停電時における太陽光発電の活用方法
■停電時に太陽光発電は使えるのか?
筆者の屋根に設置しているシャープ製の太陽電池を太陽光発電システム |
東北地方太平洋沖地震の被災者の方々に謹んでお見舞い申し上げます。この地震で今もって停電を強いられている地域が多数あるほか、福島の原発事故で東京電力エリアでは現在、計画停電が行なわれている。
こうした停電において「太陽光発電が活用できるのでは?」、「どうすればウチの太陽光発電を活用できるのか?」といった問い合わせが太陽光発電メーカーや販売店などに殺到しているという。そこで、改めて停電と太陽光発電システムの関係を考えるとともに、どのようにすれば停電時に太陽光発電を活用できるのかを考察してみたい。
住宅用太陽光発電システムは、昨今の環境問題で脚光を浴びているが、2009年11月からスタートした余剰電力を高額で買い取ってもらえる制度や、国や自治体による多額な補助金制度が再開されたことなどにより、ここ1、2年、国内の需要が急増していた。そこに来て、今回発生した地震災害と停電により、太陽光発電への関心が高まっている。
そう、電力会社からの電力供給が止まっても、太陽光によって自家発電できれば電力を賄えるからだ。もちろん、家自体が地震や津波、火事などで崩壊したり、焼失していないことが前提とはなるし、発電できるのは日中の太陽が出ている時間に限られるわけだが、長期間停電している地域の場合、ある程度でも電力供給できることは、大きな意味を持つはずだ。
たとえばテレビをつけることができたら、情報をつかむ上で大きく役立つはずだし、携帯電話の充電ができれば連絡用にも大きな助けになるだろう。
もしニッケル水素電池などの充電池があれば、これを充電しておくことで、夜間ずっとLED懐中電灯で照らすこともできるはずだし、ラジオなどの電源用にも活用できる。さらに井戸のポンプが使えれば水の確保にも役立つし、水があれば電気ポットでお湯を沸かせることも大きな意義があるはず。
もちろん被災地に限らず、首都圏を中心とした輪番停電においても太陽光発電は威力を発揮する。これも停電するのが日中の太陽の光が得られる時間帯であった場合に限られるわけだが(必ずしも晴れていなくても、ある程度の明るさがあれば発電できる)、まずは停電時にも電気が得られるというのは大きな安心材料になる。用途はテレビ、パソコン、家電機器……とさまざま。ただし、後でも記述するとおり、商用電源と異なり安定した電力が保障されるものではないため、電気が途絶えると破損する恐れのあるパソコンやHDDレコーダーなどでの使用には注意が必要だ。
では、実際に停電のときに、どのように太陽光発電を利用すればいいのだろうか? 導入していない人にとっては、あまり想像もつかないだろうし、ユーザーであっても使い方を知らない人が9割以上だという。そう、太陽光発電システムを導入してさえいれば、停電になっても、そのまま電気を使い続けられるわけではないのだ。
■まずはパワコンの設定を「自立運転」に切り替えよう
太陽光発電システムにより発電した直流の電力を、100Vの交流に変換するパワーコンディショナー |
以前「家庭向け太陽光発電システムって実際どう? ~“ソーラーマニア”藤本健が体験した5年間」の連載でも紹介したとおり、屋根の上の太陽電池で発電された直流の電力はパワーコンディショナー(以下パワコン)によって100Vの交流に変換されるとともに、電力会社の電力と系統連系(東京電力の配電線に接続すること)を使用する。これにより、発電した電力は家庭内で使われ、電力が余れば売電される。反対に電力が足りないと電力会社から供給される、といった動作が自動的に行なわれるのだ。
しかし、停電すると系統連系が切れるとともに、パワコンの動作もストップしてしまい、太陽光発電システムとしての発電も停止してしまう。結果として太陽光発電システムを導入している家庭もそうでない家庭も同じように停電してしまうのだ。そのため、苦情や質問が太陽光発電のメーカーに殺到しているわけだ。
とはいえ、これはその仕組み上、当然のことであり、マニュアルを見ればそうした注意書きが記載されている。では、停電時に太陽光発電システムを活用するには、どうすればいいのだろうか?
操作手順そのものは、メーカーや機種によって異なってくるが、パワコンの設定を系統連系がら自立運転に切り替えてスタートさせればいいのだ。自立運転とは、言葉通り電力会社からの電源とは完全に独立、自立する形で自家発電すること。
この場合の出力は通常のコンセントからではなく、非常用コンセントからのみの供給になるから注意が必要だ。そう、屋内で配線・設置されている照明機器や組み込み型の電気機器、また通常のコンセントに接続されている家電機器などは停電によって一切動作しない。動作させるためには、非常用コンセントに接続しなおす必要があるのだ。また自立運転させる場合、マニュアルに書かれていなくても太陽光発電ブレーカーをオフにしておくことも重要。自立運転には商用電源との確実な遮断が必要だからであり、電気系統に重大な事故を起こす可能性を避けるためにもオフにしておくべきなのだ。
ところで、この非常用コンセントがどこにあるかは、導入したパワコンや設置工事によっていろいろと変わってくる。室内用のパワコンの場合、パワコンの右側配置されているケースが多いようだが、室外用のパワコンの場合は、非常用コンセントが別途設置されているだろう。もっとも非常用コンセントの設置はオプション扱いであるため、中にはこれを設置していない人もいるかもしれないので、まずは確認しておくといいだろう。
パワコンの設定を自立運転に切り替える場合は、必ず太陽光発電ブレーカーをオフにしておく | 筆者の自宅の場合、非常用コンセントはパワコンの側に配置されている |
■供給できる電力は1,500Wまで
ここまでで、停電時において、太陽光発電が有効だということは分かってもらえたと思うが、使う上で制限があることもお知らせしておこう。まず、太陽光発電システムが3kWであっても5kWであっても、非常用コンセントから供給できる電力は1.5kW(1,500W)が上限となる。これは各メーカー共通の仕様であり、1.5kWを超える発電をしていても、それは使うことができずに消えてしまう。
普段、それぞれの機器がどの程度の電力を使っているのかを気にすることはあまりないだろうし、照明と充電器とテレビを同時に駆動したら何Wになるかなど考えたこともないと思うが、自立運転をしている際はこれが重要な意味を持ってくる。そう、1,500Wを超えると容量オーバーで電力が遮断されて、すべてが一気に落ちてしまうのだ。
さらに難しいのが日差しの問題。日差しが強く1,500W以上を安定して発電できていればコントロールしやすいが、雲が多く時々、日差しが途切れる場合、発電の出力は急激に低下するが、この際に使用電力がオーバーしていると、やはり容量オーバーで遮断されてしまうのだ。
そのため、デスクトップパソコンのように電源が急に途切れると故障する恐れのある機器の利用は避けたいところ。パソコンを使うならノートパソコンなどバッテリーを搭載していて電源供給がなくなっても落ちることがないものを使うのが望ましい。その上で、ワットチェッカーなどを使って使用している電力を確認しながら、太陽光発電のモニターで現在の出力を確認しながら使っていけば間違いないだろう。
■非常時に備えて、実際にテスト
さて、ここで筆者自身も、この自立発電を試してみた。太陽光発電マニアだから、もちろん以前にも自立発電は試したことがあったが、今回改めて試してみたところ、個人的にショッキングな事実も判明してしまったのだ。
輪番停電などという自体は想像したこともなかったが、太陽光発電システムを導入したときから、「もしライフラインがストップしたら……」ということは、常日頃考えてはいた。
そのため、非常用コンセントから遠くまで電気をひっぱれるように電気ドラム(屋外用延長コード)も用意していたし、エネループも100本近く備えていて、これで使えるLEDライトもいくつも持っている。極めつけは井戸。横浜市内の駅から近い地域ではあるが、土地を購入したときに浅い古井戸があったことを発見し、ここに揚水ポンプを取り付けておいたのだ。水質検査もしたところ、飲むことも可能だったので(飲適マークは塩素消毒した水でないと出ないので、検査項目からの自主判断ではあるが)、いざというときには近所への配布なども可能なはず、などと考えていた。
そこに、まさかの災害が本当に発生してしまったというわけだ。ただ幸いなことに、筆者の居住地域は東京電力の計画停電回避地域となっていて、隣の町内は停電しているようだが、ウチは今のところ停電はしていない。が、いつこの地域指定が解除されてもおかしくないので、予行演習を行なってみたのだ。
今回は、井戸の湯水ポンプを動かしてみた。まず配電盤のところへ行き、太陽光発電ブレーカーを落とすと、モニターには停電を示す表示がされる。ここで、「運転/停止」ボタンを押して停止させ、次に「連系/自立」ボタンを押して自立に切り替え。そして再度「運転/停止」ボタンを押して運転を開始すると、非常用コンセントから出力が得られる。ここで、さっそく電気ドラムを使って非常用コンセントからの電気を屋外へ引っ張り出し、ポンプに接続。
太陽光発電ブレーカーを落とすと、パワコンのモニターには停電を示す表示がされる | 運転を自立に切り替えて、非常用コンセントからの出力を開始 | 電気ドラムを使って非常用コンセントからの電気を屋外へ引っ張り出し、ポンプに接続 |
井戸水用のポンプの定格消費電力は470Wで、出力にはかなり余裕があるはずだかスムーズに動かない |
水を出してみると、ポンプが動き出すのだが、どうも様子が変なのだ。通常なら「キュイーーン」という音がして水を汲み上げるのに「キュン、キュン、キュン…」と短く動作する繰り返し。なんとか水を汲み上げてくれてはいるようだが、あまり続けていると壊れそうな気がして、停止させた。
そのときは晴天の午前11時ごろで、それまで出力は2,300Wを超えていたから、非常用コンセントからも1,500Wの出力はあったはず。またポンプの定格消費電力は470Wだから、かなりの余裕はあるはずなのに。一般的にモーター系の機材は、初動時に大きく電流が流れる「突入電流」があり、瞬時であっても消費電力が1,500Wを超えると容量オーバーとなってしまう、という問題がある。この井戸のポンプもそんな問題があったのかと、ちょっとガッカリしてしまった。
ここで気を取り直して次の実験。手元に携帯の充電器や扇風機など消費電力が小さい機器がいろいろあったので、これらを接続してみたら、こちらは問題なく動く。ワットチェッカーで確認してみたところ、電圧は101.4V、出力117W、周波数49.8Hzと問題ない。
ワットチェッカーで確認したところp、電圧は101.4V | 出力は117Wだった | 周波数は49.8Hzだった |
さらに試してみたかったのがIHクッキングヒーターだ。実は、前々から非常用に買おうと思いながら買っていなかったので、やはりこのタイミングで揃えておくべきだろうと近所の量販店に見に行ったのだ。各メーカーのさまざまな製品があり、主なものは1,400Wで価格は1~2万円程度。とはいえ、非常用コンセントは1,500Wまでしか使えないので、どうしようかと思っていたら、一回り小さく出力も1,000Wという安いものがあったので、これを購入して試してみたのだ。
が、ここでも問題が起こってしまった。井戸のポンプのときのように、動作が不安定なのだ。電圧を見ると、上がったり下がったりを繰り返し、低いと70Vを下回る。パワコンのモニターは最大800W程度にまで上がるが、それも激しく上下しており、まともに使えない。ここでも突入電流があるのだろうか、とにかく変なのだ。
出力が1,000WのIHクッキングヒーター | 電圧が不安定で、70Vを下回る数値が出てしまった | パワコンのモニターでは875Wまで上がるが、安定しない |
そこで、今度は液晶テレビに接続してみた。これは2006年に購入したシャープの37型AQUOS。最大消費電力は198Wとあるから、これは絶対に問題ないはず。が、こちらでも同様のトラブルが起こってしまった。電源を入れると一瞬画面が映るのだが、その瞬間に消え、また数秒後に映っては消えるの繰り返し。これは間違いない、パワコン側の故障・トラブルだ。
考えてみれば、以前、非常用コンセントのテストをしたのは3年以上前で、それ以降は触りもしなかった。しかも、その後1回故障でパワコンを交換しているから、現在のパワコンでのテストをしていなかったのだ。これではマニア失格。定期的に自主点検をしていなかったのは、ミスだった。
このタイミングで修理を依頼して、すぐに来てくれるかは分からないが、さっそく連絡してみるつもりだ。普通の系統連系では問題なくても、こうしたトラブルは起こりうるので、被災地域や輪番停電を強いられている地域の方が実践するのはもちろん、そうでない方も一度テストしてみる価値はあるはずだ。
なお、筆者も加入している太陽光発電のユーザー団体であるNPO法人太陽光発電所ネットワークの会員間のメールのやりとりでも自立運転の話題が盛んであり、それぞれうまく活用しているようだ。今のところ筆者のようなトラブルの話は聞かないが、やはり太陽に雲がかかると、その瞬間にすべてがダウンするのでなかなか扱いが難しい、といった声も出ている。
まあ、故障というのは論外だろうが、停電時の太陽光発電利用が一般の家電のように便利で簡単というわけではないのは事実だ。しかし、いざというときにある程度でも電力が得られるのは重要なメリットだろう。とかく経済的な収支にばかり注目が集まっている太陽光発電だが、こうした緊急時への対応機材としての側面を改めて考えてみてはいかがだろうか?
【追記 2011年3月31日】上の記事が掲載された日、シャープに修理の依頼をしたところ、素早い対応で、翌日にはサービス担当者が来てくれた。ただ、そのとき、ちょうど曇ってしまい、再現することができなかったため、数日後、改めて快晴のときに見てもらった。
記事にも書いたとおり、井戸のモーター、IHクッキングヒーター、液晶テレビでうまく動作せず、電圧が上がったり下がったりする旨を伝えていたのだが、そのときに担当者が自立運転でテストしたのは白熱灯。実はこれでは問題が起こらなかったのだ。さらに1,100Wのオーブントースターでも問題が起こらず、「太陽電池パネル、パワコンとも正常に動作している」という結論となった。
確かにテレビはやはりうまく動かなかったのだが、「モーター類はもちろん、液晶テレビなどの電子機器も急な電力変動があるので、うまく動作しない。あくまでも緊急用の自立運転は、電球を付ける程度のことしか想定していない」というのが担当者の言い分であり、諦めざるをえなかった。なお、携帯電話や充電池の充電器は正常通り動作したのを確認した。
その後の実験で、オーブントースターをつけながらテレビに接続すると電圧変動比率が下がるためか、うまく動かせることがわかった。通常の系統連系をしている状況ではまったく問題もないのだが、自立運転時の運用はかなり難しいのが実情のようだ。これまでに日本では停電など考えられないものだったので、自立運転は軽視されていたのだろうが、今後のパワコンはこの辺の機能をより使いやすいものに設計しなおしてもらいたいというのが、各メーカーへの率直な願いだ。
2011年3月23日 00:00