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同じサイズの冷蔵庫なのにカゴ1個分も広い! 三菱のスゴイ技術を静岡で見た

三菱電機の冷蔵庫2022年モデル

ここ数年で冷蔵庫各メーカーの動きが活発だ。日立は、長年採用してきた「真空チルド」を搭載しないモデルを2019年に発売。この真空チルドはハイエンド機に残るのみとなった。一方で、リビングなどに置ける豊富なカラー展開の小型モデルが注目されている。

パナソニックは冷蔵庫の見える化を打ち出しており、卵やジュース置き場の下に重さセンサーを置き、出先からスマホで残量を確認できる。また、お弁当の“あら熱”を急速冷却する機能も搭載している。

旧三洋で中国資本が入っているAQUA(アクア)は、冷蔵室の底をガラス張りにして、野菜室を開けなくてもストックが確認でき、かつ霜がほとんど付かない冷凍庫を展開している。

2022年にはアイリスオーヤマと日立から「カメラ付き冷蔵庫」が登場。カメラで庫内を撮影しスマホで出先からストックを確認できると話題になった。

そんな中でも、わが道を行くのが東芝と三菱だ。東芝は「野菜の持ちがいい」冷蔵庫を前面に売り出し続けている。

三菱の新モデルは2021年モデルに比べ、スーパーの買い物カゴ1個分の容量アップを実現した

三菱は2022年の冷蔵庫として、ほとんど見た目が変わっていないものの中身は革命的な新ラインナップを発表。設置サイズは2021年モデルのままで「スーパーの買い物カゴ1個分の容量増加」を成し遂げたというのだ。

また、生産拠点を海外にシフトするメーカーもある中、創業以来60年以上も冷蔵庫とエアコンの生産拠点として稼働しているのが静岡県静岡市にある三菱電機 静岡製作所。なぜMade in Japanにこだわるのか? そして容量を増加できた秘密を探ってきた。

三菱こだわりの静岡産「冷蔵庫」&「エアコン」

三菱がこの地に工場を構えたのは1954年(昭和29年)。静岡駅から海に向かった南東にひときわ大きな工場がある。ちなみに数km圏内には弥生時代の遺跡として有名な登呂遺跡、そしてサウナーの聖地といわれる「サウナしきじ」もある。

氷式ではなく電気式の冷蔵庫。一番左は据え置き型エアコン
業務用~家庭用エアコンの生産も静岡製作所で行なわれている

ここ静岡製作所は、創業当初から現在に至るまで冷蔵庫とエアコンの主力工場になっている。多くのメーカーはいち早くエアコンの主力工場を海外に移し、最近では冷蔵庫も海外生産にシフトしつつある。冷蔵庫は海外で生産してコンテナで輸送すると、大きい割に中身はほとんど空気(空洞)なので、最後まで多くのメーカーが国産で賄っていた。つまり冷蔵庫に限っては海外の安い人件費で生産しても、国内への輸送費が高くつくため国産にしていたという事情があった。

静岡製作所内にある冷蔵庫の生産ラインを取材してきた

しかし三菱が静岡製作所で国産するのはコストの問題ではないという。その理由は「品質」そして「開発から生産まで一貫して行なえる」点だという。見た目こそエアコンと冷蔵庫はまったく異なるが、どちらも「空気を冷やす機械」であり共通部品も多く、技術やノウハウなども共通する部分が多い。そのためスケールメリットや部品の輸送コストなどが削減できる点にあるだろう。歴史にIFはないというが、もし創業当時にエアコンと冷蔵庫の工場が別の地にあったら、とっくの昔に海外生産にシフトしていただろう。

同工場内には研究/設計/開発部門のビルがあり、さらに心臓部となるコンプレッサーや熱交換器などの部品も熟練の職人さんと、自動化されたラインで効率良く生産しているようだ。

人と機械によるミックス生産

今回は冷蔵庫の生産ラインを見てきたが、ここにも三菱ならではの工夫があった。一般的な製造ラインは「同じ製品」をコンベアに流して「沢山の人」で「少しずつ」作る「ライン生産」という方式を取る。多品種少量を作る場合は、一人が同じ製品を全部作る「セル生産」が中心だ。

しかし三菱の冷蔵庫のラインは「ミックス」方式。ライン生産が基本だが「違う製品」がラインに流れてくるのだ。

カラーはもちろん両開きモデル、片開きモデル、大容量タイプなどいろいろなモデルが流れているライン

そこで問題になるのが部品だ。多様なモデルが同じラインに流れてくると、棚やドアポケットなど、ただでさえ似ている部品が多い冷蔵庫。部品の取り違えなど起こらないのか? と思いきや本体のラインと同じ速度で動く、部品棚ラインが併走しているのだ。

本体のラインに併走する部品棚ライン。同じ速度で移動するので、常に本体と部品が一致している。自動車工場と同じ生産方式だ
一般的な工場にある部品をストックするコンテナや、部品を供給する自動搬送機、搬送担当者がほとんどいない。振り返って部品を取り、本体に取り付けていく

実はここにも作業効率を良くする仕掛けがある。写真は冷蔵庫のドア側から見た組み立てだが、裏側では心臓部のコンプレッサーや回路を組み込んでいる。つまり、1台の冷蔵庫をオモテとウラから同時に組み立てているのだ。

ちょっと見る角度を変えると、ウラからコンプレッサーなどの部品を組み立てている

さらにラインの途中に見られる不思議な階段。これは高所の組み立てを行なう工程だ。逆に冷蔵庫の底部を組み立てる場合は床が少し掘り下げられている。こうして作業姿勢に負担がかからないようになっているのだ。

据付寸法はそのままで2021年モデルに比べ容量が30L以上増えた秘密

2021年モデルと2022年モデルを並べても、一見しただけでは差がないように見える。しかし、据付寸法はまったく同じなのに、冷蔵庫の中に入れられる容量がスーパーの買い物カゴ1つ(33L)も増えている。

左が2021年モデル、右が2022年モデル。それほど容量が増えているとは思えないが、その容量差は買い物カゴ1つ分もあるという

その秘密のひとつが、「氷点下ストッカー」の横にあった製氷用水タンクの移動。この水タンクがどこに行ったのかというと、冷蔵室の底面に埋め込まれている。タンクの容量が小さくなったのかと思ったが、実は以前のモデルとまったく同じなのには驚いた。

2021年モデルは氷点下ストッカー室の左側に水タンクがあった
2022年モデルから冷蔵室の底に埋め込む方式に変更。氷点下ストッカーが拡大された
2021年モデルの水タンクを2022年モデルのタンクに移すとまったく同容量!

実は三菱には昔も底埋め込み式があったのだが、製氷皿が洗えないということでチルド室横に戻された。しかし2022年モデルではタンク形状と位置、製氷器を工夫して、製氷皿が取り出して洗えるようになっている。

さらに冷蔵室上部の角が2021年モデルは石釜のように丸くなっていたものが、2022年モデルでは直角に近くなり、デッドスペースがなくなり容量を増加している。

2021年モデルは、角の横上部が徐々に膨らんでいる
2022年モデルは、角が直角に近くなった
写真では分かりづらいが天井部分もカーブがなくなっている

これだけでは到底、カゴ1個分の容量アップは難しい。実は2022年モデルは、見えないところでシェイプアップしているのだ。それが新たに改良された断熱材だ。

冷蔵庫の主要各所には真空断熱材という銀色の板が入っている。これは断熱材のグラスウールをレトルトパウチのように真空パックしたものだ。ここ10年ほどで真空断熱材の効果はそのままに、劇的に薄く進化している。ただこの断熱材は曲げなどの加工が難しい(2022年モデルから底部だけは曲げ加工した真空断熱材を利用)ため、隙間には発泡ウレタンを充填している。

手前の大きな銀色のパネル(「持ってみて!」のシール)が真空断熱材。冷蔵庫の各面に加え、冷凍室と冷蔵室といった部屋間もこれで仕切られている
各所に挟み込まれた真空断熱材と黄色い発泡ウレタン

三菱の発泡ウレタンは改良に改良を重ねて、2011年以前は真空断熱材+発泡ウレタンで45.5mm必要だったところを2012年モデルから29.5mmとおよそ65%まで薄型化した。そして今年2022年モデルではさらに改良し、26.5mmと11年モデル比で58%に薄くなっている。実は海外製の冷蔵庫は未だに5cm近くある断熱材を使っているものがあり、ドアを開けたときに妙に分厚い左右の側壁に気づくはず。

左は2011年以前の断熱材(真空断熱材+発泡ウレタン)、中央は2012年モデルの断熱材、右側が2022年の最新断熱材。10年でサイズが半分近くになった

薄くできた秘密は発泡ウレタン液の改良だ。元々液体状の発泡ウレタンだが、冷蔵庫に注入すると直後から発泡し始める。だから広い範囲に奥まで行き渡らせるのは難しい。しかも発泡ウレタンは発泡スチロールよりも硬く、断熱材であると同時に補強材でもある。そのため隙間ができると強度的にも問題が出てしまうのだ。

注入するそばから発泡して膨らむ発泡ウレタンは、複雑な形状や奥まった部分まで行き渡らせるのが難しい

三菱独自の発泡ウレタンは、注入時は液体のままで、時間(と温度)が経過すると発泡する。だから複雑で薄い隙間でも隅々まで液体のまま発泡ウレタンを行き渡らせ、タイミングを見計らって発泡開始させるのだ。それには製造上で緻密な温度管理が必要(企業秘密なので、その工程は見られなかった!)なため、液剤だけを持っていてもダメで、専用の製造ラインも必要になる。これが三菱の静岡製作所の強みなのだ。

こうして断熱性能を保ちながら、見えないところの断熱材を薄くして、全体として買い物カゴ1個分の容量を増加させている
2008年モデルと比べると87Lの容量増加! 65cm幅でこれだけ容量が違うってのはマジ魔法レベル!?

結果として見た目はほとんど変わらないのに、買い物カゴ1個分の33Lも容量を増加できたというわけ。ちなみに2008年モデルと比較すると87Lも容量を増加。これは海外旅行に持っていくスーツケースとほぼ同じ容量だ。

最新の2022年モデルの幅65cmモデルの容量は、冷蔵/冷凍全て合計して547L(真ん中冷凍室のMR-WZ55H)。これは驚異的に大容量といってもいいほどだ。興味があれば他社の65cmモデルの容量を調べて欲しい。最新モデルでもだいたい500L程度(編集部注:日立の新モデルの一部は540L)だ。容量の目安は一人100Lなので、三菱の冷蔵庫だと65cm幅のMR-WZ55H(中段冷凍庫)やMR-MZ54H(中段野菜室)なら5人家族でも余裕がある。

切れちゃう微冷凍で肉が長持ち、LEDで野菜長持ち

単純ながら便利になったのは、フレッシュゾーンのワイドチルドと氷点下ストッカーの区別をするアイコン表示。ワイドチルドは食品を0℃で保存しているのでハムやソーセージ、冷蔵室の小物入れとしても使える。一方茶色の氷点下ストッカーは肉や魚を氷点下3℃~0℃でも凍らせず過冷却状態をキープして保存する引き出し。名前だけでは、どっちがどっちだか分からなくなることがあるので、今回のように引き出しにアイコン表示されるようになってとても便利に使える。

ハム/ソーセージのアイコンが表示されているワイドチルド
肉/魚のアイコンは、凍らせずに生のまま保存する氷点下ストッカー

「切れちゃう瞬冷凍」は、-7℃で凍らせるものの、カチコチにならず、サクッと切れるという独自の冷凍技術。買ってきたパックのひき肉を入れておけば包丁でサクサク切れる。薄切り肉でチンジャオロースー用の細切り肉を作るのにも便利だ。

ひき肉をパックごと入れておけば、サクサクと包丁で切れる
-7℃に過冷却した水を器に注いで衝撃を与えると、瞬間的に「氷」になる。この温度が「切れちゃう瞬冷凍」に採用されている

さらに野菜室(中段モデルと下段モデルのどちらかを選べる)には、カラーLEDが仕込まれていて、真っ暗な野菜室で昼と夜の擬似環境を作り鮮度を長持ちさせる工夫も。他にも冷蔵室に大きな鍋を入れるために半分だけ高さを変えられたり、冷凍室の引き出しが2段になるなど細かい改良が加えられている。

野菜室の奥についているカラーLEDは野菜室内に人工の昼夜を作って野菜を長持ちさせる
右の赤い鍋の部分だけ高さを変えたり、たまごストッカーを冷蔵室にも置けるが、ドア側に移動することも
冷凍室は通常1段の引き出しのところを細かいものがストックできるように引き出し2段にしている

三菱の6ドア/5ドア冷蔵庫は全てMade in 静岡。高品質&大容量

冷蔵庫メーカー各社は、「据付サイズそのままで容量アップ」を謳っている。そうした中でも三菱は1954年の静岡製作所の創業以来、冷蔵庫とエアコンを今日まで設計/開発/製造しているので、そのノウハウがハンパないのだ。

独自のミックスラインを持ち、独自の発泡ウレタンとその製造工程を持っているからこそ、昨年モデル比で買い物カゴ1個の33Lという大増量が可能になった。

しかも冷蔵庫は全て(小型冷蔵庫を除き)静岡産の日本品質。いまどき日本品質にこだわる家電は数少ないが、冷蔵庫の断熱材をいかに薄くするかは「日本のお家芸」といったところ。静岡県の名産品として、三菱の冷蔵庫とエアコンを加えておきたいほどだ。