神原サリーの家電 HOT TOPICS

話題の「15分睡眠服」体験 ミラノで革新的な家電たちに出会う

ショールームの入り口の大型LEDウォール。テクノロジーを核に据え、来場者をキッチンの真髄へと誘うように作られたという。同社の「True to Food」の哲学を伝えている

2025年4月8日~4月13日に開催されたミラノデザインウィーク(MDW)。期間中、ローフィエラ・ミラノの本会場(日本で言うところの東京ビッグサイトのような展示会場)で開催されたミラノサローネでは、家具と照明の見本市が開催されていましたが、ミラノの街中のMDWでは、過去最高の出展数となり、こちらも大盛況でした。数ある中から、家電やテクノロジーにまつわる企業の展示をピックアップしてご紹介します。

国際的な建築スタジオとコラボしたデザインコレクションが目を引いたLG

ミラノのブレラ地区にあるLG SIGNATURE(エルジー シグネチャー)のショールーム、「シグネチャー・キッチン・スイート」で開催されていたのは、デザイン・イノベーション・食への敬意を称える没入型の旅「The Essential Touch」と題した展示。期間中の来場者は8,000人を超えたといいます。

「シグネチャー・キッチン・スイート」では、テクノロジーとデザインの理想的な対話から、国際的な建築スタジオとのコラボレーションによって生まれた限定版の独占コレクションとなる「カプセルコレクション」が誕生。中でも今回のハイライトとなっていたのが、イタリアのプロダクトデザイナー兼アーティスト、エレナ・サルミストラロによる「DUAL CODE(デュアルコード)」です。

イタリアのプロダクトデザイナー兼アーティスト、エレナ・サルミストラロによる「DUAL CODE」のワインセラー
デュアルコードのバリエーションの数々を映像で伝えていた

独創的でカラフルなグラフィックを施したアンダーカウンターワインセラーとコンバーチブルアンダーカウンター冷蔵庫をデザイン。レトロポップな雰囲気を漂わせる2つのオリジナルキャビネットは、2つのグラフィックスタイルと3つのカラーバリエーションで展開され、家庭用としてだけでなく、デザインホテルや次世代オフィスなどの公共空間にもシームレスに溶け込むとしています。

ディズニー、アップル、アレッシィ、カッペリーニ、フロリム、ボサなど、業界をリードする企業とコラボレーションし、数々の賞を受賞している彼女のデザインは、どこか日本における昭和レトロな雰囲気も感じさせ、世界的な潮流なのかと思わせ感慨深いものがありました。

そのほかにも、イタリアデザイン界の巨匠ヴィコ・マジストレッティがデザインしたスキッフィーニのシステムキッチンとLGビルトインシリーズとの融合も素晴らしく、すべての空間が「The Essential Touch」のタイトルそのもの。家電を単体で考えるのではなく、システムキッチンやインテリアと一体化させるものだと、改めて学んだ気がします。

今回のテーマ「The Essential Touch」
カプセルコレクションの1つ、スタジオm2アトリエによるスキンズ ワインキャビン。都会的な雰囲気とヴィンテージのエッセンスが融合し、素材と色彩の巧みな組み合わせが際立っている
ヴィコ・マジストレッティがデザインしたスキッフィーニのシステムキッチンの中に、LGビルトインシリーズのオーブンレンジやワインセラー、冷蔵庫などが見事に融合している
くすみピンクの柱が印象的で美しいキッチン
ミラノにあるハイエンドのショールームということもあり、ビルトインキッチンのみで展開されている

働く喜びのために大切な心と身体の健康を可視化。リコーのスマートセンサー

中心部から少し離れたトルトーナ地区では、リコーが「SOUL and SOIL(魂と土壌)」をテーマに、AIを統合してさまざまな生地に特殊なセンサーを印刷する高度なインクジェット導電印刷技術(=スマートセンサー技術)を発表していました。

リコーのテーマは「SOUL and SOIL(魂と土壌)」。入ってすぐのところには、センサーが内蔵された複数人掛けのソファが用意されていた

同社では、職場や日常の環境における空間の概念を再定義することを目的とした研究を進めており、チームワークや個性、感情的な幸福などをテーマに焦点を当てていると言います。今回の「SOUL and SOIL」展で、SOUL(人の心)とSOIL(土壌・微生物)に着目した理由は、どちらも目には見えず、しかし確かに存在し、私たちの働き方や生き方に深く影響を与えているから。

会場内に入ると、モスグリーンのソファが用意されており、このセンサーが内蔵(プリント)されたソファに座ることで、一人一人の着座状態が、美しい光と連動する仕組みになっています。緻密なセンサーコントロールによって、複数人のコミュニケーションをテクノロジーが自然にサポートする可能性を探っているとのこと。座っているうちに微妙に変化する光の様子を見ていると、今後、どのように活用されていくのかに興味が湧いてきます。

ソファには生物をイメージしたパターンで描かれた導電性テキスタイルプリントが施されている
ソファには植物ポットが一体化されている。これは魂と土壌という今回のテーマに基づくもの
センサーが内蔵された複数人掛けのソファに座ることで、一人一人の着座状態が光と連動。壁の光によって、コミュニケーションをテクノロジーが自然にサポートする可能性を体験できる仕組みに

さらに奥に進むと、薄暗い空間の中央に一人掛けのソファがあり、ここにもセンサーが内蔵されています。座ってしばらくすると、正面のパネルに変化が起き、リラックス度やアクティブな感情などが数値とカラフルな美しい光のキネティックアートで映し出されます。座る人によって全く異なる数字やアートが表示されるのが面白く、隠しきれない心身の状態の可視化に盛り上がったのでした。

奥の部屋には一人用のソファがあり、ここにもセンサーが内蔵されている
しばらく座っていると正面のパネルに、リラックス度やアクティブな感情などが数値とカラフルな美しい光のキネティックアートや音で表現される
説明をしてくださったリコーのスタッフの方が着ていたベストにも導電性テキスタイルプリントが施されていて、どの位置にいるかなどがわかるようになっているとのことでした

こうしたスマートセンサー技術の活用で、インテリア性や座り心地というだけでない、家具の機能が強化されていくのですね。

コーヒータブレットの新システム。ラバッツアのエスプレッソマシン

「パラッツォ・デル・セナート(セナート宮)」で開催されていたのが、LAVAZZA(ラバッツア)のインスタレーションと、エスプレッソマシンの新モデルのお披露目です。ラバッツアは、エスプレッソの本場イタリアのトリノで1895年に誕生したイタリアでシェアNo.1のコーヒーブランド。随所にミラノの歴史の変遷を感じることができる貴重な建物での開催ということもあるのか、1時間弱ほど並ぶくらいの大行列でした。

Palazzo del Senatoで開催されたラバッツアの展示には長い行列が

中に入るとまずは光を落としたブース内でブラジルのデザイナー、ジュリアナ・リマ・ヴァスコンセロスによるインスタレーション「Source of Pleasure」が。光と映像、音楽による全身で体感するインスタレーションが見事でした。続いて足を進めると、一気に明るい会場が広がり、そこではラバッツアの新しいシステム「Tablì」のお披露目と試飲が行なわれていました。

どこか幻想的な雰囲気もあったインスタレーション「Source of Pleasure」
新しいコーヒーシステムを採用した「Tablì」

カプセル不要の100%コーヒータブレットにより、“シングルサーブコーヒーの世界に革命をもたらす”という説明にも納得。均一に挽いたコーヒー豆を圧縮させ、コイン状のチョコレートのような形状にしたタブレットをタブリーマシンに挿入すると、すぐに抽出ができて、味わいも本格的です。イタリアでは2025年9月からの発売で、その後、順次世界にも展開していくようです。

カプセルを使わないタブレットタイプなのが特徴
スマホとの連携もできるスマートな要素も
カラーはブラウンのほかに、ブラックやレッドもお披露目されていた
デカフェもあり、味わいも本格的!

話題の「15分睡眠服」 ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEMを体験

ブレラ地区にあるオークションハウス「BLINDARTE Milano」の地下のスペースで展示をしていたのは、コネルによる未来の睡眠をテーマにした新たな服「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM(ズズズン スリープ アパレル システム)」。

コネルの出展会場はブレラ地区にあるオークションハウス「BLINDARTE Milano」
階段を降りていくと「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM」の印象的なポスターが

睡眠負債という言葉が聞かれるようになって久しいですが、このシステムは、現代の情報化社会における“休息の新たな形”を模索し、ユーザーがよりリラックスできる睡眠環境を提供することを目的としているといいます。どこでも、どんなときでもこの服を身に着けて15分休むことで、元気を取り戻そうということですね。

パーソナルな睡眠環境を与えてくれる「ZZZN SLEEP APPAREL SYSTEM」。実際に装着して体験してきました

会場では「5分」という短時間での疑似体験でしたが、実際に装着して横になることができました。昭和の時代にあった「かいまき布団」をグッと未来的にしたようなこの服は、びっくりするほどふかふかでやわらかく、かつ軽いのが特徴。袖、裾のドローコード、抱きタブから着圧を調整することで、個人に合った寝やすさになるそうで、会場でもスタッフの方が調整してくださいました。

さて、横になってみるとヘッドピースに組み込まれたヘッドフォンからは音楽が流れ、目をつぶると何となく赤いような光に照らされていることがわかります。これは後で聞いたところによると、入眠しやすい周波数帯域の2種類の音楽が流れ、夕焼けの色に近い赤色灯照明を採用とのこと。その人の生体データをもとにチューニングされた明滅リズムを、瞼の裏で感じることができるようになっていたのですね。

やわらかでふかふかの寝具に包まれ、まるで布団(ベッド)で寝ているような感覚に
ヘッドピースに組み込まれたヘッドフォンから、入眠しやすい周波数帯域の2種類の音楽が流れ、入眠時に最適な夕焼けの色に近い赤色灯照明が採用されている

少し緊張感はあったものの、ふわりと睡魔が訪れたような気がしたところで、目覚めには、心地よく起きられる楽曲と目が覚める青色照明で、体のスイッチがスムーズに移行できる仕掛けになっていて感動しました。2025年6月24日(火)から7月7日(月)までの14日間、大阪・関西万博にも出展するそうなので、気になった方はぜひ。

楽しい仕掛けで若者たちに大人気のハイセンス・イタリア

明るいグリーンのイメージカラー満載で、若い人たちを中心に賑わっていたのが、ハイセンス・イタリアの展示会場。AIを前面に出したドラム式洗濯機と乾燥機のシリーズ「7S」をアピールするために、ドラムの扉を開けた向こうにカメラを配した仕掛けを作り、友人たちと一緒にそこに並んで立つとアプリで記念写真を撮ってくれるというコーナーは順番待ちになるほどの大盛況となっていました。

入り口に緑が多く、入りやすい雰囲気のハイセンスの入り口

ちなみに「7S」のシリーズは、AIによって管理され、エネルギー効率を最大限にしたり、パワースチームで繊維のシワをのばしたり、セルフクリーニング機能が付いていたり、イオンによるリフレッシュ機能が付いていたり、洗剤が少なくなるとプッシュ通知してくれる機能があったりと、なかなか力の入った洗濯機&乾燥機のようです。

2つのセンサーとAIを活用した最新の洗濯システム採用の7Sシリーズの洗濯機と乾燥機がメインの展示になっていた
記念写真が撮れる仕掛けも

そのほか、FIFA CLUB WORLD CUP25のオフィシャルパートナーになっていることをアピールしたり、大画面の液晶に世界観を表現するインスタレーション動画を映し出す部屋を用意したりと、昨年以上に力が入っている様子で、日本での急成長ぶり以上に欧州での勢いを感じさせられました。

プロジェクターを活用し、天井にも心躍る映像が。ゆったりくつろぐ人の様子が印象的だった
冷暖房用のエアコンのアピールも

オーディオテクニカが共鳴で紡ぎ出した“再現不可能な響きと空間”とは

オーディオテクニカの展示会場も、ほかとは違う、心に残るものとなりました。同社は「感性豊かな人間性を育む瞬間を創造する」という理念のもと、60年以上にわたってオーディオ機器の技術と可能性を追求してきた企業ですが、今回のテーマは「repeat the unrepeatable(再現不可能なことを繰り返す)」。

オーディオテクニカの入り口。ターンテーブルを象ったマークが印象的だった

展示エリアには、それぞれ異なる音源(リズム・メロディック・アンビエント・コードの要素を持つ)を収録したレコードがセットされた4台のターンテーブルが設置されています。各ターンテーブルでレコードを選び、好きな場所に針を落とすと、それぞれのターンテーブルから奏でられる音は光と織り交ぜられて調和し、二度と再現できない響きと空間を繰り返し構築していくというわけですね。

「気分に合わせてレコードを選び、プレーヤーにセットする。人の意図や動作、そして針の繊細な動きがこの一度きりの体験を形作ります。この一度きりの再生体験こそが、アナログならではの触感や感触を生み、人の心を揺さぶると信じています」という紹介文を読んで、まさにその通りだと感激しました。

4つのターンテーブルを会場の4カ所に配し、それぞれリズム、メロディック、アンビエント、コードと異なる音楽を流していた。4台の音が合わさり、二度と再現できない響きと空間を作る

会場の中央部には、フローティングターンテーブル「Hotaru」も展示され、透明なレコードから透けて見える様々な光の色が本当にきれいで、こちらもまさに一期一会のような音と光がシンクロするライティングシステムになっています。全世界で1,000台限定でこの夏に発売とのことですが、ミラノで体感して欲しくなった人も多いのではないでしょうか。

会場の中央部を囲って置かれていたのが2025年8月に発売を予定しているAll-In-One Turntable 「Hotaru」
選んだ音楽と、20種類のカラーパレットから生まれる光が反応して様々な色に変化していく

今年は本会場で照明見本市エウロルーチェが開催されていたこともあり、街中でも様々な照明が展示されていたのも印象的でした。LEDの進化で、まるでアートのようなデザインの照明が、展示会場となる石造りの歴史ある建物と一体となって訪れる人を夢幻の世界に誘うようなものもあり、シーリングライト一辺倒の日本の住宅の照明事情がつまらなく感じたのも事実です。

冒頭でも少し説明したとおり、ミラノサローネの開催に合わせて街中の宮殿や古い住宅、倉庫やショールームなどを使って開催されるミラノデザインウィーク。ハイブランドをはじめとする世界中の企業が環境や社会問題の解決などを根底に置きながら、デザインやテクノロジーの力を借りて鮮やかに表現している様子は、ほかには類を見ないものなのではと思います。百聞は一見に如かず、ぜひ一度足を運んでみてはと思います。

まるで経木を思わせる木を使ったランプ
LZFの照明の新作THE CLOUD。デザイナーはCANDRELA CORT
神原サリー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。現在は家電+ライフスタイルプロデューサーとして、家電分野のほか、住まいや暮らしなどライフスタイル全般の執筆やコンサルティングの仕事をしている。モノから入り、コトへとつなげる提案が得意。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、メーカーの現場の声を聞くことを大切にしている。 テレビ・ラジオ、イベント出演も多数。