大河原克行の白物家電 業界展望

ミャンマーの無電化村に明かりを届ける、パナソニックのプロジェクトを見てきた!

 パナソニックが、ミャンマーの無電化村にパワーサプライステーションを寄贈したのにあわせて、現地を取材した。ヤンゴン市内からクルマで約4時間、さらに船に乗り換えて1時間。少なくとも今後5年間は、政府による電気の供給が行なわれない地域だ。

 同社は、こうした地域に太陽電池パネルと蓄電池を活用した太陽光独立電源パッケージ「パワーサプライステーション」を寄贈した。これで、学校に電気を供給できるようになる。それを祝う式典が、現地時間の2018年7月12日午前10時30分から行なわれた。

中国から輸入されたバスを使用して移動。片道4時間の行程だ
道路は舗装されていてもデコボコだ

 日本から中古車が数多く輸入され、クルマは右ハンドルが主流。だが、道は右側通行という不思議な道路環境のなか、取材陣を乗せたクルマは、まだ薄暗い午前5時のヤンゴン市内を出発した。

 デコボコの舗装路を、大きな穴や小さな穴をよけながら蛇行して走る。クルマが走る前を、人が勝手に横断するので、そのたびに鳴らすクラクションの音が喧しい。市内を出て村に入ると、前を走るオートバイや通勤・通学の人を大人数乗せたトラックが抜かすたびにクラクション。朝から騒々しいのはミャンマーの日常のようだ。

 ペットボトルの水を飲むことさえ容易ではないほど揺れる、約4時間のクルマでの移動。移動中に仕事をしようと資料を持ち込んでいたが、早々に諦めた。不要な荷物を余計にひとつ持ってきてしまったと後悔する。

 揺れの激しさは、腕にしていたApple Watchのアクティビティアプリの「ムーブ」および「エクササイズ」の項目で、クルマに乗っている約2時間、ただ座っているだけで、1日のゴールを達成してしまったことからもわかるだろう。

 虫除け、虫さされ薬、絆創膏、胃薬などは用意したが、さすがに酔い止めまでは気がつかなかった。普段は、バスのなかでもPCで原稿が書けるほど、車酔いには強い方だが、それでも不安がよぎるほどだった。

 そして取材には、ビーチサンダルにTシャツスタイルというラフな格好が前提となった。長年、IT業界や電機業界の取材活動をしているが、ビーチサンダルで取材をしたのは生まれて初めてだ。

 クルマから船に乗り換えて、全長約2,000km以上に及ぶエーヤワディー川を上流に向かって航行し、支流となるシュエーラウン川に入って、船旅は約1時間。ようやく、無電化村であるエーヤワディー地方マウビン県パンタノ郡ベービンセンナ村に到着した。

無電化村には、船を乗り継いで川を上って行った
船に乗って、ベービンセンナ村を目指す
船がベービンセンナ村に到着した

 ベービンセンナ村につくと、多くの村民と子供たちが、日本から訪れたパナソニック関係者と、寄贈に尽力したNPO法人「れんげ国際ボランティア会(ARTIC)」の関係者を、最上級のもてなしで出迎えていた。

 ここに住むのはカレン族と呼ばれる民族で、もともと踊りや歌を楽しむ慣習があるという。この時期は雨季であり、それもあって船での上陸となったのだが、雨にも関わらず、村人たちは傘もささずに踊りや歌を披露し、牛や豚、鳥、小海老などを使った料理で歓迎してくれた。

村の子供たちが花を手渡して歓迎してくれた
多くの子供たちが、船が到着するのを雨のなか待っていてくれた
雨のなか躍りで歓迎してくれる子供たち

学校に設置されたパワーサプライステーション

 パナソニックが、今回、ベービンセンナ村に寄贈した無電化ソリューションは、太陽光独立電源パッケージの「パワーサプライステーション」と、LED照明付小型蓄電システム「エネループソーラーストレージ」で構成されている。いずれも、既に今年6月1日から稼働している。パワーサプライステーションは、約600人の子供が通うベービンセンナ ブランチ高校に設置されており、太陽光で発電した電気は、教室や職員室で利用したり、生徒が住む寮に供給される。

現地でのテープカットの様子
テープカットのあとにパワーサプライステーションの前で記念撮影が行なわれた

 同校は1年生から10年生、日本でいえば、幼稚園から高校1年生に当たる学生たちが通っている。高校という名前が付いているが、これだけ幅広い年齢層の子供たちが通っているのだ。また10年生は、受験のために寮に住み込んで勉強を行なっているという。

 今回のベービンセンナ村への無電化ソリューションの寄贈にも尽力したNPO法人 れんげ国際ボランティア会の支援もあって、先ごろ2階建ての校舎が完成。生徒数の拡大や施設の整備によって、来年以降、分校から本校に昇格するための申請を準備しているところだという。

 パワーサプライステーションは、学校の一角に設置されており、天井部にパナソニックのHIT太陽電池パネル12枚を搭載。最大で2.88kWの発電容量を持っている。通路や寮の照明で190W、教室の照明などで550W、冷蔵庫で220W、スピーカーシステムで50Wなどの消費を見込んでおり、学校全体をカバーすることになる。

 また、パワーサプライステーションの蓄電池には、長寿命サイクル用制御弁式鉛蓄電池12v-60Ah仕様を24台採用。最大蓄電容量は17.2kWを持っている。

寄贈されたエネループソーラーストレージ
エネループソーラーストレージは、太陽光電池パネルと蓄電池、2つのLEDランプで構成される

 パワーサプライステーションは、現場での専門工事作業を無くす設計としており、電気工事業者でも、簡単かつ迅速に設置ができるのが特徴だ。また、独自のエネルギーマネジメントシステムにより、鉛蓄電池の残量を見ながら、需給コントロールを行なうことで鉛蓄電池の劣化を抑制。蓄電池のライフサイクルコストとメンテナンス工数の削減を図れる点も特徴となっている。

式典には多くの村人たちが集まった
「パワーサプライステーション」の寄贈を祝った式典であることがミャンマー語で書かれている
ステージでは、何度も子供たちが踊りをみせてくれた。ステージの天井には省電力のLEDランプが設置されている

 パナソニック エコソリューションズ社パワーコンポーネンツビジネスユニットの山本 雅一プロジェクトマネージャーは、「HITは、限られたスペースでも効率よく発電できるのが特徴です。乾季には1日13~16kWhの発電が可能で、雨季でも1日7 kWhの発電が期待できます。実際に6月の運転結果を見ても、0.9 kWhの日がある一方で、8.3 kWhの発電量を実現した日もありました。1カ月を通じて、高いバッテリー蓄積レベルを維持できています」とした。

パナソニック エコソリューションズ社パワーコンポーネンツビジネスユニットの山本 雅一プロジェクトマネージャー
パワーサプライステーション
屋根には12枚のHIT太陽電池パネルが搭載されている
ベービンセンナ ブランチ高校
学校内の様子
教室の天井に設置された直管形LEDランプ

 ベービンセンナ ブランチ高校に通う10年生(日本の高校1年生)のココ リン マウンくん(16歳)は、「これまでは、ディーゼルで発電していたが、パワーサプライステーションが稼働し始めた後は、従来の灯りよりも明るく、夜9時まで勉強ができるようになった。英語を勉強して、外国に行きたい」と語る。そして、「パナソニックという会社の名前は知っていた。日本の会社で、商品の質がいいという話は聞いていた。そのパナソニックが、私たちの村に電気を持ってきてくれてうれしい」と続けた。

 同じく10年生のナン ヤモン ミェン トゥさん(15歳)は、「遅い時間まで勉強ができるようになった。英語の勉強をがんばりたい。将来は、この村で英語の先生になりたい。家に電気がきたら炊飯器でご飯を炊きたい。できれば冷蔵庫も欲しい」などと語った。

質問に答えてくれた10年生のココ リン マウンくん(右)と、ナン ヤモン ミェン トゥさん(左)
寮で自習をする10年生の子供たち
寮のなかではパワーサプライステーションで発電した電気を使用している

 そのほかにも、「ディーゼル発電のときには、音がうるさかったが、太陽光発電になって、騒々しい音が無くなり、集中して勉強ができるようになった」という声が子供たちからあがっていた。

 一方、無電化ソリューションを構成するもうひとつの機器が、LED照明付小型蓄電システム「エネループソーラーストレージ」である。地域によっては、ソーラーランタンの方が適しているとして、そちらを選択する例もあるというが、ベービンセンナ村では、ソーラーストレージを選択した。

 エネループソーラーストレージは、出力15Wの太陽電池パネルで発電し、容量3,100mAhの37Whニッケル水素電池に充電する仕組みだ。充電池に、2つのLEDランプのケーブルを接続し、照明として利用できる。LEDランプは、5Wの直管形LEDランプと、1.5Wの電球形LEDランプの2種類が用意されている。直管形LEDランプは、家族が集まる場所で使用するものであり、電球形LEDランプは主に仏壇に使用することを想定しているという。

 実は、このエネループソーラーストレージは、ミャンマーの市場の声を反映して開発した経緯がある。国民の約9割が仏教徒であり、供給された電気を仏壇に優先的に使いたいというニーズに対応したもの。そのため2つの異なるタイプのLEDランプを付属させた。

 パナソニックは、ベービンセンナ村に、100台のエネループソーラーストレージを寄贈。村では、10台をベービンセンナ ブランチ高校で利用し、残りの90台は、村の各家庭で利用することにした。

 村には約400戸の世帯があり、3カ月間使用したら、次の家庭に渡して使用するという仕組みを採用。1年間で、ほぼすべての家庭に回るようになるという。エネループソーラーストレージを、どの家庭にどの順番で提供するかというリストはすでに完成し、運用が始まっている。

 ベービンセンナ ブランチ高校の近くに住み、かつては教師をしていたという、ティン ルインさん(55歳)は、最初のグループとして、6月からエネループソーラーストレージを使用している一人だ。

 「テレビを見たり、家族で団らんするときに、明るくて助かっている。午後10時まで、テレビでニュースや韓国ドラマを見て楽しんでいる。また、仏壇も明るいので、いつでもお参りしたいときに、手をあわせに行くことができる」と笑顔をみせる。

 ティン ルインさんの家庭は、この地域では裕福で、すでに太陽光パネルを設置。発電した電気を、自動車用バッテリーに蓄電して、テレビなどに使用しているという。

 「できれば、3カ月間を過ぎても使いたい」と、ティン ルインさんは、エネループソーラーストレージに大きな魅力を感じている。

 エネループソーラーストレージは、5Wの直管形LEDランプは強モードで約7時間、弱モードで約14時間使用できるほか、1.5Wの電球形LEDランプは約24時間の利用が可能になっている。晴天時であれば、充電は約5時間で完了するという。

エネループソーラーストレージを導入したティン ルインさんの家。築4年だという
家のなかを紹介してくれたティン ルインさん。写真の右上に直管形LEDランプが点灯している
エネループソーラーストレージが、家の中に設置されている
直管形LEDランプは5Wの明るさを持つ
仏壇の様子。電球形LEDランプが点灯している
テレビは、クルマのバッテリーを使用して視聴している

無電化村に電気を届ける理由

 パナソニックが、無電化村にパワーサプライステーションとエネループソーラーストレージをセットで供給するのには理由がある。

 それは、より多くの家庭に電気がある暮らしを届けるだけでなく、無電化村が自律した運用を実現する手段にもなるからだ。

 たとえば、パワーサプライステーションに搭載されている蓄電池は、約5年で寿命が訪れ、そのための交換費用が約100万円かかる。パナソニックは、この交換費用までは提供しない。無電化村でこれを捻出することを前提に寄贈している。

 ベービンセンナ村では、エネループソーラーストレージを使用している各家庭から、1日100チャット(約8円)の電気料金を徴収すること、これまで学校で使用していたディーゼル発電のための軽油代金としてかかっていた月100米ドルを、蓄電池の交換費用分として毎月積み立てること、そして、乾季には、アイスキャンディを作り、これを、電気を使って保存。1本50チャット(約4円)で販売して収益を得るという3つの方法の組み合わせによって、5年後の蓄電池の交換費用に充てる考えだ。

 パナソニック CSR・社会文化部の福田 里香部長は、「単に寄贈するだけでなく、継続性のある自律した運用や、電気を利用した新たな経済活動の提案も行なっています。無電化村には、どのような経済活動がいいのかといった知識やノウハウがない場合が多いのです。パナソニックからは、継続性や自律性といった視点で、なにをすべきか、どんな経済活動を行なうべきか、ということも提案しています」と語る。

 ベービンセンナ村では、アイスキャンディの販売という手段が、経済活動の形になるが、これまでの支援活動のなかでは、コーヒー豆をそのまま収穫するだけでは収益性が低いため、電気を使って加工し、これを供給することで収益力を高めるといった例や、畑の開墾や養鶏による卵の販売、魚の燻製の商品化などを通じて、収益を得るといった例が出ているという。

 無電化ソリューションは、無電化村が、自律するための経済活動の種を植えるという役割も担っているというわけだ。

 パナソニックが、無電化ソリューションの寄贈先にベービンセンナ村を選定した理由のひとつに、「村のコミュニティが形成されており、コミュニティ活動を通じて、持続的活動が行なえること」(パナソニックCSR・社会文化部の福田部長)という点があった。

 「ベービンセンナ村には、村落委員会が存在するなどコミュニティレベルが高く、蓄電池の交換などのメンテナンス費用を蓄えるための仕組みも用意できました。約1年前から、調査や話し合いを行なってきましたが、電気を活用することで、村を発展させるという意識が強いことがわかりました」と、パナソニック CSR・社会文化部事業推進課・浅野 明子主幹は語っている。

パナソニック CSR・社会文化部の福田 里香部長
パナソニック CSR・社会文化部事業推進課・浅野 明子主幹

 ベービンセンナ ブランチ高校を分校から本校へと昇格させようという取り組みも、その表れのひとつといえるだろう。

 「ベービンセンナ村のこれからの発展が楽しみである」と、パナソニックCSR・社会文化部の福田部長は期待する。

 同社は、同じくミャンマーの無電化村であるマグウェイ管区インマジャウン村に「パワーサプライステーション」を納入した経緯がある。

 これは、タイ王国のMFL財団が、ミャンマー連邦共和国のマグウェイ管区イェナンジャウン地域で推進している「SUSTAINABLE ALTERNATIVE LIVELIHOOD DEVELOPMENT PROJECT(地域における継続可能な生活力向上プロジェクト)」に、パワーサプライステーションが採用されたもので、同プロジェクトは、三井物産のCSR活動の一環として、MFL財団の活動趣旨に賛同して拠出された寄付金をもとに納入が実現したものだ。

 ここでは、パワーサプライステーションで発電した電気を、街路灯を設置して明かりをともし、夜間でも安心して歩行ができるようにしたほか、地域に生息する、クサリヘビやコブラなど、猛毒で知られるヘビ用の血清を冷蔵庫で保冷管理して、インマジャウン村に加えて、周囲の村にも血清を提供するといったことも行なう。

 だがこれは三井物産が主体のプロジェクトであり、そこにパワーサプライステーションを開発・製造するパナソニック エコソリューションズ社が製品を納めたという格好になる。そうした観点では、今回のベービンセンナ村への導入は、パナソニックが主体となって取り組んでいるCSR活動のひとつであり、ミャンマーには初めての導入ということになる。

 パナソニックでは、CSR・社会貢献活動を継続的に展開している企業だ。1960年代には交通事故が多かった大阪駅前に歩道橋を寄贈し、1970年代には障碍者雇用の工場を設立。1980年代には国際科学技術財団の設立により、日本の技術者の育成を支援した。さらに、1990年代にはアジアから日本への奨学金寮額制度を実施、2000年代にはWWF黄海エコリージョン支援プロジェクトにより、生物多様性の維持にも取り組んできた。

 そして2013年から実施してきたのが、「ソーラーランタン10万台プロジェクト」である。この5年間で、無電化地域にソーラーランタンを寄贈し、明かりがない地域において、教育、医療、経済、安全などの課題を解決することを目指したものだ。

 「全世界で11億人が無電化のなかで暮らしている。国連のSDGsでは、2030年までに無電化人口ゼロの実現を目指しているが、これを達成するためには、毎年1億人もの無電化人口を減らす必要がある。パナソニックは、それに貢献することができると考えており、電気を届けることは、パナソニックらしい社会貢献だといえる」と、パナソニック CSR・社会文化部の福田部長は語る。

 ソーラーランタン10万台プロジェクトは、2018年1月に、累計寄贈台数が、30カ国、131団体・機関、10万2716台に達して終了したが、いまでも、形を変えて寄贈活動を継続している。

 日本国内のパナソニックグループの社員が、不要になったDVDや書籍などを、社内福祉制度を通じて寄付を募り、これをもとにソーラーランタンの寄贈活動に充てる活動を行なう「みんなで“AKARI”アクション」を展開しているほか、2018年4月からは新たにクラウドファンディングでの運用をスタート。すでにベトナムの無電化地域に、100台のソーラーランタンを寄贈するという実績も出ているという。

 さらに、パナソニックの地域販売会社が、独自にCSR活動を行う事例も出ている。南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ財団との連携によって、ソーラーランタン10万台プロジェクトでの寄贈が行なわれたが、これとは別に、1万台規模のソーラーランタンを寄贈するという取り組みも始まっているという。

 同社のCSR・社会文化部事業推進課・浅野主幹は、「CSR・社会文化部の活動がきっかけとなって、カンパニーごとのCSR活動の広がりにつながったり、これまでつながりがなかった新興国の政府や関連組織との関係構築をもとに、販社が新たにCSR活動を開始したり、新たな事業の創出に結びついたりといった成果もあがっている」とする。

 また同じくCSR・社会文化部の福田部長は、「事業を通じて社会の発展に貢献するという基本的姿勢は、創業以来まったく軸がぶれていない」と前置きし、「人材育成、機会創出、相互理解という3つの領域から貧困の解消に取り組み、共生社会の実現に向けた貧困の解消を実現したい」と語る。

 2018年7月12日に、ベービンセンナ村のベービンセンナ ブランチ高校で行われた式典では、パナソニック CSR・社会文化部の福田里香部長やイワラジ管区カレン民族大臣のガッシモミャンミャトゥ氏、NPO法人 れんげ国際ボランティア会の平野 喜幸プロジェクトディレクター、イワラジ管区教育事務所副所長のウーマンセインジョー氏のほか、ベービンセンナ村村落委員会委員長をはじめとする同村関係者が数多く出席。さらに、多くの村人や子供たちが参加して、盛大に行なわれた。ここでも、子供たちによる踊りが披露された。

式典で挨拶するパナソニック CSR・社会文化部の福田 里香部長
イワラジ管区カレン民族大臣のガッシモミャンミャトゥ氏
NPO法人 れんげ国際ボランティア会の平野 喜幸プロジェクトディレクター
パナソニックの福田部長(左)から、エネループソーラーストレージが手渡された
握手するパナソニックの福田部長(左)と、ガッシモミャンミャトゥ民族大臣

 イワラジ管区カレン民族大臣のガッシモミャンミャトゥ氏は、「ベービンセンナ村には電気がなく、それが子供の教育にも影響をしている。教育レベルをあげなくては国全体が進歩しないと考えており、そのためには電気が必要である。パナソニックの寄贈によって、この村に電気が提供されるようになった。パナソニックには感謝している。私たちは、子供たちのためにもパワーサプライステーションを大切に使い、長く維持をする責任がある。一致団結して取り組んでいきたい」などと挨拶した。

 また、パナソニック CSR・社会文化部の福田部長は、「100年前にパナソニックを創業した松下 幸之助は、街を走る電車を見て、これから電気の時代がやってくると感じて、事業を開始した。それ以来、事業を通じて社会の発展に貢献することに取り組み、同時に、事業活動とともに企業市民活動を通じて社会課題の解決を目指している。パワーサプライステーションとエネループソーラーストレージによって、無電化の地域にクリーンエネルギーをもたらし、よりよい生活、よりよい世界の実現を支援したい。子供たちには、電気がある生活のなかでもっと勉強をしてもらい、ミャンマーや世界を背負っていく人になることを期待している」と述べた。

 さらに、NPO法人 れんげ国際ボランティア会の平野喜幸プロジェクトディレクターは、「パナソニックの100年の歴史から、この村はなにを学ぶべきか。それは、創業者の松下 幸之助氏は、自分は人生で失敗したことがないと言っていることである。途中でやめるから失敗する。反省をして、成功するまでやり続ければ、失敗ではなくなる。それを学んで欲しい。ミャンマーには、志、規律、教育の3つを大切にする精神がある。日本は戦争に負けたときに、規律を守り、努力することで、焼け野原から発展した。電気がついたからうれしいということで終わるのではなく、松下幸之助氏のように最後まであきらめずに成功するまで、言い訳をせずにやり遂げる精神も一緒に学んで欲しい」とした。

NPO法人 れんげ国際ボランティア会の平野喜幸プロジェクトディレクター

 今回、無電化村であるベービンセンナ村を訪れて、パナソニックのCSR活動が、単に機器を寄贈するプロジェクトではないということが理解できた。無電化の村に、太陽光発電と蓄電池という、クリーンで安価なエネルギーを活用した電気を提供し、村人たちの生活を豊かにするだけが、この取り組みの目的ではない。

 電気を活用することで新たなビジネスを創出する提案を行ない、経済活動の種を植えて、自律し、発展する道筋を作ることに力を注いでいるのだ。もちろん、設置したパワーサプライステーションやエネループソーラーストレージの発電量には限界があるため、行なえる経済活動にも限りがある。だが、経験を積み上げることで、新たな知恵も生まれることになるだろう。

パナソニックの福田部長(左)から、エネループソーラーストレージが手渡された
握手するパナソニックの福田部長(左)と、ガッシモミャンミャトゥ民族大臣

 そして、電気を活用した憧れの暮らしも提案し、よりよい暮らしへと進化させることも重要なテーマのひとつだ。村人たちが、電気をさらに活用するようになったとき、電気の供給という点で貢献したパナソニックの役割が大きかったことを改めて確認できるだろう。そのときに、パナソニックの製品を使ってもらいたいというのが、パナソニックが描く企業市民活動と事業とのバランスということになる。

パワーサプライステーションの概要
パワーサプライステーションの設置の様子
パワーサプライステーションの電力供給の概要

 松下 幸之助氏は、「貧困がこの世に存在するということは、これはひとつの罪悪であって、これをなんとしてもなくしていかなくてはならないでしょう」とも語っていた。100周年を迎えたいま、パナソニックは無電化ソリューションをひとつの切り口にした企業市民活動によって、グローバルな貧困解消に取り組んでいる。

 電気を届けることで、生活を豊かにする手法はいくつも生まれることになろう。そこに、パナソニックの無電化ソリューションの狙いがあるといえる。

取材終了後、再び船に乗って帰路についた
道沿いの家の様子。雨季は家の下まで水がくるため高床式になっている
村でも市街地でも、あちこちで道路工事が見られた
日本の会社名や電話番号が書かれたトラックがそのまま使用されている

大河原 克行