大河原克行の白物家電 業界展望
パナソニック、創業100年を機に、今後の100年を見据えた自社ミュージアムをリニューアルオープン
2018年3月7日 17:09
パナソニックは、2018年3月7日、大阪府門真市に、パナソニックミュージアムをオープンした。3月9日から一般公開する。
1918年3月7日に創業したパナソニックが、100周年を迎えたのを機にオープンしたもので、パナソニック創業者である松下幸之助氏の経営観や人生観に触れられる「松下幸之助歴史館」と、パナソニックのものづくりのDNAを探る「ものづくりイズム館」、2006年にオープンした「さくら広場」で構成している。これらを含むパナソニックミュージアム全体の面積は、2万5330m2(約7,600坪)となり、京阪電車の守口市駅から西三荘駅沿いの全長420mに渡って設置されることになる。
地域や社会の皆様への感謝の思いを込めてオープンしたものであり、松下幸之助氏が追い求め続けた「より良いくらし」、「より良い社会」の実現への高い志、それを受け継いだ後進の熱き思いとともに、経営理念、事業観などを紹介。次代を担う子どもたちが、松下幸之助氏の生き方や考え方を学ぶとともに、ものづくりの面白さに触れる校外学習向けプログラムや、一般向け各種ワークショップなどのイベントを開催する。
パナソニック 常務執行役員の石井純氏は、「パナソニックミュージアムには、4つの役割がある。ひとつは、従業員に対して、理念を継承し、学んでいく場であること。2つめは、ビジネスパートナーや得意先にパナソニックの考え方やDNAを伝えて共有する場であること。3つめは、世界中の多くのパナソニックのユーザーやファンに、創業者の考え方を理解してもらう場となること。そして、最後に、地域に開かれた場として、地域の発展に貢献するという役割である。そのため、フェンスを取り払い、誰もが入れるようにしている。小学校などの社会科見学にも使ってもらいたい」と語り、次のように続ける。
「創業者は、企業は社会の公器であると言ってきた。パナソニックミュージアムは、こうした役割を通じて、次の100年も成長を続け発展し、世の中に貢献していきたい」
パナソニックミュージアムは、同社が創業50周年を迎えた1968年にオープンした松下幸之助歴史館が前身だ。1995年には、松下幸之助氏の生誕100年を記念して大幅にリニューアル。2008年には、松下電器産業からパナソニックへと社名を変更したのに伴い、パナソニック松下幸之助歴史館へと名称を変更。2017年10月30日に一旦閉館していた。閉館までの累計来場者数は約182万人に達している。
今回、従来の松下幸之助歴史館の建屋を、ものづくりイズム館としてリニューアル。新たに建設した建屋を、松下幸之助歴史館とした。その松下幸之助歴史館は、1933年に竣工した第3次本店とまったく同じ場所に、当時と同じ建物外観を、最新の建築技術を用いて新築復元したものになっている。
1933年の門真への本社移転は、創業地である大開町から移転したもので、松下幸之助氏が本社社屋設計には多くの要求をし、屋根には、松下電器産業の針路を定める本店の使命を象徴した舵輪を取り付けたほか、ステンドグラス丸窓を採用。レンガを中心とした外観デザインや材料選定にもこだわったという。
今回、復元した建物にもこうしたこだわりを再現したほか、煙突なども再現した。今回の会見では、生前に松下幸之助氏自身が、本店建物を「なかなか洒落ているでしょう」と語り、南欧風の設計を気に入っていたエピソードも紹介した。
再現に際しては写真などを参考に設計図を新規に起こし、本店竣工時の写真をもとに、最新技術で室内の色調をカラーで再現。貴賓室などでは、それをもとに再現した色を採用しているという。
「50年前に作られた歴史館の狙いは、経営理念を学び、その実践を通じて、未来に継承していく場にするというものであり、そのためには、様々な商品が誕生した門真本店を再現し、その場を利用することが最適であると考えた。50年史では、本店建物を再建し、松下電器歴史館として永久に保存することに言及しているが、今回の本店の再現も、その考えに則ったものになる」として、50年前以上に、より忠実な再現にこだわったという。
また、50周年の際には、本社エリアに、エジソンをはじめとした11人の「科学と工業の先覚者」の像を設置したが、今回は、現在アートのアーティスト3人による、次の100年に向けた「未来へつながるモニュメント」を設置した。
西野康造氏による「気流 風になるとき2018」、宮島達男氏の「Time Waterfall-Panel #2」、植松奎二氏の「浮く形-垂 Floating form-vertical 2018」の3作品で、いずれも、パナソニックミュージアム内に設置されている。
松下幸之助歴史館では、「松下幸之助に出逢える場所」とし、松下幸之助氏の94年の生涯を辿りながら、松下幸之助の経営観、人生観に触れることができる。
松下幸之助氏の書のひとつである「道」をコンセプトに、同氏の94年間に渡る生涯を辿るものとなっており、年齢を追って、生まれた和歌山から大阪に出て、丁稚奉公をはじめ、電気の世界に入るまでの「礎」、大阪大開町でパナソニック(当時の松下電気器具製作所)を創業した「創業」、門真に本社を移し、社会的使命を知り、創業命知の日を制定した「命知」、戦争と戦後の苦難の時代となった「苦境」、グローバル化への取り組みなど、再建から飛躍に向けた「飛躍」、熱海会談をはじめとして不況打開に動いた「打開」、社長を退き、日本と世界の将来を祈る「経世」の7つの章にわけて展示している。
旧歴史館でも、松下幸之助氏の生涯を追った展示は行なわれていたが、時代軸と事業軸でストーリーを全面的に見直し、内容を一新したものとなっており、エピソードを含めた関連資料や商品展示により、当時の様子がわかりやすく解説されている。
また、旧歴史館では、「創業の家」を再現し、アタッチメントプラグを製造している様子を見ることができたが、新たな歴史館では、この「創業の家」を移築。「新たに当時の照度を再現したり、作業風景を人物モデルで再現した。松下幸之助氏、妻のむめの氏、義弟であり、のちの三洋電機の創業者となる井植歳男氏の3人の人物モデルを用意。さらに、パナソニックの最新技術を搭載したスペースプレーヤーで解説表示を行なっている」(パナソニック 執行役員の竹安聡氏)という。
100年間の歴史資産データを閲覧できるライブラリー
さらに、ライブラリーでは、100年間におよぶ膨大な歴史資産データを閲覧可能にした。来館者の閲覧には一部制限があるものの、約2万点の紙資料、1200冊の書籍、3万枚の写真やネガ、2000本の音声データ、5000本の映像データを、アーカイブシステムを利用してデジタルデータ化。「創業者に学ぶ」、「社史を知る」、「年表を見る」、「資料を探す」、「広報誌を読む」、「歴史館アーカイブス」といった項目から検索できる。「社員もPCを使って検索でき、創業者の生き方や考え方を学べる」という。
一方、ものづくりイズム館は、「パナソニックのものづくりのDNAを探る場所」と位置づけ、パナソニックが、新たなくらし文化を創造してきた100年の歴史を、歴代の数々の商品を通して紹介。ものづくりに情熱を注いできた同社の歴史を振り返ることができる。
ここでは、「パナソニックのものづくりDNAを探る」として、パナソニックのほか、旧パナソニック電工や旧三洋電機の商品を含む、約550点の歴代商品を展示して、100年の歴史を公開している。今後、建て替えが予定されており、それまでの期間限定展示となる。
約400点を収納したストレージギャラリー「収蔵庫」では、象徴的な第1号商品やデザイン家電など見応えのある収蔵品を展示する。来館者はガラス越しにこれらの商品を見ることができる。
また、マスターピースギャラリーでは、エコ関連商品やユニバーサルデザインを採用した商品による「思いやり」、迫力ある映像を届けてきたAV商品などの「感動」、電池や電球などの「安心」、理美容商品などの「新定番」、三種の神器などを紹介する「家事楽」、モバイル製品を中心とした「自由」の6つのゾーンで商品展示を行なっている。
松下幸之助デザインの広告から最新広告まで「ヒストリーウォール」
さらに、ヒストリーウォールでは、636インチ(横16m×縦2.2m)のスクリーンを利用した8K映像により、松下幸之助氏が自らデザインした広告から、最新の広告、宣伝まで振り返ることができる。
「パナソニック最初の広告は、松下幸之助氏が自ら考えて掲載したものである。広告と暮らしの切り口から、迫力のある映像で、100年の歴史を一望できる」とした。
なお、ものづくりイズム館では、オープン以降、子ども向けの各種セミナーを開催する。
2018年3月10日、11日に、乾電池EVOLTAを使い、電気がモ-タ-の回転に変わり、さらに紙風船を浮かべるための位置エネルギ-に変わる原理を学ぶことができる「春間近! 浮き浮きパワ-工作」を開催するのを皮切りに、白熱電球、電球型蛍光灯、LED電球の光の違いを学ぶ「電球の進化を分光筒で学ぼう!」、樹脂粘土を使い、思い思いの形のLEDランタンづくりに挑戦する「簡単! 樹脂粘土で作る季節に合ったLEDランタン」、太陽電池、充電式、LEDを使ったエコなソーラーランプを作る「太陽電池を使ったエコなライトを作ろう!」、季節に合わせて手作りキャンドルを作る「IHクッキングヒーターを使ってキャンドルづくり」などが予定されている。
また、松下幸之助歴史館およびものづくりイズム館では、同社独自の光IDを採用したLinkRayを通じた多言語翻訳システムを採用し、日本語、英語、中国語(簡体字、繁体字)、韓国語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語、スペイン語の9カ国語に対応したサービスを行なう。専用アプリをダウンロードしたスマホをかざすと、LED発光で光IDを受信したり、スポットライトの間接光で光IDを受信し、それぞれの言語で、説明が表示されることになる。
パナソニックミュージアムの山田昌子館長は、「一般的には日英中といった3カ国語に留めるケースが多いが、LinkRayを使用した翻訳システムでは9カ国語まで広げて、これを常設化している。海外からの来館者にも理解してもらいやすくしている」とした。
さらに、隣接するエリアを「さくら広場」とし、そこに隣接する松下幸之助氏の門真旧宅および大観堂も、パナソニックミュージアムを構成するものに位置づけた。
さくら広場は、2006年に開設したエリアで、フェンスを取り払い、一般の人が自由は入れるようにした。190本のソメイヨシノを植樹し、「日本人の心の象徴と言われる桜を植樹。自然との対話を通じ、都市に住む安らぎを育み、心に語りかける憩いの場」と位置づけている。
また、さくら広場にある松下幸之助氏の門真旧宅は、本社および工場を門真に移した1933年に、松下幸之助氏の住居として設けられた建物であり、限定公開としている。
「1939年に兵庫県西宮市の光雲荘に移るまでは住んでおり、その後も、仕事の都合上、たびたび使用しており、職住近接を実行していた。いまでは、松下幸之助氏の薫陶を直接受けた社員はいないが、当時の事業部長は、新製品ができあがると、それを持って、門真の家に参上して意見を聞いた。商品をなでながら、自分の孫のように可愛がっていたという話を聞いた」(パナソニック 常務執行役員の石井純氏)という。
さらに、大観堂は、パナソニック創業期から松下幸之助氏の心の支えとして、日夜、発展を祈願し続けてきた真言宗醍醐寺派の僧侶である加藤大観師の遺徳と功績を偲び、1956年に建立したもので、こちらも限定公開となっている。
パナソニック ミュージアムの住所は、大阪府門真市大字門真1006番地。開館時間は午前9時~午後5時。休館日は日曜日および年末年始。入場は無料。