神原サリーの家電 HOT TOPICS
香港エレクトロニクス・フェアで見つけた元気で楽しいアジア家電
by 神原サリー(2014/5/21 07:00)
2014年4月13日~16日、香港コンベンション&エキシビション・センターにて、香港貿易発展局による「第11回 香港エレクトロニクス・フェア(春版)」が開催された。このフェアでは、エレクトロニクス製品をはじめ、今後大きな可能性が期待されるプロトタイプや新しい技術などの発表もあり、エレクトロニクス産業においてはアジア圏最大級のイベントといわれている。当初は秋(10月)だけの開催だったが、近年は春と秋の2回開催となったほどの人気の展示会だ。
今回は、中国本土や香港、台湾、韓国、マレーシアなどアジアを中心に、世界中から23の国と地域から2,760以上の企業・団体が参加。
このフェアでは例年、電子部品やAV機器関連、LED関連の出展が多く生活家電は比較的少なめだが、香港・中国ならではの生活スタイルや世界的なトレンドに対応したキッチン家電や健康家電、掃除機、季節家電などが見られるという、独特な面白さがある。2011年秋以来、2年半ぶりに取材の機会を得たので、アジア家電の最新トレンドを、背景となる生活スタイルなどを交えて紹介していきたい。
ノンフライ調理家電が花盛り
2013年の日本のキッチン家電市場を席巻したフィリップスの「ノンフライヤー」。ヒーターの熱をファンで対流させて調理するという点では、構造上、コンベクションオーブンの仲間だが、油を使わずに揚げ物ができる便利さやヘルシーさをうまくアピールし、人気に火がついた。
今回のフェアでもいたるところで見られたのが、同様のノンフライ調理家電。容量を大きくして一度にたくさんの調理ができるようにしたもの、反対にコンパクトにして設置性を高めたものなど、サイズの違いはあるものの、見た目のデザインや構造はほとんど同じ。各ブースで話を聞いてみると、日本からの引き合いだけでなく、世界的にも注目を浴びており、需要は益々広がる見込みのようだ。
中国のDongGuan ZhouDA Home Appliances社の「Smart Light Fryer」シリーズは、操作パネルがタッチパネル式とダイヤル式のものほか、容量をアップさせたものもそろえ、なかなかの充実ぶり。星形のケーキの型も付属しており、ノンフライ調理以外にも、オーブンとして料理を楽しむことができることを熱心に説明していた。油を使わない揚げ物調理というわかりやすさで注目されたノンフライヤーだが、追随メーカーとしては多機能性で攻めたいということなのだろう。
中国・錦器社の「Multi Airfryer」は、付属品を使ってブロック肉を回転させながら焼くことができるなど、オプションの豊富さが特徴。耐熱ガラスを採用し、引き出し式でなく、ヒーターとファンが付いた部分を持ち上げて、食材を出し入れする方式で、本体サイズもかなり大きい。さらに容量をアップさせるための金属製の“はかま”を備えたものもあり、肉料理へのこだわりや大人数向けの料理が主流ということが見て取れる。
聞くところによると、香港周辺では電子レンジでの料理の温め(再加熱)というのはあまり一般的でないようで、その代わりにスチームクッカーもしくは蒸し器を愛用している人が多いのだという。“オーブンレンジ”という概念が不要なら、四角い箱型のオーブンよりも、こうした丸形のマルチエアフライヤーのほうが使い勝手がよいのかもしれない。
“食卓で作って楽しむ”キッチン家電が人気
ノンフライヤー系のコンベクションオーブンのほかに目立ったのが、“食卓で作りながら食べられる”キッチン家電だ。2社から出展されていたのが、石窯を模したデザインと構造を採用して、卓上ピザ焼き機。
台湾のメーカーによる「Pizzadom」は2012年から、すでにヨーロッパ各地で発売されているもの。本格的なピザストーンを備え、1人分の小さいサイズのピザを6枚焼ける。あらかじめ25分ほど予熱しておけば、焼き時間はわずか5~7分。セラミック製のドームには通気性があって乾燥を防ぐため、高温を保つだけでなく、焼き上がりが底面はカリッと、中はもっちりと美味しく焼き上がるのだという。
ヨーロッパの家庭では、ピザを焼くのにふさわしいコンベクションオーブンが普及しているが、近年、キッチンで焼いたものをテーブルに運ぶのではなく、“テーブルで作る楽しさ”がキーワードになっているようだ。子どもから大人まで、各自で好みのトッピングをのせて自分仕様のピザを作れるのが人気の秘密らしい。
emerio社の「PIZZARETTE」も似たようなデザインだが、ピザストーンの予熱が要らないため、準備時間が不要なのが特徴。6人用と4人用の2タイプのラインアップがあった。4人用は大きさも手ごろなので、日本の家庭にも受け入れられるのではないだろうか。リーフ野菜をたっぷり載せたレシピや、蜂蜜を使ったデザートっぽいものなど、レシピ提案をしっかりしていくことで、飽きずに使ってもらえるように思う。
emerio社のブースでは、ほかにもホテル等のバイキングコーナーで見かけるウォーマーの家庭版が目に留まった。こちらも家庭でパーティをすることが多いヨーロッパ向けの製品だが、日本でも家で開く女子会やママ会など需要がありそうだ。最近注目度が高まりつつあるスープや、煮込み料理などをこうしたウォーマーに入れて並べたら、大いに盛り上がるしパーティ料理のバリエーションも充実するだろう。
パンケーキメーカーやラクレットグリルも目を引いた。中国・WINFULL社のパンケーキメーカーは、小型のフライパンを6個付属しているが、直接プレートに生地を流し込んで焼くこともできるというもので、すでにヨーロッパで発売中とのこと。手のひらサイズの可愛らしいフライパンがずらりと6つ並ぶ様子は何ともユニーク。大きなホットプレートに何枚分かの生地を流し込んで焼くのではなく、個別のフライパンを並べるというのは、ミニピザを6枚焼ける「Pizzadom」の考え方にも似ている。卵料理のほか、スープの温めにも使われているという。
日本でも昨年あたりから話題になることの多いラクレットグリルも注目を集めていた。ラクレットとは、焼いたジャガイモや野菜などに溶かしたチーズを絡めて食べるスイスの伝統料理。チーズフォンデュやオイルフォンデュとラクレットを同時に楽しめるタイプもあり、“作りながら食事を楽しむ”スタイルが満開といった感じだ。
そしてもう1つ、パーティなどに出来立てを楽しむものの極めつけがポップコーンメーカー。今回のフェアでも驚くほど出展が多く、米国を中心とした国々からの人気の高さが窺われた。中でも種類が多く、デザインもユニークだったのが香港のUNION INDUSTRIES社。昔の映画館にあったようなボックス状のレトロなデザインのものもあったが、最新モデルはハロゲンヒーターを採用し、わずか3分でポップコーンができる。分解できるのでお手入れも簡単だ。サッカーボールやラグビーボールなどを象ったタイプも欧米各国で人気の製品だという。
「アメリカやカナダではお米のようにコーンを食べる習慣があり、『ポップコーンは出来立てが一番!』と考えている人が多いから、ポップコーンメーカーは根強い需要がある」とは担当者の弁。それにしても2年半前の香港取材では、ここまでたくさんのポップコーンメーカーは展示されていなかったのに、びっくり。日本にも原宿などにポップコーンの専門店が続々オープンしているので、世界的にポップコーンが人気なのかもしれない。
お国柄を表すユニークな調理家電いろいろ
元々、温度センサーなどの部品を作っていた中国のメーカーが実演していたのが「油抽出機」だ。ブースで実際に抽出する様子を見せてくれたのはピーナツだったが、そのほかにも、ゴマやツバキ(山茶油)など、さまざま油を抽出することができるという。
中国料理に油は欠かせないが、近年、品質や原産国などにこだわる人が増えてきたことや、しぼりたての新鮮な油を使って料理したいという人が増えてきたことにより、需要があるという。抽出の際に温度が上がり過ぎてしまうと、酸化や劣化の原因となり、風味も落ちてしまうので、同社のような温度コントロールが大切とのことだった。
トルコのEKSEN社が展示していたのは、お湯を沸かす電気ポットとお茶を淹れるティーポットが一体になったお茶メーカー。トルコでは一日中お茶を飲む習慣があり、常にポットにお茶を淹れてあるが、次第に濃くなってしまうため、電気ポットのお湯で薄めながら飲むのだという。電気がなかったころの伝統的なポットのデザインをそのまま用いたものから、モダンなデザインのものまで、幅広いラインアップがそろっていた。
香港のCHAMPSTAR社では、ヨーグルトメーカーやスチームクッカー、スタンドミキサーなどの調理家電を扱っているが、目を引いたのは、欧米向けと思われるホットドッグコンテナや電動のチーズおろし器だ。ステンレス製のロッドでパンを温め、小型の容器内に入れたソーセージはスチームで調理する仕組みになっている。
1度に2つのパンを調理できるタイプでは、スチーマー部分でゆで卵も作れる。かなりコンパクトな設計なので、アレンジ次第では日本でも受け入れられそうに感じたがどうだろうか。充電式のチーズおろし器も、デザインがとても美しく、コードレスなので食卓で使う際にも便利だ。
中国茶の設え(しつらえ)をそのまま家電にしてしまったのが、中国EGOMAN社の湯沸かし器「Mini Dispenser QUIBO」。冷たい水もわずか3秒で100℃のお湯になって出てくるという。ビルトインのツールとしても組み込めるほか、中国茶専用のアプリケーションにセットすることで、茶器を温めながら、お茶を淹れる独特の作法が、スムーズにできるようになっている。
デジタルキッチンスケールのラインアップの豊富さで注目を浴びていたのが、中国CAMRY社のブースだ。ボウルと一体型のスケールや、液体や粉も計りやすいスケールなど、材質や大きさを変えたさまざまな製品が展示されていた。
そのほか、キッチン周りの家電としては、中国JOYRE社のハンドソープマシンやダスト缶など。同社はセンサー技術に特徴がある製品が多く、手をかざすと自動で開くゴミ箱が多数展示されていた。
また、香港・GUANGDONG QILNGLI社のブースでは、広い家でも炊飯のスイッチオンなどの操作がすぐにできるようにと、Wi-Fi対応の炊飯器の便利さをアピールしていた。外出先からの操作というのは想定していないようで、“広い家でもわざわざキッチンまで来なくて済む”というところが中国向けらしい。
布団用、窓用、スチーム……“買い増し用”の掃除機たち
日本でもここ1~2年、用途に応じて複数の掃除機を使い分けるようになってきており、メインとなるキャニスタータイプに“買い増し”するのがトレンドだ。この傾向は中国・香港などでも同様のようで、今回のフェアでも用途別の掃除機が多かった。
洗剤要らずですっきりきれいになり、除菌もできるということでスチームクリーナーが各社で見られたが、中でもカラフルなスチームクリーナーのラインアップが目を引いたのが香港Wellgain international社の「Steam Care」シリーズだ。
「Steam Care」は、少しでも掃除が楽しくなるようにと、カラーバリエーションにこだわったシリーズ。カーペットやフローリング、石など床材に応じた使い心地を試せるコーナーもきちんと用意されていた。吸引式の掃除機とスチームモップの2WAYで使えるタイプもあり、普通の掃除機でゴミやホコリなどを取り除いてから、スチームモップを使うという手間が省ける便利な1台。
また、2時間の充電で45分間使用できるコードレスタイプの「Sweeper」も、軽く、音もとても静かなのに、ゴミはしっかりと取り去るパワフルさがあって、ぜひ使ってみたいと思った製品だった。Sweeperのような製品は類似品も多いが、作りの丁寧さやパワーなどなかなか満足のいく製品は少ない。持ち手の角度やモップの種類や大きさまで、顧客の声を聞いて製品づくりに励んでいるWellgain社の掃除機は、まだ香港の百貨店でのみの販売だそうだが、ニュージーランドやスイスからも引き合いがあるとのこと。日本での発売も待たれるところだ。
ふとん用クリーナーでは、すでに日本でも発売されている韓国の「ATOCARE(アトケア)」が出展しており、実演の様子に足を止める人が多数見られた。
同社の製品の特徴は、サイクロン方式を採用していること。HEPAフィルターの周りにカバーがあり、ホコリやハウスダストをまずここでブロックするので、フィルターが目詰まりしにくいのがよい。最新モデルの「ウルトラソニック Dr.9000」には、虫だけに聞こえる電子音を発生させる装置がついており、ダニなどの虫が寄り付きにくくなるという。
アイリスオーヤマやヤマダ電機のPBブランドの家電製品(主に掃除機)のOEMを手掛けているという香港・康美雅社の自動モップも、お掃除ロボットの姉妹品として、今後、人気が出るだろうか。フローリングの床が多い家では、需要があるかもしれない。
台湾HOTBOT社のガラスクリーニングロボット「HOTBOT」の実演も、人気を集めていた1つだ。すでに日本でもツカモトエイムから2013年に発売されており、中国、香港、ヨーロッパでも発売済み。重さは930gで5mのコード式になっている。リモコンでも操作も可能だ。30,000円台と決して安価ではないが、手の届きにくい高いところの窓や壁の掃除には便利そうだ。
季節家電や家事家電の注目は?
2011年秋のエレクトロニクス・フェアで展示の多かった、扇風機やサーキュレータ―。今回は春ということもあり、あまりその姿を見ることはなかったのだが、いくつかのブースで不思議な構造のファンを見つけた。それは、水タンクを備えていて、風と一緒にミストを送り出すという“ミスト式扇風機”だ。
「MIST STAND FAN」を販売している台湾の家電メーカーに話を聞くと、エアコンと併用で扇風機を使う人が多いため、夏でも室内の乾燥が気になるという声があり、こうしたミスト式のものが生まれたとのこと。
発想のユニークさとデザイン性で注目したのが、韓国のベンチャー企業KEE Utility社のShoe Snitizer「PEDIC」の靴用除菌・消臭器。ステンレスのネット内にセットされたUVランプとオゾンの力で、わずか10分で除菌・消臭するという。
日本で見かける靴用乾燥機のような大きなものではなく、スティック状の本体を靴の中に入れて使う仕組みで、使い終わったら充電台に立てておけばOK。充電台には4本(2足用)セットできるようになっているが、スティックは1足分ずつ買い足すこともできる。
日本でも靴やブーツのニオイで困っている人は多い。コンパクトでかさばらず、デザイン的にも優れているので需要がありそうだが、どうだろうか。すでに2014年5月にドイツでも発売が決定したそうだ。
欧米ではわりとポピュラーだが、日本では業務用でしか見ることのないタイプなのが、アイロン台一体型のスチームプレス機だ。香港SKY WELL GROUPの「ROMEO II」は、イタリアのデザイナーによるもので2年ほど前から発売している人気商品とのこと。アイロン台の間にクロスやシャツなどを挟んでプレスして使う。プレス面が大きいので、大物もすばやくアイロン掛けができるの。
睡眠&健康家電も見逃せない
健康家電も見逃せない。中国Neusoft Xikang Healthcare Technology社の睡眠計「iSleep」は、オムロンの睡眠計とほぼ似たような仕組みだ。枕元に置いておくだけで、寝ている間の体温、心拍数、寝返りなどから、眠りの深さや起きた時間を検知し、記録する。80cmの距離までは計測可能だという。中国でも快眠に関する注目度は高く、2014年6~7月に、主に中国本土向けの発売を予定している。
リストバンド型の活動量計&睡眠計もさらにその種類が増えていく気配だ。香港Alutech International社のBluetoothによる活動量計&睡眠計搭載のリストバンドは、3D加速度センサーを搭載で睡眠の質、歩数や距離、消費カロリーを計測。本体には15日分のデータを記録し、Bluetooth対応のスマートフォンなどに自動的にデータが同期される。大手のウェアラブルタイプのデバイスよりもかなり価格を抑え、より多くの人たちに広めたいとしている。
リラックス&リフレッシュのための、パーツ別の小型のマッサージ機器が各種並ぶ中で、より注目を集めていたのが、椅子の上に置いて使うタイプのマッサージチェア。中国FORRESTの上置き型のマッサージチェア FR-C19Aは座面にもマッサージ機能を備え、首、肩、腰の揉みほぐしのほか、エアーによる腕のマッサージ機能まで備えた、その名も“ラグジュアリーマッサージャー”。「どんな椅子もマッサージチェアに変身させます」というアピールで、より手軽に、でもマッサージは本格的にという消費者のわがままに応えようとしている製品だ。
PM2.5など空気環境を気にする人も多い中、香港Aertek Innovations社「BroadLink」ブランドの室内用空気モニター「e-Air」も、今回のフェアの“目玉商品”の1つだったといえるだろう。これは二酸化炭素量、湿度、化学有害物質(VOC)などを計測し、Wi-Fiでスマートフォンにデータを送るもので、本体のサイズは手のひらほど。アプリによって計測データを確認する仕組みだ。単に空気清浄機を使うというだけでなく、まず現況を把握しようというところが新しい。
最新機能や画期的アイデアはなくとも元気で楽しいアジア家電
欧米での展示会のような斬新さや、洗練されたデザインの家電はあまり見受けられないものの、中国、台湾、香港、韓国といったアジア圏ならではの目のつけどころで展開された家電が満載の香港エレクトロニクス・フェア。
世界各国のバイヤーたちが、自社の家電製品のOEM先を見つけに来る展示会でもあるため、すでに人気を集めている製品のアレンジバージョンが多く、「これは日本だけでなく世界的な人気なのだな」と再認識する場面も多々あった。そうした中で、ユニークなキッチン家電を見つけたり、ベンチャー企業がデザインにもこだわった新機軸の製品を作って出展しているのを見つけたりというのは、なかなか楽しい取材だった。
ハイアール、サムスン、LGエレクトロニクスといった大手は別として、それ以外のアジア家電については、まだまだ知られていないことが多いが、今後も注目していきたいと思う。