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月額2,980円だけで電気代無料の一戸建て!? 「フリエネ」を見てきた
2020年12月24日 07:30
昨年の記事で、このままでは人口減少でやがて自治体が消滅するという多治見市で始まった取り組み「働こCAR」を紹介した。詳細はそちらを参照いただきたいが、簡単に説明すると、電気自動車と太陽光発電の屋根を持つカーポートをセットにして電気自動車を無償提供するもの。昼間会社のカーポートに止めておき、充電が完了したら、余剰電力を売電できる。また電力需要が逼迫した場合は、車のバッテリーから電気を取り出して売電するという面白い内容だ。
その多治見から、電力に関する興味深い取り組みがはじまった。その名は「フリエネ」(フリーエネルギーハウス)。月額2,980円の管理費を払うと、20年間電気が「タダ」(年間7,200kWhの上限あり。超過分は1kWhあたり25円で清算可能)という、建売一戸建て住宅だ。
屋根には太陽光発電パネルとパワーコンディショナー、HEMS(太陽光パネルや蓄電池、電力売買のコントローラー)などの装置に加え、蓄電池などZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス。自宅で使う電力は自宅で発電/蓄電できる家のこと。高断熱住宅とのセットで扱われる)用の機器が無償で提供されるとのこと。
こんな夢のような話が本当にあるのか? 半信半疑ながらも、岐阜県多治見市まで取材に行ってきた。
“電気代無料”の家、間取りや設備は?
フリーエネルギーハウスとはいっても、外見は普通の一戸建て。木造2階建てだが、高気密断熱住宅で地震に強いパナソニックのテクノストラクチャーの家は、本震のあとの強い余震が来てもフレームがゆがまず躯体を支える。
屋根には太陽光パネルを備え、家庭では使いきれなかった電力をためておく蓄電池、そして電気を受送電するためのHEMS、そして安い夜間電力でお湯を沸かすエコキュートなどを備えている。省エネ住宅に詳しい方には、ZEH(ゼッチ)といった方が通りやすいかもしれない。
さらに室内の電灯はすべてLED化され、キッチンも3つ口のIHコンロでオール電化住宅だ。オープンキッチンで明るく使いやすそうな17畳のLDKとなっている。
建坪は33坪(約110m2)で、駐車場は2台。1階には乾燥機付きのお風呂場とトイレもあり、人気のウォークインクローゼットも備える。ここはキッチン用のパントリーとしても使えそうな空間だ。
2階には10畳の子供部屋があり、ドアも2つ備えているので子どもが大きくなったら、2つの部屋に分割して使えるように、クローゼットも2セットある。
さらに7畳の寝室があり、ここにもウォークインクローゼット。ダブルベッドを入れても、まだまだ余裕があるので、あとからクローゼットを買い足して生活スタイルに合わせることもできそうだ。
多治見という場所からするとコンパクトな家に見えるかもしれないが、首都圏なら十分に広い。夫婦+子供2人の4人家族が暮らせそうだ。
また外構部には、今どきでは必須の宅配ボックスも完備。共働きだとしても、確実に荷物が受け取れる。
さて、ここまで見るとお分かりかも知れないが、実はこの住宅すべてパナソニックでまとめられている。家自体もパナソニックのテクノストラクチャーの躯体で、電化製品も照明もすべてパナソニック製。もちろん太陽光パネルやエコキュート、分電盤などもパナソニック製だ。
フリエネを推進するエネファントは、パナソニックの特約店の中でも「エキスパート工事店」の称号を持っており、東海地方でいちばん同社の製品に明るい施工のプロフェッショナルなのだ。パナソニックとしても面白い試みということで、技術やアドバイザーとしてエネファントと協力しているが、あくまでも「部材の納入業者」であるということだった。
これは筆者の考えだが、AV機器と一緒でメーカーをそろえると何かと都合よく、リンクもカンタンで施工にも慣れているというメリットが大きいのではないだろうか。
エネファントが直に関わっていないところは、家自体の施工。こちらは地元のホームビルダー「愛岐木材住宅」が設計と建設を行なっている。
後述する「フリエネ」のカラクリで重要になるのは、地元多治見のエキスパート工事店の「エネファント」と、やはり地元のホームビルダー「愛岐木材住宅」が協力して、電気代が無料の一戸建て住宅が実現しているという点だ。
「フリエネ」が電気代0円の理由は?
月額2,980円の管理費さえ払えば、電気代がタダという「フリエネ」。しかも太陽光パネルや蓄電池、エコキュートなどの設備費445万円が実質無料という夢のような話。ちょっとおいし過ぎる!
筆者のように「なぜそんなことができるのか?」「怪しいのでは?」と思う方も多いはずだ。しかしその仕組みを聞いて納得した。
建売一戸建てのフリエネに住むと、昼間は太陽光発電で発電し、エコキュートを使ってお湯を沸かし、蓄電池に電気を貯める。それでも余剰電力が出た場合は、それを売電することで、エネファントの収入となる。さらにエネファントに毎月支払われる管理費2,980円も同社の収入。加えて住宅を建てるためには、地域の工務店が絶対に必要になるため、その広告収入をエネファントが得るというワケだ。
一方で同社の支出として、設備費や太陽光発電できない悪天候が続いた日は、外部の電力会社から電気を買電し世帯に電力を供給するコストがかかる。また機器の故障や老朽化などによるメンテナンスも無償なので、これもエネファントの経費だ。これらを20年間の累計収支で見て、エネファントの収入である管理費+余剰電力の売電収益+工務店の広告収入が、買電コスト+初期コストより上回るという計算なのだ。なお、20年以降の契約更新は、1年ごとに行なわれるという。
しかし、それだけではなかなか収支を調整するのは難しい。それは電気の売買は、時間帯によって価格が変動し、季節や曜日、時間帯や天気、果ては大きなイベントなどによっても需要と供給のバランスが刻々と変化するからだ。電力会社はこれらの要素を参考にして、30分ごとに電力を売買している。
つまりそこには、とてもシビアな売買のノウハウやタイミングがある。そこでエネファントは、設備をすべてネットワークに接続し、各家庭の発電状況や電力の使用状況、蓄電池の状態やエコキュートの状態を把握しつつ、なるべく高く売電し、なるべく安く買電して利益を出すように「最適化」しているのが強み。
エネファントは先にも少し紹介したとおり、太陽光発電の施工では東海ナンバーワンの実績を持つ会社。それゆえ発電効率をはじめとするたくさんの実績データを持っている。しかもパナソニックのエキスパート工事店なので、機器の組み合わせなどのノウハウに加え、機器のクセも熟知。さらにはカーポートの屋根に太陽光パネルを取り付け、電気自動車に蓄電しつつ余剰電力を売電する「働こCAR」という取り組みも行なっている。そのため多治見における太陽光発電のスペシャリストであり、既に電力売買に関するノウハウが蓄積されている会社なのだ。
大手の電力会社が参入しようにも、採算ベースに乗せるために多くの一戸建てが必要で事業化は難しい。小さな電気工務店では、導入実績とデータが足りず、また電力売買のノウハウがなく参入が難しい。小さな電力会社では、施工が他の工務店任せになってしまうので、これまた事業しづらい。
つまり多治見に根付く太陽光発電の施工と、電力売買のノウハウを併せ持つエネファントだからこそ、できるのがフリエネ。月額2,980円の管理費だけで、電気代がタダになる一戸建て住宅を提供できるのだ。
まだまだ多治見で実験段階だが、全国への展開も可能
2040年まで自治体として存続できなくなる「消滅可能性都市」として名前が挙がってしまった岐阜県多治見市。しかし長年、地元の数々の電気工事を行ない、エネファントという太陽光発電を中心とした電力を「創る」会社を設立。さらに創った電力を地産池消するために電力を「配る」多治見電力が設立された。
エネファントの磯崎社長が取り組むのは、「町のエネルギーOSを作り、地産地消する」こと。さらに長年お世話になった多治見市や、そこに住む人々に恩返しをしたいという思いから、消滅可能性都市を返上するために、「日本一電気代の安い街にする」ことを、フリーエネルギーハウスの目標として掲げる。結果、人が集まり、地域が活性化することを目指すという。
一戸一戸は小さくても、日照条件が良い多治見市なら多くのフリエネが集まることで、日中多くの電力を発電できる。家庭用の電力や温水を蓄えた上で、余剰電力を近隣の工場などで使えば、ZEHを拡大した“ゼロエネルギーCITY”ができるかも知れない。
この「フリエネ」の記者発表には、多治見市長や市議会議員も登壇し、市としてもバックアップしていくとのことだ。