神原サリーの家電 HOT TOPICS
ミラノで見た未来を感じる家電 サムスンやLGなどアジアに勢い
2024年5月22日 09:05
今年も4月16日~21日、イタリアでミラノサローネが開催されました。それに合わせ、ミラノ市内の各所で開催されるイベントがミラノデザインウィーク(フォーリサローネ)。家具やインテリアを扱う企業に限らず、ブランドイメージ向上を狙って世界の著名ブランドや自動車、家電、通信機器、ファッション業界の企業が競って出展しています。今回は、家電 Watchのコラムにふさわしく、家電メーカーに的を絞って展示の様子をレポートしたいと思います。
教科書的な展示から一歩進んだ心躍るインスタレーションに転換したサムスン
世界最大規模の国際家具見本市「ミラノサローネ」はもちろんですが、街中で開催されるミラノデザインウィークでも、企業メッセージとしてSDGsへの取り組みは今や当たり前のこととなりました。特にコロナ禍で暫定的に開催された2021年からは、環境問題が圧倒的に重要視されています。
そうした中で、昨年のSAMSUNG(サムスン)の展示は、導入部分でSDGsへの取り組みを教科書のお手本のように精緻に展示しており、その窮屈さが気になっていました。ところが今年は、会場を5つに区切り、「Essential」「Innovative」「Harmonious」「Infinite Dream」「New Dawning」というテーマのもと、順に旅をしていくようにインスタレーションを巡るという仕掛けになっていました。
技術革新による新しいアイデアの可能性を探り、人間とテクノロジーが自然にコラボレーションすることを考え、テクノロジーを通じて環境に適応することは可能であると展示を通じて働きかけています。
パネルを使った華やかなインスタレーションによって「本質的かつ革新的で調和のとれたデザインを通じて、よりよい未来を創造することに取り組んでいます」という企業メッセージを伝えたあとで、ラストの展示では、陶磁器の巨匠MUTINAと単板の魔術師ALPIとのコラボレーションで、冷蔵庫やクローゼット型のホームクリーニング機を家具のような美しいインテリアとして見せることに成功していました。
オランダの高級ブランドmoooiとのコラボが成熟を見せるLGエレクトロニクス
オランダのインテリアメーカー「moooi(モーイ)」とのコラボレーションを続けているLGエレクトロニクス。これまでモーイの新作の家具を使ったインスタレーション作品を同社の有機ELのディスプレイに映し出したり、モーイの衣装を着せた空気清浄機を展示したりしてきました。いずれも、LGの展示として行なっているのではなく、あくまで高級感溢れるモーイの会場内に黒子のように存在しているというものです。
今年もそのスタンスは変わっていませんでしたが、その展示の仕方はさらに一歩進んで成熟したものになっていました。モーイのテーマに合わせた衣装をまとい、インテリアと一体化したような空気清浄機やロボット掃除機のほか、LGならではの冷蔵庫やスタイラーの新モデルのお披露目も。
リビングの片隅に置かれたカラフルな冷蔵庫「LG InstaView with MoodUP」は、専用のスマホアプリによってカラーを変えることができ、音楽に合わせて変化させることができます。さらにドアを2回ノックすると、ドアを開けなくても中が見えるため省エネにも貢献するというものですが、さりげなく置かれたフライヤーと、壁に表示されたQRコードで情報を得るようになっているため、モーイの世界観を邪魔していません。
今回実物を初めて目にした「LG Styler ShoeCase」は、ガラスケース内にUVライトを照射することで99.9%除菌するというもの。ところがこの展示では、靴が入れてあるわけでなく、モーイのスリッパやタオルが入れてあり、360度回転するターンテーブルの上に乗って美しいスポットライトを浴びているかのようでした。衣類のホームクリーニング機のスタイラーの中にも、ゴージャスなモーイのガウンが入っていると、まるで違うもののように見えるから不思議です。企業コラボのお手本のような展示ではないでしょうか。
知名度とイメージアップのためにフレンドリーな施策で臨んだハイセンス&Midea
アジア勢の家電メーカーの出展はこの2社だけではありません。ハイセンスは「Hisense Innovation Market」と名付けた明るい市場のような雰囲気で会場を彩り、野菜や果物を使ったドリンク類を無料で提供して、通りがかりの人たちを中に引き込もうという作戦。会場内には、キッチンをかたどったコーナーを設け、冷蔵庫やノンフライヤー、ビルトインのオーブンなどを展示するほか、野菜や果物の間にドラム式洗濯機があったり、掃除機のコーナーがあったり、エアコンの展示も。機能面を訴求するというより、ハイセンスではこんな家電を取り扱っていますという知名度アップのための展示ということでしょう。
2016年に東芝の白物家電事業の買収を完了して8年になるMidea(美的集団)は、ミラノ中心部の街中に「Midea ROYAL HOUSE」と名付けた展示を開催。サッカーやバスケットといったゲームなどとも組み合わせた展示により、「#MideaRoyalHouse」のハッシュタグを付けたSNSでの投稿を促していました。ハイセンスのところでも見受けられたノンフライヤー的なコンベクションオーブンにスチーム機能が付いたものが置いてあり、ポップコーンのカップが象徴的に置かれていたのもユニーク。こちらも若い層にも気軽に入ってもらい、イメージアップに努めたいということのようでした。
ちなみにMideaは、マットなブラックのデザインがシックな印象のビルトインのキッチンシリーズ「Master Kitchen」に力を入れているようで、カタログを見る限りではまるで後述のミーレのよう。ミラノでの本命はこちらなのかなと思いました。
創業125周年のミーレは歴史を振り返り、新作カラーの発表も
ドイツのプレミアム家電ブランド、ミーレは創業125周年を迎えたこともあり、フォーリサローネのショールームをベースにした会場も力の入った展示を行なっていました。サローネの本会場での発表に合わせ、「The Pulse of Every Kitchen」(あらゆるキッチンの鼓動)をテーマに掲げて、年表形式で125年の歴史を振り返る展示。これまでの商品展示だけとは違った印象を持ちました。
ビルトインキッチンならではのシックな展示のほかにも、ドラム式洗濯機や乾燥機、アイロンといったランドリー関連や掃除機、ワインセラーなどの商品群も充実。本会場で発表されたハンドルレスArtLineシリーズのビルトイン調理機器の新しい2つのカラーのうち「オブシディアンブラック マット」も2階の商談ルームに展示されていました。今後、日本への展開がどうなるのか気になります。
ということで、今回はアジア勢の4社とドイツに本社を置くミーレの展示をご紹介しました。コロナ禍でサローネ自体の開催がストップしたり、規模が縮小されたりと、大きな転換期を迎えたミラノデザインウィークですが、家電以外の企業の状況や街の様子を見ても華やかさが復活してきたように感じました。
その中で、日本の企業もそれなりに出展しており、注目を浴びているものもありましたが、家電関連では見受けられず、まだまだ元気が足りないようです。コロナ以前にはソニー、パナソニック、ダイキン工業など、心に残るインスタレーションで訪れた人々を感動させていました。日本の家電メーカーよ、頑張れ! 来年、再来年に期待したいと思います。