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同じエアコン温度設定でも全然違う「高断熱の家」体験した
2024年8月23日 11:08
冷暖房の効率が上がり、省エネな暮らしを実現できる高断熱住宅。LIXILによると、日本国内の既存住宅約5,000万戸のうち、現行の省エネ基準を満たしている住宅はわずか13%で、残りの87%は「夏は暑く冬は寒い、断熱性能の乏しい住宅のまま」だとしている。
では実際に断熱性能を高めると、体感や電気料金はどのように変わるのだろうか。LIXILの体験型ショールーム「住まいStudio」で、断熱等級の異なる3部屋を比べることができたので紹介したい。住まいStudioは東京と大阪の2カ所にあり、予約することで見学ができる。
真冬のトイレも寒くない
住まいStudioでは、断熱等級2(昭和55年基準)の「昔の家」、等級4(平成28年基準)の「今の家」、等級6(HEAT20 G2水準)の「これからの家」の3パターンを体験できる。
いずれも大きな冷蔵庫のような設備内に設置され、外気温0℃の環境を再現している。エアコン暖房の設定温度は20℃に統一されているため、同じ条件で断熱性能の違いを単純比較できるようになっている。
まずは「昔の家」から。入った瞬間に「え、本当に暖房効いてる?」と思ったほど寒い。エアコンの風が当たる部分以外では暖かさを感じられなかった。特に足元が冷えており、スリッパを履いていてもひんやりとする。とてもではないが裸足では過ごせないだろう。
エアコンをつけていない廊下に移動すると、もはや家の中とは思えない。換気扇のあるトイレに入るとより寒さが増した。これではトイレに行くのが億劫になりそうだし、実際に実家ではそうだった人もいるのではないだろうか。
次に入った「今の家」はその名の通りで、現在筆者が住んでいる家と変わりないように感じた。それなりに暖かいが、床付近は冷える。廊下やトイレも昔の家ほどではないが、やはり寒い。
そして最後に入った「これからの家」では、明らかにこれまでとは異なり、部屋全体がぽかぽかしていた。サーモカメラで3部屋を比べてみると一目瞭然で、昔の家と今の家は温度が低い青~緑の部分が大半だったのに対し、これからの家では全体的にムラなく黄色に映っていた。
これからの家では熱交換換気システムを採用しており、排気時の熱を回収し、外の空気を部屋の温度に近付けて取り込むという。そのため給気口付近も温度が下がりにくい。
廊下は暖かいとまではいえないが、リビングから移動したときの「空気のひんやり」を感じなかった。実際の温度は暖房中のリビングの中央で24.6℃、暖房をつけていないトイレで20.5℃だった。昔の家との差は歴然で、これならトイレで寒さに震えることもなさそうだ。
冬場は寒暖差による急激な血圧変動で心筋梗塞や脳卒中などが引き起こされるヒートショックが心配だが、住まいStudioと慶應義塾大学 伊香賀研究室・満倉研究室との共同実験では、暖房室から非暖房室に移動した際の血圧上昇量について、昔の家よりもこれからの家の方が少ないという結果が明らかになっている。
LIXILは、断熱性能を向上するために一番優先して取り掛かるべき部分は窓だとしている。外壁や屋根と比べて、開口部が最も熱の出入りが多いからだ。開口部、すなわち窓やドアの断熱性能を高めることで、冬は室内の熱が外に逃げにくく、夏は外の熱が室内に入り込みにくくなるという。
実際に、アルミサッシで単板(1枚)ガラスを取り付けていた昔の家は窓の室内側の表面温度が10.6℃だった。今の家は外側がアルミ、内側が樹脂のハイブリッドサッシ、ガラス2枚のペアガラスを使用し、表面温度は17.6℃。これからの家ではペアガラスのあいだにアルゴンガスを注入し、より断熱性能を高めているため、表面温度は19.3℃となっていた。
暖房費を比較すると、12月1日~3月31日までの4カ月で昔の家が28,000円、今の家が13,000円。これからの家は7,000円と、昔の家の1/4となっている。
窓の断熱は壁などと比べて手軽に施工できるのも特徴だ。一例として、今ある窓の室内側にもう1枚窓を取り付ける内窓式の「インプラス」では、1窓につき1時間で施工できるという。さらに現在、窓断熱のリフォームやリノベーションに対して補助金を給付する「先進的窓リノベ2024事業」が環境省により実施されているため、導入しやすくなっている。
夏も涼しい高断熱住宅
これまで冬でも暖かいことを強調してきたが、高断熱住宅は夏にもメリットがある。LIXIL 住まいStudio東京の館長・古溝洋明さんによると、熱は高い方から低い方へ移動する特性があるため、例えば外気温が35℃、室温が28℃の場合は外から熱が入ってこようとするが、断熱性能が高ければ入ってきづらいという。
ただし、高断熱住宅は熱がこもりやすいのも特徴だ。そのため、日射などで熱が室内に入ってこないようにする対策も重要としている。同社製品ではすだれのように設置して日射を遮る「スタイルシェード」を展開している。
さらにエアコンの冷房効率を高めることも有効となる。東京電力エナジーパートナーの中村剛さんによると「エアコンの活用にサーキュレーターはもはや必須」。サーキュレーターを使って室内の空気を循環させることで、効率よく部屋を涼しくできるという。
DCモーターを採用しているサーキュレーターは、1時間の電気代が約0.6円。1カ月間、24時間つけっぱなしにしていても500円に満たないため、エアコンとセットで使用することをすすめている。
WHO(世界保健機構)では、冬の住宅の最低室内温度として18℃以上を勧告している。しかし、日本で2025年より適合義務化(新築時の義務化)されるのは、「今の家」と同等である断熱等級4。住まいStudioの今の家ではトイレの室温が11.8℃と、18℃には及ばない。
古溝さんは「日本の住宅の断熱化は遅れているのが実態。新築の家は当然だが、既存の家もリフォームで『これからの家』に近付けられるように、そのような製品を求めやすい価格で提供できるようにがんばりたい」とコメントしている。