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これまでにない食感を実現した象印のトースター「こんがり倶楽部」は何が違うのか

これまでにない食感を実現したトースターができた!

 象印マホービンが、6年ぶりにモデルチェンジしたマイコンオーブントースター「こんがり倶楽部 ET-GM30型」は、表面をサクッと、中はふわっと焼き上げる「サクふわトースト」コースを新たに搭載したのが特徴だ。「他社のトースターで焼いたトーストと食べ比べても、その違いが、誰にでもはっきりわかる」と自信を見せる、同社の今年のいち押し商品だ。今年の「こんがり倶楽部」は、なにが違うのか。開発の現場を訪ね、その秘密を追った。

こんがり倶楽部 ET-GM30型

 「開発の初期段階で、焼きあがったトーストを食べたとき、これまでにない食感を実現できたと感じた。これは大きな差別化になると直感的に思った」--。

 象印マホービン第二事業部生活家電グループ・安藤裕樹サブマネージャーは、そんな言葉で、2017年9月1日から発売した「こんがり倶楽部 ET-GM30型」の強みをアピールする。

象印マホービン第二事業部生活家電グループ・安藤裕樹サブマネージャー
「さくふわトースト」コースを新たに搭載した。

 同製品の最大の特徴は、新たに搭載した「サクふわトースト」だ。

 「トーストにこだわった製品が登場するなか、象印が発売するオーブントースターの新製品の差別化ポイントをどこに見いだすべきか。おいしいトーストであることは当たり前。そこにサクっとして、ふわっとした食感を加えることができないかと考えた」とする。2016年秋のことだったという。

中温で焼く時間をプラス!? 常識を破る新たな温度制御

 ちょうどその頃、要素技術の研究開発部門でも、パンをサクっと焼くための研究が進み、それが完成に近づこうとしていた。

 だが、その要素技術研究によって導き出した結論は、これまでのトースターの焼き方の常識を破るものであった。

 これまでのトースターの焼き方は、一定温度で焼き、しかも、最大温度に近い形で、なるべく短時間で焼き上げるというものだ。短時間に焼き上げるのは、パンの内部の水分を残し、おいしく焼くことができるというメリットがあるからだ。もちろん、短時間で焼き上がることは、朝の忙しい時間帯にも便利というメリットも見逃せない。

 それに対して、象印の研究開発部門が新たに作り上げたトースターの技術は、最大温度で焼き始めながら、途中に中温で焼く時間を設け、さらにその後最大温度で焼き色をつけて、焼き上げるというものだ。

 「焦げ目がつかないぎりぎりの中温で、1分半ほど焼くと、サクッと焼ける層の厚みが増える。これによって、表面はサクッとした軽い歯ざわりの食感が生まれ、なかはふわっとした食感のトーストに仕上げることができる」

「サクふわトースト」コースの設定時間は約4分半。従来のトーストコースより長めに設定されている

 中温の具体的な温度は非公表。そして、中温で焼く時間も1秒単位で制御しており、これも約1分半というざっくりとした数字以外は非公表だ。

 「1枚で焼いたとき、4枚で焼いたときも、中温の時間帯は異なる。何度もなんども、実験を繰り返して、最適な温度と時間を導き出した」という。

 6枚切りや8枚切りといった食パンの厚みが違っても、「サクふわ」を実現するために、半年間で約1万枚のトーストを焼き、焼き上がると専用の計測器で、サクっとした層と、ふわっとした層の力と厚みを計測。最適な食感を導き出した。

 「最適な食感は、コンピュータを活用したシミュレーションによって導き出せるものではない。焼いては計測するという実験を繰り返すことで導き出したもの」という苦労の末の時間設定と温度設定だ。

 実際に、「サクふわトースト」コースでトーストを焼いたもらったが、その間、カチカチと音がしながら、こまめにヒーターを制御していることがわかる。中温を維持するための微妙な制御が、マイコンによって行なわれているというわけだ。

 中温で焼く時間を入れたため、焼き上がりまでの時間は4分強となっており、これまでの2分半に比べて、1分半ほど時間がかかる。だが、おいしい食感を得られるための時間と考えれば、決して長い時間ではない。

 短時間に一気に焼き上げるというのが、これまでのおいしいトーストの常識。それを、中温の時間帯を設けて、焼き上げるまでの時間を伸ばすという逆張りの発想が、「サクふわトースト」コースの実現につながっている。

約97%の人が食感の違いを時間

 実は、同社では、「サクふわトースト」コースで焼き上げたトーストを試食した766人にアンケートを実施。「普段食べているトーストと比較して、『サクふわトースト』コースはどう感じたか」との設問に対して、96.9%(742人)が、「外はサクッ、中はふわっとしておいしかった」と回答していている。まさに、誰にでも、食感の違いが理解できる焼き上がりを実現していることがわかる。

 実際に試食してみたが、焼き色を薄くしても、サクッとした食感であったのはちょっと不思議な感覚でもあった。もちろん焼き色は濃くもできる。

焼きあがったトースト。これだけの焼き目でもサクっと感がある

 新製品には、従来通り、「トースト」というコースも用意されている。

 「裏技ともいえるものだが」と安藤サブマネージャーは語りながら、「サクふわトーストコースと、トーストコースで焼き上げたトーストを食べ比べてもらうと、その差がわかる」という。

おいしいトーストをイメージさせる「サクふわ」の表現

 マーケティングの観点からこだわったのが、「サクふわ」の表現だ。

 もともとの要素技術は、サクっとした食感を目標に開発されたものであり、ふわっは、サクっの裏返しとして生まれたものだ。要素技術の研究開発部門では「サクッは目指したものだが、ふわっは目指したものではない」と反対したが、商品開発部門では「サクふわ」にこだわった。

 「サクッの表現だけだとラスクのようなイメージを生んでしまう。サクッという表現に、ふわっという表現を加えることが、おいしいトーストをイメージさせることにつながる」

 実際、サクふわの食感は、新製品で見事に実現されている。

 象印マホービンは、1978年から、オーブントースターを発売。1989年には、マイコン機能を搭載。1991年からは、「こんがり倶楽部」の名称で販売している。オーブントースターでは、実に約40年の歴史を持つ。

 今回の新製品は、「サクふわトースト」コースを含めて、「トースト」「冷凍トースト」「ピザ」「冷凍ピザ」「フライあたため」「ロールパンあたため」の7種類の「マイコン自動コース」を用意しており、ワンタッチでコースを選ぶだけで、マイコンが温度を自動調節する。

 昨今では、冷凍ピザを買ってきたり、トーストを冷凍する人が多いことから、冷凍ピザや冷凍トーストの利用が増えているという。

 「マイコン自動コースの良さは、失敗せずにトーストを焼けること。数秒の違いでトーストが焦げてしまい失敗したしたという経験をしないで済む」という。これだけのコースを用意することで、様々な食材で失敗せずに済むというわけだ。

 さらに、焼きいもなど時間のかかる調理にも対応した「30分ロングデジタルタイマー」を搭載。トースターならではの遠赤外線効果もあり、石焼きいものようにおいしく焼くことができるという。

扉前面に「焼きいも」の設定を表示した
内部の様子。庫内の奥行は29.5cmとした

 「オーブントースターで焼きいもを焼くおいしさが再び注目されている。新製品では、扉前面にも焼きいもの焼き時間の設定目安を表示し、焼きいもにも使えることを、より強く訴求した」という。

 そのほか、メニューの幅が広がる「80℃~高温250℃ 温度調節」機能や、二次発酵から焼き上げまでを行ない、手作りパンが簡単に作れる「手作りパンコース」、おもちが垂れずに焼ける「もち焼きネット(焼き網)」なども従来モデルから継続している。

 パンの二次発酵から焼き上げも簡単にできるため、1次発酵は常温で行ないながら、この機能を使って、バターロールやチョコパンも作ることもできる。

トーストを4枚同時に焼ける「ビッグ&ワイド庫内」

 今回の製品では、ET-GM30型のほかに、最上位クラスに、ET-GT30型およびET-GB30型もラインアップ。3製品とも、「ビッグ&ワイド庫内」と「5本ヒーター(1,300W)」を採用し、トーストを4枚同時に焼けるようにした。

ヒーターは上に2本、下に3本

 「これまでの最上位クラスのラインアップは、上位モデルから2枚焼き、4枚焼き、2枚焼きという順番になっていた。これを最上位モデルは、すべてビッグ&ワイド庫内を採用し、4枚焼きに統一した」という。

 同社の調べによると、トーストを4枚一度に焼きたいという人は、全体の25%を占めており、最上位クラスをすべて4枚焼きに統一するのは、営業戦略上、当然の判断だったといえる。

 従来の2枚焼きは、直径25cmのピザが焼けることを前提としていたことから、庫内は27.5cmとなっていたが、トースト4枚を焼くことができるビッグ&ワイド庫内では奥行きを29.5mmに拡大。グラタン皿も一度に3つまで焼くことができる。「レンジの横に設置する場合が多く、2cm大きくなっても、設置スペースには問題がない」とする。

 ビッグ&ワイド庫内では、従来モデルに比べて、ヒーターを1本増やし、1,300Wの「5本ヒーター」を搭載。上遠赤2本、下3本の配置として、トーストの4枚同時焼きや、グラタン皿を3個同時焼きにも効果を発揮する。

 象印マホービンの安藤サブマネージャーは、「普段のトーストを、よりおいしく食べてもらいたいと考えて開発した製品。トーストの食感にこだわる人にお勧めしたい」とする。

 逆張りの発想でたどり着いた新技術を搭載した「こんがり倶楽部 ET-GM30型」は、象印マホービンのおいしいトーストへのこだわりが生んだ製品であるといえよう。

大河原 克行