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省エネで災害に強い、新たな街づくりを見てきた。国の支援でCO2削減も

地方自治体の防災や二酸化炭素排出削減などの取り組みと、それを支える技術を取材してきた

今、地方自治体の防災への関心が高まり、早いところでは国の支援を利用してその対策が着々と進んでいる。その支援は環境省が主催する「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」(地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業)だ。

二酸化炭素排出量を減らすための補助金制度。地方自治体だけでなく民間企業も応募できる

簡単に説明すると京都議定書の「世界的な二酸化炭素削減」を実現するために、国が補助金を出して脱二酸化炭素社会を加速化させるキャンペーンだ。毎年地方自治体や民間企業から申請を受けて審査の元、給付金を配布しているが、認知度が低く、国も手をこまねいている状況。逆に考えると「申請すれば通る確率も高い」給付金制度ともいえる。

公募要領などの詳細は環境省の「地球環境・国際環境協力」のホームページを参照して欲しいが、ここではパナソニックの協力の元、「どのような場所」に、「どのような施設」を給付金で導入でき、どれぐらいの電気代の削減(=二酸化炭素の削減)ができたのか、今回視察した実例を紹介したい。

給付金の申請は色々と難しく、いくつもの施工経験がある電気店やサプライヤーに相談するのがベストといえる。今回パナソニックを例に見ていく

またこの記事は、普段見ることのできないビルの空調施設や大型給湯施設、電気系統がどのように構成されているのか、興味をお持ちの方にも楽しんでもらえるはずだ。

普段は見ることができない、ビル内部にある空調装置や電気系統も見てきた

災害時に炊き出しが可能になる避難所「高山村 保健福祉センター」

長野県寄りである群馬県の西部は、2019年10月の台風19号によって大きな被害が出た。日本全国に爪痕を残した台風であり、長野新幹線の車両基地が水に浸かり新型車両が大量に廃車される事態になった、あの台風だ。嬬恋村でも国道の橋梁が流され分断され、広域に渡って停電が起きるなど大きな被害を被った。今でもあちこちで復旧工事をしているほどだ。

今回視察した群馬県西部の高山村、東吾妻町、嬬恋村。嬬恋村の北には白根山、南は浅間山があり付近は人気の温泉地が点在する

特に群馬県西部は浅間山や白根山などの活火山があるため、火山災害もニュースで見かける。そのため住民以上に役場の方々の防災意識が非常に高く思えた。ここ高山村の保険福祉センターは、災害時の拠点となるほか、給食センターも備えているため災害時には、炊き出しもできる拠点となる。また300名近くの避難場所として、さらに体の不自由な方などが避難できる福祉避難所としても機能する。

村の防災拠点となる保険福祉センター

そんな保険福祉センターは環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」を利用して、災害に強くエコなセンターを目指しエネルギー分散によるリスク軽減工事を行なった。

導入前後のシステム構成。右側の導入後は3系統のエネルギーがそれぞれバックアップするようになっている

導入前のシステムはごく一般的で電気が止まると空調、コンセント、照明のすべてが止まる。災害現場のニュース映像で目にする発電機を持ち出す姿が目に浮かぶ。さらに太陽熱や灯油を使って床暖房や給湯していたため、灯油の枯渇もリスクとなる。特に炊き出し拠点のため給湯が重要になる。

空調用のガス式ヒートポンプ(冷暖房ユニット)。ビルの横にスリットがあるような場所に収められている。家庭用エアコンの室内機と室外機が一体化したようなもの
複数のヒートポンプユニットの温風・冷風は送風機により各フロア、各部屋に送られる。写真の太い管が送風ダクトで、四角い箱が送風ファン
ガスがアウトになった場合の電気式のヒートポンプユニット。その奥には蓄電池が収められている。いずれも熱が出るため、外気に触れるが雨は入ってこない半屋外に設置されている
屋根一面には太陽光パネルを備える。役所なので売電して儲けることはできないが、電力はすべて自前で消費・蓄電する

これまで電力会社から購入していた電力は、太陽光パネルと蓄電池を導入することで、もし停電が起こっても数日間は自給できるようになった。また照明もLEDに切り替え明るさを変えられるようにしたため、停電時は明かりを落とし、少ない電力で長時間駆動できるよう、明るさと稼動時間の調整が可能となった。

さらに空調も電気式とガス式に分散することでどちらか一方がアウトになっても、もう片方が補うフェイルセーフが可能だ。そして炊き出し拠点として重要な給湯設備は、太陽光発電と蓄電池のバックアップによるエコキュート(電気ヒートポンプ式給湯器)+既存の太陽熱給湯へシフトした。

エコキュートユニット(写真奥右側)。手前は3,000Lのお湯を貯める貯湯槽。設備の設計・施工はシステムインテグレーターのパナソニックが行なっているが、ベストな組み合わせとして他社製の製品も導入されている
すべての装置の稼動状況はインターネット回線を通じてサーバに送信されるので、施設からでも外部からでも状況をリアルタイムでモニタリングできる

また空調と電気のバックアップとしてガス式も導入したことで、灯油の代わりにLPガスを貯蓄し、空調も動かしながら、いざという時はガス式発電機で発電も行なうようになっている。

非常時用のガス貯蔵タンク。危険物取扱者がいなくても運用できる範囲内で、およそ2日分のバックアップが可能という。以前の地下灯油貯蔵タンクは不要になったので埋めてしまっている
こうして電力使用量は半分近くになり、エネルギーコストも3割減になっている

こうして災害に強い福祉センターにした結果、省エネ効果も大きく表れたという。導入前の年間電気使用量は約半分になり、電力、灯油、LPガスを含めたエネルギーコストは、年間900万円かかっていたものが260万円削減でき640万円まで下がったという。

さらについ先日、電力会社の変電所トラブルで停電が発生したが、冷凍したワクチンを貯蔵する冷蔵庫は自動的にバックアップ電源で稼動し無駄にすることがなかったとのことだ。

なお給付金の額はケースバイケースとなるが、高山村の保健福祉センターは、総工費3億4千万円かかったところ、ほぼ3/4が国から給付されたとのことだった。

スーパー銭湯を、1,000人避難できる“お城”に改装!? 東吾妻町庁舎

お城のような東吾妻町庁舎は、元町営のスーパー銭湯。庁舎の老朽化で立て替えを検討していたところ、経営が厳しかったという町営のスーパー銭湯を、リニューアルして新庁舎にすることとなった。あわせて「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」を利用して災害に強くエコな庁舎への改造工事も行なっている。

町営のスーパー銭湯をリニューアルした東吾妻町庁舎。ランドマークとしても機能しているようだ。内部はスーパー銭湯だった名残もあるが、庁舎とコンベンションホールを備え、災害時には災害本部として、また1,000名を収容できる避難所として機能する
災害時には空調を停止(避暑地でさほど暑くない)して電気を節約。炊き出しもしないので災害本部と避難所として機能する最低限の電源を確保
蓄電池も小型。メンテナンス用のすき間に収めている
導入前後のシステム構成。空調はガス式のヒートポンプを使い、同時に発電することで照明用の電力も賄う

これまでは単純だった電気系統を、エネルギー分散してリスク軽減している。先の高山村と異なる点は、太陽熱システムを持っていない点と、太陽光パネルの設置場所が少なく、また炊き出しなどを行なう必要がないため給湯系がない点だ。

通常時に運転するビル内のガス式ヒートポンプ空調装置。加湿ユニットも備えていて、温風でも乾燥しないようになっている
屋外に設置しているガスヒートポンプ空調は発電機も兼用している。太陽光や蓄電池がアウトになった場合は、空調しながら発電することで、非常時の照明に電力を供給する
非常用のLPガス貯蔵タンク。危険物取扱者が不要な1,000kg未満のタンク

これらはすべて既存の建物や施設などを利用しており、新規に太陽光発電や蓄電池、非常用ガスヒートポンプエアコンなどを導入していない点が大きな特徴だ。

特に役所の場合は「最低限のコストで、最大限のパフォーマンスを出す」意識が徹底され、このような災害対策や省エネのシステムをインテグレートする際に、できるだけ既存の施設を使いながら、それぞれの施設にいちばん効果的な最低限の設備を導入するのだという。そのためインテグレーターのパナソニック以外の製品も積極的に導入しているとのことだ。

また導入した機器の状態はすべてインターネットを介してリアルタイムでモニタリングできるようになっているのも特徴。

役所の一角には大型モニターがあり、施設の状態が分かりやすく表示されている
表示されている内容は太陽光を導入している家庭のモニターとほぼ同じ
こちらは業務用のステータス監視ツール。各種装置の稼働状況や電力の状態が分かるパナソニック独自の「Emanage」システム。緊急時などにはこれをインテグレーター側で見て正常動作しているかを確認。長期にログを取ることで短期では見えない傾向などを把握し、Plan-Do-Check-ActionのPDCAサイクルで運用改善を提案している

東吾妻町では、給付金を利用して庁舎以外にも500人が避難できる町民体育館と東吾妻中学校にも太陽光発電と蓄電池を導入し、災害に強くエコな公共施設化工事を完了した結果、電気代などのエネルギーコストも削減できたという。

施設の合計だが消費電力は高山村に迫る4割減。エネルギーコストも2割減となった

中学校が避難所の要に。病院は4町村の命を守り観光客の救急医療も担う

どの自治体でも災害時の避難所といえば「学校」だ。南北を活火山に挟まれる嬬恋村もしかり、嬬恋中学校には250人が避難できる。しかし学校という既にある施設でかつ部活動などもあるため、ほぼ年中稼動している施設の省エネ化や災害対策をするのは難しい。

授業中のため教室は撮影できなかったが、避難所といえば学校、なかでも体育館が代表的だ

そこで「既存の施設を最大限に利用する」という手法が効果を発揮する。パナソニックは住宅やビルの照明やコンセントなど、屋内配線機材のトップメーカー。その種類も豊富で、旧蛍光灯照明をそっくりLED化できる多数の製品を持っている。

これまでの施設もそうだったが、非常時の要となるのが屋内照明だ。災害時は部屋が明るいだけでも安心できるが、明るすぎると消費電力が多くなるためバッテリー駆動の時間が短くなる。そこで照明のLED化は災害対策のキーとなる。LED照明は蛍光灯と違い明るさを調整できるので、明るさと稼働時間の調整がしやすいのだ。

さらに天井に穴を空けて埋め込まれた照明も多く、その穴にピッタリとあう互換LED照明を使うことで工事費の大幅削減と工期短縮ができる。パナソニックはインテグレーターとしての多数の施工実績だけでなく、従来の電球や蛍光灯、その他水銀灯などさまざまな明かりの互換LED照明を豊富に持っている点が強い。

蛍光灯他のさまざまな照明設備の互換LED照明が豊富なパナソニックは、既存の照明用の穴などを流用できるのが強み
こちらは学食。ダウンライトに加え特殊な照明にも対応できる。すべてLED化されている
体育館の照明は水銀灯が主流だったが、2021年から使用が禁止になったためすべてLEDに置き換えられている

嬬恋中学校だけでも900個の照明の入れ替えがあり、役場などの公共施設になればその数は簡単には計り知れないだろう。普段の学校では蛍光灯より明るいLEDは、生徒たちに好評ということだ。非常時はバッテリーを節約するために明かりを絞って運用するという。また非常用の照明が使える教室は1つおきになっていて、コストと工期の短縮だけでなく、昼間だけ使う避難用の教室、夜だけ使う教室というような運用もできるという。

これまでは他社製蓄電池を導入していたが、中学校ではパナソニック製を体育館の用具倉庫に導入
敷地内には大型の太陽光パネルを設置して電気代を大幅に削減している
非常時のコンセントは目立たないように天井近くに設置。赤いコンセントが所々に設置され、スマホの充電用などに住民へ開放される

さらに避難所で重要になるのが、今や生活に欠かせないスマホの充電。こちらは普段は目立たない場所にコンセントを増設し、非常時は延長コードで天井から床まで下ろすようにして使う。こうしてスマホの充電を同時に60台までできる電力を別系統で確保している。

こうして中学校は一気に省エネ学校へと変貌した。

敷地が広く大型の太陽光パネルを設置できたため、電力使用量は6割減。電気代も3割減まで実現

避難の一方で住民の命を守るのが病院だ。西吾妻福祉病院組合は嬬恋村に隣接する4町村の命を守る総合病院で、ヘリポートも持つ救急体制を敷いている。これら4町村は温泉の観光客も多く、火山もあるため観光客の命を守る病院としての意味合いも強い。

群馬県西部4町村共同総合病院「西吾妻福祉病院組合」

病院だけに規模も大きく、太陽光発電の施設も蓄電施設も桁違いだ。医療機器の電源も重要ながら、病院は空調設備も重要。薄いパジャマを着ている患者さんが多いので、この病院はもともと重油を使った空調設備が設けられていた。

そのためこの設備は活かしたまま、重油がアウトになった場合の非常用空調と照明、コンセントを太陽光で賄うリスク軽減をしている。

重要な空調は電気がアウトになった場合でも蓄電池で駆動。照明やコンセントも蓄電池でバックアップ
敷地内に2カ所ある太陽光発電設備。写真の奥に見えるのは蓄電設備
蓄電システムも複数台備えている
年間電力使用量は4割減。ただし桁違いな点に注意。電気代も桁違いだが1,000万円近い4割減となっている

ビル管理は補助金の有効活用がカギになる?

今回は民間の住宅ではなく、大型のビル施設など普段は目にできないところを見てきた。ビル管理者でなくても、新鮮に思えるところがあったのではないだろうか?

ビル管理者や関係者にお伝えしたいのは、環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」をうまく使うと、国からの補助を受けながら省エネ施策や災害対策ができる可能性があるという点だ。

一方で、一般的なビルの電気工事と異なるため、経験豊富なシステムインテグレーターと手を組まないと、せっかくの補助金が無駄になってしまう可能性もあるだろう。まだ認知度が低いというこの給付金が、これからもうまく活用されることに期待したい。