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“自分で動くロボット”を実現するための「SLAM技術」とは

 SLAM(すらむ)とは、「Simultaneous Localization and Mapping」の頭文字を取ったもの。直訳は「同時の位置特定と地図測定」だが、ハードウェア業界の中では「自己位置推定と環境地図作成を同時に行うこと」と訳される。

 自動運転や自律移動するロボットなどに使われる技術で、さまざまなセンサを用いて周囲の地図を作成することで、自分のいる位置を推定して指定した位置まで自由に移動したり、障害物を検知して動きを止めたりという行動をサポートするために用いられる。

 目的地までの距離をある程度把握したり、まっすぐ進むとぶつかるため左右に避けて進む、といった行動は人間の目であれば非常に簡単なことだが、機械がそれを自律的に判断するのは非常に難しい。そのため、前述の通りさまざまなセンサー技術を用いることで障害物の回避や目的地までの移動を自律的に行うためにSLAMが用いられる。

 なお、SLAMは自己位置推定と環境地図作成を行う技術の総称であり、特定のセンサーやシステムを指すものではない。そのためSLAMと呼ばれる仕組みでもそれぞれ異なるアプローチが用いられている。

 自己位置推定で馴染み深い技術の1つがGPSだろう。衛星からの信号を受信機で受け取り現在の位置を知る仕組みとして、自動車からスマートフォンまで幅広く使われているが、衛星を使う関係上GPSは屋外かつ見通しが良い場所でなければ精度が保てず、cm単位の短い距離での位置特定が難しいなど課題もある。

 そのため、自宅内かつ短い距離で移動するホームロボットではGPS以外のセンサーを使ってSLAMを行うことが多い。その1つが深度センサーを使った手法だ。一定の方向に赤外線、または、レーザーを照射し、物体に当たった赤外線の変化、もしくは、反射タイミングを測定し、これをカメラの映像と組み合わせことで特定範囲の距離を深度情報をもった画像として捉えることができる。マイクロソフトのゲーム機「Xboxシリーズ」の周辺機器として有名な「Kinect」は、深度センサーを使った製品の代表例だ。

 また、12年ぶりのブランド復活で話題を集めたソニーのコミュニケーションロボット「aibo」は、「魚眼カメラを用いた地図作成(SLAM)技術」を搭載。PC Watchの記事によれば腰の上部分にSLAM用の魚眼カメラが搭載されているようだ。

 ソニー、生まれ変わった新「aibo」を発表 ~2018年1月11日に発売。先行予約は11月1日23時1分から – PC Watch

 自律・自走するロボットであっても、必ずしもSLAMが必須ということではない。Cerevoが開発した自走ロボット「Tipron」は、深度センサーによる距離検知とカメラを使った障害物検知の機能をあるものの、地図を作成する機能は備えてはいないが、指定したルートの自動移動、障害物の検知、充電ステーション付近からの自動帰還機能などを実現している。

Tipronは深度センサーを使って自走機能を実現

 また、「障害物の検知が必要」な製品は、逆に言えば「通常利用の範囲内で障害物に当たる可能性がある」という意味でもある。つまり、SLAMを使って自走・自律する製品は、それと同時に障害物にぶつかった際も故障しない耐久性や、衝突により想定とは異なる位置に移動した場合、どのように想定したルートに復帰するかという問題も合わせて考慮しなければならない。

 余談ながら、Cerevoが開発した「1/8 タチコマ」も、「自分で動いて欲しい」という要望をいただくことが多いが、前述の通り自走機能を備えるにはSLAM的な機能を搭載するだけでなく、自走中にぶつかった際に壊れないための耐久性を備える必要がある。これを実現するには1/8 タチコマはさらに大きく、そしてさらに高額になってしまう、ということをこの場を借りて補足しておきたい。

この記事は、2017年11月7日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

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