難波賢二のe-bikeアラウンド

サイクルトレインやサイクルラックバスも充実の伊豆半島なら「天城越え」も怖くない!! 河津桜も満喫

 暖かい季節の訪れとともに入道雲(気が早い)の如くムクムクと湧いてくるのが、e-bikeに乗って峠に上りたくなる想い。とはいえ、標高1,000mぐらいの山の山頂はまだ気温が低いので、こういう季節は暖かい地域のちょっと低めの峠を走りに行くに限ります。

 今回e-bikeで目指した先は、伊豆半島の難所「天城峠」。前回に続いてまた伊豆を走ったのかよと思われるかもしれませんが、2020年の東京オリンピックでMTBと自転車トラック競技、そして自転車ロードレースも開催される伊豆地域のインフラ投資はかつてない勢いなのです。目下、e-bikeのためのインフラが日本で一番整備されているうえに、ご存じのとおり温暖な地域。この時期にサイクリングするとなると、伊豆を選ぶのは自然な流れと言えるでしょう。

今回はe-bike部で天城越えにチャレンジ!!

 また伊豆は、前回紹介した道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」でのe-bikeのレンタルだけでなく、伊豆の国市・大仁にはメリダが設立した世界最大級の展示試乗施設「MERIDA X BASE」があり、常設200台近いスポーツバイクと、20台を数えるレンタル可能なe-bikeが揃っています。さらに、この3月には宿泊するとe-bikeが部屋に用意されているサイクリスト向け宿泊施設「コナステイ」も伊豆長岡にオープン予定となっています。

道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」
「MERIDA X BASE」

サイクルトレイン・サイクルラックバスも走る伊豆

 今回、天城越えルートを紹介するのにはもう一つの理由があります。それはサイクルトレイン&サイクルラックバス。三島から修善寺までを繋いでいる伊豆箱根鉄道は、自転車をそのまま積み込むことができるサイクルトレインを毎日運行中です。およそ平日9時から15時まで、土・日・祝日は7時から18時までの時間、輪行・追加料金不要で自転車を車内に持ち込むことができるのです。

伊豆はサイクリストにやさしいエリア

 さらに、修善寺から河津までの区間は、東海バスによる天城線サイクルラックバスが運行中。こちらは全車両にラックが用意されているわけではありませんが、通常料金で自転車を積めるため、道中で心が折れたり、自転車のトラブル時にエスケープ用の交通手段として利用可能。このように、走るためのインフラが非常に整備されているのが伊豆半島なのです。

サイクルラックバス

ミズタニ「セラフE-01S」とミヤタ 「CRUISE」で天城越えへ

 さて、今回の天城越えをともにする相棒は、シマノSTEPS「E8080シリーズ」を搭載するミズタニ「セラフE-01S」と、MERIDA X BASEでレンタルしたミヤタ 「CRUISE」。

ミズタニ「セラフE-01S」とミヤタ「CRUISE」を相棒に選んで「MERIDA X BASE」がある伊豆ビレッジからスタート

 どちらも日本の自転車史の黎明期から活躍してきたブランドだけあって、本物を知る大人も納得のスペックと伝統、そして落ち着きのあるデザインを兼ね備えたe-bikeです。セラフE-01Sは最近Sサイズをラインナップに追加し、e-bikeに乗りたいけどサイズが……という人の声にも応えています。

 ちなみに、初めて「e-bike」という単語を聞く人に簡単に説明しますと、e-bikeとはドライブユニットが装着されたスポーツ電動アシスト自転車のこと。こちらの記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。

例えば、クロスバイクタイプのe-bikeのミヤタ「CRUISE」には、シマノSTEPS「E8080シリーズ」のドライブユニットやバッテリー、サイクルコンピューターなどが搭載されています

サイクルトレインを初体験

 伊豆の国市・大仁のMERIDA X BASEから、高低差650mの天城越えをして河津桜で賑わう河津を目指す45kmのルートですが、出発して最初に目指すは数百m先の田京駅。もちろん、修善寺までもたいした距離ではないですし、狩野川沿いのサイクリングロードが整備されているので自走すれば良いのですが、何事も経験ということでサイクルトレインに乗ってみました。

MERIDA X BASEから田京駅を目指す
田京駅からはサイクルトレインに乗車
ホームへ
乗車位置
CRUISEと乗り込みます
非常に快適

 よくよく考えると、私の自転車歴は四半世紀を超えていますが、国内でサイクルトレインに乗るのは初体験。いつも輪行するときは如何に輪行ルールを守ってキレイにパッキングできているかドキドキしているだけに、プラットホームの中を自転車をそのまま押して行けるサイクルトレインの快適さたるや天国そのもの。ちなみに、先頭車両か最後尾車両にそのまま積み込むことができます。

修善寺駅に到着
そのまま改札を通過
レンタサイクルも
すぐに自転車に乗って出発できるのがサイクルトレインの魅力
いよいよ天城越えへ出発

世界のサイクルトレイン事情

余談ですが、サイクルトレイン先進国の欧州でも日本の新幹線にあたる超高速鉄道は自転車持ち込み禁止、もしくは持ち込み可能でも3辺合計203cm以下というルールが主流(例えばドイツのICEは昨年ようやく自転車搭載可能車両を開発したがその数はごくわずか)です。実は日本のように超高速鉄道にサイズ制限が少ない状態で、輪行して自転車を持ち込める環境は恵まれています。この環境を活用すると東京駅から新幹線で輪行(休日のこだまは混雑するので、個人的には少し奮発して輪行の場合はグリーン車の利用をオススメします)し、三島駅の外で自転車を組んでから伊豆箱根鉄道にそのまま持ち込みという旅行の仕方も考えられます。

天城越えに向かう道中でもいろいろ寄り道が楽しい

 修善寺から天城峠に向かう道も国道を走るのではなく、狩野川の東側の県道で寄り道しながら走ることをオススメします。

 昔の吊り橋があったり、足湯カフェやお菓子工場があったりと、国内屈指の観光地だけあって寄っておもしろいスポットはいろいろあります。

吊り橋を走る
桜を発見したり
東京ラスクの工場に立ち寄ってみたり
ランチに寄ったBakery&Table東府や
足湯を楽しみながらランチができます
ランチメニューのカレーセット
オシャレなお店でe-bike部のおじさん二人はちょっと場違いな感じ!?

 e-bikeを使ったサイクリングは、上り下りの多い経路を選んで平坦な道を少なくするとアシストの特性を満喫しながら楽しく走れます。しかし、平坦な道でも幹線道路から外れた県道などの道を選んで、スポーツサイクルのツーリングのスピードとしてはのんびりペースの20km/h台前半で走ると気持ちいいぐらいにアシストが得られて楽しいのです。

 大正・昭和の文豪が籠って原稿を書いていた伊豆湯ヶ島は、天城峠の手前の最後の街ですが、e-bikeで天城越えを目指すならぜひとも立ち寄りたいスポット。渓谷の合間に趣きのある温泉旅館が立ち並んでいる、坂道が急な地域ですがe-bikeなら気軽にあちこち散策して楽しめます。

川端 康成が伊豆の踊子を執筆した湯本館
伊豆の踊子のコース起点
湯本館の外観
マンホールの蓋も伊豆の踊子仕様

 ちなみに天城越えといえば、川端 康成の「伊豆の踊り子」を思い出す人も多いでしょうが、この小説も伊豆湯ヶ島で書かれたストーリー。

こちらは探索している途中で見つけた出会い橋。クルマでは通り過ぎてしまうような場所にも魅力的なスポットが
e-bikeなら気になるところにふらっと立ち寄れるのが魅力

e-bikeなら天城峠も難所じゃなくなる!?

 本題の天城峠の頂上である新天城トンネルは標高643m。人力のスポーツサイクルで上ると結構な峠ですが、e-bikeで上ると湯ヶ島までのアプローチよりも上り坂のほうが楽と感じる人が多いかもしれないほど余裕です。バッテリーも片道ならまったく心配する必要はありません。

 MTBタイプのe-bikeなら、さらに険しい峠の上にある旧道の天城トンネルを通る手段もありますが、路面は舗装されていないのでオンロードタイプの場合は新天城トンネルを通るルートを選びましょう。トンネル内は路肩が狭く、交通量は多くはないですが大型トラックも稀に走るため、ヘッドライトはもちろん、テールライトなどの装備は必須です。

クルマだと気づきにくいですが、壁の苔を削って作られた天城越えの文字

 トンネルへと上る道中には、日本でも屈指の名滝・浄蓮の滝があるだけでなく、トンネルを出て河津方面へ向かう途中にも河津七滝があるので途中の立ち寄りスポットには事足りません。有名な2重ループ橋を越えると、河津までは8km程度の道を下るだけ。河津に着くと、有名な河津桜が見られます。

浄蓮の滝
浄蓮の滝の冷たい水で栽培される大量のわさび
浄蓮の滝周辺でも桜が開花
2重ループ橋
河津まであと少し
GoProで撮影した巨大な2重ループ橋の下りシーン
2重ループ橋の下で見つけた桜。e-bikeなら渋滞に巻き込まれず、意外な景色と出合えます
河津に到着
訪れたのが2月中旬だったので満開とはいきませんでしたが、美しい河津桜を堪能
二人でいろいろ撮影

シマノ製ドライブユニットの実力をあらためて体感

 ミズタニ「セラフE-01S」とミヤタ 「CRUISE」は、シマノSTEPS「E8080シリーズ」を搭載しているので、どちらもヒルクライムは同じように楽しいのですが、快適志向のポジションのCRUISEに対して、セラフE-01Sはポジションもハンドリングもスポーツ志向というか、レーシング志向すら感じさせるものです。以前にCRUISEはこちらの記事で紹介されているので、今回は「セラフE-01S」を簡単に写真で見てみましょう。

ドライブユニットはシマノSTEPS「E8080シリーズ」
サイクルコンピューター
操作ボタン
100km以上の長距離航続を実現するバッテリー
油圧ディスクブレーキシステムを採用しているので下りの安心感も高い
コンポーネントはシマノDEORE
変速段数はフロントシングル・リア10段
セッレSMPのサドルを標準で搭載
乗り心地に直結するタイヤにはコンチネンタルのウルトラスポーツを採用

 一方でジオメトリーには両者こだわりがあるので、下りのハンドリングの気持ち良さについては個性の違いはありますが、甲乙はつけ難いという感じです。同じカテゴリーに見える2台でも走りの印象はまったく異なるのが、自転車のおもしろいところ。その特徴はe-bikeになってもそのまま引き継がれています。

 実は編集部の銀髪ブタ野郎こと瀬戸氏も、e-bikeとはいえ天城越えができるかを不安がっていましたが、いざ走ってみれば、いろいろ寄り道しながらもかなりの余力を残して天城越えに成功しています。そしてe-bikeの登坂能力をあらためて実感していたようです。また、LAZER Z1というヘルメットにオプションのライフビームギアキットを装着して、今回の心拍数を計測していましたが、平均の心拍数は114という結果に。本格的なサイクリストでなくても、e-bikeがあれば誰でも難所の「天城越え」を可能にしてくれるのです。

 もちろんe-bikeでも、天城越えの達成感も味わうことができます。

心拍数(赤)と標高(緑)のグラフ。650mほどの標高を稼ぎながら上り坂でもあまり心拍があがっていないのがわかります。つまり気持ちよくヒルクライムを楽しめます
e-bikeで一緒に天城越えを経験した瀬戸氏とゴールの河津駅にて。最初は不安そうでしたがとても楽しそうに走っていました

e-bike+サイクルラックバスで自分流の天城越えを

 今回の片道45km程度のルートでは、100km以上航続可能なe-bikeですから、もちろん無充電でゴールしました。また、伊豆にはe-bike充電ネットワークの拠点もあるため安心して走れますし、前述のサイクルトレインなどもそろっているため、例えば初心者の場合は天城越え自体を目標とせず、サイクルラックバスを活用して滝巡りだけを行なってみるとか、桜巡りだけを行なってみるといった遊び方も考えられます。私たちもだいぶ寄り道をしまくったので、帰りはサイクルラックバスで修善寺まで戻りました。

河津駅からサイクルラックバスに乗ります
それぞれのe-bikeを積みます
自転車は2台まで積載可能

 また、上級者の場合は、この幹線ルートから枝分かれした峠道を走って遊んでみるという方法もアリですし、自分だけの天城越えの遊び方を見つけてみてはいかがでしょうか?

サイクルラックバスが出発するまで一休み。TOKYO RUSK 伊豆ファクトリーで購入した「しいたけマドレーヌ」をパクリ
通常のバス運賃で乗れます

 もちろん、伊豆に限らずe-bikeだからこそ行けるスポットは無数に存在します。そうした自分だけのお気に入りのスポットを探しに行くのも楽しいはずです。

 最後に今回走ったルートはこちら(※あくまでも参考までに。そして実際の法規に従って走行ください)。

難波賢二

国際派自転車ジャーナリスト 1979年生まれ。20年近く昔のe-bikeの黎明期よりその動向を取材してきた自転車ジャーナリスト。洋の東西を問わず自転車トレンド全般に詳しく世界の自転車業界に強いコネクションを持つ。MTBの始祖ゲイリー・フィッシャーの結婚式にアジアから唯一招待された人物として知られる。