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2026年は積極的仮眠「パワーナップ」でストレスフリーな毎日を

「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM」の展示があったのはミラノ・ブレラ地区にあるオークションハウス「BLINDARTE Milano」

パワーナップという言葉をご存じでしょうか。 睡眠負債という言葉が聞かれるようになって久しいですが、足りない睡眠を午後の短時間の仮眠で補い、休息を積極的に取り入れることでパフォーマンスを最大化しようという考え方です。

2025年の取材でも、パワーナップを実践するためのツールや取り組みが数多く登場しました。睡眠改善インストラクター歴13年の筆者ならではの視点で各社の取り組みを振り返りながら、2026年をストレスフリーに過ごすためのパワーナップについて考えてみたいと思います。

どこでも休息『15分睡眠服』をミラノで体験

パワーナップとは昼間の15~30分の仮眠のことで、米国・コーネル大学の社会心理学者ジェームス・マース博士が提唱したものです。脳疲労を回復し、認知能力や注意力を高める効果が科学的に認められています。

以前にもお伝えしたように、2025年4月に取材したミラノデザインウィークでは、現代の情報化社会における“休息の新たな形”を模索して生まれた「15分睡眠服」が展示され、注目を浴びていました。未来的なデザインと科学的根拠を融合させたこの取り組みは、パワーナップの可能性を体感させてくれるものだったと思います。

こちらの「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM(ズズズン スリープ アパレル システム)」を手掛けたのは日本企業のコネルです。どこでも、どんなときでもこの服を身に着けて15分休むことで、元気を取り戻そうという思いが込められており、ユーザーがよりリラックスできる睡眠環境を提供することを目的としているといいます。

パーソナルな睡眠環境を与えてくれる「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM」の15分睡眠服を装着中

昭和の時代にあった「かいまき布団」をグッと未来的にしたようなこの服は、びっくりするほどふかふかでやわらかく、かつ軽いのが特徴。袖、裾のドローコード、抱きタブから着圧を調整することで、個人に合った寝やすさになる仕組みです。横になってみるとヘッドピースに組み込まれたヘッドフォンからは入眠しやすい周波数帯域の音楽(2種類あり)が流れ、目をつぶると何となく赤いような光に照らされていることがわかります。

ふかふかの寝具に包まれ、まるで自宅の布団で眠っているような安心感がありました

これは後で聞いたところによると、入眠しやすい周波数帯域の2種類の音楽が流れ、夕焼けの色に近い赤色灯照明を採用とのこと。その人の生体データをもとにチューニングされた明滅リズムを、まぶたの裏で感じることができるようになっていたのですね。目覚めには、心地よく起きられる楽曲と目が覚める青色照明で、体のスイッチがスムーズに移行できる仕掛けになっていることにも感動しました。

6月後半から7月上旬にかけての2週間、大阪・関西万博にも出展していたので、体験してみた方も多いのではないでしょうか。

ネスカフェ×TOYOTAによるコーヒーナップの提案

原宿駅からすぐのところにある「ネスカフェ 原宿」。3階に「ネスカフェ 睡眠カフェin原宿」があります

2025年8月~12月、原宿にあるネスカフェ 睡眠カフェでは、TOYOTAが開発した戦略的仮眠ツール「TOTONE」とコラボした、コーヒーナップの提案が行なわれました。コーヒーナップとは、短い仮眠の前にカフェインを含むコーヒーを飲む仮眠スタイル。睡眠とカフェインは一見、相性が悪いように思うかもしれませんが、コーヒーを飲んだからといってすぐに眠気が飛んでしまうことはなく、ちょうど起きたころにカフェインでシャキッとして、その後のパフォーマンスに役立つといわれているのです。

TOYOTAが開発した戦略的仮眠ツール「TOTONE」をネスカフェ仕様にした特別モデルが期間限定で置かれていました

ネスカフェのプレス向け発表会では、広島大学 大学院 人間社会科学研究科の林光緒教授によるコーヒーナップのセミナーも開催されましたが、日中に眠くなりやすい人や、寝たりなさを感じているけれど睡眠時間の確保が難しい人、午後も活動的に過ごしたい人におすすめだそうです。

ポイントは、深過ぎず、浅過ぎない仮眠をとることで、「電車で居眠りをして頭がガクッとなるくらいの眠りの深さが近い」とのこと。アドバイスとしては、眠りすぎてしまうので横になって仮眠をしないことや、夜の眠りに影響しないように、夕方以降は仮眠をしないことなどが挙げられました。

2017年以降のイベント開催などを経て、2021年3月から「ネスカフェ原宿」3階に「ネスカフェ 睡眠カフェin原宿」をオープンしているネスレ日本が、コーヒーナップの認知を高めるために、トヨタが開発した戦略的仮眠ツール「TOTONE」とコラボ。コーヒーを飲んでから「TOTONE」で仮眠をとる体験時間は30分。筆者も「TOTONE」で横になる体験をしましたが、これがなかなか心地よく、うっかり本当に眠ってしまいそうになりました。

筆者も「TOTONE」の寝心地を体験。写真ではカーテンを開けていますが、実際にはこれを閉じて使用します

TOYOTAならではの車のシートに着想を得たシートは、ヒーターでじんわりと温められエアクッションの動きでゆりかごのような動きが再現されます。シートは素材・形状・厚さの異なる3層構造のクッションになっていて、沈み過ぎずに包まれ感のある絶妙な寝心地。トンネル&カーテン仕様の構造で、閉塞感はないのにプライベート空間が保たれているので安心して横になれます。

「TOTONE」に横になりながらトンネル状の空間を撮影した様子。布製のカーテン仕様なのでかすかに光が感じられ、閉塞感がないところが絶妙です

時間が来るとシートが穏やかに起きるのですが、これはストレッチ機能による起床時の“伸び”を再現していると聞いて感動しきり。最後は朝日をイメージした光と共にリクライニングが自動的に起き上がって終了です。

「TOTONE」は企業への導入、いわゆるBtoBの提案商品ですが、今後はさらに視野を広げて“整う+寝る”を基点に自動車内外に関わらず、幅広いサービスや商品を展開していきたいとしています。

旭川発、立って眠る仮眠ボックス「giraffenap」とは

蔦屋家電+の展示で体験した「giraffenap SPACIA」

二子玉川にオープンして10周年になる蔦屋家電1階にある、「蔦屋家電+(プラス)」で体験する機会を得たのが、北海道旭川市にある広葉樹合板株式会社が手掛ける「giraffenap」という仮眠ボックスです。「蔦屋家電+」は世界中のユニークなプロダクトやサービスを発見・体験できる次世代型ショールームというだけあって、この「giraffenap」もかなりユニーク。

そのネーミングの由来が、立ったまま短時間の睡眠をとるといわれている「キリン」と、積極的仮眠を意味する「パワーナップ」を併せた造語だと聞いて納得。「立ったまま眠り、熟睡しすぎない。短時間でさっと目覚め、仕事の復帰もすばやく」というコンセプトの通り、「頭・お尻・すね・足裏」の4点保持の姿勢によって立ったままでもリラックスでき、つかの間の仮眠ができそうだと思いました。

展示してあった「giraffenap」は、2種類あるうちのスペーシアというモデル。高い防音性と防火性能が確保され、換気扇や空気清浄機のほか、扇風機や7段階の調光と2つの調色機能を備えたLED照明、自動昇降装置なども備わっています。ボックス内部にはコンセントやUSBも完備され、仮眠時にスマホの充電も同時に行なえるなど、多方面に配慮されたボックスになっていました。

昼食後もお腹を圧迫されることなく、重力から解放されて眠れるという説明に「それはいいですね!」と思ったものの……今回、扉を開けたままでの体験だったのでよかったのですが、もしかすると閉所恐怖症気味の方(筆者もそうです)には少し厳しいところがあるかもしれません。

筆者も4点保持の姿勢によって立ったままでもリラックス…という謳い文句が本当かどうかを試してみたところ、意外にもリラックスできる姿勢でした
「giraffenap SPACIA」の展示の脇に置かれていたタブレットの説明画面

自宅やオフィスで簡単にできるパワーナップ術

取材を通じて、その重要性や試してみる価値のある取り組みとして注目していたパワーナップ。単に睡眠負債を補うだけでなく、実は、脳内のキャッシュ・メモリがクリアになったり、情報を整理・記憶したり、優先順位をつける脳のワーキングメモリが強化するなど、脳疲労回復のほか、認知能力や注意力などの向上につながることが科学的に認められているのですよね。

なぜなら、パワーナップでの睡眠では、ノンレム睡眠の中でも軽い睡眠レベルのステージ2まで到達します。ステージ2では、脳内に蓄積したキャッシュ・メモリがクリアされ、脳の疲労などが洗い流され、身体に良い効果をもたらすのです。横になって寝た場合には睡眠段階3まで到達し、深いノンレム睡眠に陥り、熟睡状態に入るため、起床時に頭がボーッとしてしまうので、この「ステージ2」というのがポイントなのです。

ここで、睡眠改善インストラクター歴13年の筆者がおすすめする誰にでも自宅やオフィスで簡単にできるパワーナップ術をお伝えしましょう。

【1】リクライニングチェア+アイマスク
特別な装置がなくても、アイマスクで遮光し、スマホのタイマーを15分にセットするだけで「簡易ナップ環境」が作れます。この時、横になるのはNGなので頭がぐらつかないようにリクライニングチェアなど、ヘッドレスト付きの椅子を使うのが理想的です。

ふかふかしていて、肌に触れる部分はシルク製なので使い心地がいい「耳までシルク遮光アイマスク」をパワーナップ用として愛用しています

【2】スマートウォッチやアプリの活用
Apple WatchやFitbitなどの「短時間アラーム」やスマートフォンのタイマー機能を使って15分に設定し、深い睡眠に入りすぎる前に起きられるようにしましょう。バイブレーションアラームにして周囲に迷惑をかけず、自分だけが心地よく目覚められるようにするといいですね。

Fitbit Versaのタイマーを15分に設定しておくと、かすかな振動で起こしてくれるのがちょうどいい感じです

【3】コーヒーナップの応用
「仮眠前にコーヒーを飲んで15分休む」ことで、ちょうど目覚める頃にカフェインが効いてスッキリした目覚めになります。ちなみに「15分後に起きよう」という意識づけをして仮眠をとると自然な目覚めを促すのでおすすめです。

【4】環境調整の工夫
イスの背もたれを少し倒す、静かな音楽を流す、ブランケットを使うなど、身近な工夫で快適度が変わります。

筆者はアトリエで仮眠する際には、壁際に置いたソファの上に大きなクッションを置いて首を安定させ、耳まで覆うようなアイマスクを使うようにしています。耳が温まることでよりリラックス感が高まり、雑音を遮断する効果もあるのでおすすめです。もちろん、仮眠の前のコーヒーも忘れずに。仮眠後は何だか頭がスッキリして、原稿作成もはかどるように思います。

ネスカフェのコーヒーナップのセミナーで「平日が難しい人は休日の昼間に実践するのもおすすめ」という話がありました。休日に“寝だめ”をするのではなく、積極的仮眠で英気を養うというのは眠りの習性として理にかなっています。なかなかオフィスでは実践しにくいという方は、まずは休日にこそパワーナップを取り入れてみてはどうでしょう。

神原サリー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。現在は家電+ライフスタイルプロデューサーとして、家電分野のほか、住まいや暮らしなどライフスタイル全般の執筆やコンサルティングの仕事をしている。モノから入り、コトへとつなげる提案が得意。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、メーカーの現場の声を聞くことを大切にしている。 テレビ・ラジオ、イベント出演も多数。