難波賢二のe-bikeアラウンド

メリダとパナソニックに続き、トレックも参戦!! 日本にフルサスeMTBの時代がやってきた

 昨秋にメリダが、シマノSTEPS「E8080シリーズ」を搭載する160mmトラベルの本気eMTB「eONE. SIXTY 800」を限定受注生産を発表しました。国内のフルサスペンションeMTB市場に先鞭をつけましたが、今年に入ると、BESVが日本市場へのフルサスeMTB投入検討を発表し、3月に入るとパナソニックも160mmトラベルのeMTB「XM-D2」を発売するなど、一気に動きが見られます。

メリダ「eONE. SIXTY 800」
パナソニック「XM-D2」

 そして、いよいよトレックも国内市場に参入します。「トレックがeMTBで国内市場参入? 初耳なんですけど?」という読者の方も多いでしょうが、まぎれもない事実なので最後まで読んで欲しいと思います。

MTB、復活の狼煙!?

 40代以降の読者の方なら、1980~90年代の思い出とともに、国内ではサイクルスポーツの中心がMTBだったことを覚えている人も多いのではないでしょうか。2000年代に入ってからは、走行フィールドが限定されることもあり、ロードバイクにその座を譲っていますが、北米や欧州ではe-bikeの中心といえば、MTBをe-bike化したeMTBが主流です。

 そもそもMTBがスポーツサイクルのシェアの50%前後を占めているうえに、急勾配の山道を走るMTBは、オンロードタイプよりもe-bike化の恩恵を得やすいことが大きな理由です。実際にMTBに乗っていて、急勾配の山道を人力で上ることが楽しくて仕方ないという人は少なかったでしょう。もちろん筆者もその一人です。すでに雑誌などでも白状していますが、eMTB体験後は人力のMTBでの登坂については「引退」を宣言しています。

 軽量でコントロール性能に優れる人力のMTBには、それ自体の素晴らしさや楽しさがあります。しかし、より多くの人がターゲットになってくると、eMTBのラクラクさは、多少もっさりとした走行の質感をさておいても、トータルでのライディングエクスペリエンスとして楽しさが勝ると個人的には思います(ただし、下り専用として考えると、主に重量面でeMTBにはまだまだ解決すべき課題も多いとも思っていますが)。

オフロード走行メインならフルサスeMTB

 そんなeMTBですが、オンロードのメインは散歩・サイクリング・観光用途に使うというのならリアサスペンションのついていないハードテイルタイプのほうが走行性能や重量、価格を含めてオススメです。さらに、以前にこちらの記事でご紹介したeバウンド的な使い方をする場合も、山奥の観光地や村道は舗装されていてもひび割れていることが多いので、クロスバイクタイプよりもeMTBのハードテイルがよいでしょう。

eバウンド的な使い方をするなら「eBIG.SEVEN 600」ハードテイルのeMTBがオススメ

 その一方で、オフロード走行をメインに考えるなら、迷う間もなくフルサスペンションを選択すべきでしょう。理由はいくつかありますが、まずは電動アシストのトラクション面での恩恵はリアサスがついてこそ増幅されます。ぬかるんだ道から圧雪路まで余裕の走行を実現できるのはフルサスペンションならでは。

 先日、私も北海道の雪上を「eONE. SIXTY 800」で走る機会を得ましたが、まさに水を得た魚、もとい電気を得た雪上フルサスおじさん状態。フルサスe-bikeで圧雪路を走る経験は、これまでどんな乗り物でも経験したことのない異次元とも言えるものでした。文章では表現しがたいですが、一言でいえば超楽しい体験。本当に驚くほどの走破性と可能性を持っていると感じさせられました。

「eONE. SIXTY 800」で北海道の雪上を走りましたが、eMTBの走破性と可能性を実感しました

 これまでMTBの登坂といえば、時速一桁、場合によっては止まるかどうかギリギリの歩いているより遅いスピードという条件が多発する乗り物でした。それゆえに上りで考えると、軽さこそが正義。軽ければ軽いほどにラクという乗り物だったのが、eMTBでは15km/h程度のスピードが優に出ます。となると、気になってくるのがその乗り心地です。

 リアサスペンションのないMTBでは、路面の岩や木の根から容赦なく突き上げられるので、ハードテイルはあまり快適な乗り物とはなりません。ですが、リアサスペンションが付いてくると快適なうえに、トラクション性能も格段に上がるのですから言うことなし。そして、下りでの走破性も大幅に上がるのですから、オフロードに限っていえばリアサスペンションを付けない理由がないでしょう。

 そして、ストローク。従来はリアサスペンションのストロークといえば、上り下りを考えたクロスカントリーモデルで120mm程度がトラベルの上限で、下り中心のバイクで140-160mm、下り専用モデルで180-200mmという具合でした。しかし、eMTBとなると、もはや100mmでも160mmでもたいして変わらないため、トラベル量が160mmでもラクラク登坂。これもeMTBならではのスペックでしょう。

メリダ「eONE. SIXTY 800」が2020年モデルとして展開!?

 そんなフルサスeMTBですが、まずは限定受注生産で発売されたメリダ「eONE. SIXTY 800」を紹介しましょう。このモデルは私も、欧州仕様・国内仕様ともに様々なロケーションで乗った経験があります。シマノSTEPS「E8080シリーズ」(欧州仕様はE8000)を搭載しており、どんな登坂でもラクラクの大トルクは頼もしいだけでなく、シマノらしく必要なときに必要な分だけアシストしてくれるので、実質の一充電での走行距離も相当に長くなっています。

シマノSTEPS「E8080シリーズ」を搭載する「eONE. SIXTY 800」

 特に日本仕様では時速20km/h台でのアシスト力が低い(低速では体感であまり変わらない)ので、逆にバッテリーの持ちは抜群。ハイモードで実質4時間ぐらいは山中を走れるというのが筆者の印象(欧州仕様は2時間程度しか走れない)。車重も軽量に抑えられており、見た目もかなりカッコいい。

ハイモードで実質4時間ぐらいは山中を走行可能

 さらに「限定受注生産だからもう買えないのでしょ?」という人には朗報で、このモデルは来期(7月から始まる2020年モデル)ではカタログモデルとして展開されるという確度の高い噂も聞こえてきます。

ドライブユニット内に変速機を内蔵するパナソニック「XM-D2」

 3月1日より発売されたパナソニック「XM-D2」にも試乗してみました。最大の特徴は、国内展開で唯一のドライブユニット内に変速機を内蔵している点です。日本のe-bikeではかなり高額な価格の60万円という設定ですが、DTスイスのコンプリートホイールや、4ポッドのシマノDeore XTディスクブレーキを装着しているなど、かなり魅力的な装備となっています。

パナソニック「XM-D2」
ドライブユニット内に変速機を内蔵
リアサスペンション
4ポッドのシマノDeore XTディスクブレーキを装着

 ハンドルバーがストレートバーだったり、シートポストが固定式だったりするのは、このクラスのカテゴリーを考えると疑問ですが、パナソニックの社内基準を満たす既製品がないのが理由とのことなので仕方ないのでしょう。いずれにしても、このあたりの部品は自分好みのパーツを装着すればよいので大きな問題ではないと思われます。

 実際に乗ってみると、カタログ重量26.2kgほどの重さも上りでは一切感じないうえに、フレームの作りはかなり良いので、カスタムベースで考えると大きなポテンシャルを持っていると感じます。

大きなポテンシャルを持つ「XM-D2」

BESVからもフルサスeMTBが登場予定

 BESVのフルサスeMTBについては、サイクルモードで展示された「TRS2」という名称でシマノSTEPS「E8080シリーズ」を搭載する140mmトラベルのeMTBとして発売される模様です。細かいスペックは変更があるでしょうが、前述のメリダ 「eONE. SIXTY 800」や、パナソニック「XM-D2」に比べて財布に優しい価格設定となりそうです。

サイクルモードで展示されていたBESVのフルサスeMTB「TRS2」
インチューブのバッテリー

アメリカで100万円クラスのeMTBを展開するトレックが日本にも上陸!?

 そして、黒船・トレックが上陸します。トレックはボッシュの「Bosch eBike Systems」を採用していますが、現在、ボッシュが国内で展開している「Active Line Plus」はどちらかといえば街乗り向けのドライブユニット。本気の峠越えやeMTB用途には、ドイツ本国では「Performance Line CX」という、シマノSTEPS E8000と対峙するモデルを用意しています。

サイクルモードでボッシュブースに参考展示されていたeMTB
ドイツ本国で展開しているドライブユニット「Performance Line CX」

 先日のサイクルモードでボッシュは「Performance Line CX」を参考出展するなど、国内導入を見据えた動きを見せていますが、その第一陣がトレックのeMTBとなるのかもしれません。というのも、トレックの上層部が私の記事化を前提に教えてくれた情報として、今秋にカーボンフレームを採用したフルサスeMTBと、アルミフレームのハードテイルのeMTBの2車種を国内投入する予定だというのです。

アメリカで展開しているアルミフレームのハードテイルのeMTB

 トレックのカーボンフレームのフルサスといえば、アメリカでは「PowerflyLT 9.9 Plus」という邦貨換算で100万円クラスのeMTBをすでに投入しています。このバイクがそのまま投入されるのか、それとも別の新モデルが登場するのかも含めて定かではありませんが、「Active Line Plus」でのeMTB投入を見送ったトレックだけにドライブユニットも含めて何かの動きがあると考えるのが順当でしょう。

アメリカで展開しているトレックのフルサスeMTB「PowerflyLT 9.9 Plus」

 さらに、ボッシュの「Performance Line CX」もヨーロッパではすでに3年目に突入しており、こちらも日本仕様を開発するのかも含めて注目しています。

続々とフルサスeMTBが登場!! そして、どこを走る?

 このように2019年はフルサスeMTBが続々と登場してきますが、実際には「どこで走るのか」という問題があります。日本の山道は、国有林や私有林が入り乱れており、MTBが合法的に走行可能な道は限られています。従来のMTBユーザーたちが、地元地権者との合意を得て開拓してきた道をeMTBで走行することは非常に大きな問題となり得るため、慎んだほうがよいでしょう。同様の問題は北米でもe-bike初期からあり、現在では多くのMTB走行可能のトレイルがeMTBは走行禁止となってしまっています。

 その一方で、最近では御殿場MTBパークFUTAGOや富士見パノラマスキー場、白馬岩岳といったe-bike走行ウェルカムの常設パークが誕生しています。これらの場所が、まずはeMTBで走れるフィールドとなってくるでしょう。欧州では、eMTBで100kmを走るようなアドベンチャーイベントが大人気となっているので、いずれ日本でも同じ流れになるはずです。また、過疎地域や離島などでは、eMTBの走行フィールド作りに自治体の協力が出てくるような動きもあります。しかし、本気のeMTB発売と同時に、日本で展開するメーカーに求められるのは、ユーザーの走行環境作りをどこまで頑張れるか、その姿勢ではないかと思います。

難波賢二

国際派自転車ジャーナリスト 1979年生まれ。20年近く昔のe-bikeの黎明期よりその動向を取材してきた自転車ジャーナリスト。洋の東西を問わず自転車トレンド全般に詳しく世界の自転車業界に強いコネクションを持つ。MTBの始祖ゲイリー・フィッシャーの結婚式にアジアから唯一招待された人物として知られる。