2017年10月19日 06:00
東京では観測史上2位となる降水連続日数を記録し、関東は40年ぶりの長雨となり、九州北部は集中豪雨に襲われるなど、雨だらけだった今年の夏。日照不足や豪雨被害などで生育不良となった野菜の価格が高騰しています。さらに、先月には非常に強い台風18号の影響で各地で大きな農業被害を受けました。
こうした大きな自然災害の影響で、休業・廃業に追い込まれる農家のニュースも目にします。また、農業は深刻な後継者不足の状況に陥っていて、農林水産省も若者の農業の参入するための支援策なども進めていますが、このような深刻なダメージを見ると、農業にチャレンジしたいと考える若者も二の足を踏んでしまうかもしれません。
これらの農業が抱える問題、異常気象や人口増加による食料不足の懸念などもあり、安定した食料の安定した生産・供給や農業参入誘致などに向けて、日本の農業は進化を続けています。そんな農業の技術展となる「第4回 国際 次世代農業EXPO」が、10月11日(水)~13日(金)まで幕張メッセで開催されていたので、最終日に社会科見学へ行ってきました。
今回の展示会では、農業専用ドローンや植物工場の数々、すでに植物工場を展開するパナソニックが開発した意外なアイテムなどが展示されていたのでご紹介します。
続々と開発される農業専用ドローン
農薬散布用タンクを機体に搭載し適所散布を実現したり、カメラで圃場をくまなく撮影し葉色の状況などを確認しながら、作物の生育管理を可能にしたり、さまざまな作業をサポートするドローン。
会場にはさまざまなドローンが展示されていましたが、ここでは、デモ飛行で注目を集めていたDJI製「AGRAS MG-1」をご紹介します。本体重量は10kgを切る(バッテリー・液体なし)ため女性ひとりでも持ち運べ、工具無しでアームを小さく折り畳め、軽トラの荷台に2~3台乗せることができるコンパクトさが特徴。
プロペラ枚数は8枚で、万が一1枚壊れた場合でも、残りの7枚で飛行可能となっています。また、コンパスと気圧のセンサーを2つ搭載しており、どちらかが壊れても飛行し、安全な状態で着地させることができます。
実際の農薬散布に関しても、一般的な無人ヘリ等では1ヘクタールあたり30分程度かかっていた作業を、10分程度で終了させることができるとのこと。また、機体下部に3方向のセンサーが搭載されており、高精度で地形を認識して機体の高度を維持しながら、農地の起伏にかかわらず液体を均一に散布。デモでは強い横風を想定し、飛行中の機体を横からわざと押していましたが、すぐに自動的に元の位置に機体を戻していました。
これまではセスナや有人ヘリコプター、人工衛星に頼っていた写真撮影をドローンで行うことで、コスト削減、担い手不足や高齢化問題を支えることにも期待が寄せられています。とはいうものの、「便利なのはわかるけど、これだけ災害の被害が多いとだと先立つものがないよ……」という農家の方もいました。やはり、農業に限った話ではないですが、ドローンの普及や導入はまだまだ時間がかかりそうなのが現実でしょうか。
パナソニック製オーガニックのドレッシングがおいしそう
人工光や空調などで環境を完全にコントロールし、農作物の安定した栽培の実現に向けて期待が寄せられる植物工場。しかし、実際にはその約7割が赤字経営という現実もあります。大規模&高コストで黒字化が難しいイメージがついてきますが、ノウハウの蓄積や進化した技術で新規参入のハードルも下がってきているとのこと。自宅で手軽に始められる小型タイプなども展示されていました。
植物工場は赤字経営が多い現状を踏まえたうえ、黒字化できるソリューションを提案するのがパナソニック。家電事業で培った照明や空調、ネットワークや省エネなど、すべてのノウハウを社内で保有し、植物工場に一括導入できるのが強みです。さらには、栽培レシピを提供し、開業後の野菜販路のサポートまで行うとのこと。そして、黒字化の植物工場を増やし、10年後には「レタスは土で作っていたんだよ」と子どもたちが話す時代を目指すと語っていました。
葉物野菜は青と赤のLEDの光だけで十分で、その光の照射量がポイントとなります。たとえば、子どもは甘めの味の野菜を好みます。シェフの場合は肉や魚とのバランスを考えてワイルドでパンチのある味を好む傾向にあるため、パナソニックの植物工場では、それぞれのニーズに合わせて、一般家庭やプロの現場用に野菜を作り分けているそうです。
そうしたニーズに合わせて栽培レシピの開発も進め、病を抱える人たちに向けた野菜も誕生しています。北九州にあるエスジーグリーンハウスでは、カリウム制限がある腎臓病や腎不全、透析中の人に向けて、カリウムを約87%カットした低カリウムレタスの販売をスタートしました。これまで生野菜を控えなければならなかった人たちから喜びの声が届いているそうです。
そんなおいしい野菜にこだわるパナソニックは、ついにオーガニックのドレッシングなどを開発。もちろん、素材は植物工場で栽培された野菜のみ。1年前に青じそドレッシングを開発し、社内でテスト販売してみたところ、大好評で約1万本も売れたそうです。
その後もディップソースやビネガー、ソルトにレトルトカレーなどを次々と開発。どれも好評で、今週からはぽん酢が新たにラインナップされたそうです。ただし、残念なことに、現在はどれもパナソニックの社内販売のみとなっています。一般向け販売も検討中とのことなので、発売を楽しみに待ちたいと思います。それまではパナソニックに勤務する友人や知人におすそ分けしてもらうしか方法はなさそうです。パナソニックの加工食品はどんな味がするのでしょうか? とても楽しみです。
さまざまな最新技術で農業をサポート
ドローンや植物工場以外にも、さまざまな企業が最新技術による農業のサポートを提案していました。
自動車部品大手のボッシュは、AIを利用して作物の病害を予測するサービス「プランテクト」を展示。今年の6月に農業向けのサービスを発表したニュースを覚えている人も多いのではないでしょうか。この「プランテクト」は、AIを利用して作物の病害を予測するサービス。ビニールハウス内に、温度や湿度、CO2、日射センサーを設置し、作物の病害予測を実現。その予測精度は92%を実現し、収穫量の増加に貢献しているそうです。基本プラン4,980円でその日から運用可能とのこと。
NTT東日本は、圃場センシングソリューション「eセンシング for アプリ」を展示。自宅や事務所から、温度・湿度・照度などの圃場環境を数値やグラフで簡単にチェックできるサービス。降霜地域では、降霜時期になると深夜から明け方まで圃場で温度の観測を行い、燃焼材を焚いて降霜被害を防止することが多々あるそうで、そうした人的稼働を大幅に縮小し、生産性の向上をサポートしているそうです。
ほかにも、VRで田植えのシミュレーションができたり、ほかの業界同様に、最先端のIT技術が登場していました。これらがすぐに普及して生産スタイルが変わるのは厳しいとは思いますが、ニッポンの農業が復活・革新したときには、私たちの野菜の食べ方や選び方なども変わっているのかもしれません。