神原サリーの家電 HOT TOPICS
家電×家具の融合。日立×カリモクが魅せた新しい家電のカタチ
2024年7月2日 08:05
2024年5月11日~18日、東京・西麻布にあるKarimoku Commons Tokyoにて、日立の小型冷蔵庫「Chiiil(チール)」とカリモク家具によるコンセプト展覧会が開催されました。家電と木材を使った家具の融合とは一体どんなものだったのでしょうか。展覧会のちょうど1カ月前にミラノデザインウィークの会場でカリモク家具の取材をしてきた様子も踏まえ、ライフスタイルの多様化に合わせてインテリアにグッと近づいた家電の最新の姿を追ってみたいと思います。
使いたい場所に置きやすく、組み合わせて使えるモジュール型冷蔵庫「Chiiil」
まずは、今回のコンセプト展覧会のベースになっている冷蔵庫「Chiiil」について、ご紹介しましょう。
日立グローバルライフソリューションズから2022年4月下旬に発売された「Chiiil」は、キッチン以外の様々な空間に設置されることを想定し、家具のような佇まいを目指して作られました。設置場所を選ばずさまざまな空間に合わせやすいよう、冷蔵庫の外形寸法を細かく検証し、一般的な家具サイズとの整合性を考慮されています。
水平垂直を基調としたスクエアでシンプルなフォルム、奥行き42cmと薄型で、放熱機構を本体下部に設けたため壁にピタリと付けて設置でき、物を置くのにちょうどいい75cmという高さも絶妙です。
本体カラーはホワイト、薄いグレーのノルディック、黒に限りなく近いダークグレーのベーシックカラーに加え、北欧をイメージさせる中間色を中心としたカスタムカラー7色の計10カラーを展開しており、いずれもマットな質感がその繊細な色合いを忠実に表現していて家具のような設えです。
上下、左右に並べても使える仕様になっているので、同色はもちろんバイカラーでインテリアのアクセントにすることもできるのです。
2台を組み合わせて縦置きで設置する際、上段の冷蔵庫のドアハンドルにアクセスしやすいよう、ドアに触れる手の高さを考慮し、ドアの下部にもハンドルの凹みを設けているほか、2台横置きの際は観音開きができるよう、右開き/左開きのドアを設けるなど、異なる設置スタイルでも個々の使いやすさを考慮した設計がされています。まさにモジュール型冷蔵庫ということですね。
庫内が一般的な冷蔵庫のような白ではなく、ダークグレーのため、扉を開けるとLEDのやわらかな明かりが食品をほんのりと照らして美しく、使われる場所やシーンを思い描いて作られたことが伝わってきます。温度帯は「セラー」「冷蔵」から選べ、それぞれ強さが3段階で調節できる仕様ですが、願わくば次世代モデルでは「冷凍」も選べるようにしてほしいなと思っています。
ミラノデザインウィークでもサステナブルな家具作りが注目を集めたカリモク
前回のコラムでもお伝えしたミラノデザインウィーク2024の様子ですが、カリモクも2010年から、こちらのイベントへの出展を重ねており、今年はミラノ市内の4つの会場でKarimoku New Standard、Karimoku Case、MAS、SEYUNを出展。そのうち、トルトーナ地区の3会場で出展していた3つを取材することができました。
中でも、現在も実際に使用されているアーティストのアトリエを、よりパーソナルな空間である「家」に見立てて家具をレイアウトしたという、Karimoku New Standard(以下、KNS)は印象が強く、そこで聞いたカリモクのモノづくり、家具作りの姿勢に目を見開かされたように思いました。
というのも、1940年に木工所として創業した同社は、木と森林に強い思い入れと愛情があり、森林資源を健全に保つため、木材加工のノウハウを生かし、間伐材、小径材、国産の針葉樹を使ったサステナブルな家具作りをしてきたのです。
「その姿勢を貫いてきたけれど、『一枚板を使っていないのに高い家具を売っている』と言われたこともありました。でも、こうしたサステナビリティを重視される世の中になり、時代が私たちに追いついてきました」と。
カリモク家具のブランドのうち、KNSは特にこの姿勢が強く出ており、あまり有効利用されていなかった国内の未利用の小径広葉樹を活用し、森林保全や林業地域の活性化といった日本の森が抱える問題に対して持続的な貢献を目指していると言います。
展示してあったテーブルの縁を触ってみても、その滑らかに仕上げられた加工技術は圧巻で、まるで一枚板で作られたよう。スイス出身のコニー・フュッサーさんをスタイリストに迎え、彼女が収集してきたアーティストの作品やプロダクトをスタイリングアイテムにした展示は、家具とアートの垣根を越えた美的感覚にあふれた居心地のいい空間になっていて、「インテリアによる豊かな暮らしのお手本」を見た気分に。会場選びの秀逸さもあったのだと思います。
ヒノキをはじめとする国産針葉樹コレクションのMASの会場では、ヒノキ風呂に入ったかのような香りが広がり、ヒノキならではの明るくやわらかな素材感を生かした家具や照明などが展示され、五感に訴えかけるものとなっていました。
協創で生まれた「これからのちょうどよくて心地いい暮らし」
そんなカリモク家具とのミラノでの出会いを経て、5月に迎えた日立とカリモク家具によるコンセプト展覧会は、想像以上にワクワク感のあるものでした。
案内状には「Chiiil」に木製の天板と脚が付いたシンプルな画像があるだけだったので、カラバリ違いで脚の付いた「Chiiil」が並んでいるだけだと思っていたら、大間違い。会場となったKarimoku Commons Tokyoには、「Living」「Dining」「Bedroom」「Hobby」「Hotel」「Office」というシーンに合わせた様々なコンセプトモデルが並び、スタイリングもされていたのです。さながらミラノで感動したKNSのアトリエでの展示のようで、力の入ったものであることがわかります。
コンセプトは、「これからのちょうどよくて心地いい暮らし」。ポイントは「これから」という言葉にあります。なぜなら、一度購入すると長い時間を共にする家電だからこそ、インテリアに馴染むものだったり、機能的に満足するものだったりと、自分や家族にとって「ちょうどいい」ものを選びたいと思うはず。でも、「ちょうどいい」という価値観は、ライフスタイルの変化や家族構成などによって変化するものなのですよね。
だから置き場所や使い方が変わっても、暮らしの中で求める機能が変わっても、それに合わせられる自由度や拡張性が求められるのではないかと。今も、これからも。
そういった柔軟さを表現するにあたって、思い切って家電の枠をはみ出して考えてみたいというのが今回の取り組みのきっかけだったのだと言います。木製の家電を作るとか、インテリアとして素敵なおしゃれな家電を作るとか、そんなことではない、もっとその先を考えた「これからのちょうどよくて心地いい暮らし」だという説明に、しみじみ「いいな、これを自宅やアトリエに置きたいな」と思ったのでした。
展覧会のメインビジュアルとして使われている脚付きのラタンとの組み合わせのプロトタイプも素敵でしたが、同カラーのスツールまでデザインしてカリモクが作ったというコーナーも居心地がよく、LED照明のオンオフで雰囲気がガラリと変わるベッドルームも本当に素晴らしいものでした。
今回、注目すべきは家電側(Chiiil)はカリモクとのコラボに際し、何も仕様変更などをしていないことではないでしょうか。自由に組み合わせを変えられたり、こうして家具と融合させたりできるのも、壁にピタリと付けられドアの開き方まで考えて設計された水平垂直のモジュール型だからこそ。
そしてカリモク家具が、森林保全や林業地域の活性化といった日本の森が抱える問題に対して持続的な貢献を目指しているように、日立のモジュール型のChiiilも変化していく世の中に合わせて、いかようにも作り変えられ、新しいものに見せられるという点でサステナビリティな冷蔵庫と言えるのではないでしょうか。
こうした新しい提案が次の一歩に繋がるように、ぜひともプロトタイプで終わらず、製品化してほしいと願っています。