そこが知りたい家電の新技術
IoT化の準備はできている、あとはタイミング~パナソニック アプライアンス社本間社長インタビュー
2017年9月19日 07:00
毎年9月上旬にドイツ・ベルリンで開催される大規模な家電製品の展示会「IFA」。今年も9月1日~6日まで盛況なうちに幕を閉じた。記者はこの5年、毎年取材に出ているが、悲しいことに日本メーカーの出展はどんどん少なくなるばかり。会場を歩いていても、「日本市場」への熱がどんどんと小さくなっていることを、実感する。
そんな中、日本の家電メーカーとして、ひときわ大きな存在感を出しているのが、パナソニックだ。約3,300平方mという巨大なブースを押さえ、未来をイメージした斬新で、画期的なブースを毎年提案。現地で毎年開催しているプレスカンファレンスでは、新製品を複数発表するなど、単なる展示会以上に力を入れている。同レベルの展示は、日本国内でも見られない。パナソニックは、このIFAという展示会をどう捉えているのか、パナソニック アプライアンス社 本間哲朗社長に話を聞いた。
アプライアンス社にとってIFAは1年で最も重要なイベント
パナソニックにとって、IFAは単なる家電の展示会というだけではなく、ヨーロッパのディーラーとの取り引きの場であり、1年でもっとも重要なイベントだという。
「日本で毎年開催されているCEATECが、家電の展示会から消費者向け製品の総合的展示会へと内容が変わってきた今、我々としてはこのIFAは世界でもっとも重視している展示会といえます。1年かけてどういうコンセプトにするか考えるほど注力しており、IFAでの展示のコンセプトを海外のほかの地域に展開するというような、そういう立ち位置になっています。
またIFAは一般にお見せしているパブリックスペースだけでなく、お客様をご招待し、今後の製品をご提案するプロフェッショナルスペースも非常に広くとっています。年末に向けた最後の詰めを行なう場所であり、各事業部の開発や技術の人間も入って来年の商品の商談をするという場でもあります。そういう意味でも、IFAは1年で最も重要なイベントという位置づけです」
IFA2017においては、これまで注力していたテレビやオーディオだけでなく、白物家電の展示にも力を入れた。
「パナソニックの家電事業は、2005年くらいからテレビにウエイトをかける部分がかなり大きく、テレビの一本足打法という形になっていました。過去10年くらい、テレビがオーバーウエイトになっていましたが、ようやく今年に入ってテレビだけじゃなくて、ミラーレスカメラ、スモールアプライアンス、空調という4つの柱で事業を展開、戦略を整理してお客様に見せられるようになったかなと思っています。特に白物家電に関しては、日本の展示会の知恵も大いに反映されています」
IFAの展示を受けて、各国へのフィードバックを行なう取り組みも
IFAの展示は一般消費者や、ディーラーだけでなく、社内のコミュニケーションにも大いに役立っているのだという。
「モノ作りだけではなく、マーケティングの部隊も徐々にアプライアンス社の中にいれているんですね。最初に日本、次に中国、アジアに入れて、来年はアメリカとヨーロッパでもアプライアンス社の中にマーケティング部隊を入れていきます。そうすることで、日本のノウハウを海外に伝えやすくしたり、例えばIFAでの取り組みを各国のチームにフィードバックしたりもしています」
実際今回も、アプライアンス中国からは20名を超えるスタッフが視察に訪れている。
「IFAの展示を3月に中国・上海で行なわれる『中国家電博覧会(AWE)』に活かそうというのも目的ですが、そもそも中国においてドイツメーカーのプレゼンスはすごく高いんです。中国で売れる外車はまずドイツ車であり、中国における家電メーカーのライバルもボッシュやジーメンスなどのドイツメーカーなんです。そういった意味でも、中国からの視察というのは非常に重要な意味があります」
自己完結的な組織をヨーロッパで作ることは考えていない
背景には、パナソニックの中国でのビジネスが好調だということがある。中国におけるパナソニックの統一を進めており、今年4月には中国人の呉亮氏をトップに据えてパナソニック AP チャイナをスタートしたばかりだ。同様の取り組みを今後、欧州でスタートする可能性はあるのだろうか。
「中国で進めているような意味の、アプライアンス欧州というのは考えていません。ヨーロッパには製品開発をやっている部隊はありません。基本的には日本の事業部がヨーロッパにきて、調査を行ない、その結果に基づいて日本で開発、世界の工場で作ってヨーロッパに届けるというビジネスをしています。中国やアジアでは、自己完結的な組織を将来的には目指したいと考えていますが、ヨーロッパに関しては、そうではない。全ての工程をヨーロッパで行なうという時代はこないでしょう」
アプライアンス社において、ヨーロッパ市場での取り組みというのは、まだまだプライオリティが低く、まずはアジア、中国といった市場に注力しているのが現状だ。
「私は4年前に本社からホームアプライアンス社に移ってきたのですが、やはり当時は、まだテレビ事業の痛手が深くて、世界の事業を同時並行で手を入れるということはできませんでした。我々が一致したプライオリティとして取り組んだのは、まず中国とアジア市場です。幸いアジアは2年連続2ケタ成長で、主要国全てで、主要製品のセールスがアップしています。中国もここ1年くらい、着実に成果が出てきており、2017年上期においても2ケタ成長が見込めると聞いています。
今、3番目に手を入れているのがインドです。冷蔵庫の工場やR&Dの拠点も作っています。そしてヨーロッパは、その次にようやく手を付けることができるようになりました。まずは販売を全部、アプライアンス社に組み替えていきます。家電だけでなく、空調も一貫して見れるような部隊を作り、その下にデザインや先端技術動向の調査をする部隊があるような組織を、来年の4月に向けて作っているところです」
ヨーロッパの白物家電事業は一筋縄ではいかない
ヨーロッパで家電のビジネスをする上でどういった難しさがあるのか。
「テレビなどの黒物家電に関しては、ヨーロッパに進出してもう50年が経っています。長年にわたって苦労してきたという経緯もあって、ヨーロッパのお客様に顧客価値を生み出す方法というのは、経験から身についています。ヨーロッパで獲得した手法というのをほかの国に広げていくというのが、パナソニックの黒物家電の特徴でもあります。
一方、白物家電においては一筋縄ではいかないというのが正直なところです。ヨーロッパにおいては、伝統ある欧州のメーカーがやはりすごく強いです。まずは、ジューサーやホームベーカリー、そして美容家電やシェーバーなどのスモールアプライアンスに絞っていこうということで、今回のIFAでも色々と展示させていただいております。ヨーロッパ市場において競合にひけを取らない製品を出せたということは、中国やアジアでの展開においても有利に働くので、我々としては、少し苦労してでも、ヨーロッパでの家電事業を進めていきたいところです」
欧州は日本に比べると、家電製品のデザインをより重視する傾向にあるが、それに対して、どのような対策をとっているのか。
「英ロンドンに、かなり前からデザインセンターを置いています。従来はどちらかというと、先端デザインや市場の動向をリサーチして、フィードバックするという役割が強かったのですが、今後はもう少し役割を広げていきたいと考えています。ヨーロッパに受け入れられるようなデザインを、ここでもっと取り組んで、それをヨーロッパのみならず、中国やアジアでも展開するということができればと考えています」
IoT化の技術は用意してある。あとはタイミングを見る
IFA2017では、実に1,805の出展者が参加しており、世界各国の家電メーカーがブースを並べる。本間社長は、それらのブースを一通り視察した上で「各メーカーの特徴がより顕著になっている」と語る。
「5年くらい前までは、どこもかしこもテレビがメインだったのですが、今はメーカーごとにかなり特徴がはっきり出て来ていますよね。ソニーはテレビにイメージング、オーディオにゲームといった流れになっていますし、サムスンはBtoBも含めた総合的な展示、LGはOLEDなど、かなりはっきりと方向性が分かれてきていると感じます。ヨーロッパには白物の伝統的なメーカーがいらっしゃるので、彼らが出す新しいコンセプトを学ばせていただくというのも大事な仕事ですね」
今年のIFAにおいて大きなトレンドの1つとなったのか、スマートホームなどに代表される家電のIoT化だ。各メーカーのブースにおいては、音声認識スピーカーなどと連携した家電製品が数多く展示されていていた。パナソニックでは、これらのトレンドをどう捉え、どう対応していくのか。
「自然言語と家電製品をどう組み合わせるかということについては、ずいぶん前から色々と考えているところです。国によって、受け止められ方がかなりばらついていると思います。ヨーロッパでスマートフォンと連動する家電製品が、ものすごく支持されているかというと、それはちょっと疑問で、私達の目線から見ると、家電のIoT化が一番進んでいるのは中国だと思います。
そういったことも踏まえて、どのマーケットで誰と組んで、どう出していくのかというのは国ごとに判断していきたい。今回、IFA2017においては、Googleアシスタント搭載のスピーカーを主にヨーロッパで展開すること発表しているわけですが、それをどの国に入れるかというのは、国による情勢というのを見ながら判断していきたい。技術は用意してあるので、あとはタイミングを見ながらというところです」
本間氏は、過去7年連続でIFAに訪れているという。しかし、楽しい思い出ばかりではなく、AVC社の社長として、大変な時期もあったという。
「7年前は販売部隊に対して、プラズマテレビを縮小するということを伝えなければならなかったので、ドイツに来るというのは、なかなかツライ時期だったんです。ヨーロッパではパナソニック=プラズマテレビというイメージがすごく強かったですし、ディーラーさんにもものすごい動揺がありました。パナソニックは家電事業を辞めるんじゃないかという声もそれから長くいただいた。そこで本社の津賀(社長)にも来てもらって、我々はヨーロッパで家電事業を辞めないということを言ってもらったりしたんです」
そういった時期を乗り越えて、今、パナソニックは100周年という新たな局面に向かう。本間社長は就任4年目にして、国内の白物家電事業はかつてないほどの好調を収めている。国内の展示会で注力すべきものがないというのはなんとも残念だが、IFAの会場にくればパナソニックが次に取り組もうとしている「Creative!」な何かが見つかるかもしれない。