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冷凍は「長く保存できる」だけじゃない! 冷凍王子に美味しい冷凍のコツを聞いた

テレビや雑誌でも人気の「冷凍王子」こと冷凍生活アドバイザー西川剛史さんに、家庭でできる冷凍の基礎から応用テクニックまで聞いてみた

家庭では当たり前のように使われている「冷凍庫」。長期保存に欠かせない便利なアイテムだが、食材を冷凍すると味が落ちる……と冷凍にネガティブな印象を持つ人もいる。しかし「冷凍すると不味くなる」は、もしかしたら冷凍の方法が間違っているからかもしれない。

家で食事をする機会が増えたことにともない、スーパーでまとめ買いした食材を保存するニーズも高まっている。より大容量な冷凍冷蔵庫へ買い替えたい人や、最近話題の「セカンド冷凍庫」が気になる人もいるだろう。

そこで“冷凍王子”こと冷凍生活アドバイザーの西川剛史(にしかわ たかし)さんに、冷凍の基本的な考え方と、食材を美味しく冷凍する方法について聞いてみた。豊富な知識とノウハウで「冷凍に向かない食材はありません」と説明する西川さん。教えてもらったテクニックで、家の冷凍庫をもっと上手に活用してみてほしい。

冷凍食品メーカーへ商品開発のアドバイスなども行なっている西川剛史さんの、多岐にわたる冷凍の知識や使えるテクニックをまとめた著書「冷凍王子の冷凍大全(サンマーク出版)」が販売中

正しい冷凍なら長期保存も可能!? にもかかわらず1カ月で消費してほしい理由

そもそも食材はどれくらいの期間、冷凍保存できるのか? 西川さんによれば「環境にもよるけれど、美味しさのバランスを考えると1カ月くらいが目安」だという。

食材が日持ちしない理由は「腐る」からだが、これはつまり食材に菌が繁殖している状態のことだ。菌によって活動温度は変わるが、細菌の発育限界温度は約-10℃、酵母やカビ菌の発育限界温度は約-18℃といわれている。家庭用冷凍庫の温度はJIS規格により-18℃以下と決められているため、安定した温度下で冷凍できていれば、本来食材の保存期限はなんと「ない」とのこと。

阿部万寿雄「最近の冷凍食品の進歩と美味しさの秘密」
『冷凍』Vol.79 No.916 2004を元に編集部で作成

では、なぜ冷凍保存の目安は1カ月なのか? それは冷凍庫内の温度が安定しないのが理由だ。冷凍庫はドアを開けるたびに庫内温度が上がってしまう。さらに、冷蔵庫には温度を下げるための熱交換器が内蔵されているが、この熱交換器に付着した霜を解かすために一定時間ごとに専用ヒーターが稼働する。このヒーター稼働時にも冷凍庫内の温度は上がってしまうのが一般的だ。

水色のパーツが冷蔵庫内部の熱交換器。熱交換器両脇に白い霜が付き始めているのがわかる。この霜を下部にあるラジエントヒーターで解かすのが、いわゆる「霜取り運転」だ

庫内温度が上昇することで「食材が解けかけて、また凍る」というサイクルを繰り返すと、食材内部の水分が霜として食材の外側で凍り付く(食材に「霜が付く」状態。正確には食材の外側の空間に霜ができる)。つまり、時間とともに冷凍した食材はどんどん乾燥・酸化が進んでしまうのだ。西川さんは「冷凍食材は本来、かなり長期の保存にも耐えられるのですが、美味しく食べるなら1カ月くらいが目安」とのこと。

また、注意してほしいのが菌やカビは低温時に「発育限界」をむかえるだけということ。死滅するわけではないので、温度が上がれば再び活動を開始する。このため、冷凍している食材でも、霜や冷凍焼け、ニオイなどがおかしい場合は、解凍するときにしっかり加熱してから食べることをおすすめする。

覚えておきたい美味しい冷凍の基本ルールは3つ

冷凍食材は徐々に劣化するが、もちろん美味しさを長持ちさせる冷凍テクニックもある。数多い冷凍テクニックのなかでも、まず覚えてほしいのは以下3つのポイント。

1.早く冷凍する
劣化して美味しくなくなった食材は、当たり前だが冷凍しても美味しくない。このため、そもそも食材が劣化する前に冷凍することが重要。西川さんは「数日食べる予定がない食材なら、購入後に即冷凍処理するのがおススメ」だという。とくに冷凍までのスピードが美味しさに直結するのが「ご飯」。すぐ食べる分だけよけて置き、残りは炊き立てを冷凍すると美味しく保存できるそう。

ご飯を冷凍するときの例。空気をふくませるようにフンワリとよそうのがコツ

2.空気に触れさせない
冷凍庫内は乾燥しているので、乾燥防止のためには空気に触れさせないことが重要。基本は食材をラップで包んだ後、さらにジップ付きの冷凍保存袋にいれて冷凍する。

ラップで食材表面をピッタリと覆い、ジップ付き冷凍保存袋にいれる。このとき、保存袋内の空気もしっかり抜いて冷凍するのがポイント

3.素早く凍らせる
-1℃から-5℃までは、食材の水分が凍って氷結晶が大きくなりやすい温度帯。結晶が発生すると解凍したときに旨味が逃げやすいので、この温度帯は素早く通過させて冷凍させるのも美味しい冷凍の秘訣だ。素早く冷凍するには、大きな塊ではなく小分け冷凍したり、食材を薄くて平らな形に冷凍するのが効果的だ。薄い形状に冷凍すれば、使用したい分だけ割って解凍できるというメリットもある。

いちいち小分けするのが面倒なひき肉も、薄い板状に冷凍すれば必要な量だけ割って利用できる

この3つのポイントは食材の処理方法だが、冷凍食材を美味しくキープするには冷凍庫の使い方も重要だ。できるだけドアの開閉回数を減らし、ドアは短時間で閉めること。さらに、冷凍庫はできるだけすき間なく“ギュウギュウに食材を詰め込む”のもポイント。凍った食材が保冷剤の役割を果たし、ドア開閉時や霜取り運転時の庫内の温度変化を抑えてくれる。

冷蔵庫と違って、冷凍庫は食材をたくさん詰め込むのが正解。ドアの開閉時間を短くするため、冷凍庫内の食材がすぐわかるように整理することも大切

保存だけじゃない! 冷凍することでさらに美味しくなる冷凍応用術

基本があるということは、もちろん応用の冷凍方法もある。なかでも、西川さんのおススメが液体と一緒に冷凍する方法だ。

たとえば、アサリなどの貝類は殻ごと冷凍用のタッパーにいれ、かぶるくらいの水を入れて冷凍する。水が食材を完全にコーティングするので乾燥する心配がないうえ、貝類は冷凍することで繊維がやわらかくなりダシが出やすくなる。

アサリを水と一緒に冷凍。調理するときは氷ごと鍋に入れる

水のかわりに調味料と食材を冷凍する「下味冷凍」も便利だ。下味冷凍には多くのバリエーションがあるが、西川家でもよく作るというメニューが「肉とオリーブオイル+塩」というシンプルなもの。そのまま焼いても美味しいほか、しょうゆを加えるだけで照り焼きにもなる優秀なレシピだ。そのほか「肉と焼肉のタレ」、「野菜と市販のすし酢」という組み合わせもおススメだそう。

「下味冷凍は液体の調味料が食材をすき間なくコーティングするので、ラップよりも乾燥しにくいのがメリット。油分と糖分は食材を柔らかくしっとり仕上げる効果があるので、市販の焼肉のタレやすし酢を使ったレシピはとくに試してほしい冷凍テクニック」と解説する。

下味冷凍の一例。サーモンマリネ
きゅうりの塩もみ
キャロットラペ
牛肉まいたけ。火にかけるだけで調理が完了する下味調理は時短料理の味方

冷凍というと「食材を劣化させずに長期保存する」という、マイナスにならないための作業という印象がある。しかし、西川さんは「冷凍の特性を活かせば、冷凍したほうが美味しくなる食材もある」という。「とくに冷凍してみてほしいのがキノコ。冷凍したほうが旨味が増え、煮込み料理の味がワンランクアップします。また、個人的に気に入っているのが生卵の冷凍。黄身がモッチリした独特の食感になり、生卵そのままより濃厚な味を楽しめますよ」

冷凍した卵の黄身を醤油漬けに。おかずにも酒の肴にもなる一品に

逆に冷凍してはいけない食材について西川さんに尋ねると、なんと「ない」とのこと。「たとえば、こんにゃくはゴムみたいな食感になるから冷凍には向かないと言われていますが、じつは弾力の強い触感を活かして金平炒めにすると美味しいんです。食材によって最適な下処理の方法はありますが、食材の特性を知って冷凍することであらゆる食材が美味しく冷凍可能です」

今回紹介した冷凍の基本やテクニックに加え、もっと多くの食材ごとの冷凍保存法や調理例、気を付けたいポイントなどは、西川さんの著書「冷凍王子の冷凍大全」(サンマーク出版)で詳しく知ることができるので、チェックしてみるとよさそうだ。

今はやりのSDGsのひとつに「フードロスの削減」があるが、食材を美味しく冷凍し、残さず食べきることはまさに家庭でできるSDGsへの取り組み。今日からぜひ西川さんの冷凍テクニックを駆使して、食材を美味しく食べきってほしい。

倉本 春