そこが知りたい家電の新技術

変化の時を迎えた中国でどう製品を売るか、パナソニックの戦略を聞く

 日本の家電より中国の家電の方が面白い。

 3月9日から中国・上海で掲載された「中国家電博覧会(AWE)」を取材した率直な感想だ。道路一杯の自転車に、極彩色の看板がひしめくという中国・都市部のイメージはもはや過去のもの。今や中国は日本を凌ぐ経済大国で、洗濯機や冷蔵庫の普及率は100%を越し、インターネットと連携したIoT家電に関しても世界の最先端を行く。

3月9日から中国・上海で開催された「中国家電博覧会(AWE)」
パナソニックも巨大なブースで出展した

 かつて中国では日本の家電メーカーは人々の羨望の的だった。しかし、今その影はない。日本の家電メーカーは、三洋電機の洗濯機、冷蔵庫部門がハイアールに、東芝の白物家電部門が美的集団に、シャープの家電部門も台湾の鴻海(ホンハイ)にと、中国系の家電メーカーに次々買収されているのが現実だ。

 そんな中、なおも日本ブランドとして、中国で孤軍奮闘するのが、パナソニックだ。2015年4月にパナソニックチャイナ アプライアンス中国をスタート。これまで製品ごとにバラバラだった会社を1つに統合し、中国におけるパナソニックの統一を進めてきた。それから2年、今度は中国人の呉亮氏をトップに据えて、中国の家電事業を統括する新会社、パナソニック AP チャイナをこの4月にスタートするという。日本メーカーの存在感が陰をひそめる中、パナソニックは中国でどう戦っていくのか、新旧2人のトップに話を聞いた。

左から、4月に設立するパナソニック AP チャイナの総経理に就任した呉亮氏、パナソニックチャイナ アプライアンス中国の総経理を務め、3月で退任する山内政直氏

製品投入時期の変更など、大規模な改革が実を結んだ

 まず、2015年にスタートしたパナソニックチャイナ アプライアンス中国の代表、総経理を努めた山内政直氏にこの2年間の成果を聞いた。同氏は、就任直後から10以上のプロジェクトをスタート。様々な社内改革を行なってきたという。

 「この2年で大きな変化があった。かつては、開発・製造・販売部門が全てバラバラだったが、2015年にアプライアンス中国をスタートさせてからは、横串を1本通して、各部門の連携を強化した。当初は苦労もあった。例えば、製品の投入時期も日本と中国では全く違う。日本ではボーナスや、年末商戦などがあり、新製品の商戦時期は6月や11月に集中している。ところが、中国の会計年度は12月で、商戦時期は旧正月などがある1月~3月に集中している。従来は、日本のやり方をそのまま持ってきていたので、商戦時期に商品がなかった。それを今は1月~3月に新製品を投入して、中国のローカルメーカーと戦えるようにした」

2015年にスタートしたパナソニックチャイナ アプライアンス中国の代表、総経理を努めた山内政直氏

 今回のAWEの前日には中国のディーラーを集めた展示会を行なった。600人のディーラーが集まり、かなり盛況で、手応えもしっかり感じられたという。

 4月からパナソニック AP チャイナの総経理を勤める呉亮氏は山内氏の手腕を絶賛する。

 「20年前、中国でのパナソニックのシェアは20%あった。それが、今は2~3%しかない。パナソニックが得意とするプレミアムクラスでいうと、12~13%はあるものの、それでも、かなり減っている。2011、2012年でテレビをシュリンクし、流通関係からの信頼が失われたというのが大きな原因の1つ。この時、パナソニックは、中国での信頼を一度失っている。そこからずっと減収を続けてきたわけだが、2016年に5年ぶりの増収に持っていくことができた。これは山内さんの功績が大きい。今は、山内さんが作ってくれたサイクルややり方を継続できるように、仕組みに落としている最中」

4月からパナソニック AP チャイナの総経理を勤める呉亮氏

 中国と日本では、経済状況や生活習慣ももちろん違うが、国民性も大きく違う。製品開発、さらに経営する上で、違いを感じて、また気をつけていることがあるのだろうか。

 「一番は、スピード。まずはやってみようという精神が強い。そのスピード感に、管理面がうまくミックスされる、それが日系メーカーの強みでもあると考えている」(呉氏)

ライフスタイル提案で、さらに売上を加速

 パナソニックの中国での戦略は一貫している。ターゲットはプレミアムゾーンのみ、普及ゾーンに関しては、ODMを徹底活用し、自社では作っていない。山内氏就任後の2年間で、製品の入れ替えを進め、全体の60%をプレミアム製品と位置づける。

 「2015年度は32%だったプレミアム製品の売り上げ比率が、2016年度には55%まで上昇している。これは、日本ではなくて、アプライアンス中国で商品開発を手がけたことが大きい。デザイン含め、最初から提案できた。開発・製造・販売がうまく機能した結果でもある。もう1つは、商品を群として訴求できたこと。それまでは商品がバラバラだったのが、ライフスタイルとして提案できた」(山内氏)。

憧れの暮らしを製品群で提案

 パナソニックがターゲットとして掲げる世帯年収21万元以上(約340万)は、今、5,000万世帯、2億人くらい、比率でいうと、全体の25%ほどにあたる。さらにコアターゲットとして掲げる世帯年収35万元(約568万)以上は更に数が絞られる。

 プレミアム戦略を進める中でも、パナソニックがコアアイテムとして、掲げるのが冷蔵庫、ドラム式洗濯機、グリラー、圧力鍋、ホームベーカリーの5製品だ。これらの製品は、全て中国で企画、開発、製品化され、人々の羨望を集める「憧れ」マーケティングを展開してきた。日本製であることをアピールするような店頭展示や、製品を実際に使えるサロンなども設ける。

コアアイテムとして5つのアイテムを掲げる。まずはホームベーカリー
圧力鍋
ドラム式洗濯機
グリラー
冷蔵庫

 一方、日本発の製品を横展開して、成功しているものもある。それがドライヤーに代表される美容製品だ。市場価格から考えると、かなりの高額であるのにも関わらず、製品は完売状態だという。

 「爆発的に売れている。ダイソンのドライヤーの影響もあるが、高額のドライヤーというのが市場に受け入れられた。日本で新製品が出ているのに、どうして中国でもすぐ売らないのかという声もある。今後は日本と中国、同時発売なども視野に入れている」(呉氏)

中国で爆発的に売れているというドライヤー。独自のナノイーイオンを搭載し、髪をケアしながら使えるという点が評価されている
中国版のカタログ。日本と同様「Panasonic Beauty」という製品群で展開する

ヨーロッパのデザイナーを採用することで、新しい風を吹かせる

 一昔前までは、中国の家電製品というと、赤や金色など、派手なデザインが好まれていたイメージがある。しかし、中国家電博覧会の会場を見ても、そのようなデザインは見当たらなかった。今、中国ではどのようなデザインが好まれているのか。

 「デザインに関していうと、日本より目が肥えている人が多いと感じている。特に好まれているのは、ヨーロッパのデザイン。われわれも昨年ドイツ人のデザイナーを雇うなど、ヨーロッパデザインを強化している」(山内)

コアアイテムとして掲げる5アイテムのデザインもシンプルで都会的だ

 「赤い家電製品は古臭いイメージ。今でも結婚式や、子供たちのために親が選んだ家電製品では選ばれることもあるし、赤い家電製品は実際に存在するが、特に都市部の人たちは選ばない。デザインに関しても、我々は脱皮する必要がある。中国のメーカーの売れているデザインを真似していたら、中国のデザインの後をついていくだけになってしまう。あえて、中国人ではなくて、ヨーロッパのデザイナーを入れることで、新しい風を吹かせることができると期待している」(呉氏)

中国の家電製品の方が完全に上回っている

呉亮氏

 中国の経済はこれまで成長の一途を辿ってきていたが、不動産バブルの崩壊や人件費の高騰など、かつての勢いは失われているように見える。事実、中国の家電市場全体で見ると、販売金額が前年割れしているという現実もある。その現状をどう捉えているのか。

 「悲観はしていない。パナソニックの中国での売上は、前年比108%辺りで着地、売上を伸ばしている。販売金額が前年割れしているといっても、それは悲観するべきことではなく、いろいろな事案が重なったため。中国の消費の底力はすごい。国同士の関係性で見ても、今はチャンスだと感じている。日本製品の良さや、職人の技といったものをアピールしていきたい。お客様からも、『パナソニックはユーザーの立場に立ったものづくりをしている』などと、評価をいただいている」(呉氏)

 山内氏も今、中国は変化の時だと語る。

 「中国政府の方針として、豊かな生活を推進している。パナソニックのプレミアム戦略は、その時流にうまくのることができた。中国は、今大きく変化している。これまでは、日本発信の製品を中国で展開してきたが、今後は逆転することも当然あるだろう。日本の家電量販店で、製品をみると、デザイン面で見ても、中国の製品の方が完全に上回っていると感じる」(山内氏)

 東芝の白物家電事業が中国の美的に買収されたり、シャープが台湾のホンファイに買収されたりしているが、それについてどう見ているか。

 「今のところ、影響はそれほどない。特に中国事業においては、シャープや東芝の規模は小さい。それよりも我々が意識しているのは、シーメンスやサムスンといったメーカー」(山内氏)

中国のスピード感を活かして、中国発の製品を増やす

 山内社長が「今回、特に紹介したい製品がある」と話してくれたのが、体脂肪測定付きの温水洗浄便座だ。これは便座に座るだけで、体脂肪やBMIが測定できるというもので、“毎日必ず座る”という便座の特性をうまく活かしたアイディア製品だ。また、測定データは、スマートフォンで確認できる。AWEでも展示されており、注目を集めていた。

 「中国完全オリジナル製品で、日本のパナソニック社員に『これは日本でやらないのか』と言われた。中国ではとにかくスピードが重視されるので、製品化のスピードも早い。今後は中国発の製品を日本で展開することもあるかもしれない」(山内氏)

体脂肪測定付きの温水洗浄便座
アプリでデータを管理できる

 インタビューの中で何度も出てきたのが「中国発」の製品という言葉。かつては「日本製」であることが有利だったが、その価値観はもはや通用しなくなっている。

 4月1日に設立する新会社は、開発・製造・販売部門、全て合わせると1,000名以上の大所帯になる。これまで、中国全土にバラバラに拠点を設けていたが、新会社設立を機に、完全に1つになるという。

 「今は、2018年に迎える100周年に向かって、新たなプロジェクトを次々とスタートしているところ」(呉氏)

 総経理に就任する呉氏は、通訳からキャリアをスタートし、これまで工場など様々な経験をしてきたという。中国人のトップを据えることで、パナソニックの考える“ローカルフィット”はさらに加速していく。中国発のパナソニック製品が日本で販売される日もそう遠くはないかもしれない。

阿部 夏子