大河原克行の「白物家電 業界展望」

乾電池の品薄はいつまで続くのか?

~パナソニックと三洋の担当者に聞く今後の動向
by 大河原 克行

 東日本大震災以降、乾電池の品薄が続いている。

 量販店店頭では、いまだに単一形、単二形の乾電池が品薄のままという状態が続いており、主流となっている単三形乾電池を含めて、安定供給状態に戻るのは、年内一杯かかるだろうとの見方も出ている。

 実際、3月11日以降の乾電池の売れ行きは凄まじかった。

 市場全体では前年同月比2倍の売れ行きを示したものの、単一形や単二形では、前年同月比3.5倍から4倍の売れ行きになったとみられている。

量販店店頭では単一形、単二形の乾電池が品不足となっている品薄が続いている単一形の乾電池(パナソニックのEVOLTA)
パナソニック エナジー社乾電池ビジネスユニット事業企画グループ・百済謙一グループマネージャー

 「単一形や単二形は、懐中電灯での利用が多いようだ。震災の影響で、懐中電灯を引っぱり出してみたが、電池が無くなっていたり、予備の電池を買っておこうという需要が増加したことが影響しているのではないか」 (パナソニック エナジー社乾電池ビジネスユニット事業企画グループ・百済謙一グループマネージャー)とみる。

 一方、三洋電機の充電池「エネループ」は、震災直後から販売数量が増加し、3月13~20日の実売数は、前年同週比800%という驚くべき販売数量をたたき出している。

 3月単月でも200%という状況で、「増産をしても、供給が足りない状況が続いている」 (三洋電機エナジーデバイスカンパニーグローバルCRM事業部市販事業統括部グローバル営業企画部販売企画課・服部旨生課長)という。

 エネループシリーズで最初に品切れになったのは、なんと「スペーサー」だ。単三形のエネループを、単一形や単二形として利用できるもの。懐中電灯用の単一形、単二形乾電池の品薄が影響して、スペーサーの購入が相次いだといえる。

三洋電機エナジーデバイスカンパニーグローバルCRM事業部市販事業統括部グローバル営業企画部販売企画課・服部旨生課長

 「エネループでも単一形、単二形の製品を用意しているが、まずは単三形のエネループを持っているユーザーが、スペーサーを購入したために、早い段階で品切れになってしまった。当初はスペーサーの2個パックが先に売れていたが、それが品切れになった途端に、今度は、充電池や充電器と、スペーサーがセットになった商品が売れ始めた」 (三洋電機エナジーデバイスカンパニー・服部課長)という。

エネループはスペーサーをセットにした製品が人気となった手前がスペーサー。奥にあるのが単一形、単二形のエネループ

 その後、単一形や単二形のエネループが品切れになるといった動きをみても、やはり単一形、単二形への需要が集中していることがわかる。

 懐中電灯を使用する目的での購入に加えて、備蓄用としての単一形および単二形の乾電池の需要が顕在化。さらに店頭での品薄感が余計な買い占めへと走らせていることも見逃せないだろう。

 もともと、単一形の生産量は、乾電池全体のうち約10%。単二形では約7%に留まる。これに対して、単三形は約57%と過半数を突破。単四形でも約26%となっており、単一形と単二形あわせた数量よりも多い。

 さらに、3月は主要各社が決算期を迎えることもあり、メーカー在庫、流通在庫ともに絞り込む傾向にあったことも見逃せない。これも3月の品薄を助長させた遠因のひとつといえる。

各社が乾電池の増産体制に走るが、品薄解消は年末か? 

 こうした旺盛な需要を背景に、各社とも乾電池の増産体制を敷き始めている。

 パナソニックでは、3月12日に全社震災対策組織を設置するとともに、エナジー社の社内にも震災対策本部を設置。乾電池や充電池をはじめとするエナジー社製品の増産体制の検討をすぐに開始。大阪・守口市にあるエナジー社の国内生産拠点での増産を決定するとともに、上海やインドネシアで生産している単一形、単二形のマンガン電池を日本に輸入する措置を決定。さらに、タイやベルギーで生産しているアルカリ電池や、ポーランドで生産しているマンガン電池も日本への輸入を決定した。

 パナソニックの乾電池の海外製造拠点は10カ所。そのうち5カ所の製造拠点で、日本向けへの対応を図ることになったといえる。

大阪府守口市の生産拠点。乾電池の増産体制が敷かれている

 「日本の生産拠点は、ゴールデンウイークもフル生産体制で稼働させた。しかし、旺盛な需要が続いており、まずは店頭の棚を埋めることが先決という段階を脱していない。安定した供給を実現する流通在庫を一定量確保できる状態に戻るには、今年秋から年内一杯はかかるだろう」 (パナソニック エナジー・百済グループマネージャー)とみる。

 また、三洋電機でも、エネループを生産している群馬県高崎市のFDKで、すでに増産体制を敷いているが、その後の需要に対応しきれていないのが実態。とくに、中国で生産を行っているスペーサーや充電器、エネループ モバイル ブースターなどは、急な増産への対応が難しいために、供給力の回復に遅れが出る可能性もある。

 「夏場の輪番停電や節電への対応によって、日本国内でのフル生産の維持も懸念される。年内一杯は品薄状態が続くことになるかもしれない」 (三洋電機エナジーデバイスカンパニー・服部課長)とみる。

 阪神淡路大震災の時に、流通在庫まで正常に戻るには約半年の期間を要したという。今回の東日本大震災の影響は広範囲に広がっていることもあり、阪神淡路大震災の時よりも、時間がかかるだろうというのが関係者に共通した意見だ。

乾電池の正しい使い方あれこれ

 ところで乾電池は、我々の身近にあり、なにかしらの形で常に利用しているという人も多い。だが、正しい使い方というのも意外と忘れているのかもしれない。

 「当たり前」といわれることも数多くあるが、改めて使い方を確認しておきたい。

 まず、古い電池と新しい電池を混ぜて使うことはやめたい方がいい。液もれの原因となり、危険を伴う場合があるからだ。電池を取り替える場合には、すべて新しいものに取り替えることがメーカーが推奨する使い方だ。これは充電池でも同様のことがいえ、充電池を入れ替える場合には、同時に充電したものを使用するようにしたほうがいい。

 また、メーカーでは、電池の銘柄や種類も同じものを使用してほしいという。これも、液もれや破裂につながる恐れがあるのが理由だ。同じメーカーのものでもブランドが違うもの、あるいはアルカリ電池とマンガン電池、乾電池と充電池などの組み合わせでの利用も危険だという。

 使用時間が極端に短くなった乾電池の利用も避けてほしいという。電池にも寿命があり、その範囲での利用が望ましい。パナソニックのEVOLTA(エボルタ)では、構造、材料、工法のすべてにおいて工夫を凝らすことで、業界初となる使用推奨期限10年を実現。さらに、パッケージを1本ずつシュリンクパックした「見わけるパック」方式を採用しており、新しい電池と使用済み電池を見分けることができる状態で保存できるという特徴がある。

パナソニックのEVOLTAシリーズ

 乾電池の保管は、高温、多湿、そして直射日光のあたる場所を避けるのが鉄則。乾電池を入れた避難袋の場所にも考慮が必要だ。

 そして、いうまでもないが、プラスとマイナスの方向は正しく入れることだ。

 なかにはプラスとマイナスを逆に入れても動く機器があるが、例えば電池を3個利用した場合には、1個が逆に入っていると、残りの2個から充電されるという状況になり、発熱、液もれ、破裂の原因となる。

 また、使い切った電池は早めに取り出すこと、機器のスイッチの切り忘れにも注意することが必要だ。これも液もれの原因となり、機器を壊すことにもつながる。

 ちなみに、電池の液は、皮膚障害を起こすこともあるので、皮膚についた場合には、水でよく洗うことを勧めるという。

スペーサーの乾電池利用には注意が必要

 ところで、単一形や単二形の不足で注目を集めたスペーサーだが、これも利用する際には注意が必要だ。

 例えば、三洋電機では「エネループを使用するのであれば、ぜひ純正のスペーサーを利用してもらいたい。純正のスペーサーは、耐熱性や安定性を考えた材料を使用し、安全に利用できることを考慮した成形を実現しているため」(三洋電機エナジーデバイスカンパニー・服部課長)とする。

単三、単四、充電器、スペーサーがセットになったパック

 一方、パナソニックでは、充電池である「充電式EVOLTA」向けにスペーサーを商品化しているが、「これは、あくまでも充電式EVOLTAで利用するためのスペーサー。通常のEVOLTA乾電池や、アルカリ乾電池には使えない」というのが公式なコメントだ。

 単一形や単二形の乾電池を使用する機器は、主に大電流機器が必要なものが多い。充電池で採用されているニッケル水素のように、大電流を安定的に供給できるものは、単三形充電池をスペーサーによって、単一形として利用してもある程度の効果を発揮できるが、アルカリ乾電池やマンガン乾電池では、単三形の乾電池をスペーサーによって単一形で利用しても十分な効果を発揮できないという。

 単三形乾電池をスペーサーを利用して単一形乾電池として利用するのは、緊急避難的な利用に留めた方がいいというのが、メーカー側の姿勢だ。

 これまで触れたように、今回の東日本大震災によって、単一形や単二形乾電池および充電池の品薄は依然として続いている。

 その多くは懐中電灯向けとみられるが、最近ではLED懐中電灯も数多く商品化されており、これらの多くは単三形や単四形で利用できる。生産比率では圧倒的に単三形で多いことを考えると、単三形で利用できるLED懐中電灯をひとつ用意しておくのがいいかもしれない。





2011年5月16日 00:00