そこが知りたい家電の新技術

Anker本国の家電統括マネージャーに聞いた、ロボット掃除機開発とスマート家電への取り組み

 国内では初となる、Wi-Fi搭載のロボット掃除機「Eufy Robovac 30C(以下、Robovac 30C)」を発売したアンカー・ジャパン。Ankerというと、まずモバイルバッテリーが浮かぶ方も多いことだろう。日本市場における白物家電領域では、2016年6月に「Eufy」というブランド名でロボット掃除機「Eufy RoboVac 10」、コードレスタイプのスティックサイクロン掃除機「Eufy HomeVac Duo」を発売して以来、基本的に掃除機がメインで販売されている。

 今後の日本市場での展開について、Robovac 30C発表で来日していた、Appliances部門 General ManagerのWilliam Tang(ウィリアム・タン)氏と、アンカー・ジャパン 代表取締役・井戸 義経氏にお話をうかがった。

Anker Appliances BG General ManagerのWilliam Tang氏(写真左)と、アンカー・ジャパン 代表取締役・井戸 義経氏(写真右)。井戸氏には、Tang氏の言葉を翻訳していただいた

――現在、日本で販売している白物家電としてはロボット掃除機やコードレスタイプのスティックサイクロン掃除機があります。今後、これら領域以外の製品を発売する予定はあるのでしょうか。

 我々の白物家電領域での製品戦略としては、ロボット掃除機を主軸に進めていく予定です。あれこれと手を出していっても、良い製品は作れないと考えており、まずはロボット掃除機をどんなお客様にも満足いただけるものにしたいと考えています。

 イメージとしては、最強と言われるサイクロンスティック並の掃除機を目指します。「Ankerグループの家電と言えば、ロボット掃除機」と言われるようになり、その上で別の領域の製品を作っていきたいですね。

日本では、2018年11月末に発売された「Eufy Robovac 30C」

 Ankerグループとしてロボット掃除機を最初に販売したのは、アメリカでした。その後、ヨーロッパ、アジアという順番で販売しています。アメリカでは、お客様フィードバックにもとづいて改良を進めましたが、これが奏功してアメリカやヨーロッパでは好評をいただいています。しかしアジアでは、それぞれの国や地域ごとにライフスタイルや文化が異なるために、フィードバックもバラバラで、とても複雑な市場だという印象があります。

 今回の発表会では、これまでのビックカメラ、ヨドバシカメラ、ケーズHDでの店頭販売に加えて、エディオン、上新電機、ヤマダ電機、ノジマでの店頭販売を発表しましたが、元々Ankerグループの販売思想として、インターネットを使った直販にこだわりがあります。

 その理由は、お客様の声がレイティングやカスタマーレビューとして、すぐに見られる点です。今後Eufyブランドでは、ネット上のカスタマーレビューに加えて、店頭でのお客様の声もお聞きしながら、製品の改良を行なっていきたいと考えています。

 もちろん日本専用モデルを作る構想もあります。どんなお客様にも満足いただける掃除機というのは、住宅環境の違いのみならず、ライフスタイルの違い、文化の違いなどをカバーする必要があり、それには文化毎に別々の製品が必要だと考えているからです。

 実は私は今回、初めて日本へ来たのですが、日本の住宅環境・ライフスタイル、文化などを見るためにAirbnbを利用して、一般のお宅に宿泊することにしました。日本の住宅はアメリカの住宅と比較するとコンパクトな設計になっており、加えて部屋の構造や間取りが複雑と聞いています。

 現在の私のイメージで日本モデルの特徴を挙げるとすれば、掃除機自体を小さく薄くする必要があるかもしれません。また住宅のじゅうたん敷きの部屋は少ないようですので、じゅうたんの奥に入り込んだゴミを吸い取る吸引力よりも、例えばバッテリーの持ちを良くするといった、別の機能を充実させた方が喜ばれるかもしれないでしょう。

 今回発売したRobovac 30Cを始めとする既存製品をお使いのお客様の声をお聞きしながら、仕様詳細を決定していきたいと思います。

William Tang氏は、終始にこやかにインタビューに答えてくれた

――ロボット掃除機の開発にあたって注力した点と、今後の機能などについて教えてください。

 我々の掃除機設計には、3つポイントがあります。1つ目はオートメーションです。いわゆる駆動の部分で、掃除機をどのように移動させるかという部分です。

2つ目は、パフォーマンスです。これはクリーニング性能のことですが、これは吸引力だけにとどまる話ではありません。同じお宅でもフローリングの部屋や、じゅうたん、畳の部屋があったりします。また、髪の長い人がいたり、毛の長いペットがいるお宅もあります。さまざまな環境の部屋があるなかで、どのように部屋をきれいにするかという、清掃に関する機能全般のことです。

 3つ目はUX、つまりユーザーの使いやすさです。我々の掃除機設計では、これら3つをすべて満たすこと重視しています。

 先程のオートメーションには、3つの段階があると言えるでしょう。まず「バウンス」です。これは、ロボット掃除機が壁に当たると、跳ね返るように移動することです。次が「INS(Internel Navigation System)」。ジャイロと加速度センサーを搭載することで、速度と移動距離と方向がわかりますから、掃除機自身の位置を把握できるようになります。最後に「SLAM」です。レーザーとカメラを搭載することで、INSにはできなかった地図作成と、地図内での自己位置の推定が可能になります。現在のRobovac 30Cは、INSを搭載していますが、現在は、SLAM搭載のロボット掃除機を開発しているところです。

 またロボット掃除機の機能を分析すると、3つのレイヤーに分けることができます。まずは、吸引力や薄さといった、機能や性能に直結する物理的な部分です。次に、どういう動きをするかというオートメーションの部分ですが、これは主にソフトウェアが担います。そして、レーザーとカメラ、つまりSLAMです。これにより、地図と自己位置推定が可能になりますから、掃除の幅を広げることができますし、さらにAIを組み合わせれば、同じ部屋の中でもいつも汚れている場所、あまり汚れていない場所を判断し、それに合わせた掃除ができるようになるのです。

井戸 義経氏には、Tang氏の言葉を笑顔で翻訳いただいた

――御社のスマート家電というと、日本ではすでにAmazon AlexaやGoogleアシスタントを搭載したスマートスピーカーがありますが、アメリカなどではスマート電球、スマートプラグ、スマート体組成計なども販売されていらっしゃいます。Eufyとしてのスマート家電分野での取り組みを教えてください。

 Eufyのスマート家電関連製品は、海外市場では人気が急上昇しています。日本では、GoogleとAmazonの音声アシスタントを搭載したスマートスピーカーを、それぞれ1台ずつ販売していますが、普及率が低いという印象です。

 普及率を上げるためには、まず最初のステップとして、電球やスイッチといった比較的導入が簡単な製品を安く作って販売することで、まずは導入していただくことが一番だと考えています。またこれらの製品を使ったときに、楽しかったとか、便利だったという実感を持ってもらえることも重要です。日本でもそういった製品を販売して、普及率をアップするお手伝いができればと考えています。

Amazon Alexaを搭載するスマートスピーカー「Eufy Genie」
日本では発売未定ながら展示されていた、Alexa対応電球「Eufy Lumos 2.0 Smart Bulb」

 次のステップは、中長期的にスマートホームを使っていただく段階ですので、導入が簡単な製品にとどまらず、ロボット掃除機など、便利に使い続けていいただけるようなプロダクトが必要です。

 先程、まずは「アンカーの家電と言えば、ロボット掃除機」と言われるようになりたいとお話しましたが、そのときには、Robovacにもカメラが載っているはずです。そうなるとそこにあるのは、「カメラ付きの移動型ロボット」でもあります。

 例えば、泥棒が家に入ってきたら感知して、警報を鳴らしながらその様子を撮影して、家主に送るといったことも可能になるでしょう。先程、強みを作ったうえで展開していきたいと申し上げましたが、単にロボット掃除機の延長線上を考えただけでも、これだけの広がりがあるのです。

 さらにディープラーニング技術も追加できれば、カメラの映像などをもとにさまざまな物体を特定できるようになります。そういった様々な技術を応用しながら、新たな付加機能を搭載し、製品でできることを広げていければと考えています。