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“消滅可能性都市”からの脱却! 月19,800円でマイカーのように使える「多治見で働こCAR」とは
2019年10月16日 06:05
みなさんは「消滅可能性都市」をご存知だろうか?
都市への人口流出や少子化が進み、存続できなくなる可能性のある自治体。それが「消滅可能性都市」だ。正しい定義は「2010年から2040年にかけて、20~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村」。つまり若者が大都市に出てしまい過疎化するのに加え、若い女性が5割以下に減ってしまうと、少子化に歯止めが利かなくなり、急速な人口減少により自治体が破綻する可能性が高い都市ということだ。
参議院や国土交通省などもこれを重く見て、打開策を模索している。たとえば国交省の資料によれば、調査を行なった国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口推計」から、次のように見ている。
「全国の市区町村1799のうち896が消滅の可能性あり」としている。中でも特に消滅の可能性が高いとされているのが523自治体だ。
おそらく読者の大半は「地方都市の話でしょ」と対岸の火事だろう。しかし次のグラフを見ると、身近でも消滅するかも知れない自治体がかなりあるのだ。
関東近辺で消滅可能都市とされてる大きな街(町や村は割愛)は、以下の通りだ。
東京都:豊島区
神奈川県:三浦市
栃木県:那須烏山市、日光市
群馬県:渋川市、桐生市、安中市、沼田市
埼玉県:幸手市、行田市、北本市、三郷市、飯能市、秩父市
茨城県:常陸太田市、稲敷市、常陸大宮市、高萩市、桜川市、行方市、北茨城市、石岡市、日立市、筑西市、潮来市、笠間市
千葉県:銚子市、山武市、富津市、南房総市、匝瑳市、香取市、八街市、勝浦市、東金市、いすみ市、君津市、千葉市花見川区、館山市
自分の住んでいる街が気になる方は、「日本創成会議」のホームページにある「日本創成会議・人口減少問題検討分科会 提言“ストップ少子化・地方元気戦略”記者会見」からExcelファイルをダウンロードして、検索してみるといいだろう。
人口減少に歯止めをかけたい多治見市発、月額19,800円の「多治見で働こCAR」
さて前置きが長くなってしまったが、焼き物で有名な岐阜県多治見市もまた「消滅可能都市」とされ、若い世代の流出に頭を悩ませる地方自治体のひとつだ。
そこに立ち上がったのが、地元に根付く電気工事店。電気の地産地消を目標に掲げる電気工事店だが、地元多治見の人口減少に歯止めをかけたいと打ち出したのが「多治見で働こCAR」だ。
多治見の自治体ではなく、一企業が地元愛から立ち上げた。その会社こそ、住宅用太陽光発電の工事などで東海地区の販売実ナンバーワンを誇る「株式会社エネファント」だ。
多治見は名古屋へのアクセスはいいものの、県内の移動はとたんに不便になる。JRは東海道線や中央線などの主要幹線を除けば、いまだにディーゼルカーが主力。岐阜市に出ようとなると、汽車にゆられて約1時間ほど掛かる。
そのため必然的に移動手段は車となる。しかもエネファントによれば、多治見で生活するにはひとり1台必要だと言う。
ところが若い世代の給料は、大卒新入社員(多治見市職員の場合)で178,200円。この中から車の維持費を捻出しようとすると、給料の半分もかかる(車の購入費や税金、ガソリン代や高速代、車検代なども含まれる)。
そこで地元に根をおろすエネファントは、多治見市内の協賛企業に勤めると、月額19,800円でマイカーが持てるという「多治見で働こCAR」というサービスを展開し始めた。これには車のレンタル費に加え、もろもろの諸経費、税金に車検代までの一切が含まれる。
会社への通勤に使うのはもちろん、いくらでも私用に使ってもいいというのだ。しかも燃料代と言える電気代もうまくやればタダ! 今一番安いレンタカーでも24時間3,000円はするので、それを30日借りたとして9万円だ。どれだけ安いかがわかるだろう。
手に入る車は1世代前の日産リーフ。もう1万円追加すると、現行モデルのリーフにアップグレードできるオプションもある。形式上はレンタカーとなるが、事実上マイカーとなんら変わらないのが魅力だ。
でも多治見の人口減少に歯止めをかけるという観点から、いくつか条件がある。
・18歳~29歳であること
・多治見市内の「多治見で働こCAR」の協賛企業に就職していること
・協賛企業にある充電器の使用量は無料、それ以外の充電は自費
リーフが月額19,800円でマイカーのように使えるなら、かなり緩い条件と言えるだろう。なお協賛企業は、2019年10月10日現在で30社。
電気自動車を手に入れたいと思っている若者は、今すぐ多治見へGO! 職種も幅広く、陶器関連にはじまり、飲食店や舞台関連、建設業、保険に運輸などさまざまだ。
岐阜在住で名古屋に勤務している人はもちろん、愛知在住の方にもおすすめ。もちろん全国から多治見に移り住んでもいいだろう。大都市にはない、楽しい生活と、ダイナミックな自然が待っている!
リーフは太陽光発電の蓄電池! 目指すは電気の地産地消
エネファントという会社は、あくまでも電気工事店だ。太陽光パネルの提案や設置、オール電化やHEMSの工事をするのがメイン。
しかし「働こCAR」プロジェクトには、もう1社「たじみ電力」が関わっている。現状は株式会社エネファントの一事業部だか、将来的には別会社にしたいという。
このたじみ電力は、エネファントが設置した太陽光発電の余剰電力を買い取ったり、たじみ電力に加入している工場などの事業所から、個人世帯に電力を供給する会社(事業部)だ。
つまり「電気の地産地消」。電気から見ても、多治見市内で発電した電力を、多治見市内に供給できれば、一番短い経路でロスも少ないので、安く電気を供給できる。
しかも多治見には小高い山々がたくさんあり、少し前まで日本一暑い街を謳っていた。つまり山の南側斜面を活用でき、太陽光発電にもってこいの土地なのだ。
「電気自動車」のリーフが借りられるというのが、「働こCAR」のポイント。協賛企業には、電気自動車用の充電器付きカーポートが無償で設置される。工事を請け負うのはもちろん株式会社エネファント。そして協賛企業には、たじみ電力に加入してもらう。
利用条件には入っていないが、会社の充電器を使えば電気代タダで充電できるので、ユーザーは必然的に通勤に車を利用し、昼間は充電器につないだ状態で会社に駐車している。
たじみ電力にとってみると、充電器につながったリーフは太陽光発電のバッテリー。企業や工場の電力需要は、営業時間中の昼間なので、カーポートの太陽光パネルで発電した電力とリーフのバッテリーを一時的に使うことで、使用電力のピークが乗り切れるというわけだ。
もちろんそれでも余剰電力が出れば、たじみ電力が買取り、電力を必要としている他社に送電できる。こうしてたじみ電力は、外部の電力供給会社から買い取る電力を最低限に抑えながら、契約してる事業所や家庭の安定した電力を供給できるというわけだ。
「働こCAR」の発案はあくまでエネファントではあるが、運営はたじみ電力で、車も同社からレンタルされている。
働こCARを利用するには、企業が毎月およそ4万円、ユーザーがおよそ2万円払うことで利用可能となっている。読者によっては「ん? 利用料って結構高いじゃん?」と思う方も多いだろう。しかし企業にとってみれば通勤費がタダになるだけでなく、求人が大変な(1人にかかる求人費は100万円と言われる)地方の魅力として活用できるので、高いというよりむしろ安く感じられる額なのだ。
さらに電力使用のピーク時には、太陽光発電に加え、リーフのバッテリーから電力をまかなうことで、基本契約料を安くできるので電気代の削減にもつながる。※現行の法では、太陽光発電の電力は売ることができるが、蓄電池に貯めた電力は売買できないため、リーフのバッテリからまかなう電力は工場内(分電盤の外に出ない)に限定される。
リーフがリースではなく「レンタカー」ナンバーをつけている理由もここにある。リースにしてしまうとバッテリーの充放電を行なうため、どうしてもバッテリーの劣化が起きてしまう。
しかし所有者がたじみ電力のレンタカーなら、電力が不足しているときにリーフをバッテリーとして使い多少劣化が起きたとしても、自己所有の車なので問題にならない。そもそもバッテリー劣化は、かなりゆっくりなので、ユーザーには劣化したかどうかがわからない程度だろう。
なるほどうまく回っている! という感じだ。
また、たじみ電力は、売電買取契約終了の問題にも解決策を提言。
東日本大震災の影響などにより、再生可能エネルギーへのシフトへの追い風が吹き、太陽光発電の設置が一気に進んだ。当初は余剰電力を電力会社が買い取るという契約があるので、ある程度電気代も安く設備投資の一部も回収できた。
しかし売電価格は年々安くなり、契約は最大10年。せっかく余剰電力があるのに売ることができない世帯がこれから多く出てくる。そこでたじみ電力は、大手電力会社の売電契約が終了しても、その電力を買い取って多治見市内に供給しようというのだ。
すぐそこの未来が多治見の一企業から始まる
現状は法の問題で、蓄電池の余剰電力を売電することはできない。しかし太陽光の電力は販売できて、蓄電池は売れないというは矛盾している。エネファントの社長曰く、ゆくゆくは多治見市内の電気自動車を、街の蓄電池として利用し、より効率的な電気の地産地消ができるようにしたいという。
その第一歩となるのが、岐阜県立多治見病院との契約。この病院は地域災害拠点病院にもなっており、災害時でも機能しなければならない責務を負っている。そこで必要になるのが電源だ。もちろん自家発電機能も備えているが、たじみ電力は災害時にリーフの蓄電池にためた電力を病院に供給することになった。
電力が必要になるのは、病院の医療施設だけではない。携帯電話に待合室や共有スペースの照明などなど。これらをリーフでバックアップすれば、病院の自家発電の燃料を節約できる。そこでリーフから電力を取り出すユニットについての実証実験を行い、実現のメドがついたので、災害時にいつでも派遣できるとしている。
これらの地道だが必ず役に立つ実証実験などを、陰ながら後方支援しているのが、パナソニックの太陽光発電システムや電気自動車の充電システムだ。
「太陽光発電だけ、EVのレンタカーだけというサービスは、すでに多々あります。しかしこれらを総合的に組み合わせた例は、おそらく日本発の試みでしょう。このような実験的なプロジェクトは、研究開発の思いもよらない使い方や問題点が出てきます。しかも多治見は太陽光発電に適した土地。そこでエネファント様の事例を今後開発するシステムにフィードバックするべくデータを参考にさせていただいております」
と話すのは、パナソニック ライフソリューションズ社 コミュニケーション部 総合プランニング課・スマートシティ推進担当の西川 弘記仕氏。まだパナソニックで本格的に研究できない未来を、こうして現場の細かい実情を積み重ねて未来を形作ろうとしているようだ。
また株式会社エネファントの磯﨑社長は、オチをつけるとともに、パナソニックへの想いを語った。
「パナソニックさんとは一緒にやらせてもらってますが、資材は全部エネファントの自費で購入しているんですよ(笑)。でも僕はパナソニックさんの姿勢が好きなんです。僕たち電気工事屋じゃないですか。だから壁コンセントとかスイッチとか、分電盤なんもお世話になるんです。パナソニックさんは、これを100年作ってるんですよ。でも改良に改良を重ねて、お客さんが使いやすいだけでなく、僕ら工事士がすごく工事がしやすい。これってすごいことです。他社メーカーの資材も使いますが、太陽光パネルはパナソニックさんの発電効率が一番なので、必然的にお客様へのオススメとなります。これ、お世辞じゃないですよ。いいものを選んだら、パナソニックだっただけという話なんです(笑)」
おそらく電気工事士のみなさん全員がうなずく社長の思い。家電 Watchでも「100年前の製品を、いまだに年間10万個も売るパナソニック」では壁コンセントやスイッチを、「今や無線・有線LANからPLCも内蔵し、地震や雷からも家を守る「分電盤」の製造現場に潜入!」では最新の分電盤についてレポートした通り。
たじみ電力や株式会社エネファントがある、ここ岐阜県多治見市は、消滅可能性都市と言われているが、こんな元気な会社とアイディア、そして行動力があれば、きっと若い人達の心がつかめるはずだ。近未来のスマートシティに一番近いのが多治見市なのかもしれない。