6月18日のことだった。
すでに大阪市内にいた筆者も、大阪北部地震を体験したのだが、その日、3件の取材を予定していた中で、取材がなくなったのは1件だけ。象印マホービンのまほうびん記念館も、取材を予定していた午後には大阪メトロの一部が動き始め、広報部長の西野 尚至氏も出社をしており、対応をしていただけるとのことで、当初の予定通りに取材に訪れることになった。
リニューアルしたまほうびん記念館には、歴史的にも価値がある所蔵品が展示されている。もちろん、それぞれの展示品が、しっかりと固定をする形で設置はされているのだが、地震発生時の午前7時58分にすでに出社していた西野部長は、すぐに、まほうびん記念館の展示品の被害の有無を確認するために、1階に移動。すべての確認作業を行なったが、地震による被害は一切なかったという。それも、この日、取材対応をしてもらえた大きな要因のひとつになっている。
歴代ロゴマークも、象印100年の歴史を紹介
本誌では、2009年にもまほうびん記念館の様子をレポートしているが、入口にある「まほうびんが生まれるまで」と題したアニメーション映像や、英国人のジェームズ・デュワー氏が作ったまほうびんの原型となるデュワー瓶の展示。さらにはまほうびん技術の基本である「真空」技術を視覚や聴覚で体験できる「真空のふしぎ体感コーナー」などは従来の展示を継続。
一方で、象印マホービンの歴代製品の展示コーナーは、直近10年分の製品群を追加展示して、「暮らしを創る象印マホービンの100年」に進化。「まほうびん技術と発想開発の系譜」や「まほうびん業界の歴史」、「挑戦し続けた様々なまほうびん」の展示コーナーは、従来の展示に新たな製品や技術展示、コンテンツを追加することで、内容の充実を図っている。
また、人気コーナーとなっている「暮らしの夢シアター」では、象印マホービンの100年の歴史を新たに紹介。テレビCM集も、1960年代以降、1980年代以降、199年代以降の3つのコンテンツに加えて、今回、新たに2010年以降のコンテンツを追加。最近のCMまで視聴することができる。
そして、今回のリニューアルで最大の目玉となったのが、110本の魔法瓶を展示した収蔵展示コーナー「まほうびんの森」である。1948年に、戦後初の卓上魔法瓶として象印マホービンが発売した「ポットペリカン」の形を模した入口から入ると、ガラス製魔法瓶の内びんを使用した、あたたかい光が全体に広がる。
形や素材、色、デザイン、機能といったテーマごとに、歴史的を刻んだエポックメイキングな製品が並んでいた。このうちの一部は、これまでまほうびん記念館の企画展で特別展示されたものを、常設展示化したものが含まれているという。
象印マホービンの1社の歴史を遡るだけに留まらず、魔法瓶の歴史をより詳細に知ることができる重要な役割を持つ展示内容に、より進化したといえるだろう。
もともと日本のガラス工業の中心地だった大阪は、魔法瓶の中瓶を作る優秀なガラス職人が集中。1966年当時には、魔法瓶業界の団体である全国魔法瓶協会組合に53社もの企業が加盟していたが、そのほとんどが大阪に本社を置く企業であったという。
象印マホービンが大阪の地に、まほうびん記念館を設置する意味もそこにある。写真を通じて、まほうびん記念館の様子を紹介する。
暮らしを創る象印マホービンの100年
ここでは、象印マホービンの歴史や、エポックメイキングな製品を展示している。
魔法瓶や電気ポット、炊飯器などの印象が強い象印マホービンであるが、これらの展示を通じて、ユニークな製品を数多く開発してきたことがわかる。
1918年、兄弟で設立した市川兄弟(けいてい)商会
象印マホービンは、1918年に市川銀三郎氏と市川金三郎氏の兄弟によって設立された市川兄弟(けいてい)商会がはじまりだ。最初は、ガラス技術を生かした魔法瓶の中びん製造からスタートした。
1923年から魔法瓶の生産を開始。同年には、自社製魔法瓶の輸出も開始した。もともと魔法瓶は、欧州で広がっており、英国の植民地化によって、欧州から東南アジアへと魔法瓶の文化が広がったという。
そのため日本のメーカーの魔法瓶ビジネスの対象市場は、東南アジアが中心になり、大阪にはガラス職人が多かったことに加えて、大阪が東南アジアの貿易の拠点となっていたことも、この地で魔法瓶ビジネスが広がるきっかけになったといえる。当時、魔法瓶の国内総生産の80%が輸出向けだったという。
1947年、終戦後に魔法瓶事業を再開
1942年には第2次世界大戦の戦局が悪化したことに伴い、市川兄弟商会を閉鎖。終戦後となる1947年に魔法瓶事業を再開した。1948年には、協和製作所を設立し、魔法瓶の製造、販売を開始。戦後の第1号製品としてポットペリカンを発売した。
1953年には、協和魔法瓶工業に社名を変更し、工場を拡張。中近東や欧州市場の開拓とともに、日本市場への展開にも力を注いでいった。この年、エレファントジャーを発売している。
1957年には、八尾工場を建設し、ベルトコンベアを採用した最先端の生産設備を導入し、量産体制を整えた。
1961年、象印マホービンに社名を変更、花柄デザインブームを牽引
現在の象印マホービンに社名を変更したのは1961年のことだ。すでに、1923年に自社製品を展開した時点で象のマークを採用していたが、社名のトレードマークに象を使ったのは、このときが最初だ。
象のマークを採用したのは、「象は頭がよくて、家族愛が強い」、「陸上動物で最大の巨体だが、おとなしく、ゆったりとした態度や、その容姿は子供たちに愛される」、「生命力が強く、寿命が長い」といった理由からだという。
1963年になると、ハイポットワンタッチせん「傾けるだけでお湯が注げる」を発売。さらに、魔法瓶技術を活用した関連製品を開発し、アイスジャー、水筒、保温弁当箱「ランチジャー」などを製品化していった。
1965年には、最新鋭の中びん自動製造専門工場の和新ガラスを設立。1967年には、ジャー「幸(しあわせ)」を発売し、炊き立てのおいしさを保持する提案を行ったほか、1968年には、花柄プリントの魔法瓶を発売するとともに、1969年には、華道4大流派の活花をデザインしたポットを発売し、花柄デザインブームを牽引していった。
また、1968年には、大東市に大阪工場を落成し、基幹工場として稼働させたほか、1969年には八尾工場に世界初の化学強化中びん加工装置を設置して量産化を開始。輸出高は業界第1位になった。
1970年に、現在の場所に本社ビルを竣工。電気で加熱と温度調節を行う世界初の電子ジャーを開発して、家電分野にも本格参入した。1973年には、空気圧を利用したエアーポットを発売。1974年には「炊いて保温」ができる電子ジャー炊飯器を発売した。
なお、1973年には大阪工場にテクニカルセンターを開設し、1976年には工場にトヨタのカンバン方式を導入して、生産の合理化などにも取り組んでいる。
1980年~、圧力IH炊飯ジャーやホームベーカリーを発売
1981年には、ステンレス製の真空魔法瓶「ステンレスサーモス・タフボーイ」を発売し、これがJALの国際線の機内サービス向けに採用。1984年にはステンレスサーモスの自動化ラインを増設して、年間300万本体制を確立した。また、1983年には、びんの上下に出口がある両口中びんの開発に成功し、「みェ~るポット」として発売。同時に、マイコン制御の炊飯ジャーも発売した。
1986年は、新たな象印のCIをスタートするとともに、大阪証券取引所第二部に上場。タイに拠点を開設したり、ゼットオー販売を設立したりと事業拡大に向けた布石を打つ節目の1年になったほか、1987年には米国に拠点を設置したり、初の海外技術輸出として、韓国の韓一家電にジャー炊飯器の製造技術を供与した。1995年に、中国での本格生産を開始している。
一方、1988年には、自動製パン機の「パンくらぶ」を発売。1990年には、サイフォン式コーヒーメーカーや、業界初の薄型食器乾燥機を発売し、製品領域を拡大。1996年には圧力IHジャー「極め炊き」を発売して、圧力方式を炊飯器の主流にしてみせた。さらに、1998年に発売した超軽量ステンレスボトル「タフスーパースリム」は、真空層厚1mmという薄さ実現したことによってスリム化、軽量化を達成したものだ。
また、2001年に発売した「みまもりほっとライン」は、電気ポットの利用状況から、一人住まいのお年寄りなどの安否を確認するシステムであり、これを搭載したi-potは、ITと連動した新たな用途の製品として注目を集めた。2015年には、みまもりホットラインの契約者数は1万件を突破している。
2010年~、南部鉄器を採用した圧力IH炊飯ジャー「極め羽釜」
2010年になると、圧力IH炊飯ジャー「極め羽釜」を投入。羽釜形状の内釜が話題を集めたのに続き、2011年には南部鉄器を素材に採用。象印の炊飯ジャーの人気を確実なものにした。2012年には圧力IH炊飯ジャーの国内累計販売が500万台に達している。
2014年には圧力IHなべ「煮込み自慢」を発売し、新たな調理家電市場を開拓。2015年にはステンレスタンブラーやマルチコンベクションオーブン、全自動コーヒーメーカーなどを開発。引き続き、新たな領域にも挑戦している。
そして、創業100周年を迎えた2018年には、東証一部銘柄に指定され、新たな炊飯器として、「炎舞炊き」を発表し、話題を集めている。
創業100年を機に発信した新たなメッセージは、「ずっと もっと 象印らしく」だ。
なお、まほうびん記念館は、入館料は無料だが、事前予約制となっている。最大見学人数 は1回あたり20人まで。予約問い合わせは、06-6356-2340まで。開館時間は午前10時から午後4時まで(入館は午後3時まで)。休館日は、土曜日、日曜日、祝日、年末年始など。
展示面積は約210m2で、約1時間での見学が可能だ。今後、テーマごとの企画展を実施していく予定だという。
ここからは、ブースごとに写真で紹介する。