大河原克行の「白物家電 業界展望」

三洋の充電池「eneloop」で可能な防災準備を考える

~幅広いラインアップを活用して、どんな準備ができるか
by 大河原 克行
三洋本社の最寄りとなる京阪電車・守口市駅のeneloopの看板。関西エリアとはいえ節電のために消灯していた

 東日本大震災によって、防災に対する意識は急速に高まっている。また、同時に節電に対する意識も大きく変化している。

 災害発生時にはどんなものを持ち出せばいいのか、そのために、日頃からどんなものを買い揃えておけばいいのかということを、家族で話し合うシーンも増えたのではないだろうか。

 そして、災害時には電気の力が極めて重要になるということを改めて実感した人も多いだろう。いまや、我々の生活には電気は欠かすことができない。災害時に必要とされる灯りの確保だけではなく、情報の入手や、人同士のコミュニケーションにも電気の力が必要とされている。

 そこで、環境寄与という観点から注目されていた三洋電機のニッケル水素電池「eneloop(エネループ)」を防災用品として活用するにはどんな手法があるのか。eneloopの商品群をみながら、その活用法を探ってみた。

充電池ならではの長寿命を生かす

 eneloopは、全世界で累計出荷1億4,000万本以上を出荷した充電池。一般的には、単三形を中心に、単四形、単一形、単二形といった充電池製品のラインアップが知れ渡っている。地震以前から人気のあったシリーズだが、今回のような災害時の場合、充電池ならではの特徴が役立つこともあるのだ。

三洋電機が発売する充電池「eneloop」シリーズ

 1つは、一般的な乾電池に比べて電池寿命が長持ちであるという点だ。

 例えば、デジタルカメラの撮影では、乾電池に比べて4.4倍もの撮影枚数が可能であり、また、放電電圧が安定していることから、長い時間使用したいという場合や大電流を必要とする機器にも適している。

 また、自然放電を抑制していることから、購入から3年を経過したeneloopでも、75%のエネルギー残存率を維持している。乾電池はほぼ100%を維持していることに比べると減少幅は大きいが、それでも他の充電池が大幅に残存率が減少し、三洋電機の従来製品では2年後には残存率が0%になってしまうことと比較しても、eneloopの残存率の高さがわかる。

 さらに、繰り返して利用できるため、被災地などでも電気が通った後には、充電すれば再利用できる。乾電池の場合は無くなったら交換し、使用済みの電池は廃棄しなくてはならず、被災地に多くの廃棄物が出ることを考えると、充電池の方が利便性は高いだろう。

容量が小さいものの、軽量化されているeneloopライト

 そして、eneloopには、「eneloop lite(エネループ ライト)」という電池容量が通常タイプより少なく、重量の軽いタイプの製品も用意されている。

 電池容量は通常のeneloopに比べて、約半分の950mAhと小さく、一度の充電で使用できる時間も半分になる。だが、1本あたりの重量が19gと、eneloopの27gに対しては約3分の2。被災地などに、大量に電池を提供しなくてはならない場合、持ち運びの際に重量の面でもメリットがあるといえよう。

 長時間利用や大電流機器への利用はeneloopが適しているが、より多くの人に対して供給したい場合や、音楽プレーヤーや時計、小型ライトなどの小電流機器に利用したい場合には、eneloop liteを選択するという方法もあるのだ。

太陽光との組み合わせで緊急時に利用する

 一方で、eneloopシリーズには、様々な製品が用意されている。

 その1つが「eneloop mobile booster(エネループ モバイル ブースター)」である。

 三洋の社内用語で“モバブー”と呼ばれるこの製品は、USB出力が可能なリチウムイオンバッテリー製品のほか、筐体中にeneloopを搭載すればUSBでの出力を可能とする「eneloop stick booster(エネループ スティック ブースター)」などで構成されている。

eneloop mobile boosterシリーズの各製品5,000mAhの大容量リチウムイオン電池を搭載したeneloop mobile booster

 5,000mAhの大容量リチウムイオン電池を搭載したeneloop mobile boosterでは、携帯電話やスマートフォン、タブレット端末などへの充電が可能で、フル充電時には、携帯電話では2~2.5台までの充電が可能。しかも、USB端子を2つ持っているため、2台の携帯電話を同時に充電することもできる。

 タブレット端末では約40%までの充電に留まるが、災害時に、情報入手やコミュニケーション手段のためのツールとして、タブレット端末を利用するための電源確保の手段にはなる。充電はACアダプターや、USB端子を通じてACアダプターに接続したPCなどから行なえる。

eneloop portable solar。HIT太陽電池の技術が採用されている

 また、太陽電池を使った「eneloop solar(エネループ ソーラー)」シリーズもある。

 ACコードを使わずに太陽光で充電できるeneloop solar シリーズは、単三形充電池を4本充電できる「eneloop solar charger(ソーラーチャージャー)」と、USB出力ができるため携帯電話の充電などに適している「eneloop solar light(ソーラーライト)」、蓄えた太陽エネルギーをeneloop mobile boosterに充電できる「eneloop portable solar(ポータブルソーラー)」が用意されている。(このうち、eneloop solar lightは完売につき販売を終了している)

 eneloop solarシリーズは、太陽光電池を使って充電できるため、電気が通っていない場合などには活用できる優れものといえるが、eneloop solar chargerで単三形充電池を4本充電するには、約6日間という時間が必要。フル充電をしないということであれば、もう少し早く利用できるが、時間がかかりすぎという点は否めない。小型の太陽光パネルであるために限界があるのも事実だ。

三洋電機 エナジーデバイスカンパニーグローバルCRM事業部市販事業統括部 グローバル営業企画部販売企画課・服部旨生課長

 だが、eneloop portable solarでは、2枚パネルのツイン ポータブル ソーラーで約1.5日でフル充電を実現。そのエネルギーを利用して、2台分の携帯電話をフル充電できるという。

 「ツイン ポータブル ソーラーでは、晴天時には約1時間のソーラー充電で、携帯電話で約40分通話相当の充電が可能」(三洋電機エナジーデバイスカンパニーグローバルCRM事業部市販事業統括部グローバル営業企画部販売企画課・服部旨生課長)という。このレベルであれば利用は可能だ。


暖を取るための各種製品も用意するeneloop

 一方で、eneloopには、「eneloop warmer(エネループ ウォーマー)」シリーズという製品群もある。

 現在、ラインアップしているのは、腰やお腹を暖める「eneloop waist warmer(ウエストウォーマー)」、首周りを暖める「eneloop neck warmer(ネックウォーマー)」、ポケットなどに入れておける「eneloop kairo(カイロ)」、横になって寝る際に暖かい「eneloop anka(アンカ)」、膝掛けとして利用できる「eneloop soft warmer(ソフトウォーマー)」などである。

ポケットなどに入れておけるeneloop kairo横になって寝る際に暖かいeneloop anka膝掛けとして利用できるeneloop softwarmer

 例えばeneloop kairoでは、ACアダプターに接続しておけば3時間程度で充電が完了。室温や気温の影響にもよるが、3時間程度の使用は可能だ。またネックウォーマーでは7時間の充電で、約5時間の利用が可能になる。

 eneloopではこうした暖まることを目的とした複数の製品を用意している。

 東日本大震災の被災地では、寒さ対策も課題だっただけに、こうした製品の利用も効果的だったといえる。

震災経験を元に生み出されたeneloopランプ

 そして、最後に紹介したいのが、「eneloop lamp(エネループ ランプ)」だ。

 これは阪神淡路大震災を経験した三洋電機のデザイナーが考案した製品であり、災害時に配慮したデザインが特徴だ。

 まず、特徴的なデザインは、リビングに置いていても違和感がないものとし、シューズボックスなどの目立たない場所にしまいがちな懐中電灯を、常にわかりやすいところに配置するというコンセプトにしている。

 また、台座の上に置かれたランプ本体は常に充電状態となっており、通常はインテリアライトとして部屋の灯りを演出するが、災害時に手に取った途端に、加速度センサーが傾きを感知して非常灯として光を照らす。また、強い地震によって、台座からランプ本体が転がり落ちた場合にも、加速度センサーで自動的に明かりが付き、さらにはそのデザイン形状から同じ場所をぐるぐる周り、取りにくい場所にまで転がっていってしまうといったことがない。

阪神淡路大震災を経験したデザイナーが考案したeneloop ランプ。通常はインテリアライトだが、災害時に効果を発揮する機能を随所に盛り込んでいる持ちやすさに配慮した独特の形状を採用する光源は底面に配置する

 つまり、常にわかりやすい場所に置かれ、充電された状態となっており、持ったり、落ちたりした場合にも非常灯としてすぐに利用できる機能を兼ね備えた製品なのだ。

 東日本大震災以降には、eneloop lampが品不足の状態となっており、このコンセプトに対する評価も日増しにあがっているという。

今後は商品の安定供給に力を注ぐ

 このように、eneloopの幅広い製品ラインアップのなかには、防災用品として活用できるものも少なくない。

 三洋電機によると、あるブログサイトでは、「被災地で役に立った9つの物」の1つにeneloopがあがったという。

非常用ポータブル電源 KPS-L1

 三洋電機は、今回紹介したeneloopシリーズの製品のほかにも、AC電源1口、USB電源2口が取れる非常用ポータブル電源「KPS-L1」を商品化しており、カーバッテリーを通じて充電できること、3kgという軽量化ながら、停電時のバッテリーとして利用できること、100V出力による各種機器への給電利用が可能な点などで、注目を集めている。フル充電の状態では、30台までの携帯電話の充電が可能になるなど、被災地や企業などの利用にも適したものだ。

 実売価格が10万円以上のため、これまでは法人需要だけの製品だったが、計画停電などの影響もあり、大手量販店でも取り扱いを検討する例が出ているという。

 三洋電機 エナジーデバイスカンパニーグローバルCRM事業部市販事業統括部 グローバル営業企画部販売企画課・服部旨生課長は、「これまでは、繰り返し利用できるという環境配慮の観点からeneloopを利用していただくユーザーが多かったが、防災用品としてもeneloopを活用するというニーズも確実に増えている。復興のお役に立てる製品として、eneloopが活用されるように努力したい。そのためには、まずは供給責任を優先して、市場への製品供給に全力を注ぐ」と語る。

 今はeneloopの品薄解消が先決といえる。今後、前年比2倍以上の生産体制とすることで、製品供給の安定化にも取り組んでいくことになりそうだ。





2011年5月11日 00:00