そこが知りたい家電の新技術
ルンバが自宅で助けを求めている!? 挽野新社長が語るルンバの今とこれから
2017年7月28日 07:00
ロボット掃除機「ルンバ」を展開する米iRobot(アイロボット)は、今年4月に日本法人アイロボットジャパン合同会社(以下、アイロボットジャパン)を創業し、日本市場でのビジネスを本格的に開始した。ルンバは2004年から日本の代理店が扱いを開始し、そこから約10年以上、その体制を続けてきた。
今、このタイミングでアイロボットジャパンを創業した意図はどこにあるのか、また、ルンバは今後、どういう方向性に進むのか、アイロボットジャパンの代表執行役員社長に就任した挽野 元(ひきの はじめ)氏に話を聞いた。
挽野氏は、オーディオメーカー、BOSEの社長、さらにその前は、ヒューレッド・パッカード社にて日本のイメージング・プリンティング事業担当副社長を務めるなど、日本、アジア太平洋地域、グローバルで様々な経験を有する。
最終的な目標は“一家に一台”
まずは、4月に就任してからの手応えについて聞いた。
「4月に就任して以来、手応えはかなり感じています。最初の3カ月間は、社内体制の整備、成長戦略に向けての準備をしてきました。ようやく、体制が整ってきたところです。最初に、色々なところへご挨拶させていただいたのですが、随所でロボット掃除機への期待の高さを感じました。まだまだ伸びしろがある、将来性を強く感じています」
4月に開催されたアイロボットジャパン創業会見では、当面の目標を「世帯普及率10%」と掲げた。これを達成するためにまず何を進めるのか。
「世帯普及率10%というのは、あくまで通過点だと考えています。最終的には一家に一台を目指します。ルンバというのは、そうなっても全くおかしくない製品です。実際にルンバを使っているワーキングマザーや、共働き世帯などからは『ルンバがなきゃ困る』という声もたくさん頂戴しています。そういった層にきちんと製品を届けるということがまず必要です。ターゲット層の普及率は現状で約3割くらい、ここを5~6割まで伸ばせると、ドミノ式に製品が広がっていくのではないかと考えています。
2世帯に1世帯がルンバを持っていたら、持っているのが当たり前という存在になる。まずは、狙っている層で半分以上の普及率を達成すれば、ドドっとドミノが倒れるんじゃないかと。ルンバは認知度は高いんですが、まだ使ったことがないというお客様もたくさんいらっしゃる。使ったら便利だよ、と実感していただけるような取り組みを広げていきたいです」
ルンバを扱う会社が、前社のセールスオンデマンドから、アイロボットジャパンになったことで、今後どういった変化が起きるのか。
「扱う製品は同じなので、ユーザーから見たら、特に大きな変化を感じることはないと思います。ただ、今後、3年、あるいは5年など将来的にビジネスを展開していく上で、これまでよりも早く意思決定ができるようになります。たとえば、日本のお客様のニーズをより迅速に製品に取り入れたり、より日本の市場にあった製品展開が可能になってきます。そこらへんはジワジワと、お客様にも実感していただけると思います」
製品の販売方法など、社内的な変化はどうか。
「基本的には今までの延長で進めていきます。ただ、今後はより多面的な展開も必要だと考えています。今のお客様というのは、物事を想起してから、考えて、決めて、買うという一連のサイクルの中で、オンラインとオフラインをいったりきたりしています。例えば、家電量販店で実際にルンバに触っていただくこともとても重要ですが、オンライン上での検索や評判、そして友人や家族の口コミなど、総合的にフォローできるような取り組みを進めていきたいです」
コリン・アングル氏の社長室に飾られていた虫の模型
アイロボットのコリン・アングル社長は、自らのビジネスをロボティクスだと言っている。日本では多くのロボット掃除機が発売されているが、ロボット会社が作ったロボット掃除機はルンバだけだと。挽野氏は、アイロボットという会社をどう考えているのか。
「創業者でもあるコリン・アングル氏とは、これまで何度も会っています。とても興味深い人物ですが、その中でも印象深かったのが、“虫の部位から発想を得ている”という話です。
アメリカ本社にある彼の部屋の壁には、彼がこれまで手がけてきた歴代のロボットと一緒にバッタとかムカデといった節足動物の模型が並んでいるんです。『これは何か』と尋ねたところ、『これが発想の原点』だというんです。
つまり、彼の物事の考え方というのは、IBMのワトソン(人工知能を使ったテクノロジー・プラットフォーム)のような巨大な仕組みを作るというのではなく、どうやってバッタが跳ねるのか、ムカデはどうやって動いているのかといった部位の動きを再現するというところからスタートしているんです。軍事的な探査ロボットや地雷を除去するロボット、福島の原発の中に入った探索ロボットなど様々なロボットを開発していますが、はじまりは虫がどう動いているかを知りたいというところであり、それがいかにもコリンらしいと感じました。
ルンバやブラーバは、家電製品として存在していますが、その裏には様々な技術が積み上げられています。中でも空間認識、位置認識のアルゴリズムはコアであり、ロボティクスカンパニーとして誇れるところだと思っています」
ルンバからヘルプメール
現在、日本市場には、様々なタイプのロボット掃除機がある。ルンバやブラーバの強みはどういったところにあるのか。
「市場が活性化するので、色々な製品があるというのは良いことです。その中でもアイロボットは、ロボット掃除機の市場を作ってきたメーカーという自負があります。他社の製品との市場の違いは、空間を認識する力であり、自分が今どこにいるのか、位置を認識する力です。それを支えるアルゴリズムが、得意な分野であり、他社の製品と動きを比べていただければ、違いはすぐにわかります。
また、商品のラインナップ的にも、ブラーバのような床拭きロボットというのは今のところないです。素足で過ごす機会が多くなる夏のシーズンなどとても便利な製品です。こちらに関しても、市場を創出しているといえます」
挽野氏自身もルンバを愛用しているという。
「実際に自分がルンバを使っていて感じるところでもあるんですが、ルンバには“愛玩家電”としての一面もあるんですよね。専用のアプリでは、自分のルンバに名前を付けて、操作するのですが、例えば先日、アプリに『もぐもぐが助けを求めています』とプッシュ通知が来たんです。うちのルンバはもぐもぐっていう名前なんです(笑)。妻がつけたんですが……。
そのときに、『大変だ。すぐに助けてあげないと』っていう気持ちになり、こういう感覚はほかの家電にはないところだと思っています」
第二創設期を経験できるというのは貴重
挽野氏が今回、アイロボットジャパンの社長に就任した理由を、改めて聞いた。
「理由は2つあります。まず1つは、私自身のキャリアにとって魅力的だったということ。アイロボットは今、第二創設期に入っています。0から1に会社を作り出すという会社の創設期とはまた違う、1を10、あるいは100にするという第二創設期のタイミングで仕事をできるという機会はあまりありません。21年間勤めたヒューレッド・パッカードや、社長を務めたBOSEともタイプの異なる会社であり、ここで仕事をしてみたいと感じました。
2つめは、テクノロジーがしっかりした会社だということです。今はルンバやブラーバといった掃除機がメイン商材ですが、これからIoT社会を迎える中で、アイロボットは人々の生活が豊かになる未来に大きく貢献できる会社だと確信しています」
今後展開する製品はIoTがキーになる
今後、会社が成長期を迎える中で、IoTというのは今後大きなキーワードとなってくるのは間違いないだろう。実際、ルンバの上位機種においては、クラウドやスマートフォンとの連携機能を搭載、米国のルンバでは、Amazonが販売するスピーカー型音声アシスタント端末「Amazon echo」にも既に対応している。日本においては、どういったタイミングで、どのように対応していくのか。
「Amazon echoやGoogle homeなど音声認識に対応するための準備は着々と進んでいます。AmazonやGoogleがいつ日本に投入するのか、というタイミングの問題もありますが、今後の展開する製品において、IoTがキーになるというのは間違いありません。
ルンバにおいては、現在ハイエンドの900シリーズのみがコネクトする製品ですが、ラインナップはどんどん増えていきます。ただ単に音声認識に対応するというだけではなく、より簡単に動かせるユーザーインタフェイスであったり、マッピングを活かした機能など、様々な可能性を模索しています。例えば、現状でも900シリーズのアプリでは家のマップが出てきて、どこを掃除したかというのが見られるようになっています。あくまで個人的な意見ですが、それに加えて、室温や湿度、Wi-Fiシグナルの強さとか、家の情報をさらに表示できると面白いですよね。例えば、ユーザーがそのシステムを使って家電の配置場所を決めたり、Wi-Fiルーターの位置を考えたり、ルンバのシステムがそれをアドバイスできるような、そんな世界が広がってきます」
プラットフォームに関して、AmazonやGoogleという名前が出たが、日本の家電メーカーでは自社のシステムを使うとこも多い。そのあたり、ルンバではどう考えているのか。
「ユーザーが支持しているプラットフォームはもう決まってきていますよね、それをベースにその上に乗っかっていくのがユーザーにとって一番便利。独自の世界で囲むというよりは、今あるプラットフォームの上で我々の製品が動くとか、我々のサービスが提供できるというような形が理想です」