【イベントレポート】
太陽光発電が普及するために必要なものは何か?

~PV-NET「大震災を乗り越え、今、わたしたちにできること」
by 藤本 健

 4月28日、「太陽光発電所長大集合イベント」が東京・御茶ノ水の明治大学リバティータワーで行なわれた。

 イベントのテーマは、「地産地消の太陽エネルギーをもとにしたエネルギーシフトの実現」。主催は、太陽光発電システムを導入している一般ユーザーの会であり、NPO法人である太陽光発電所ネットワーク(略称:PV-NET)で、同会員をはじめ、太陽光発電や自然エネルギーに関心あるユーザーを対象に開催された。

 副題として「大震災を乗り越え、今、わたしたちにできること」と付けられたこのイベント、地震や原発事故によって太陽光発電に注目が集まる中での開催であったため、会場の教室には定員を大幅に超える人が来場した。

 イベントの中心となったのは、太陽光発電を推進してきた2人の技術者・研究者による講演。1人目は、日本の太陽光発電のシステム技術の第一人者である東京工業大学 ソリューション研究機構 AES研究センター 特任教授の黒川浩助氏。2人目は、前環境省事務次官であり、現在慶応大学環境情報学部・大学院教授を務める小林光氏だ。この講演では、太陽光発電に関する技術的かつ政策的な提言がされたので、その内容について紹介しよう。

4月28日に実施された「太陽光発電所長大集合イベント」のようす。テーマは「地産地消の太陽エネルギーをもとにしたエネルギーシフトの実現 ~大震災を乗り越え、今、わたしたちにできること~」


コスト減と高発電効率に“オールジャパン”で挑戦。将来の発電コストは「汎用電力」並みに

東京工業大学 ソリューション研究機構 AES研究センター 特任教授の黒川浩助氏。日本の太陽光発電のシステム技術の第一人者だ

 最初に講演に立った黒川氏は、オイルショックを契機にスタートした、新エネルギーの開発と実用化計画を進める「サンシャイン計画」から太陽光発電の研究に携わった。以後、日本の住宅に太陽光発電を普及させるための系統連系を実現させたり、阪神・淡路大震災の後には自立発電機能の装備を促すなど、常に太陽光発電における第一線に立ってリードしてきた人物だ。

 黒川氏はまず、日本の太陽光発電における現在の状況を、技術開発的な観点から紹介。現在、独立行政法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では「太陽光発電『世界一』奪還へ」をスローガンに、太陽光発電システムの世界最高の技術レベルと、コスト競争力を実現するための次世代高性能技術開発プロジェクトを、2010年度から5年計画で実施しているという。

現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、太陽光発電“世界一”を奪還すべく、コスト削減と発電効率の高効率化を推進している

 太陽電池の低コスト化や高効率化、長寿命化等については、企業・大学単独の技術開発に加え、企業・大学等の強い相互連携によるコンソーシアム体制も採用し、“オールジャパン”で世界競争に打ち勝っていくための技術開発に取り組んでおり、2017年の目標としては「発電コスト:14円/kWh、モジュール製造コスト:75円/W、モジュール変換効率:20%」の実現を掲げている。これは、結晶シリコン太陽電池、薄膜シリコン太陽電池など、太陽電池のジャンルごとに開発が進められているとのこと。

 さらに将来的には、新材料・新規構造等を利用することで「変換効率40%超」かつ「発電コストが汎用電力料金並み(7円/kWh)」の達成を目指す「革新的太陽電池」の実現に向けての取り組みも行なっているとのことだ。こうした動きにはぜひ期待したいところだ。



短期的には住宅用PVの発電の標準化、長期的には“分散型発電”への転換が必要

黒川氏が提案する、短期・中期・長期的な太陽光発電システムの活用法

 そうした前提のもと、黒川氏は太陽光発電システムが復興に向けてできることについて、短期、中期、長期の3つの視点で提言を行なった。

 まず短期的には、震災に対する復興を優先し、電力量を確保するために、必死の省エネルギーを実現することを呼びかけた。その上で住宅用PV(太陽光発電システムのこと。Photo-Voltaic)においては、「もっとしっかりした停電対応をすべきである」とした。現状でも停電時での自立発電は可能になっているものの、各社ごとに仕様が大きく異なり、実際知らない人、使えていない人が多いとし、自立発電方式の標準化を急ぐべきだという。

黒川氏はまた、小中学校に導入が進んでいる太陽光発電システムにおいて、自立発電機能を標準で装備すべきとした

 黒川氏はさらに「防災型スクールPVの導入を促進すべきである」とした。現在、小中学校などへの太陽光発電システムの導入が進みつつあるが、導入コスト削減のために自立発電機能を省略するケースがほとんどで、災害時に利用できないのが実情だ。そのため、避難所となった場合などに活用できていないので、この対応を急ぐことが重要とした。

 中期的には、東日本(50Hz)と西日本(60Hz)の間での送電を可能とする周波数変換装置(BTB:Bcak-to-Back)を増設し、東西連系容量を100万kW分追加すべきだという。ただし、BTBのコストがかなりのものとなるため、大規模な太陽光発電施設「メガソーラー発電所」で使用されるパワコン(パワーコンディショナーの略。電気の変換装置)を、BTBに転用できる可能性を指摘する。

 さらに、そのメガソーラーについては、ビジネス導入の促進が必要だという。ヨーロッパでは、ドイツ、スペインを中心にメガソーラーが数多く存在しており、これによって日本は太陽光発電導入において首位の座から転落してしまった。その背景にあったのは、フィードインタリフ(Feed-in Tariff。略称は「FIT」。固定価格で電力を買取る制度)と呼ばれる制度であったが、日本もフィードインタリフの早期実施が不可欠であると黒川氏は指摘。それが実現すれば「まさに(発電の)分散自律化の目玉になるだろう」という。

 そのほかにも、国の防災計画において太陽光発電システムの利用法を規定することや、スマートコミュニティー(地域単位でエネルギーの需要と供給を管理する社会)化を図って蓄エネルギー機能を持たせていくことも提言する。黒川氏によると、最近は家庭用の蓄電池に注目が集まっているが、そうした小規模なものは効率が悪く、大きな効果は得にくい、という。そこで、ある程度の地域ごとに蓄電設備を導入したスマートコミュニティーを築くことによって、分散化が可能になるという。

原子力発電所のような100万kW級の太陽光発電システムを作るためには、3.7平方kmの面積が必要という試算

 長期的視点においては、現在、環境省が掲げている「2030年のスマートグリッド100%化」という目標を前倒しすることを挙げている。黒川氏はエネルギー基本計画の見直しが必須であり、原子力発電所のような過度なメガ電源集中立地を回避し、太陽光発電のような分散立地を実現していくこと、などを提言している。

 黒川氏はまた、100万kWの原子力発電所と同等の電力を、太陽光発電システムで実現するための試算も発表した。原子力発電で100万kWを作り出すのに必要な面積は、福島第一、福島第二、そして柏崎刈羽原子力発電所の敷地面積を元にして計算すると、53万平方メートル(約730m×730m)となる。それに対し、同じ100万kWの発電を太陽光発電で行なう場合には、1,333万平方m(3.7km×3.7km)が必要となる。ちなみにこの数値は公称出力によるものなので、実際の発電量に相当する最大電力を元に計算すると、1,666万平方m(4km×4km)となる。当然、太陽光発電のほうがより大きい面積になるわけだが、現在の避難区域から考えれば小さすぎるほどの面積で済むという。この計算結果は興味深く感じられた。


太陽光普及の鍵は「屋根の借り上げ」「リース」「オフィスの直流化」「休耕田の活用」

前環境省事務次官で、現在は慶応大学環境情報学部・大学院教授を務める小林光氏。PV-NETの設立時メンバーで、自宅で“フルコースのエコハウス”を実践する人物だ

 黒川氏に続いて登壇したのは、前環境省事務次官で、現在は慶応大学環境情報学部・大学院教授を務める小林光氏。小林氏は今回のイベントを主催するPV-NETの設立時からのメンバーであり、自宅に太陽光発電を導入しているのはもちろん、太陽熱温水器を利用した給湯や床暖房、風力発電、雨水利用……と、自ら“フルコースのエコハウス”を実践していることでも知られている人物。その小林氏は、「再生可能エネルギーの導入拡大・緊急政策」と題して、いくつかの提言をしている。

 その1つ目が「屋根の借り上げ事業」だ。これは、太陽光発電などに関心の低い層への対策として打ち出したもので、太陽光発電会社が日当たりのいい家庭の屋根を有償で借り、そこに太陽光パネルを設置。売電収入によって事業を回していくというアイディアだ。これならば各家庭はコスト負担もPVに関する知識もなく設置が実現できるので、大きく普及させることができるというわけだ。

 一方で、太陽光発電への関心が高く、やる気のある層への対策としては初期投資の要らないリース事業の強化をすべきだ、という。

 現状、太陽光発電システムの導入には、100万円~300万円程度の初期費用が必要といわれているが、リースにすれば多額の初期費用は不要となり、毎年10万円から20万円程度のリース費用を支払うだけでシステムの設置が可能になる。また、設置条件がよければリース費よりも売電金額のほうが上回るため、実質的な費用がほとんどかからなくてすむ、という寸法だ。

小林氏は、発電会社が一般家庭の屋根を借り、売電収入によって事業を回す「屋根の借り上げ事業」を提言太陽光発電に関して関心の高い層に対しては、リース事業を強化することを提言

 さらにやる気のある層への対策の第2弾として打ち出したのが、災害時にも役立つ「個人電力貯蓄設備に対する導入補助」だ。これは、黒川氏の講演でも触れた家庭用蓄電池を、住宅用太陽光発電システムの普及に役立てようというもの。そう、太陽光発電システムの出力で家庭用蓄電池を充電すれば、災害時などに夜でも電気が利用可能になるため、安心を得ることができる。経済的にはペイできるものではないが、補助金を出すなどすることで呼び水にはなるはず、というわけだ。

 第3弾は「オフィスの直流化」だ。現在、コクヨなどでも直流給電のオフィスの研究が進められているが、直流での電力消費は、太陽光発電システムとの相性は非常にいい。もともと太陽光発電システムは、直流の電力を生成しているわけだが、これをパワコンによって100Vの交流に変換している。一方、パソコンなどを動かす場合、100Vの交流をACアダプタであったり、内部の電源回路によって直流に変換して動かしている。それぞれの変換によって2割以上の電力がロスしているといわれるので、直流のまま給電すれば太陽光で発電した電力を効率よく使えるというわけだ。

 やる気のある層への対策、第4弾は、休耕田など「使われていない農地」の活用だ。現在、国内には休耕田が数多くあるが、農地転用許可制度によって制限が加えられ、まったく有効活用されていないのが実情だ。そこで、20年間許可不要として、太陽光発電システムの設置用地として活用しようというわけだ。もっとも個人で莫大な敷地に太陽光発電を設置するのは費用的にみてあまり現実的ではないかもしれないが、前出の発電会社やリースのスキームとセットで考えれば大きな可能性が出てきて、農家の所得対策になる可能性もある、という。また規模が大きいだけに、太陽光発電システムの製造単価を下げるほどのインパクトもあるはずで、そうなれば普及に拍車がかかるだろう、という。

災害時に役立つ、個人電力貯蓄設備に対する導入補助もすべきというオフィスの直流化は、直流⇔交流の変換による電力ロスを防ぐ効果がある休耕田の活用も提言


自然エネルギーで発電する電力会社をサポートする仕組みも必要

 小林氏は個人を対象とした対策のほかに、街区規模での対策についても2つ提言している。1つ目は「再生可能エネルギーでの発電会社の支援」だ。

 これは下の写真で解説されているように、太陽光発電や風力発電、小水力発電など再生可能エネルギーの設置運営をする発電会社のファンドを作り、そこへの出資を募るとともに、発電で得られた利益を配当として回していくというもの。ただし、現状でこれを自由競争の市場に出してもコスト的になかなか見合わないため、配当への課税軽減を行なったり、公的機関も出資したり、出資に対する保証をするなどして、システムが円滑的に運営されるよう支援をするというわけだ。市場金利が極めて低い現在、多少なりとも金利が得られ、再生可能エネルギー活用に役立つということであれば、かなりの出資が集まるのではないかと小林氏はいう。

 2つ目は発電施設近傍への優遇策を通じた発電施設立地の円滑化だ。これは屋根など太陽光発電システムの設置用地の確保が難しい中、それを容易にするために発電施設の周辺に優遇策を講じよう、というもの。たとえば、用地周辺を含めた地域を“グリーンゾーン”とし、そこでの電力はカーボンフリー電力とみなすようにすると、自治体などに課せられるCO2削減目標に対して寄与できるというわけだ。

再生可能エネルギーで発電する電力会社をサポートするシステムが必要という発電施設立地を確保するために、施設周辺に優遇策を講じる必要もあるという


悲劇を二度と繰り返さないために、真の復興の一助となるように

 以上が黒川氏、小林氏の提言であり、来場者からもさまざまな質問や意見も寄せられていた。こうした提言を受けてPV-NETとして次のような声明を出している。


 太陽光発電所ネットワークは、自然エネルギー、中でも太陽光発電の普及・拡大を願い活動してきました。そうした中、この度の原発事故を目の当たりにし、われわれのなすべき役割は非常に緊要であることを更に強く自覚しました。

 この悲劇を二度と繰り返さないために、また真の復興の一助となるよう、今後、我々はこれまで以上の勤勉さと緊張感を持って事に当たっていきます。同時に、必ずや原子力と化石資源に頼らない社会の構築に向けて、以下の事項を、国はもとより社会に対し広く要請いたします。


(1)国は原子力と化石燃料に頼らない社会の実現に向けて、地域分散型の自然エネルギーを基軸にするエネルギー政策への転換に早急に着手すること。

(2)災害の復旧を期に、太陽光発電等の小規模電源をネットワークした次世代型システムの構築を図り、安全・安心で効率的なエネルギー供給ができるまちづくりを図ること。

(3)エネルギー問題は国民一人一人に係わることであり、当事者である国民・産業もあらゆる面でエネルギーの無駄を省き、電気の熱利用を慎み、自然エネルギーの効率的な利用に努めること。併せて、国はこうした国民生活を促進し、新しいエネルギー社会へのシフトを促す施策を強く推進すること。


 現在、原子力発電をどうしていくかは、日本の将来へ向けての大きなテーマであり、簡単に結論が出せるものではない。また、原子力発電を太陽光発電を主体とした再生可能エネルギーに簡単に置き換えられるというものでもないし、もしそれを実現するにしても数多くの課題もある。

 ただ、何が問題でどんな解決策が考えられるのかという情報も少ない今、太陽光発電を実践している人たちが集まる市民団体が主催し、技術的リーダー、政策的なリーダーとともに提言していくという試みは非常に興味深い。提言の中には、直ちに実施可能なものから、すぐには難しいものもあるが、今後のエネルギーを考える上で、大きな参考になるのではないだろうか。


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http://kaden.watch.impress.co.jp/backno/category/index_c124s336.html


(藤本 健)

2011年5月10日 00:00