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南部鉄器と羽釜は終息へ、象印が炊飯器の新フラグシップモデル「炎舞炊き」を開発したワケ

 象印マホービンが7月に発売する、炊飯器の新たなフラグシップモデル「炎舞炊き」。これまで展開してきた「南部鉄器 極め羽釜」は終息し、今後は「炎舞炊き」が同社炊飯器の最上位になるという。

 IH炊飯ジャー市場のトップシェアを誇る同社において、南部鉄器はずっと高い評価を得ていた。なぜ好調の南部鉄器を終了し新たに炎舞炊きを展開するのか、その秘密に迫る。

7月21日に発売する圧力IH炊飯ジャー「炎舞炊き(えんぶだき)」。5.5合炊きの「NW-KA10」、1升炊きの「NW-KA18」をラインナップ。店頭予想価格は順に、120,000円前後、125,000円前後(ともに税抜)。

創業100周年にふさわしい史上最高の美味しさ、炊飯の原点「かまど炊き」に立ち返り

 「象印マホービンは2018年で創業100周年を迎えます。今回発表した炎舞炊きは、100周年記念モデルという訳ではありませんが、記念すべき年にふさわしい史上最高の美味しさを実現できたと、自信を持って言える製品です。南部鉄器も美味しいごはんを炊けましたが、炎舞炊きはそれを超える美味しさです」と語るのは、象印マホービン 広報部長・西野 尚至氏。

 炎舞炊きを開発するにあたり、同社はどうすればさらに美味しさをステージアップできるかを考え、炊飯の原点に立ち返って「かまど炊き」を再度検証したという。

象印マホービン 広報部長・西野 尚至氏
炊飯の原点に立ち返って「かまど炊き」を再度検証したという

 象印マホービン 第一事業部長・山根 博志氏は、かまど炊きに着目したことについて次のように述べた。

 「かまど炊きには、米でんぷんのα化を促進させる適度な圧力、羽釜で熱を封じこめる均一加熱、吹きこぼれるほどの大火力という、炊飯の美味しいポイントが凝縮されています。かまど炊きから学ぶことは多いと考え、奈良の古民家で実際にかまどでごはんを炊き、新たな発見がないか探しました」

 かまど炊きを再度検証したところ、炎が激しくゆらぎながら、釜を部分的に加熱していることに着目。これが、かまどで炊いたごはんの美味しさの1つと考え、具体的な開発に進んだという。

象印マホービン 第一事業部長・山根 博志氏
圧力/均一加熱/大火力と、かまど炊きには炊飯の美味しいポイントが凝縮されている
長野の古民家で実際にかまどでごはんを炊いて、新たな発見がないか探したという
着目したのは激しい炎の“ゆらぎ”

かまど炊きの激しい炎のゆらぎを再現、業界初の3つのIHヒーター

 釜を部分的に加熱し、かまど炊きの炎のゆらぎを再現するために炎舞炊きで採用したのは、業界初となる3つのIHヒーターだ。現行モデルは本体底にヒーターを1つのみ搭載し、ムラなく全体を加熱することに注力していた。

 しかしヒーターを3つ搭載することで、集中的な部分加熱ができるようになった。ヒーターをそれぞれ独立制御する「ローテーションIH構造」を採用し、この部分加熱により釜内に温度差が生じることで激しい対流が起こり、米の甘みを引き出したふっくらとしたごはんが炊けるとしている。

従来は本体底にヒーターを1個搭載
炎舞炊きは業界初となる3つのIHヒーター
集中的な部分加熱をする「ローテーションIH構造」で激しい対流が起こり、大火力での炊飯を実現

 「かまどの強い炎を電力で表すと約2,750Wで、これを現代の炊飯ジャーと比較するために単位面積あたりで示すと、約6W/cm2になります。現行モデルの電力は、約3W/cm2ほどです。大火力の炎舞炊きはそれらを超え、約12.5W/cm2を実現しています。炎舞炊きでは、かまど炊きをも超えるパワーで炊飯できるようになったのです」(山根氏)

 激しい対流が起きる、炎舞炊きのかき混ぜ効果も実証。白米と玄米を混ぜた3合の米を炊いたところ、従来の「南部鉄器 極め羽釜 NW-A型」では底面に玄米が沈んでいたのに対し、「炎舞炊き NW-K型」は底面から天面まで、白米と玄米が混ざり合っているのが確認できた。

かまどの強い炎を電力で表すと約2,750Wで、単位面積あたりで示すと、約6W/cm2になるという
炎舞炊きのかき混ぜ効果も実証。炎舞炊きでは玄米と白米がよく混ざり合っている

内釜は軽量化、鉄やアルミを組み合わせた「豪炎かまど釜」で炎舞炊きを活かす形状

 3つのIHヒーターの熱を効率よく伝えるために、内釜も改良。これまでは、岩手県の伝統工芸品「南部鉄器」を採用していたが、炎舞炊きでは素材や形状を一新し、「鉄~くろがね仕込み~ 豪炎かまど釜」を採用。

 IHとの相性が良く発熱効率や蓄熱性が高い「鉄」と、熱伝導性の高い「アルミ」、蓄熱性・耐久性にも優れた「ステンレス」を組み合わせたもので、炎舞炊きを活かす形状に改良されている。羽釜の要素も取り入れ、釜のふちを特に厚くすることで釜側面の熱が逃げるのを抑えて、効率よく加熱できるという。

内釜を一新し、「鉄~くろがね仕込み~ 豪炎かまど釜」を採用
鉄/アルミ/ステンレスを組み合わせている

 「熱伝導性が高いアルミや蓄熱性のあるステンレスなどを採用することで、スピーディに熱を伝えて激しい対流を起こせます。また、アルミやステンレスを採用したことで、内釜の軽量化という副産物も生まれました。これまで南部鉄器で炊く美味しさを優先し、内釜が重いという声に目を瞑っているところが正直ありました。新しい内釜はかなり軽くなっています」(山根氏)

 南部鉄器の内釜が約2kgだったのに対し、豪炎かまど釜は約1.2kg。持ち運びやすく、洗いやすくなったという。

 5.5合炊きの「NW-KA10」は、本体サイズが275×345×235mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約8.5kg。炊飯時消費電力は1,240W。1升炊きとともにカラーは、「黒漆(くろうるし)」「雪白(ゆきじろ)」の2色を展開する。

内釜の軽量化も実現。持ち運び、洗いやすくなった
従来の南部鉄器 極め羽釜

 炎舞炊きで炊いた白米を食べてみたが、確かに甘さがしっかり感じられる。粒立ちもよく、ふっくらとしたごはんは、おかずいらずで白米だけでも十分楽しめる味わいだった。

 10月には大阪・難波に、炎舞炊きで炊いたごはんと和食が楽しめる常設店「象印食堂」もオープンする。炊飯器市場を牽引する象印の挑戦はさらに続きそうだ。

上質感のある“玉手箱”のようなデザインに仕上げたという。「黒漆」「雪白」の2色展開