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省エネで災害に強い、新たな街づくりを見てきた。国の支援でCO2削減も
2021年7月9日 07:00
今、地方自治体の防災への関心が高まり、早いところでは国の支援を利用してその対策が着々と進んでいる。その支援は環境省が主催する「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」(地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業)だ。
簡単に説明すると京都議定書の「世界的な二酸化炭素削減」を実現するために、国が補助金を出して脱二酸化炭素社会を加速化させるキャンペーンだ。毎年地方自治体や民間企業から申請を受けて審査の元、給付金を配布しているが、認知度が低く、国も手をこまねいている状況。逆に考えると「申請すれば通る確率も高い」給付金制度ともいえる。
公募要領などの詳細は環境省の「地球環境・国際環境協力」のホームページを参照して欲しいが、ここではパナソニックの協力の元、「どのような場所」に、「どのような施設」を給付金で導入でき、どれぐらいの電気代の削減(=二酸化炭素の削減)ができたのか、今回視察した実例を紹介したい。
またこの記事は、普段見ることのできないビルの空調施設や大型給湯施設、電気系統がどのように構成されているのか、興味をお持ちの方にも楽しんでもらえるはずだ。
災害時に炊き出しが可能になる避難所「高山村 保健福祉センター」
長野県寄りである群馬県の西部は、2019年10月の台風19号によって大きな被害が出た。日本全国に爪痕を残した台風であり、長野新幹線の車両基地が水に浸かり新型車両が大量に廃車される事態になった、あの台風だ。嬬恋村でも国道の橋梁が流され分断され、広域に渡って停電が起きるなど大きな被害を被った。今でもあちこちで復旧工事をしているほどだ。
特に群馬県西部は浅間山や白根山などの活火山があるため、火山災害もニュースで見かける。そのため住民以上に役場の方々の防災意識が非常に高く思えた。ここ高山村の保険福祉センターは、災害時の拠点となるほか、給食センターも備えているため災害時には、炊き出しもできる拠点となる。また300名近くの避難場所として、さらに体の不自由な方などが避難できる福祉避難所としても機能する。
そんな保険福祉センターは環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」を利用して、災害に強くエコなセンターを目指しエネルギー分散によるリスク軽減工事を行なった。
導入前のシステムはごく一般的で電気が止まると空調、コンセント、照明のすべてが止まる。災害現場のニュース映像で目にする発電機を持ち出す姿が目に浮かぶ。さらに太陽熱や灯油を使って床暖房や給湯していたため、灯油の枯渇もリスクとなる。特に炊き出し拠点のため給湯が重要になる。
これまで電力会社から購入していた電力は、太陽光パネルと蓄電池を導入することで、もし停電が起こっても数日間は自給できるようになった。また照明もLEDに切り替え明るさを変えられるようにしたため、停電時は明かりを落とし、少ない電力で長時間駆動できるよう、明るさと稼動時間の調整が可能となった。
さらに空調も電気式とガス式に分散することでどちらか一方がアウトになっても、もう片方が補うフェイルセーフが可能だ。そして炊き出し拠点として重要な給湯設備は、太陽光発電と蓄電池のバックアップによるエコキュート(電気ヒートポンプ式給湯器)+既存の太陽熱給湯へシフトした。
また空調と電気のバックアップとしてガス式も導入したことで、灯油の代わりにLPガスを貯蓄し、空調も動かしながら、いざという時はガス式発電機で発電も行なうようになっている。
こうして災害に強い福祉センターにした結果、省エネ効果も大きく表れたという。導入前の年間電気使用量は約半分になり、電力、灯油、LPガスを含めたエネルギーコストは、年間900万円かかっていたものが260万円削減でき640万円まで下がったという。
さらについ先日、電力会社の変電所トラブルで停電が発生したが、冷凍したワクチンを貯蔵する冷蔵庫は自動的にバックアップ電源で稼動し無駄にすることがなかったとのことだ。
なお給付金の額はケースバイケースとなるが、高山村の保健福祉センターは、総工費3億4千万円かかったところ、ほぼ3/4が国から給付されたとのことだった。
スーパー銭湯を、1,000人避難できる“お城”に改装!? 東吾妻町庁舎
お城のような東吾妻町庁舎は、元町営のスーパー銭湯。庁舎の老朽化で立て替えを検討していたところ、経営が厳しかったという町営のスーパー銭湯を、リニューアルして新庁舎にすることとなった。あわせて「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」を利用して災害に強くエコな庁舎への改造工事も行なっている。
これまでは単純だった電気系統を、エネルギー分散してリスク軽減している。先の高山村と異なる点は、太陽熱システムを持っていない点と、太陽光パネルの設置場所が少なく、また炊き出しなどを行なう必要がないため給湯系がない点だ。
これらはすべて既存の建物や施設などを利用しており、新規に太陽光発電や蓄電池、非常用ガスヒートポンプエアコンなどを導入していない点が大きな特徴だ。
特に役所の場合は「最低限のコストで、最大限のパフォーマンスを出す」意識が徹底され、このような災害対策や省エネのシステムをインテグレートする際に、できるだけ既存の施設を使いながら、それぞれの施設にいちばん効果的な最低限の設備を導入するのだという。そのためインテグレーターのパナソニック以外の製品も積極的に導入しているとのことだ。
また導入した機器の状態はすべてインターネットを介してリアルタイムでモニタリングできるようになっているのも特徴。
東吾妻町では、給付金を利用して庁舎以外にも500人が避難できる町民体育館と東吾妻中学校にも太陽光発電と蓄電池を導入し、災害に強くエコな公共施設化工事を完了した結果、電気代などのエネルギーコストも削減できたという。
中学校が避難所の要に。病院は4町村の命を守り観光客の救急医療も担う
どの自治体でも災害時の避難所といえば「学校」だ。南北を活火山に挟まれる嬬恋村もしかり、嬬恋中学校には250人が避難できる。しかし学校という既にある施設でかつ部活動などもあるため、ほぼ年中稼動している施設の省エネ化や災害対策をするのは難しい。
そこで「既存の施設を最大限に利用する」という手法が効果を発揮する。パナソニックは住宅やビルの照明やコンセントなど、屋内配線機材のトップメーカー。その種類も豊富で、旧蛍光灯照明をそっくりLED化できる多数の製品を持っている。
これまでの施設もそうだったが、非常時の要となるのが屋内照明だ。災害時は部屋が明るいだけでも安心できるが、明るすぎると消費電力が多くなるためバッテリー駆動の時間が短くなる。そこで照明のLED化は災害対策のキーとなる。LED照明は蛍光灯と違い明るさを調整できるので、明るさと稼働時間の調整がしやすいのだ。
さらに天井に穴を空けて埋め込まれた照明も多く、その穴にピッタリとあう互換LED照明を使うことで工事費の大幅削減と工期短縮ができる。パナソニックはインテグレーターとしての多数の施工実績だけでなく、従来の電球や蛍光灯、その他水銀灯などさまざまな明かりの互換LED照明を豊富に持っている点が強い。
嬬恋中学校だけでも900個の照明の入れ替えがあり、役場などの公共施設になればその数は簡単には計り知れないだろう。普段の学校では蛍光灯より明るいLEDは、生徒たちに好評ということだ。非常時はバッテリーを節約するために明かりを絞って運用するという。また非常用の照明が使える教室は1つおきになっていて、コストと工期の短縮だけでなく、昼間だけ使う避難用の教室、夜だけ使う教室というような運用もできるという。
さらに避難所で重要になるのが、今や生活に欠かせないスマホの充電。こちらは普段は目立たない場所にコンセントを増設し、非常時は延長コードで天井から床まで下ろすようにして使う。こうしてスマホの充電を同時に60台までできる電力を別系統で確保している。
こうして中学校は一気に省エネ学校へと変貌した。
避難の一方で住民の命を守るのが病院だ。西吾妻福祉病院組合は嬬恋村に隣接する4町村の命を守る総合病院で、ヘリポートも持つ救急体制を敷いている。これら4町村は温泉の観光客も多く、火山もあるため観光客の命を守る病院としての意味合いも強い。
病院だけに規模も大きく、太陽光発電の施設も蓄電施設も桁違いだ。医療機器の電源も重要ながら、病院は空調設備も重要。薄いパジャマを着ている患者さんが多いので、この病院はもともと重油を使った空調設備が設けられていた。
そのためこの設備は活かしたまま、重油がアウトになった場合の非常用空調と照明、コンセントを太陽光で賄うリスク軽減をしている。
ビル管理は補助金の有効活用がカギになる?
今回は民間の住宅ではなく、大型のビル施設など普段は目にできないところを見てきた。ビル管理者でなくても、新鮮に思えるところがあったのではないだろうか?
ビル管理者や関係者にお伝えしたいのは、環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」をうまく使うと、国からの補助を受けながら省エネ施策や災害対策ができる可能性があるという点だ。
一方で、一般的なビルの電気工事と異なるため、経験豊富なシステムインテグレーターと手を組まないと、せっかくの補助金が無駄になってしまう可能性もあるだろう。まだ認知度が低いというこの給付金が、これからもうまく活用されることに期待したい。