そこが知りたい家電の新技術

パナソニック"第6世代エネファーム"、最長192時間の連続発電と総合効率97%実現の裏側

 パナソニックは、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」の第6世代となる新製品を発表するとともに、滋賀県草津市のパナソニック アプライアンス社草津工場の製造ラインを公開した。現地からレポートする。

パナソニックの第6世代エネファーム。2019年4月1日に発売される
滋賀県草津市のパナソニック アプライアンス社草津拠点

 パナソニックは、2009年5月に世界で初めて、天然ガスから取り出した水素で発電をする、家庭用燃料電池「エネファーム」の販売を日本で開始した経緯がある。

 エネファームは、都市ガスやLPガスから取り出した水素を、空気中の酸素と化学反応させて発電。発電時に発生する熱も回収して、お湯を作って利用することができるため、エネルギーロスが少ないという特徴を持つ。

 具体的には、燃料処理器で水素と二酸化炭素、一酸化炭素に分離し、そこから水素を取り出す一方、一酸化炭素の濃度を軽減するために、酸素を加えて、二酸化炭素とすることで無害化する。

 燃料処理器は、改質触媒、変成触媒、選択酸化触媒の3つで、水素と二酸化炭素、一酸化炭素を分離し、無害化を行なうが、ここでは、650℃から150℃までの温度差のなかで処理を行なうため、きれいな水素を作るためには、この400℃という温度差のなかでしっかりコントロールする技術が必要になるという。

 ちなみにパナソニックの燃料処理器は、これまでに3世代に渡って進化してきたが、すべて丸形を採用。高い温度下でも膨張、収縮に耐えられるほか、小型化や新たな溶接技術の採用、材料の選定、シミュレーション技術の活用などにより、現在では、9万時間の耐久時間を達成しているという。

 また、スタック内のひとつひとつのセルが、燃料極と電解質の高分子膜、空気極で構成される。水素が燃料極に触れると電子を放ち、水素イオンに変化する。水素から分かれた電子は空気極へ移動。この電子の移動によって電流が発生する。また、水素イオンは、15μmの薄さを持つ電解質膜を通って空気極で酸素と結合し、水となる。発生した直流電流は、インパータを通じて交流に変換され、家庭用の電気として使用されるという仕組みだ。さらに同時に発生する熱も回収して、熱交換器で温水作り出すことができる。

 パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池企画部長の加藤 玄道氏は、「エネファームは、エネルギーとファーム(農場)を組み合わせた造語。農場では、水と大地の組み合わせで農作物を作るが、エネファームは、水素と酸素の組み合わせで、電気や熱を作り出すものになる」とし、「家庭におけるエネルギー消費は、給湯や暖房といった熱が約65%を占めるのに対して、照明や冷房、換気といった電気の使用比率は35%となっている。こうした家庭での熱や電気の使用を考えると、ちょうどいいバランスを持ったエネルギー機器がエネファームになる」と位置づける。

パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部 燃料電池企画部長の加藤 玄道氏

 2009年に第1世代のエネファームを発売以来、ほぼ2年に1度のペースで新製品を発売しており、エネファームは進化を続けている。発電耐久時間の向上や高効率化、コンパクト化、設置性の向上、非常時のレジリエンス機能の搭載、コストダウンなどに取り組んできた。また、寒冷地仕様や集合住宅用、分離/一体型のラインアップにより、ニーズに合わせた製品強化も行なってきた。

 2017年に発売した第5世代のエネファームでは、発電耐久時間は、第1世代の4万時間から9万時間に、メンテナンスサイクルは約10年に拡張。「設置スペースや重量は半分に、部品点数も半分にしたことで、コストも削減。数多くの場所に設置できるようになっている」(パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部の寺崎 温尚事業部長)とする。

パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部の寺崎 温尚事業部長

 今回発表した第6世代のエネファームでは、総合効率を97%に向上させるとともに、発電時に発生する熱をガス温水床暖房の低温(保温)運転時の熱源として活用する「PREMIUM HEATING」を搭載。エネファームが発電する際に生み出す熱で作ったお湯で、床暖房用に用いる温水を暖められるため、エネルギーをさらに無駄なく活用可能。床暖房使用時のガス消費量を抑え、気兼ねなく床暖房に使うことができる。

 加藤企画部長は、「これまでにも業界最高となる総合効率95%を達成していたが、水素を取り出す燃料処理器の運転条件を見直すことで、発電効率をさらに向上させた。その仕組みを利用して、とくに、床暖房での用途にフォーカスした」という。

 床暖房を開始する際には、高温で暖める必要があるためガスを燃焼させるが、保温運転時や設定温度が低い場合には、貯湯タンクに貯めたお湯を熱源として利用できる。

 「少し肌寒いと感じた際には、すぐに足元を温めたり、留守番をしているペットのために、床暖房を稼働させたまま外出しても、ガスの消費量を気にすることがなくて済む」という。

 さらにレジリエンス機能を強化したのも、第6世代の進化として見逃せないポイントだ。これまでオプションで提供していた停電時発電継続機能を標準搭載したほか、エネファームをハイブリッド蓄電システムと直流電力で連携させることにより、停電時でも、リビングやキッチン、サニタリーなど、あらかじめ指定した屋内空間への電力供給が可能になった。長期的な停電でも、快適な家庭生活を提供できるとしている。

 「稼働中に停電が発生した場合でも最大500W、最長192時間の連続発電を可能にしている。停電時においても、スマホやパソコンなどの小電力機器が使える最低限の電力を確保しながら、お湯や床暖房の熱を、エネファーム単体で賄える」という。

 家庭用蓄電池は容量が少ないため、停電時にもっても約1日。太陽光発電と組み合わせても、晴れていて3日程度。エネファームと蓄電池の組み合わせであれば、停電時でも、空間を限定することで約8日間に渡って、普段通りの生活ができるという。「650Wを下回れれば、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなども使ってもらえる」という。

 そのほか新製品では、スマートフォン専用アプリを通じて、外出先から操作して、スマートスピーカーを通じた音声操作で、風呂の湯張りや床暖房のオン/オフが可能になる機能も搭載している。

 また、軽量化や薄型化を図った点も、今回の新製品の特徴のひとつだ。従来製品に比べて、筐体の高さは10cm低くなり165cmに、奥行は5cm縮小し、狭小地モデルでは50cmの奥行を実現した。また、燃料電池ユニットの重量は、従来製品に比べて9%減となる59kgまで軽量化したことで、設置性を高めたという。

 「高さを10cm低くしたことで、筐体が窓を遮光しないようにできたり、奥行を小さくしたことで、隣地境界にも対応した形で設置できるようになる。設置場所がより自由になり、軽くて設置作業も楽になる。設置可能率が高まっている」とした。

狭小地モデルでは50cmの奥行を実現した

 ただし、エネファームは、普及の踊り場に来ているとの指摘もある。寺崎事業部長も、その点は否定していない。現在、家庭向け燃料電池の累計出荷台数は28万台。政府では2030年までに累計530万台の出荷を目標に掲げているが、そこに向けてのギャップがあるのも事実だ。

 またパナソニックでは、2018年12月までに累計15万台の出荷実績を持つが、2019年度に20万台という当初の累計出荷計画についても、「前年比2%増であることを考えると、見直す必要がある」とトーンダウンしている。

 その点について、寺崎事業部長は「エネファームの商品の価値を伝え切れていなかった」と振り返る。そして、「訴求ポイントが、発電効率に偏りすぎていた。生活をする上でのメリットをもっと訴求はしなくてはならなかったという反省がある」と続ける。

 確かに、エネファームの特徴は、発電効率の高さにある。一般的に火力発電所では、排熱と送電ロスによって、59%のエネルギーが利用されず、総合効率は41%に留まる。これに対して、エネファームは、排熱を給湯などに利用できるため、利用困難な排熱はわずか5%に留まる。今回の新製品では、総合効率をさらに高めている。

 パナソニックでは、こうした発電効率の良さだけでなく、新製品の持つ、床暖房を利用する際のメリットや、災害時に強いことをなどを訴求することで、「商品の価値を正しく伝えたい」とする。

 もうひとつの反省点は、東京ガスなどの都市ガスの販売ルートに限定していたことだ。「パナソニックが持つ販売ルートの活用に加えて、2017年からは新たに、都市ガスとほぼ同じ世帯数に普及しているLPガスにも対応したことで、今後はLPガスルートでの販売拡大にも弾みをつけたい。

 床暖房での利用や、非常時に強いこと、さらにはLPガスの販売ルートを活用することで販路を拡大。これによって、踊り場から抜け出し、成長に転じたい」と意欲をみせる。

 また「人口減少により、新築戸建着工数は減少に転じているが、そのなかでも、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)の着工件数は増加すると予測されている。しかしZEHを実現しようと考えると、5.5kWの太陽光発電システムが必要になり、それだけの発電量を持つパネルを屋根に設置できる住宅は、日本全体の3割程度に留まる。太陽光発電にエネファームを組み合わせることで、太陽光発電パネルは、3.6kWで済み、ZEHが現実的に実現可能となる。そうした提案も進めたい」とした。

 さらにパナソニックでは、エネファームの進化の先として、水素社会への取り組みをあげた。現在、パナソニックでは、エネファームで培ってきた技術をベースに、純水素燃料電池を開発しており、一部で実証実験を開始している。

 2016年11月からは、甲府市米倉山の「ゆめソーラー館やまなし」で純水素燃料電池を導入。さらに、2017年3月からは、静岡ガスと一緒に水素ステーション静岡に水素製造装置を設置。2018年12月からは、横浜市綱島の綱島サスティナブルスマートタウンで、エネオスとともに水素製造装置で作った電気を水素ステーションの運用に使用しているという。

 さらに、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、東京・晴海に開設する選手村「HARUMI FLAG」で、パナソニックの水素燃料電池の活用が検討されており、大会跡地の全街区の共用部には、水素燃料電池を設置。併せて3つの分譲街区では、今回発表した第6世代エネファームを全4,145戸に設置することになるという。

 また、アプライアンス社草津工場では、将来のCO2フリー工場に向けた実証実験を開始。2022年に発売予定の水素製造装置や、2021年に発売予定の水素燃料電池を活用して、フォークリフト用水素ステーションを設置し、水素フォークリフトの運用を行なうなど、水素サプラライチェーンのパッケージ化による経済性、環境性を検証するという。

 「エネファームで培ったコア技術を用いて、脱炭素社会の実現を目指す」(寺崎事業部長)とした。

 今回のエネファームの新製品発表に合わせて、アプライアンス社草津工場のエネファームの製造ラインを公開した。

パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部 草津工場長の高田 泰治氏

 エネファームは、アプライアンス社草津拠点のC17棟で生産されており、1階と3階のフロアを利用し、エネファームを構成するスタック組み立て、燃料処理機器生産、システムユニットの生産までの一貫生産を行なう拠点となっている。生産能力は1日130~150台。年間5万台までの生産が可能だという。

エネファームが生産される棟
C17棟がエネファームが生産される建屋だ

 1階では、買い入れた高分子膜を、触媒塗工や電極一体化などの工程を経て、MEA(膜電極接合体)として完成。これをモジュールとして組み立てて、スタックに締結し、スタックリーク検査やエージング検査、圧損検査など行ない、スタックを完成させる。検査工程は時間が掛かるため自動化し、24時間連続稼働をさせている。これらの作業は、クラス10,000のクリーンルームで作業が行なわれているという。

エネファームの生産工程の入口
エネファームの生産工程のレイアウト
エネファームの生産の流れ
検査工程にエネファームを運ぶ様子
検査工程で各種検査を実施
システム検査の様子
自動検査は24時間体制で行なわれている

 3階では、熱処理器と本体組立、梱包、出荷などが行なわれている。作業者は作業に集中できるように、材料管理エリアにある部品のピッキングや配膳作業は別の人が行なう仕組みとし、部品や組立中の製品は、バーコードを使ってトレーサビリティ管理を行なっている。

 また、燃料処理器では、円形の形をしており、360度のあらゆる角度から部品を組み込める特徴を持つ。そのため、作業台を回したり、燃料処理器を吊り上げてそれを回転させて組み立てなどの効率化を図っている。燃料処理器では、5つの工程で組立作業が完了するという。

 さらに最終組立工程では、16工程で様々な部品を組み込んでおり、一定のタクトタイムで、それぞれの工程で作業が進められることになる。組み立てが終わった後の検査工程では、全数で水漏れ検査、ガス漏れ検査、特性検査などを完了させて、梱包されることになる。

エネファームの最終組立の様子
検査は自動化されているため、人手は少ない
専用治具を使用してシールなどを貼り付ける
梱包ラインで梱包されている様子
梱包が終わって出荷となる

 「この工場の特徴は、約1,000点の部品をすべて人の手で組み付けるという点にある。人の作業が多いということは、人によるミスも増えることになる。そこで人によるモノづくり体制を、人、インフラ、工程設計という3つを軸とし、高品質、高効率なモノづくりを実現するIoT工場を実現している」とする。

 たとえば、同工場独自の「作業ナビ」を導入し、作業が終わらないと次の作業に進めないようにしたり、作業ミスが起こらないように管理。挿入治具を利用することで、作業が完了することを確認したり、ねじを締める場合には、10mmの長さのねじのねじ山の回転数を信号として確認して、適切な締め付けが行なわれていることを確認し、作業者による作業品質のバラつきを無くしているという。

 また、生産工程全体に配置したカメラを使用して、作業をデジタルで分析し、作業者の骨格をもとに不自然な動きになっている場合には、治具の傾きを変えるといった作業環境や製品の設計を変更するほか、作業者の疲労や健康面に問題がないかといったことも分析して、効率的で、安全なモノづくりを進めているという。

 同工場では、社員により、年間1,000件の提案を目標にしたカイゼン活動を行なっており、工程には常に細かい改良を加えているほか、デジタルによって人の作業をアシストする機能も開発中だという。

 また、センサー情報やカメラによる画像情報のほか、検査工程に配置されたPCなどの情報を収集して、分析するビッグデータ分析システムを導入。水準監視や特異度分析を行なったり、M2Mのデータをもとに、故障停止前の対応や遠隔メンテナンスにも活用するという。

 「リアルタイムに情報を収集しており、どの作業に問題があるかを常に理解できるとともに、工程全体のスピードアップにはどうすればいいかなどもシミュレーションできる。デジタルを活用して、いつでもすぐにカイゼンにつなげることができる」という。

 人手による作業が多いのが、エネファームの生産工程の特徴といえるが、そこにうまくデジタルを組み合わせているのが、この工場の特徴だといえる。

各工程の進捗状況が一覧で見ることができ、カイゼンを加えることもできる
27のメニューから工場全体の様子確認できる
カメラで骨格の動きを確認して、不自然に作業姿勢や健康管理もできる
工程に不具合が発生している部分があればビデオで確認できる