e-bike試乗レビュー

いろは坂で圧勝!! ロードバイクの“操る楽しさ”も味わえるBESVのe-bike「JR1」

BESV「JR1」があればアシストとロードバイクの両方のおいしいところが味わえる!

いきなり電話がかかってきて、「いろは坂で待ってます」と相手が言う。なんだかロマンチックなセリフで、思わずドキがムネムネしてしまう筆者。東京は多摩地区、聖蹟桜ヶ丘のいろは坂といえば、ジブリ作品「耳をすませば」の舞台となったところだ。劇中で主人公が男友達から告白された場所のモチーフになったスポットもあるらしい。

しかしまあ、在宅勤務続きで引きこもっている筆者に、そんな甘酸っぱい告白イベントフラグがなんの脈絡もなく立つわけがない。実際は、e-bikeのBESV「JR1」と筆者のフツーのロードバイクとで、「上り坂勝負をしましょう。どうせ勝てないでしょうけど、フフン」(後半意訳)というe-bike Watch編集部からの挑戦状である。

ほぼ室内サイクリング専門の筆者ではあるけれど、ほとんど毎日、1年半もの間乗り続けてきて、それなりに脚力もついたはず。「受けて立ってやろうじゃないの」と思いつつ、内心ドキドキしながら迎えた当日、いざガチンコ勝負!! してみたら、あっさり負けたのだった。スゴイなJR1、何者なんだキミは……。

いろは坂の頂上付近でやっつけられたシーン

105シリーズ採用で約15.7kgの軽量な車体。反則級のヒルクライム性能

編集部が意気揚々と持ち込んだBESV「JR1」は、いわゆるロードバイクタイプのe-bikeだ。ややマッシブ感のあるアルミフレームにリムハイト高めのホイールは、なかなかの押し出しの強さがあるが、シフト、ブレーキなどのメインコンポーネンツには人気の高いシマノ製の105シリーズが採用されており、見た目はまごうことなきロードバイクとなっている。

BESV「JR1」。価格は314,600円
ややマッシブ感のあるアルミフレーム
リムハイト少し高めのホイール
シフト、ブレーキレバー、ディレイラーなどはシマノの105シリーズを採用

そのうえで、ダウンチューブには目立たない形で252Wh(36V/7.0Ah)リチウムイオンバッテリーが、リアホイールにはオリジナルのドライブユニットがそれぞれ内蔵されている。アシスト弱めの「エコモード」、もっとも強力な「パワーモード」、走行状況に応じてアシスト力が変化する「スマートモード」という3種類のモードが用意され、ペダルを踏み込むと適切なアシスト力で加速してくれる。

ダウンチューブにリチウムイオンバッテリーが内蔵
リアホイールには250Wのドライブユニット
アシストオフのときのサイクルコンピューターの状態
「エコモード」にすると青になる
「パワーモード」は赤
紫色は「スマートモード」

車重は“わずか”約15.7kg(XSサイズ。Mサイズは16.0kg)だ。純粋なロードバイクとして見ればさすがに重いけれど、「電動アシスト付き」ということを考えればびっくりするほど軽い。一般的なシティサイクルがだいたい同じくらいか、これよりちょっと重い程度であることを考えると、その軽さがよくわかるだろう。

だから、このJR1でいろは坂を、筆者のフツーのロードバイク(しかもメーカー完成品ではない、中古パーツを集めてちまちま手組みしたもの)と競うなんて、控え目に言って反則級だ。世界中の各所の区間タイムが記録されているトレーニングアプリ「Strava」では、いろは坂は距離0.71km、獲得標高57メートル、平均勾配8%という、そこそこの急坂として登録されている。ジーンズ姿の編集部スタッフが駆るJR1はそこをなんと2分1秒で上り切った。筆者は自分のロードバイクで2分20秒だ。

いろは坂セクションのスタート地点
普通のロードバイクでいろは坂を上った筆者のStravaの記録。2分20秒

そのときの動画が記事冒頭にあるものだが、19秒という差は数字以上に大きい。先行するJR1のスタッフは涼しい顔で通過しているが、筆者はご覧のとおり必死の形相である。走り終えた後もJR1だとちょっと息が切れているかな、くらいのものだが、対して筆者は再び身動きできるようになるまで数分かかった。マジでめちゃくちゃしんどい。

頂上付近。うつろな目で景色を眺める筆者

「もう少し手前で抜き去るつもりだったんですけど、意外と速かったんでちょっと本気出しちゃいました。もう一本行きますか?」などと煽りを入れてくるスタッフ。前日に間違っていつもどおり室内サイクリングをしてしまい、全力でバーチャルレースに挑んでしまったからなあ……とか、当日は久しぶりの屋外サイクリングが楽しくて、現地までそこそこハイペースで走ってきてからなあ……とか、いろいろ言い訳も思いつくが、いずれにしろ完敗である。ロードバイクタイプのe-bikeをちょっとなめていたかもしれない。

悔し紛れに自転車を交換し、今度は筆者がJR1で、スタッフが筆者のロードバイクで、再びいろは坂を上った。結果、約1分の差をつけてコテンパンにやっつけさせていただいたが、初めて乗るロードバイクタイプのe-bike、短い上り下りの区間だけだったとはいえ、そのポテンシャルの高さには感動せずにいられなかった。そこで、しばらくJR1をお借りして、普段使いで乗ってみることにしたのだ。

低重心の安定感ある走り。街乗り性能も抜群!!

JR1の最初の印象は、軽量なオートバイみたいだな、というもの。バッテリーやドライブユニットといったある程度重量のあるパーツが車体の下部にあるため、走行中にハンドル操作したり、コーナーを曲がろうとしたときなどに車体を少し倒したりすると、自転車らしからぬ慣性が働いているように感じる。が、それも数分間乗り続ければ慣れてくる。

むしろ低重心による安定性の高さは、コーナリングでの安心感につながる。いろは坂の上りでも軽く時速20km以上を出しながら、つづら折りのコーナーをバンクさせて走り抜けていくときの気持ちよさは、オートバイでワインディングを走っているときの感覚に近かった。自分のロードバイクでは永遠に続くかに思われた地獄のヒルクライムが、楽しさしか感じない最高のサイクリングロードに変貌する。

バッテリー、ドライブユニットが車体の下側にあるため、通常のロードバイクより低重心

スピードが乗りやすい下り坂では、前後の油圧式ディスクブレーキがしっかり仕事をしてくれる。ブレーキパッドをそっと当てるくらいの緩いブレーキでも一定の減速力を発揮し、握り込んでいけばリニアに、強力な制動を加えていくこともできる。そして、下り坂のカーブも低重心のおかげで接地感が強く、不安なくクリアしていける。

コントローラブルな前後の油圧式ディスクブレーキ

アシストをオンにしておけば、平坦路ではスタートから瞬時に時速20kmを超え、時速26~28kmあたりで楽に巡航可能だ。必要な脚力は150~200Wほど、体重比でいえば2.0~2.8W/kgくらいだろうか。数字だとイメージが湧きにくいかもしれないが、簡単にいえば「ゆるポタ」レベル。心拍数も100~110bpmあたりの、ほどよく汗をかける範囲内で走り続けられる。

郊外の専用サイクリングロードはもちろんのこと、都心の車道も明らかに快適だ。たとえば幅員が広く、スピードを出しやすいように思える幹線道路は、実際のところ粗めの舗装になっているところも多い。細めのタイヤのロードバイクだとその凹凸が抵抗になって「前に進まない」感覚に陥るけれど、JR1ならなんのその。抵抗があってもその分アシストがカバーしてくれるし、ややワイドな25cタイヤの高い振動吸収性も助けになっている。

粗い舗装路面をものともせず走り続けられる
ややワイドな25cのタイヤとホイールはしなやかで、衝撃吸収性が高いと感じる

また、都心は信号や交差点が多くストップ&ゴーばかりで、意外とアップダウンも激しい。このあたりはやはりアシスト付きのメリットが一段と活きるシチュエーションだ。再加速の労力が最小限で済むし、上り坂については言うまでもないだろう。

ある日、自宅から都心の取材先まで、片道16km以上の道のりを1時間程度で走ってみたときは、疲労感が皆無で取材も問題なくこなすことができた。気温によってはさすがにTシャツの着替えが必要になる程度には汗をかいてしまうが、これならJR1を使って毎日通勤するのもアリだな、と思えるほど。

都心に取材に行ったときのStravaの記録。全体的に低い心拍数で走破できた

軽々とシフトチェンジしながらよりスポーティに走ることも

JR1は単にアシストが付いた軽量なロードバイク、というわけではない。そのアシスト力や軽量さを自在に活かせる変速ギアもポイントの1つ。フロントギアがシングルのe-bikeが多いなか、JR1は珍しくフロントダブルかつリア11速となっている。一般的なミドルクラス以上のロードバイクと同等の全22段変速で、シフト選択の自由度が高いのだ。

フロントはダブル
リアは11速

1段ごとの変化がなだらかなリア11速のおかげで、たとえばアシスト弱めの「エコモード」にしたうえで細かくシフトチェンジしながら、少し頑張ってスポーティな雰囲気で走ったりするのもおもしろい。あるいは、より力強い「スマートモード」や「パワーモード」を選び、シフトはほとんど固定にしたまま、ゆったり流すような走り方もOKだ。このへんも軽量でアシストを実感しやすいJR1だからこそ可能な部分のようにも思う。

ハンドル左右に設けられたデュアルアシストコントロールスイッチで、パワーモードの切り替えやサイクルコンピューターの操作が可能

平坦路をアシストありで走っている分には、アウターローター(フロント外側の重いギア)だけで十分だ。ただ、ロングライドではアシストをオフにしてバッテリーを節約しながら走りたいときもあるだろう。そういう場面ではインナーローター(フロント内側の軽いギア)を使えるのが利点となる。もしくは緩い上り坂が長く続くような場所で、アシスト弱め、ギア軽めの組み合わせでゆっくり景色を楽しみながら走りたいときにも役に立つ。

軽く踏み込むだけでパワフルに加速する「パワーモード」はたしかに心強いが、あえて弱めのアシストにし、105ならではのサクサク気持ち良く入るシフトを駆使して、自転車を操る楽しさまで味わえる、というのはJR1の大きな魅力だろう。もし出先でバッテリーが切れてアシストが効かなくなっても、2×11速のギアをうまく使うことで目的地まで難なく走破できてしまうのもうれしいところだ。

バッテリーがなくなってもフツーのロードバイクに戻るだけ

ここまでJR1の楽しさや快適さを思いっきりアピールしてきたのだが、弱点が一切ないというわけではない。ご存じのように日本のe-bikeや電動アシスト自転車は速度がアップしていくほどにアシストが弱くなり、時速24kmでカットされる。それはJR1も同様だ。先述のとおり時速28km程度までは軽く出せるけれど、時速30kmを超えようとすると、とたんにロードバイクとしてはややヘビーな生来の車重がネックに感じられてくる。

通常のロードバイクを使って時速35~40kmで巡航できるコンディションだったとしても、JR1でそれと同じ速度を出すには一段上の脚力が求められる。だからといって、決して「速く走れないのがつらい」ということを言いたいのではない。

たとえばロードバイクの友人らと一緒にサイクリングしようと思っても、トップスピードで遅れを取ってしまいやすく、別行動せざるを得ないシーンが多くなってしまうと考えられる(気を利かせてペースを合わせてくれるかもしれないけれど)。いくらアシスト付きとはいえ、いや、アシスト付きだからこそ、ガチロード勢に挑めるような“戦闘力”までは備えていない、ということは頭に入れておきたい。

しかし、そうは言っても、上り坂に入れば独壇場だし、疲れてしまうほどの脚力を使うことなく行動範囲を広げられて、どんなときでも自転車で走ることのおもしろさを味わえる。エコモードなら航続距離は115kmに達するので、よほどのロングライドでもない限りバッテリー切れの不安はなく、先ほど説明したとおり、もしバッテリーがなくなっても、ただフツーのロードバイクに戻るだけ。アシスト付き自転車のバッテリー切れ時の課題を、ロードタイプという部分で補ってくれているのだ。

アシスト状態での航続距離は最大115km。バッテリー切れでもフツーのロードバイクとして走れる
予備のバッテリーを携行していけば、航続距離は2倍に。オプションで専用バッグも用意されている

こういった自転車は盗難のリスクがどうしてもつきまとうので、セキュリティ面はやっぱり気を使うところ。別途頑丈なロックを持ち運ぶのは必須だろう。ただ、都内でいえば、最近は盗難されにくい低料金の自転車駐輪場も増えてきているから、通勤などの日常の足として使うのも大いにアリだ。

同様のアルミフレーム、ディスクブレーキで105コンポ採用のロードバイクとなると、相場はだいたい25万円前後~だから、電動アシスト付きで税込31万円余りのJR1は破格値ともいえる。そして、一般のロードバイクと共通のパーツを使っているということは、その分カスタマイズの幅が広いということ。ロードバイクには興味があるけれど、「始めるには敷居が高そう」「行動範囲を広げたい」「気楽に景色なども楽しみながら走りたい」という人にとって、JR1はベストな候補になる、と確信した次第だ。

日沼 諭史

モバイル、ガジェット、エンタープライズ系サービス、旅行、クルマ、バイク、オーディオ&ビジュアルなどなど、なんでも書くライターみたいなことをやっている人。