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ルンバ初のフルラインナップ刷新! “GRID”に込められた新デザインへの思いと決意

4月16日に発表されたルンバの新ラインナップ

アイロボット社は産業用ロボットの開発を経て、2002年に家庭用のロボット掃除機「ルンバ」を生み出し、20年以上にわたって業界をけん引してきました。2024年には累計販売台数が世界で5,000万台を超えた同社ですが、中国勢の勢いがすさまじい状況です。こうした中、新CEOにゲイリー・コーエンさんが就任し、2025年4月にはルンバ初のフルラインナップ刷新、6機種を一斉に発表しました。

ターゲット別に3つのカテゴリーで展開していく新ルンバですが、今回はそのデザインに注目。デザインを手がけた、同社デザインディレクターのインサン・ホンさんにインタビューし、込められた思いと決意についてうかがいました。

工業デザイン担当ディレクターのインサン・ホンさん。1983年韓国生まれ

新生ルンバの製品群は、単身世帯をはじめとする日本市場を意識したエントリーモデルとなる「Roomba(ルンバ)」、子育てファミリーをターゲットにしたミドルクラスの「Roomba Plus(ルンバプラス)」、ペットを飼っている家にも向くフラッグシップモデルの「Roomba Max(ルンバマックス)」の3カテゴリーに分かれています。

それぞれのカテゴリー内でも水拭き機能の有無、自動ゴミ収集機能付きの充電ステーションの有無など製品は多岐にわたりますが、ルンバ本体のデザインには統一性があります。それは円形と線の組み合わせによる全く新しいもので、垂直に交わった縦横のラインで3つの部屋を作り、右上の最も小さな扇形の部分には電源ボタン・ホームボタンが小さな四角いボタンとして用意されていること。よく見るとそれぞれの区画が異素材で構成されています。

この全く新しいデザインを担当したのがインサン・ホンさん。彼女の経歴は素晴らしく、アートセンターカレッジ・オブ・デザイン卒業後、ホンダに入社。サムスンなどでの勤務を経て2010年クライスラー(現ステランティス)でスポーツタイプの車両ダッジ・チャレンジャーの内装デザインの統率を担当。ヒューレットパッカードでは消費者向け電子デバイスのデザインを数多く手掛けてきました。

アイロボット社には2017年に入社し、工業デザインの担当ディレクターに就任。ルンバ s9+やルンバ コンボ j7+などのデザインを手掛けてきました。QOLを上げるデザインやモノづくりに情熱を注ぐのが何より好きなんだそうです。

実は2023年秋にルンバ j9シリーズや空気清浄機Klaaraが日本で発表された時にもインサン・ホンさんに直接お話を聞く機会があり、カラーバリエーションのことやインテリア性の高いデザインについて意気投合した思い出があります。

新デザインのコンセプト“GRID”とは

――新デザインのコンセプトについて、発表会では“GRID”という表現があり、これは「Geometric=調和のとれた」「Rational=合理的」「Iconic=象徴的」「Dynamic=大胆」の4つの頭文字を取ったものだとおっしゃっていましたが、これについてもう少し詳しく聞かせていただけますか?

インサン・ホンさん(以下敬称略):長い間、ルンバそのものがロボット掃除機のアイコニックであり続けてきました。誰もが円を基調としたデザインのロボット掃除機を見れば「ルンバだ!」とわかるように。

でも、いつのまにか私たちのデザインは競合他社にも使われるようになり、ユニークなものではなくなっていたのです。ましてやLiDAR(ライダー)やカメラなどのテクノロジーが入ってくるとより複雑になり、みんな同じに見えてしまうもの。丸い形状で、丸いライダーセンサーとボタンが付いている……というようにね。

ロボット掃除機の象徴的な存在だったルンバのデザイン
市場における類似デザインの例。丸い形状で、丸いライダーセンサーとボタンが付いている

――なるほど、確かに市場にあるロボット掃除機はマットブラックやホワイトというカラーもそうですが、デザインも同じようで見分けがつきにくいですね。

ホン:今回のラインナップ刷新にあたり、私たちのデザインを再構築する時期が来ていることを実感していました。さあ、ここからどう違って見せるか……と。そこで、目を向けたのが建築です。同じ素材、同じ窓の形であっても必ずしも同じ建築物には見えません。まずはベーシックであること、ピュアであることを意識しました。

――ピュアであるとは?

ホン:ジオメトリック(G)が示すものこそが、ピュアなサークルとラインです。次がラショナル(R)ですが、横の線の下にはダスト容器があり、ライダーとの境界線でもあるということ、つまりきちんとした機能的な理由があることこそが合理的であるということです。そしてこの2つのラインは機種によって少しずつ位置が違うことにもお気づきかと思います。全体として同じように見える、そこも大切なポイントなのです。

今回、右上の部屋に手動のボタンを2つ設けましたが、左上のライダーがある場所はセンサーやテクノロジーの象徴、その右がUI(ユーザーインターフェース)部分、下半部はダスト容器や水タンクがある場所です。3つの部屋のそれぞれに意味があり、アイコニックなのです。

新ラインナップのルンバのデザイン。写真はRoomba 105 Combo ロボット

――そういう中では、Roomba 205 DustCompactor Combo ロボットは特別なデザインとなりますね?

ホン:ダストコンパクター機能を備えているため、ダスト容器に高さ(深さ)が必要で、トップにライダーセンサーを置かず、側面に組み込んでいるのが他とは違うところです。本体に厚みが出るため、ライダーを目立たせたくなかったのです。でもライダーの丸い突起はなくとも基本的なデザインは同じです。

ライダーセンサーの突起がないRoomba 205 DustCompactor Combo ロボット
Roomba 205 DustCompactor Combo ロボットの使用シーン。ゴミをダストボックス内で圧縮する機能を持つため、約60日間ゴミ捨ての手間が不要になる。その分、充電ステーションがコンパクトになり、棚の下の空間などに設置することも可能になった

生活の中に馴染み、高級感を出す“異素材”の組み合わせ

――今回のデザインで3つの部屋を異素材で仕上げている点がとても好きです。

ホン:異素材の組み合わせこそがGRIDのD、Dynamicの部分で、色と素材と仕上げは、今回の新世代製品のデザインストーリーの大きな部分を占めています。たとえば、シルクのドレスにウールのコートを羽織り、レザーブーツを履く……というように、同じブラックでも異なる素材を組み合わせることでそこにコントラストが生まれ、それが高級感にも繋がります。最終的には温かみとやさしさのある知性的なデザインに仕上がったと思っています。

新世代製品のデザインストーリーの大きな部分を占めているのが「色・素材・仕上げ」だという
テクノロジーと人、住まいの共存を大切にしてきた

――ルンバ j7+やj9+の充電ステーションのデザインも革調のタグや凹凸感のある縦ラインなど素敵でしたが、それに通じるものがありますね。

ホン:リビングルームに馴染むデザインこそが、ルンバが進化して共感を得てきたもの。新ルンバのデザインもまさにその通りだと自信を持っています。

リビングに馴染むデザインを目指したという。写真はRoomba Max 705 Vac ロボット+ AutoEmpty充電ステーション

――今回、ロゴに「iRobot」が加わったのも印象的ですね。

ホン:iRobotとRoombaの名前を製品上部に併記することで、より目立つようにしています。ルンバの名前は非常に力強く、多くの人に愛されていますが、そこに社名を加えてアイロボット社のルンバであることをより強調したかったのです。

新たなブランディングとして社名とルンバの2つを併記している

最後に語ってくれた「iRobot Roomba」を併記するロゴにしたことには、ルンバの新たなブランディングの一歩として大きな意味が込められているのだと改めて気づかされ、その決意が胸に響きました。

筆者は、アトリエでRoomba 205 DustCompactor Combo ロボットを使ってみていますが、マッピングの確かさや新しくなったアプリの使いやすさはもちろんのこと、大仰なダストステーションがなくとも、ゴミを本体に溜めておける便利さ、付け外しが簡単でお手入れもしやすい給水プレート付きの水拭き機能などにとても満足しています。インサン・ホンさんがモットーとしているという「QOLを上げるデザインやモノづくり」とはこういうことを言うのだなと。

高機能化を目指すにつれて、ロボット掃除機の価格がどんどん上がっていく中で、新ラインナップは価格面でも魅力的です。やっぱりルンバ、さすがルンバだと思わされた今回のインタビューでした。

アトリエで試用中のRoomba 205 DustCompactor Combo ロボット

神原サリー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。現在は家電+ライフスタイルプロデューサーとして、家電分野のほか、住まいや暮らしなどライフスタイル全般の執筆やコンサルティングの仕事をしている。モノから入り、コトへとつなげる提案が得意。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、メーカーの現場の声を聞くことを大切にしている。 テレビ・ラジオ、イベント出演も多数。