ぼくらの自由研究室

あらゆるジャンルの自作モノが集まる祭典に行ってきた

「Make」。誰でも知ってる「作る」という意味の英語だ。メーカーと言えば、家電メーカーや食品メーカーなど、その製品を作っている人や会社のことを言う。しかし「メイカー」という言葉をご存じだろうか? 「イ」の言い方の違いだけだが、「モノ作りを楽しんでいる人たち」という意味となる。

その由来となっているのは、オライリーというサイエンス系の出版社が発行している書籍「Make:」にある。オライリーはアメリカの出版社で、プログラマーの間ではUNIXやJavaなどのコンピューター系の版元として超有名。「Make:」は、サイエンスをはじめ、電子工作、木工から紙工作、手芸など、あらゆるモノ作りを楽しむための書籍だ。

2005年にアメリカ発のテクノロジー系DIY工作雑誌として誕生した「Make:」。古い本でも内容が古くない。最新技術を追う工作誌じゃなくて、その心を伝える本なので古さを感じないのだ

「電子工作だからスゴい」「科学だからスゴい」「プログラミングがスゴい」というのではなく、アイデア自体や、その工作にかける情熱がスゴいのがメイカーたちの真骨頂。

そんな日本のメイカーたちが一同に集まった東京ビッグサイトの「Maker Faire Tokyo」を見てきた。もう10年近く開催されているイベントだけに、出展するメイカーも非常に多く、すべてを紹介することはできないのが残念だ。

会場となった東京ビッグサイト。看板の前でピースしているのは、どうみても小学生。オレは同時開催の鉄道模型展にも行きたかった!

そこで、今回は夏休みということもあり、まだ自由研究の宿題を残している小学生の子どもたちでも、夏休みの工作のアイデアやネタになりそうなメイカーの作品をピックアップしてみた。もちろん、大人が純粋に楽しんでもいいだろう。

こっ、これはコミケにかなり近い混雑具合だ! 全部取材しようと思ったら2日の開催期間じゃ足りない!

Surface & Architecture「Hackable Things」

ダンボールの中に仕込まれた時計は、セットした時刻になるとハンマーが「呼び鈴」を押すというもの(笑)。普通は電子音で済ませるところをあえてアナログにしているのがオシャレだ!?

作品を見る以上に製作者とのコミュニケーションが楽しい!

時計とモーター駆動のキットを購入すれば、小学校高学年ぐらいなら作れるはず(実際にはもっと複雑だけど)。また、自動うちわあおぎ機もキットを使えばできそうだ。ほかにもキューブにカウンターを仕込んで、キューブ同士を連結することで、一種のプログラムができるという展示も。

ほいっと笹乃屋「デジタルなアナログおもちゃ」

ボタンを押して人形同士が叩き合うというゲームがあるが、実際にピコピコハンマーで人が叩き合って、それをおもちゃにフィードバックするというおもしろおもちゃ(笑)。ピコピコハンマー内には、ゲーム機のコントローラーが埋め込まれていて、その加速度センサーの値を取って、小型マイコンでおもちゃをコントロールするという、ムダに技術を使った展示だ。

ピコピコハンマー
ビー玉迷路
ピコピコハンマーの動画
ビー玉迷路の動画

ビー玉迷路は、ゲーム機のコントローラーを使ってボードの傾斜を制御して、ビー玉をゴールに運ぶというものだったが、小学校中学年なら板を手で動かせばいいし、高学年ならXとYの傾きを操作するレバーにしてもいいだろう。

株式会社ジュニ「磁力であやつる磁性流体でできた生命体」

Amazonなどでも入手できる、“磁石にくっつく液体”「磁性流体」(ハードディスクの軸受けなどにも使われる)。これを電磁石のマトリクス(縦横に配置したもの)で、磁力で引っ張るとまるで生き物のように動くという展示。

磁性流体を使った生命体の動画

まるで「となりのトトロ」に出てくるような、「まっくろくろすけ」のようでかわいい。展示ではマトリクスをゲームのコントローラーとマイコンで制御していたが、スイッチで制御するようにしてもいいだろう。また、小学校低学年なら、ビンの中に水を入れ、そこに磁性流体を少し入れて、棒磁石などでくっつけてもいい。なお、水に溶けにくい磁性流体として「DS-60」というのがいいと教えていただいた。

おお! この磁性流体の会社は、ずいぶん前に家電 Watchの企画でインタビューしたことがあるぞ!

ゆめカワ☆ふぁぶりけーしょんズ「お台場ダイバーズ」

子どもたちに大人気だったのが、この「お台場ダイバーズ」の展示。深海を潜るときのヘルメットをかぶり、中にはLEDライトが仕込んである。しかも、頭の上にはシャボン玉発生装置がついていて、背中に背負った空気ボンベならぬ、シャボン液ボンベから長時間シャボン玉を発生できるというもの。

子どもたちに大人気! 実用性だけでは、まったく人気がないというヘンなトコも「Make:」の特徴

ゆっくり中腰で歩くと、まるで深海を散歩しているようで、子どもたちにもバカウケしていた。エレクトロニクスを使わなくても人々を楽しませる、まさにメイカーならではの出展だ。ちなみにシャボン玉発生装置は、3Dプリンターを使ってオリジナルで製作したということで、じつはスゴい作品なのだ。

じつは大人的、メイカー的にはこの部分を3Dプリンターで作っちゃうのが凄いトコ。でも、子どもたちには、そんなの関係ねぇ! と

KKB「半自動オセロ」

一見なんの変哲もないオセロ盤だが、このボードの下にはXとY軸に動く駆動部分と磁気センサー、そして電磁石が仕込まれている。さらに、オセロのコマには磁石が入っている。つまり、マウスで置く場所を指定してやればいいのだが、わざわざボード上に実際にコマを置くことで、駆動装置がX、Yをスキャンしてどこに何色のコマをおいたのかを検出。そして、はさまれたコマを電磁石でひっくり返すという、手の込んだマシンとなっている。コンピューターが思考してオセロの相手になってくれる部分は、ざっくりカットされている(笑)。

手でひっくり返すほうが早いのは十分承知のうえ。あえてそれを機械化するのがメイカー脳
半自動オセロの動画

はさまれた部分を自動検出するのは難しいが、コマをひっくり返すのに電磁石を使うというアイデアは夏休みの工作に使えそうなアイデアだ。

フィジカルコンピューティング部「トイレットペーパー使いすぎ気づく機」

これは非常に実用的かつ、お母さんに喜ばれそうな機械。トイレットペーパーホルダー下には、車輪と回転検出センサー(本機ではマウスと同じフォトインタラプタを使用)を搭載し、本体上部のカウンタにミリ単位で引っ張り出した長さを表示。トイレットペーパーをムダに引っ張り出すとアラームが鳴って警告をするという。

トイレットペーパーのムダ使いを警告してくれる装置
トイレットペーパー使いすぎ気づく機の動画

長さを表示するのは難しいが、カウンタ表示キットを使えば似たようなものが作れる! でも、中心部分は直径が細くなるので、スグに使いすぎ警告が出ちゃいそう。

つくる~む「頭部空冷ヘルメット&360度ホログラム」

これの本当にスゴいところは、ヘルメット部分を3Dプリンターで作ったということだが、それよりおもしろいのは(笑)、ヘルメットをかぶるとサイバーでSFチックなうえに、頭がやや(長時間使用はかえって暑くなる)涼しいという点。

ヘッドマウントディスプレイもあってスゴく近未来的! 何に使うか? そんなコトは関係ないのだ!

ヘルメットは前面が手前方向に開くようになっており、中にはLEDアレイのリボン、そして口元には紙コップ内にマイクと変声器が装備されている。これをつけて歩けば、本人はとてもサイバーな気分になる。ヘルメットの蒸れの問題は、後頭部に配されたペルチェ素子&空冷ファンで快適に。ただ計算間違えなのか? ペルチェの冷却能力が低すぎ、発生する熱をすべて廃熱できないのが難点。

見る角度によって正面や横からも見えるホログラム!

また、同時に展示を行っていたのは、360度ホログラム。分解能は4角度(笑)。ピラミッド型に組んだプラ版に、上部のフタとして置いてあるタプレットPCの映像を映し、横から虚像が見えてホログラムとなる。より円錐に近い分解能にすれば、360度も夢じゃない!

その実態は、上部のタブレットに4方向の映像を映してた! 原理的には正しいアプローチだと思う!

denha's channel「“音・光・動き”のガジェッツ、大集合!」

こちらは「Maker Faire Tokyo」がマイナーだった2009年から参加されている常連さん。当時は多摩センター駅にほど近いデジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオで開催していた。オレも、そんな前から取材していたのか!(笑)。

Youtubeでもサークル名で検索するとたくさん作品が見られる!
玉が転がり続ける永久機関の動画(その1)
玉が転がり続ける永久機関の動画(その2)

ピタゴラスイッチ的な玉が転がる永久機関なのは一目瞭然。しかし、何時間見ていても楽しめる不思議な魅力がある。昔は展示だけだったが、最近は出展先で小さい作品を即売しているというので、興味ある人は検索してみてはいかがだろう。

タミヤの自由工作シリーズとビー玉を使えば、ある程度近いものが作れるはず。あとは微調整とアイデアと努力だ!

INCAMS「MIERUNDES」

これは簡単で便利! いや、オレが電子工作やるのにほしいぐらい。メガネ型をした基盤にLEDなどをハンダ付けしてできる、光るメガネ。

普通に便利だけど、装着していると超マヌケな感じが「Make:」的。実用的でカッコイイのじゃダメなんだ!

電子工作したり、ベッドで本を読んだりするのに便利。しかもバッテリーは充電式で繰り返し利用ができて経済的。さらにスゴいのは、キットを販売しているという点。こちらから購入できるので、ハンダ付け初挑戦の子どもたちにオススメ!

通販キットもあるので、子どもたちはぜひハンダ付けの練習も兼ねてチャレンジ!

テアタマ~ズ!/みんなのダンボールマン「ダンボール工作」

2サークルが共同出展していたブースは、子どもたちが大喜び! 大人は「スゲー」と感嘆しかない展示。スタッフの名刺入れはダンボール、その名刺もダンボール(笑)。そして、ボールや子どもが入って遊べるキャタピラー(無限軌道)や、掃除機にカメラ、お兄さんがかぶっている帽子まですべてダンボールなのだ。

ダンボールのお財布! すげー!
ダンボールのキャタピラ。子どもにはちょっと重たすぎるみたいで、数メートル進むとバテちゃうとか(笑)。なのでこれは大人用
ダンボール20枚でこんなボールまで作れちゃう!
こっ、これを展開図なしで作るだとぉ! スゲーよ! マネできねーよ!

なんでこんなにキレイに折り曲げられるのか? と不思議に思ったら、独自のダンボール折り曲げカッターを開発・販売しているためだ。特殊な刃がついたローラーカッターで、曲げたいところにスッとスジを入れると、簡単に折り曲げられる! しかも、カッターでスジを入れて曲げるより強度が高く折り目もキレイ。各地でイベントなども開催さいているということで、ぜひ下記Webサイトを見て欲しい。

・テアタマ~ズ!
・みんなのダンボールマン

ロボコン30th有志会「自走式インクジェットプリンタ」

こちらは自由研究のネタとしては、難度高すぎかもしれないが、どこの家庭にもありそうな壊れたプリンターを廃物利用するという意味で取り上げてみた。普通プリンターは、何ミリかずつ印刷して、そのぶんの紙を送るような機構になっている。

いや~、バカで最高! アホって素晴らしいと思う! ほんと! 今年でNHKのロボコンも30周年ってのも驚いたけど。そんなになるのかー

しかし、このプリンターは、“紙は固定で自分が進む”という逆転の発想プリンタ。普通のプリンタと変わらない精度で印刷できているが、ここまで来るまでにどれだけの苦労があったのかは聞かなかった。だって、聞くと長そうなんだもん。

東芝メモリ株式会社「FlashAirの同人誌無料配布」

同人誌無料配布なんで、そこまで必死なのか? という心配する人もいるかもしれないが、じつはFlashAirってプログラムできる超小型マイコンなのだ! デジカメなどに差し込んで普通に使っていると、マイコンとして使えないが、秋葉原の部品店などで売っているSDカードボードを購入すると、パソコンなどからプログラムできるようになる。

表紙は、はっとりみつる先生っぽい絵柄の同人誌を無料配布していた「東芝メモリ」。有志が集まってやってるだけに、企業臭がしないのがイイ!(笑)
FlashAirをマイコンとして作ったサンプルの数々。デジカメに入れるメモリでデジカメ作ってどーする!?(笑)
開発ボードは、秋葉原の秋月やマルツでも買える!

FlashAirの中には、CPUやメモリ、無線LANにWebサーバー機能などが内蔵されているので、FlashAir単体からメールを送信することだってできる。また、簡単で初心者にも使いやすい言語なので、流行のマイコンボードに比べると敷居も低い。東芝メモリのブースでは、こうした使い方を解説する同人誌を無料配布していた。

興味のある人は、こちらのWebサイトからテクニカルドキュメントが閲覧可能。

紹介できないサークルがたくさん! 子どもも大人も大喜び!

出展数はおよそ400! 東京ビッグサイトの7・8ホールを貸し切って2日間開催されるほど規模が大きい。入場料は大人の当日券1500円(前売り1000円)と、まあそれなりにお金はかかるが、幼稚園~小学生でも十分に楽しめるイベントだ。

子どもたちは出展者の作品を楽しむこともできるが、「作ることを楽しむ」ブースもあるので、大喜びするだろう。今回は、自分で作ったクルマを坂から転がしタイムを競ったり、ジャンプ距離を競ったりするブースが大人気だった。

単純だけに工夫の仕方がいろいろある自作車レース。青い尾びれはダウンフォースを考えてのことかも!? 子どもってスゲーな!

大人は手芸から工作、電子工作に電子音楽、ロボットなど、実際にハンダごてを握らない人でも“メイカー魂”がある人なら一日楽しめる。注意すべき点は、工作(創作)意欲に火がついて、しばらくはムダ使いが続いてしまう点だろう(笑)。そして、スゴいのは、中学生ぐらいから出展者になってしまう点。ある程度技術が身につけば、工作好きに年齢は関係ない!

こちらはジャンプ競技! コレ、大人が本気でやったらスゴいことになりそう(笑)
こりゃ子どもたちも大喜びするはず! つーか、父母のアドバイスの本気具合がパネェ!

また楽しみ方も普通のイベントとは違うので注意が必要だ。なぜなら、ただ作品を見るだけなら、数時間もあればスグに見終わってしまって何も残らないイベントになる。真の楽しみ方は、メイカーとの会話。ワケわからんもの(9割はワケわからん)を見つけたら、「これはなんですか?」と聞くところから始まるのが楽しみ方。作品を見る以上に、作品を作った人の情熱を分けてもらえるのが、このイベントの醍醐味だ。

なお、国内では「Maker Faire Tokyo」は、毎年1回は開催されるので、主催のオライリージャパンのWebサイトをチェックするといいだろう。また、世界各国でも開催されているので、お金はかかるが「追っかけMake:」してみてもいい。メイカー魂があれば、言葉の壁はなんとかなる!

藤山 哲人