カデーニャ

ものづくりならここへ行け! 「香港エレショー」のCerevo流活用術

「ものづくりって何?」「そもそもハードウェアって?」という非ガジェット女子、レイナがインタビューをするコーナー「キキテーニャ」。今回も株式会社Cerevoの代表である岩佐さんに、ものづくりに関わる人なら誰もが知っておきたい「香港エレショー」の賢い使い方を伝授します!

香港エレショーってなに?

レイナ:ファーチャンペー、箱屋と、いろんなものづくりのお話を聞かせてもらいましたが、今日はどんなどんなお話を聞かせてもらえるんでしょうか。

岩佐:昨年の10月に香港エレショーに行ってきました。今日はその話をしたいと思います。

レイナ:香港エレショ……? って何かのショーですか?

岩佐:香港で毎年春と秋に面白いイベントをやっていて、そのイベント名です。正式には「HKTDC(香港国際貿易局)」が開催する「香港エレクトロニクス・フェア」と「グローバルソース」という2つのイベントのことで、要は電化製品と電子部品の展示会ですね。

レイナ:なるほど。初めて聞く言葉がいっぱい出てきました(笑)。

岩佐:2つの展示会は、ほぼ同じ日程で違う会場で開催されています。日本でいうと、幕張メッセと東京ビッグサイトで同じような電気系の展示会をやっているようなものですね。距離的にもそんな感じです。

レイナ:内容も同じなんですか?

岩佐:そうです、ほとんど同じで、来る人も内容も被っています。だいたい4日間で、期間が微妙に被っている。だから、日本からでも1週間の出張でどっちも見ることができます。展示会は1年に2回、4月と10月に開催されます。

レイナ:どういったところが特徴的なのでしょうか?

岩佐:規模が異常に大きいところ。6000から7000社が集まっていて会場はゴッタ返しています。そして、売っているものも変なものばかり。ノーブランドのホワイトボックス品がたくさん並んでいる。

レイナ:えっと……つまり、いわゆる「パチモン」ばかり売っているってことですか?

岩佐:もちろんパチモンと呼ばれるような偽物もあるんですが(笑)、ノーブランドのホワイトボックス品って、値段の割にけっこう良いものもいっぱいあります。こういうものに自社のブランドロゴを貼り付けて輸入販売する商社さんなんかがアイテムを探しに行くのが香港エレショーの主たる目的なのですが、我々のようなハードウェアスタートアップの場合、製品そのものをその場で買ったり仕入れたりはしないんです。

レイナ:え、じゃあ何をしに行くんでしょうか?

香港エレショーは、工場を探しに行く場所

岩佐:普通の展示会は、展示されているものを来場社が仕入れよう、導入しようとして来ることがほとんど。大工さん向けとかホームセンター関係者向けとか、それぞれの展示会があって、それぞれの業界の人がみんな買い付けに行ったり、最新の技術を見に行ったりします。

香港エレショーももちろん出展されている製品を購入したり、自社の販売目的で仕入れたりすることもあるのですが、我々にとっては置いてあるものを買いにいく場所ではありません。また、最新鋭の技術が展示されているわけでもありません。これは実はあまり知られていないけれど、香港エレショーはぼくらにとって「工場を探しに行く展示会」なんです。

レイナ:工場……?

岩佐:そう、工場。例えば、玩具が並んでいるブースがあると、来場者は「この玩具が欲しい」ではなく、「この人たちはこんな玩具を作れる工場なんだ」みたいな見方をするんですね。製品そのものではなく、並んでいる電化製品の構造とか製造手法とかを見ているんです。

ブースにいる人と「これは、いくらくらいで作れるの?」という議論をして、値段を聞いて、「結構うまく作ってるなあ」とか「表面仕上げがきれいだなあ」とか。イヤホンだったら、実際音を聞いて見つつ内部でつ買っている部品の話なんかをして「ほうほう、そんな部品を仕入れるルートをもっているのね」とか。

レイナ:なるほど。ものの作り方を見に行くんですね。

岩佐:そうです。その工場がどんなものを、どのくらいの品質でどれくらいのコストで作れるのか。それを調べにいきます。普通、カメラを作る工場とスマートフォンを作る工場って設備が違うんですよ。「なんでも作ってやるよ」っていう工場もあれば、「スピーカーしかやらない」という職人風のところもあります。

レイナ:実際に説明員と話してどこの会社を使うかを決めるんですか?

岩佐:ものづくりではどの工場に頼むかということがとても重要なので、結構悩みます。だから香港エレショーでは説明員と話して、ホワイトボックス品をサンプルとして見ながら、十数社絞って話し込みをするんです。

レイナ:てっきり1つの工場で組み立てまで全部やってるのかと思っていました。

岩佐:Foxconnのような巨大工場が有名になったことで、1つの工場に頼んだらポンってできるイメージだけど、スマートフォンだとしても全部そこで作っているわけじゃないんですよ。スマートフォン内部で使う基板間接続用のフレキケーブルはケーブル屋さんで作ってるし、箱は箱屋さん。分業ですね。組み立てしかできない工場もある。逆に、ビックマウスで「全部仕入れからやるよー」って言われて頼んでみたけど全然ダメでしたなんてことも(笑)。

展示会の翌日にいきなり工場見学!?

岩佐:面白いのが、香港エレショーに行くと、「じゃあ次の日工場来いよー」みたいな勢いで話が進むんです。

レイナ:かなりウエットな付き合いですね。日本の展示会で次の日に会いに行くとか普通はありませんよね(笑)。

岩佐:日本だと考えられないでしょうね(笑)。でも香港エレショーでは「で、いつ空いているの?」みたいな感じで、アポをその場でとるんです。半数以上の工場は香港からアクセス可能な深セン、トンガン、広州といったエリアにあるので。だから香港エレショーが終わった翌週は国境を越えて中国側に入り、工場見学がスケジュールします。1日3社くらいひたすら見に行く。行くべき工場をリストにして、工場を見て、ようやく香港・深セン出張が終わる。

レイナ:工場は、想像と違ったりするんですか?

岩佐:しますね。「あんなに自慢げだったのにしょぼいなー」とか「思ったよりすごいじゃん」みたいなこともあります。

レイナ:なるほど。香港エレショー、ただの展示会じゃないんですね。

岩佐:そうそう、だから、本来の目的を知らずに行って「パチモンが並んでるだけで、何も最新の製品がなくて、面白い展示会じゃなかった」とかいう感想をけっこう聞くんですが、それはとてももったいない。最新のテクノロジーが並んでいるわけじゃないから、刺激をうけたり学んだりはできないんです。結構否定的な人もいるけど、そもそも使い方が違うから、今日はそれをみんなに伝えられればと思っています。

レイナ:目的は、部品と工場を探しにいくことですもんね。

岩佐:ものづくりをしている人からは「Cerevoさんは工場をどうやって見つけているんですか?」ってよく聞かれるんです。そのたびに「香港エレショー行ったらいいよ」って答えているんですが、実際には使い方を知らないとわからないですよね。

レイナ:Cerevoは何社くらいの工場を使ってるんですか?

岩佐:いまは30社くらいですかね。それは、契約している工場は製品にあわせて使い分けるからです。また、中国の工場文化として、条件やクオリティ次第で、ガンガン切り替えてもいきます。乗り換えるというか。表参道のヘアサロンみたいな感じですね(笑)。

香港エレショー、行く前にやるべきこととは

岩佐:大事なのは、Albaba.comで部品とそれを作ってる会社をチェックすること。チャットのボタンやメールアドレスが掲載されているので、事前に何社かアプローチしておくといいと思います。「香港エレショー来るの?」って。そうすると、結構な確率で「行くよー」って、ブースの場所を添えた返事がくる。こういった時の中国工場の人たちとのコミュニケーションはフランクで楽ですよ。

レイナ:6000から7000社のブースが2つの展示会であるってことは、1万社くらいは出展しているってことですよね。それならどっちかに出てる可能性が高いですね。

岩佐:実際足を運んで、「アリババで見たけど本当にあの額でできるの?」とか交渉が始まります。「いやあ、あれは嘘だよ」とか「まだできないよ」とか言われたりもするけど(笑)。たまに「アリババより安い値段でいいよ」なんてことも。

レイナ:なるほど。なんか、自由ですね(笑)。

岩佐:アリババで20社くらい検討して、その中の10社くらい話してみて、最終的に3社に絞る。そのあとは、もう工場に行って決めます。値段とか雰囲気とかね。

レイナ:最終的な決め手はなんですか?

岩佐:設備や価格もあるんですが、最後には人柄もあるかな。優しさとかももちろんあるけれど、やっぱり責任もってちゃんとやるぞ、っていう担当者かどうかですね。責任者よりは担当者で結構変わっちゃうので、いい担当者がやめて別の工場に転職したなんてことになったら、その転職先の方と付き合いが始まることもあるんです。ね、結構ウェットな感じでしょ?(笑)。

この記事は、2018年1月8日に「カデーニャ」で公開され、家電Watchへ移管されたものです。

Reina

非ガジェット女子。普段は哲学女子。nebulaを運営しています。