家電トレンドチェッカー

超音波加湿器の弱点克服した進化形 カドーに加熱除菌の仕組みを聞く

カドーの加湿器「STEM 500H」

関東では、冬にしては暖かい日が続いているが、それでも寒くなってきた。寒さとともにやってくるのが乾燥の季節。筆者は乾燥が苦手だ。喉や鼻が乾くと、すぐに咳込んだり風邪をひいたりする。そのため、冬には加湿器が手放せない。筆者のようではなくても、インフルエンザや春の花粉など、加湿器の購入を考える人の多い季節といえる。

現在販売されている加湿器は大きく3つに分類できる。1つは湯を沸かして蒸気を発生させる「スチーム式」。タオルを濡らして干しておくのと原理が似ている「気化式」。それに、超音波で水を振動させて細かい粒子にして放出する「超音波式」。

いずれの方式も一長一短があり、これが最も優れた方式だと断言するのが難しかった。そんななか、Makuakeの内覧会で見つけたのが、カドーの加湿器「STEM 500H」だ。価格は33,000円。

ざっくりと仕組みを解説すると、水を70℃にまであたためて除菌し、そのうえで清潔な水を超音波で細かくして放出するというもの。

これこそ求めていたものじゃないか!? と思い、詳細な仕組みを含め、清潔性や安全性、経済性、今後のモデル展開などを確かめたくなった。そこでカドー本社へ、古賀宣行 代表取締役社長を訪ね、詳細を聞いてきた。

加熱式と超音波式のいいとこ取り

古賀社長は、長年ソニーでウォークマンの開発に携わった後、2011年にカドーを創業した。初めに手掛けたのが、空気清浄機だ。米国家電製品協会の規格「CADR(クリーンエア供給率)」において、日本メーカーとして初めて、1分間に供給できる清浄な空気の量で世界最高値を2012年10月に獲得している。

古賀社長(以下敬称略):空気清浄機を作った後に、次は加湿器を作ろうとなったのですが、加湿器といっても、もちろん世の中にないものを作りたいと思い、あえて超音波式を採用しました。

――その頃、既に超音波式はありましたよね? なぜ「世の中にないものを」といいつつ、超音波式を採用したのですか?

古賀:その頃は中国製の安いモデルが超音波式の代名詞みたいに思われている状態で、ミスト量もひょろひょろ〜っと弱かった。でも、超音波式は電源を入れると、すぐにミストが立ち上がります。そうした性能や効果を目で見えるようにしたかった、可視化、ビジュアル化したかったんです。なぜかといえば、その前の空気清浄機は、世界ナンバーワンのものを作ったけれど、一般のユーザーには、その効果が見えないし分からないんです。だから加湿器では、ビジュアルで魅せられるものにしたいと思ったんです。

――でも、ミスト量はひょろひょろ〜という感じだったんですよね?

古賀:そう。だから第1弾モデルでは、超音波の振動子に、TDK製の業務用に開発された製品を採用しました。それで、もくもくとミストが立ち上るモデルを実現できました(2世代機からは自社開発の振動子を採用)。また、雑菌に関しては、抗菌プレートを新たに開発して対策したんです。これがスタートです。

――ほかにも超音波式にこだわった理由はありますか?

古賀:超音波式の良いところは、まずデザインの自由度が高いことです。そして省エネ性も高い。電源をオンにすると、すぐにスッとミストが出てくること……つまり効果が早い。そしてマイナス面は、雑菌が沸きやすいところですね。

超音波式は本体デザインの自由度が高い。写真は、2019年に発売された「STEM630i」

――そこから、今回のハイブリッド式の開発までの経緯は?

古賀:超音波式加湿器をずっと作ってきたんですけど、象印マホービンさんのスチーム式……加熱式の加湿器が、大変人気になった。少し前までは、ダイニチさんの気化式(ハイブリッド式)が人気でしたが、最近では、象印マホービンさんのスチーム式の市場からの評価が高いです。なんでかと考えると……

――清潔だからでしょうか?

古賀:そうです。水を沸騰させているから除菌されて、とても清潔です。そのため、特に衛生面に気を使われる方々に、受け入れられています。こうした衛生面を第1に考える、そうしたニーズに応えられる製品を作れないかと思い、考え始めたんです。

――そこで考えた結果が?

古賀:加熱式と超音波式のハイブリッド式です。やっぱり我々が作ってきた超音波式は、衛生面でスチーム式にかないません。でも、ヒーターを内蔵して、超音波式と組み合わせれば、スチーム式の衛生面と超音波式の省エネ性のいいとこ取りができるんじゃないかって思ったわけです。それと同時に、ボタンを押せばすぐに噴霧し始める超音波式の即効性はそのままです。

――そこで加熱除菌してから超音波振動子でミスト化することにしたのですね。

古賀:そうです。その加熱も、水を100℃まで煮沸しなくても、70℃で30分間あたためれば除菌できると分かったんです。さらに、使用時に常に100℃で煮沸しているスチーム式よりも格段に電気代を抑えられます。具体的には3カ月の電気代が、スチーム式が約18,000円なのに対して、「STEM 500H」は約3,000円です。これで、スチーム式と超音波式のいいとこ取りができたなと思っています。

――では、今回の方式はカドーが最初に開発されたということですか?

古賀:もちろんです。超音波式もハイブリッド式を含む気化式も、“水をあたためる”モデルは他にもあります。ただし、目的が除菌ではありません。他のモデルで加熱しているのは、ミスト量を増やすためなんです。そのため除菌効果については、十分な検証が行なわれていないケースがほとんどです。そうした従来モデルとは異なり、我々のは、除菌が最大の目的で、そのために設計された加熱と超音波のハイブリッドの加湿器は「STEM 500H」が日本初です。

――除菌目的で加熱するのは日本初ということですね。世界では?

古賀:海外まで細かくは調べてはいませんが、調べた範囲では、除菌効果を第三者機関の試験結果として公表したは、 「STEM 500H」が初めてです。

ミスト化前の水を12時間ごとに70℃まであたためて除菌する

――加湿器の新モデル「STEM 500H」は、加熱式と超音波式のいいとこ取りとのことですが、その詳細な仕組みを解説してもらえますか?

古賀:まず、本体上部にある半透明の水タンクに水を補充します。その水が本体の下部に送られ、一旦、プールされます。そこで、内蔵ヒーターで12時間ごとに70℃まであたため除菌したうえで、超音波の振動子で霧化……ミスト化して立ち上がらせるというのが基本構造です。

使用時、まずは本体の上部半分にあたるタンクに水を溜める。そこから、本体下部へと水が送られ、水があたためられてからミスト化して放出する

――70℃まであたためることで、清潔にしたうえで噴霧するということでしたよね。今までの超音波式だと、稼働せずに水を溜めておくと、菌が繁殖しやすかった。それを一度除菌すると……これは「除菌」という言葉を使っても良いですか?

古賀:除菌です。菌がいなくなります。超音波式も気化式もですが、常に加湿して新しい水を送り込んでいれば、それほど菌の発生はありません。しっかりした製品であれば、抗菌プレートを使ったり工夫されていますからね。でも1日、使わない期間があったりすると、菌が発生しやすくなります。

――例えば、正月に帰省したり旅行へ行く時などですよね。使っていた加湿器に水が残っている状態で、そのまま放置すると、菌が発生するということでしょうか。

古賀:そういう状況だと繁殖しやすいです。

――そもそも、なぜ菌が繁殖するんですか? 例えば今回の「STEM 500H」でいえば、菌が発生するとすれば、どこから入ってくる?

古賀:水をプールしているところに外の空気が入ってくるんです。稼働中はなおさらで、霧化した空気を上に押し上げているので、その代わりに外の空気が入ってきます。その空気と一緒に、菌が入ってきて繁殖するんです。そこで加熱機能がなくメンテナンスもしなかった場合は、繁殖した菌が、そのまま霧化されて部屋に送られてしまいます。しかも超音波式は、振動子が動くと、水が少しぬるくなるんです。その温度が、菌を元気にしてしまいます。新モデルでは、そうした菌の繁殖を抑制するため、70℃まであたため、除菌しているわけです。

本体内部に本体上部から送られてきた水がプールされる。写真中央の丸いパーツが、水を霧化する超音波振動子。その上の四角いパーツが、水を70℃まであたためるヒーター

――「STEM 500H」では、加湿器を使っていなくても、たしか12時間に1回は内蔵ヒーターであたため直すんですよね?

古賀:コンセントに電源コードが差し込まれていて、なおかつ水がプールされていると、自動で12時間ごとに加熱されて、除菌する仕組みになっています。実は、1日に1回あたためれば、菌は繁殖しないと分かったのですが、念のため12時間に1度、30分間、自動であたためるよう設定しています。

――菌が繁殖しないと、どんなふうに確かめたんですか?

古賀:実は今でも調べています。ここに、半年間一切掃除しないで使い続けている「STEM 500H」があります。この内部のプールされている水を、綿棒でシャーレにすくい入れます。そのシャーレを、菌が繁殖しやすい温度……35℃であたためながらひと晩置いておくんです。まぁ育てています。そして、こちらが「STEM 500H」から採取したものですが、菌はいません。逆に、加熱機能のない加湿器からすくった水を、同じ環境に置いたものがこちらです。すると、1日でこんなふうに菌が増えるんです。

加湿器から採取した水を載せて、ひと晩おいたシャーレ。左が「STEM 500H」から採取したもので、ほとんど菌が見られない。右が、加熱機能のない加湿器から採取したもの。よく見ると菌が繁殖していることがわかる
加熱機能のない加湿器から採取したものは、ひと晩おくと菌が繁殖する。なお、菌を確認しやすいよう赤く染色している
半年間メンテナンスせずに使い続けている「STEM 500H」から採取したシャーレには、菌が見あたらない

――うわっ……70℃に加熱すると、こんなに違うものなんですね。

古賀:違いますね。もちろん、菌を繁殖しやすい環境に置いたからなのですが、メンテナンスしないで放ったらかしにしていると、通常だと菌が繁殖してしまうんです。ひどい場合には、水を触るとぬるぬるします。

加熱除菌する超音波式加湿器がスタンダードになる?

――加湿器の加湿方式には大きく3つありますよね。スチーム式と気化式と超音波式です。清潔性で考えると、本当にスチーム式が一番安全ということだったんでしょうか?

古賀:単純に煮沸しているスチーム式は、最も安全といえます。スチーム式は、電気ケトルと同じような構造ですが、電気ケトルで菌の繁殖が心配などとは言われませんよね。加湿器の大手メーカーが採用しているのは、スチーム式か気化式で、超音波式を採用していませんよね。衛生面を配慮して、そうなっているのだと思います。

――スチーム式は安全性の面で一番安心なのは分かります。でも、ずっとお湯を沸かした状態だから電気代がかかるし、熱湯がこぼれないか、本当に万が一がないのか不安で、小学生の子供がいる我が家にはどうなのかなぁと。一方の気化式は、電気代は抑えられるけれど、個人的には効果が感じられるまでのタイムラグが長い……正直いうと、濡れタオルを部屋に干しておけばいいんじゃないかと思ってしまいます。残るは超音波式ですが、安全性に不安があった……そんなところに、今回の加熱除菌する新しいハイブリッド式が出てきて、かなり惹かれています。これなら安心度が高いし、超音波式を躊躇していた理由の多くが解消された気もします。

加湿方式スチーム式気化式超音波式STEM 500H
衛生面(菌)
安全性(水温)
省エネ性
即効性

古賀:ありがとうございます。実は先日、「STEM 500H」の導入を検討したいと保育園の方が来られて、説明する機会がありました。その時に聞いた話ですが、保育園にはスチーム式は置けないと。なぜかといえば、子供たちは色々と触りたがる。もちろんスチーム式も安全機能がついているのは分かるけれど、万が一、水が漏れてしまったら、子供に火傷を負わせてしまうから心配だと、おっしゃっていました。

――その気持ちは分かります。子供って好奇心が旺盛なので、大人の想像を超える行動を取りますからね。子供がいる家庭だと、そのあたりは、どれだけ安全だと言われても心配しますよね。

古賀:「STEM 500H」は、加熱した水を霧化していますが、この噴出口のミストを触っても、熱くありません。普段は冷たいですし、12時間に1度、加熱している間でも噴出口は40℃くらいなので火傷する心配はありません。

噴出口のミストはもちろん、噴出口の周辺を触っても熱くない

――今ちょうど加熱していますが、全く熱くないですね。(本体を分解して)あたためられた水の中に手を入れても、熱いですけれど、すぐに火傷するほどではないですね。

古賀:そうなんです。だから、万が一、本体を倒してしまっても、火傷のリスクを大きく抑えられる設計になっています。

加熱されている本体内部のお湯を触っても、ただちに火傷する温度ではない

――ということは、70℃までの加熱というのが、衛生面でも省エネ面でも、安全面でも肝になっているということですね。

古賀:まさにそうです。そのためスチーム式や気化式、もちろん一般的な超音波式と比べても、加熱除菌する新しいハイブリッド式の超音波加湿器「STEM 500H」は、人々のニーズに最も応えられるものだと思います。我々は、この方式を加湿器のデファクトスタンダードにしたいと考えています。

こうして「STEM 500H」の話を聞くと、他のモデルのような心配事がほとんど解消されているように感じた。もし新しい加湿器を買うなら、「STEM 500H」が最も理に適っている気がしていることから、今後試してみたいと思っている。

もくもくと立ち上るスチームを見ているだけで気持ちいい
ミストがキメ細かい点も「STEM 500H」の特徴。ミストの質が高いのだ

河原塚 英信