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深呼吸したくなる“空気の神社”ってなに? 山形県へ参拝してきた

鏡のような舞台が「空気神社」の本殿となる

JR山形駅を降り、車で新潟県との県境に向かって西へ50分ほど走ると着く、山形県朝日町。まわりを自然に囲まれた、リンゴとワインの里だ。

そこに日本で唯一「空気」そのものを祭った「空気神社」がある。山形県は4年連続してPM2.5の濃度が低く「日本一空気がキレイな県」としてアピールしているため、空気神社の名前も徐々に全国区になりつつある。

一方、テレビCMでご覧になった方も多いかも知れないが、パナソニックは家庭用からビル用のエアコンまで設計/製造する「空調事業」と、扇風機から換気システム、ジアイーノをはじめ空気清浄機までを設計/製造する「空質事業」が合体して「空質空調社」として1社にまとまった。つまり空気は温度と湿度だけでなく、気流やキレイさ、換気なども含めて総合的に開発が必要ということでの合併だ。

神社と企業の「コンセプトが互いにマッチした」という

そこで空質空調社が白羽の矢を立てたのが「空気神社」というワケである。コンセプトがピタリと一致した神社と企業。2022年11月9日の「いい空気の日」に、神社を設立した山形県朝日町とパナソニック 空質空調社が共同記者会見を行なった。

空気の神社は伊勢神宮にもある?

“空気の神社”と聞くと、伊勢神宮に参拝された方なら、駅に近い外宮にある「風宮」(かぜのみや)を思い浮かべた方もいるかもしれない。こちらは「空気」そのものではなく、これらを象徴する神様を祭ったお社となっている。また駅からほど離れた内宮には、誰もが耳にしたことがある天照大神(あまてらすおおみかみ)がお祭りされている。この内宮の天照大神には、バスで30分ほど離れた外宮から毎日食事がお供えされる。なぜなら外宮には農作物の神様が祭られていて、その成長に欠かせない土と風(雨)の神様も一緒にお祭りされているからだ。

伊勢神宮にある風宮。風雨を司る級長津彦命(しなつひこのみこと)が祭られている。参道を挟んだ反対には土宮も

かたや朝日町の空気神社に神様はいない。こちらはあくまでも神社の神道としての宗教的な意味はなく、モニュメントとなっているためだ。とはいえ神道の始まりは、不思議な形をした岩、荘厳な山、雷や雨そのものを神とする自然崇拝だったともされる。普段は当たり前のようにある空気に感謝することは、信仰うんぬんは別として、空気のありがたさや、そのものについて考えるいい機会になる。

Asahi自然観から空気神社への道のり。標高が高いのもあり11月頭ながら紅葉は終わっていた
石碑とのぼりが目印の空気神社。鳥居はなかった

その空気神社に、さっそく足を運んでみた。Asahi自然観という、夏はコテージでキャンプ、冬はスキーができる施設から歩くこと数分。人里離れたゆるい山道の先に神社の入口がある。鳥居こそないものの、鎮守の森に囲まれ数百mのゆるい階段の参道が続く。

その途中には、五行説の木、火、土、金、水をモチーフにした「マニ」がある。マニとは円筒状のものにお経が書かれたもので、これを手で回し1回転させると1回お経を読んだことになるというものだ。空気神社の参道にあるマニはお経こそ書かれていないが、木でできたマニ、ロウソクに火がつけられるマニ、土管など個性的なものとなっている。一番最後のマニには水が流れており、神社で手を清める手水舎になっているという凝りようだ。

始めに迎えてくれるのが「木」のマニ
最後が手を清める手水舎になっている

参道を抜けるとピカピカに磨かれたステンレスを使った、高さ1mほどの5m四方の舞台が現れる。これが空気神社のモニュメント(本殿)だ。周りは木々に囲まれ、舞台は鏡のように周囲の景色を映し出す。すると舞台を見ているのに映り込む樹木の間から青い空を仰げるようになっているのだ。なかなか神秘的な演出で筆者も驚いた。

舞台わきには本殿に入る地下への階段がある。コンセプトは不明だが伊勢神宮の風と土のようにも思えた
舞台は鏡のように風景を映すので幻想的。落ち葉も不思議さを演出してくれる
これ絶対に、紅葉と青葉の季節に来たらイイヤツ!

このようにヘタをすると神社よりも凝った作りや演出になっているばかりでなく、本当に清々しい空気に触れ合えるので、いやがおうにも「空気のありがたさ」を感じられる作りになっている。

神社より神社かもしれない空気神社

さて、参拝の方法も独自の作法になっている。一般的な神社は2回礼をして、2回手を叩き、1回礼をしてお参りする。しかし空気神社は2回礼をした後に4回手を叩き、最後に腕をY字に開き大きく深呼吸をするという。ただのモニュメントにしては、お作法まで徹底している。

参拝の作法の説明があるので安心。2礼4拍手1礼は出雲大社と同じお作法。出雲の社の中には雲が描かれていて、これまた「風」をイメージさせる不思議なご縁だ
誰も恥ずかしがることなくY字に手を広げて深呼吸。空気がいいから深呼吸したくなるのかも?

また世界環境デーの6月5日を朝日町では「空気の日」と制定し、一般客でも本殿の中(地下)を見学可能にしているという。鏡のような舞台では、神社と同じように巫女さんが舞を披露し、当日限定で御朱印の頒布もある。

加えて、子供たちにきれいな空気の大切さを考えてもらう「空気教室」が開催される。さらに本殿のライトアップも行なわれるなど、隠れた観光スポットになっており、県外からの観光客も多く訪れるそうだ。町によれば本殿の中に入るのに何十mもの列ができるほどだという。

参道の景色も素晴らしい。紅葉真っ盛りもいいが、青もみじの春~夏も気持ち良さそう

もちろん賽銭箱も参道や本殿に設置されているので、管理維持費に協力するという感覚で納めるのもいいだろう。

パナソニックからも神が降臨!

実はパナソニックの空質空調社にも神様がいる。それは家庭用のエアコンの愛称「エオリア」だ。エアコンメーカー各社は「白くまくん」や「ビーバー」「霧ヶ峰」という愛称を長年使う戦略を取ってきたが、なぜかパナソニック(かつてのナショナル)だけは愛称をコロコロ変える。「樹氷」に始まり「楽園」、そしてバブルのころに「エオリア」と銘打った。しかしエオリアの愛称はいつの間にかなくなり、型番で呼ぶという時代が続く。転機はエアコン事業60周年の2016年、再び「エオリア」の愛称を復活させたのだ。

昭和と平成どちらのエオリアの語源もギリシア神話の風の神様アイオロス(Aiolos)。この神様はイタリアにある小さな島アイオリア(Aiolia)島に住んでおり、あらゆる方角から吹くそよ風から強風を自らが持つ袋に閉じ込められたという。そして神話が世界に広まったときに英語読みでエオリアン(Aeolian)となまり、のちに島の名前もエオリア諸島になったという。

神道の起源は、山や岩、雷などの自然現象を信仰したものとされる。RPGなどで登場する火、水、風、土、森などの精霊信仰に非常に似ているので、神社の参道にあるマニもすんなり受け入れられる。

世界の有力な宗教は、「唯一の絶対神」しかいない。その点、色んなところに八百万(やおよろず)の神様がいるという日本的な考えは、この空気神社にも通じること。

パナソニックから舞い降りた風の神様、ギリシア神話のエオリアを招き入れても、何も違和感を覚えないだろう。

こちらは奈良県にある大神神社(おおみわじんじゃ)。日本最古の自然信仰と言われ、お参りする拝殿はあるが本殿は「山」そのもの

出羽三山から、今後は“出羽四山”参りになる? これからのコラボに期待

空気神社を設立したコンセプトと、空質空調社のコンセプトがピタリと一致した今回の会見。詳細は不明だが今後いろいろなイベントをしていきたいという。その候補としては、参道のライトアップを再生可能エネルギーでまかなったり、観光客で賑わう本殿の空気を浄化・換気するなどを考えているという。さらに朝日町は星がきれいに見える町ということもあり、“空を明るくしない照明”なども視野に入れているということだ。

空気の日に行なわれる巫女の舞。色のバランスがスゴイ! マジで見たいかも
空気の日限定のご朱印。残念ながら書置きのみ。めっちゃ本格的で、鳥居がないだけの神社にしか見えない

まずは来年2023年6月5日の空気の日(世界環境デー)が楽しみだ。またこの地方には、出羽山地の山頂にある神社(パワースポットとも言われている)を巡る出羽三山参りが昔から有名。その1社とも非常に近く、不思議な空気感を持つ空気神社だけに、当日御朱印をもらい巫女さんの舞を楽しむ観光スポットにもなりそうだ。近い将来「出羽四山参り」になる(?)かもしれない。