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ダイキンの新しい空気清浄機は10倍スピード除菌! UVの利点と気になる安全性は?

UVストリーマ空気清浄機の商品企画を担当したダイキン工業 東京支社 空調営業本部 事業戦略室の長内美鶴氏とUVストリーマ空気清浄機「ACB50X-S」

ダイキンといえば空気質のプロフェッショナルである空調メーカー。しかも、水の補給なしで加湿できる「無給水加湿」や、放電により有害物質を分解して除菌と脱臭ができる「ストリーマ」など、技術力の高さでも広く知られている。

そんなダイキンが4月に発売したのが「UVストリーマ空気清浄機 ACB50X-S」。この空気清浄機の特徴は、名前にあるようにUV(紫外線)の照射ユニットを搭載したこと。とはいえストリーマ除菌も備える空気清浄機にUVユニットを採用したメリットはどこにあるのだろうか? そこでダイキン工業に従来製品との違いや新製品のメリットを聞いてみた。

ちなみにこの製品、小さなオフィスやクリニック、学習塾、ピアノ教室など、小空間用に開発された業務用製品だ。ただし、家電量販店でも普通に販売されており家庭用としても気軽に購入できる。業務用として開発されたからか、UVストリーマ空気清浄機は適用床面積22畳と小空間用の製品ながら、大手量販店では88,000円(6月4日時点)となかなか強気な価格だ。しかしダイキン工業によると、それでも現在想定したよりも好調な売れ行きであるという。

家庭はもちろん、小さなオフィスにも設置しやすいコンパクトサイズ。本体サイズは270×270×500mm(幅×奥行き×高さ)、本体重量は6.8kg。同社の家庭用フラッグシップ製品よりもかなり小さい

業界初265nm波長のUV光でフィルター表面の菌に素早く対処

フィルター式の空気清浄機は部屋の空気を吸い込み、フィルターにゴミや菌を吸着させることで空気の汚れを除去する。そして、キレイになった空気を部屋に放出することで部屋全体の空気を清浄していく。この仕組みからわかるように、空気清浄機で一番汚れやすい場所は空気の汚れを吸着したフィルター部だ。

そこで、新製品には高出力の深紫外線(UVC)を照射するLED「KLARAN」ユニットを搭載。フィルターに向かって除菌効果のあるUVCを照射することで、フィルター表面の菌やウイルスなどを強力に抑える。しかも、KLARANはDNAに吸収されやすい265nmという波長の光を採用。これにより一般的なUV除菌ライトよりも菌に対して短時間での抑制効果が見込めるそうだ。なお、265nmの深紫外線を照射する空気清浄機は業界初とのこと。

UVストリーマ空気清浄機に搭載されている、旭化成のグループ会社Crystal ISが製造する高出力深紫外線LED「KLARAN」。LEDタイプなのでランプ型と比較してコンパクトで寿命も長いなど、多くのメリットがある
下の数字はUVの波長、横の数字は吸光係数(菌などが光を吸収する量を示す定数)。265nm付近のUVがウイルスや細菌、カビに吸収されやすい光であることがわかる

UVCはすばやく強力に菌を抑制するが、デメリットもある。それは「光が当たる場所しか除菌できない」という点。一般的に、高性能なフィルターは複数の用途のフィルターを重ねて作られている。そのため、UVCが当たらない層もできてしまうのだ。

UVストリーマ空気清浄機で使われている「交換用抗菌HEPAフィルター」は、ホコリなどの比較的大きなゴミを除去する「粗塵フィルター」と、より小さな微粒子を吸着する「抗菌HEPAフィルター」を組み合わせたつくり。

KLARANは粗塵フィルターの表面に光を当てるため、UVCで除菌できるのは基本的に粗塵フィルター表面に付着した汚れだけ。そこで、UVCによる除菌とともに「抗菌フィルター」と「ストリーマ」を併用することで、フィルター全体をしっかりと除菌する。

長内氏によれば「UVユニットは粗塵フィルター表面に照射されるため、HEPAフィルターまで光は届きません」とのこと
UVCが当たるのは粗塵フィルター表面。UVCが当たらない部分は「抗菌フィルター」「ストリーマ」で除菌

「ストリーマ」「抗菌フィルター」「UVC」で従来比10倍のスピード除菌

では、「ストリーマ」「抗菌フィルター」「UVC」はそれぞれどのように作用するのか。まず、UVストリーマ空気清浄機に取り入れられた空気は粗塵フィルターを通過。ホコリなどの大きな汚れはこの粗塵フィルターに付着し、表面に付着した汚れはUVで素早く除菌される。

UVストリーマ空気清浄機用の交換用抗菌HEPAフィルター。フワフワと毛羽立っている部分が粗塵フィルター。粗塵フィルターの奥にある、折りたたまれた素材が抗菌HEPAフィルター

粗塵フィルターを通過した微粒子汚れは抗菌HEPAフィルターに吸着。UVストリーマ空気清浄機のHEPAフィルターには抗菌剤が添着されており、HEPAフィルターと接触している菌はこの除菌剤にて抑制される。ただし、UVCと除菌剤だけでフィルター全体の除菌ができるかといえば、答えはNOだ。というのも、ゴミによっては「フィルターに吸着したゴミ」の上にくっついてしまうからだ。こういった「フィルターに接していないゴミ」は除菌剤では除菌できない。

HEPAフィルターとは0.3µmの粒子を99.97%以上除去できる高性能フィルターのこと。より多くの微粒子を捕集できるよう、表面積を大きくするためにHEPAフィルターは蛇腹状に折りたたまれている

そこで、最後に登場するのがダイキンの空気清浄機ならではの「ストリーマ」技術。ストリーマとは、放電により有害物質を分解する「分解素」を生成する技術。この分解素が菌やカビなどに付着することで、菌の無力化や除臭などが可能となるそうだ。分解素は空気の流れに乗ってフィルターの隅々まで漂うため、粗塵フィルターの中はもちろん、HEPAフィルターの奥の菌にまでしっかりアプローチできるという。

放電で有害物質を分解する「分解素」を生成するストリーマ

「ストリーマで生成された分解素がフィルターの隅々まで除菌する」というと、抗菌剤やUVは特段必要ないように感じるかもしれない。しかし開発に携わった清野氏によると、複数の除菌技術を組み合わせることで「除菌スピード」が明確に変わるという。

第三者機関による試験では、UV照射機能も抗菌フィルターも搭載していない「ストリーマ空気清浄機 MC55X」は99%除菌するのに約5時間かかったが、ストリーマ/除菌フィルター/UV照射機能を搭載した新製品の「UVストリーマ空気清浄機 ACB50X-S」は、同じ条件下で、約30分で99%の除菌をした。つまり、ストリーマ以外にUVと除菌フィルターを採用することで、除菌スピードが従来製品の約10倍にもスピードアップしている。

製品開発に関わった空調生産本部 住宅用空気商品グループの梅村太志氏(写真左)と清野竜二氏(写真右)
第三者機関の試験で、UV照射機能と抗菌フィルターを持たない製品では約5時間かかる除菌を、UVストリーマ空気清浄機では約30分で行なったという

UVストリーマ空気清浄機は、「UV清浄パトロール運転」で90分に1回30分間UVCを照射。このほか「UV清浄」ボタンを押すことで任意のタイミングでの除菌も行なえる。商品企画をした長内氏は「とくに不特定多数の人が出入りする空間においては、人の入れ替わるタイミングでUV除菌することで、次に入室する人に安心感を与えられる」と語る。また、フィルター交換前にUV除菌をすると、安心してフィルター交換ができるのもメリットのひとつだという。

交換用抗菌HEPAフィルターの交換目安は約1年。フィルターを交換する30分前に「UV清浄」を行なうのがオススメだそう

UV除菌で気になる安全性は?

強力なUV除菌力の製品で気になるのは安全性だ。とくに子供がいる家庭では「UV照射時に子供が本体を触った場合、UVが目や皮膚に当たって危なくないのか?」と心配な人もいるだろう。これに対して清野氏は「空気清浄機の国際基準よりも安全性はかなり高い」と回答。国際電気標準会議(IEC)における空気清浄機の安全基準は「機体から30cm離れた位置のUVが0.3µW/cm2以下」。少々ならばUVの光が漏れても安全とされている。しかし、UVストリーマ空気清浄機はUVの光が機体から一切漏れ出ないよう吹き出し口やメンテナンス用の扉が設計されている。

まず、光が漏れる可能性があるのは空気の吹き出し口。UVストリーマ空気清浄機は吹出グリルの角度や幅を調整することで、どの角度から見ても光が一切漏れ出ないように設計したという。さらに、風通りのよさも両立させた。また、フィルター交換時はメンテナンス扉を開く必要があるが、扉のロック解除ボタンを押した段階でUVユニットへの出力を遮断する。このため、扉を引き出すタイミングでは確実にUV出力が停止された状態になる。

吹出グリルの羽根は、中央に向かって風が出る形状
メンテナンス口はロック解除ボタンを押しながらでないと開かない

これからの空気清浄機はフィルター除菌性能にも注目?

フィルター式の空気清浄機は、その仕組みを考えれば「フィルター部が一番汚れている」ことは誰にでも想像できる。しかし、これまで除菌フィルターを搭載した製品はあったものの、そこまで強く「フィルターの除菌」が注目されることはなかったように思う。

ところが、昨年からのコロナ禍のためか、最近は「捕集した菌がフィルター上で繁殖しないか」などの不安が聞かれる。そんな声を受けてか、スウェーデンの空気清浄機メーカーであるブルーエアは昨年2020年12月に空気清浄機「Blueair Protect」を発売。この製品は、イオンと送風によりフィルター上の菌を不活性化する「GermShield」機能を搭載して話題となった。

今回取材したダイキンは、ストリーマ技術により従来からフィルターの菌抑制機能は実装していたが、今回のUVユニット搭載によりフィルターを素早く除菌するスピードを手に入れた。空気清浄機業界で注目される2つのメーカーが「フィルターの除菌」に力を入れたことで、今後の高機能空気清浄機は、各メーカーがフィルター除菌能力の性能でもしのぎを削る可能性がでてきた。

倉本 春