神原サリーの家電 HOT TOPICS
家電は買って終わりではない 国内メーカー編
~愛着を持って長く大切に使ってもらうための取り組みとは
by 神原サリー(2014/4/11 07:00)
家電製品は、家電量販店で買って終わりではない。その後、ちゃんと使いこなせるか、長く使い続けることができるかが大切。前編では、海外メーカーの日本市場での取り組みを紹介したが、後編では、国内家電メーカーの中でも際立つサービスやわかりやすい取扱説明書(以下、取説)づくりに励んでいる事例をお送りしたい。
取説専門会社との連携で見やすくわかりやすい取説のタイガー
分かりやすさに感動したのは、タイガー魔法瓶の炊飯器の取説だ。なごやかな家族の様子が描かれた表紙からして、手にとりやすい。
実はこの取説は、社内で制作しているものではなく、大阪にある「ハル」という取説の専門会社と共同で作っているもの。たとえば、「土鍋IH炊飯ジャー炊きたて JKN-G型」の取説を開いてみよう。昨今の取説にありがちなのが、『安全上の注意』を最初に何ページにもわたって掲載してから、部品説明や使い方などの本題に入るパターン。だが、この取説では、「炊飯ジャーを上手に使って、楽しさを広げてください」というメッセージから始まり、この後どんなページ構成になっているのかが紹介されている。
どの項目も基本的に見開きで1つの内容になるように構成されており、ゆったりとしたページ配分やイラストに添えられた「土鍋でふっくらおいしいごはん。おこげの具合も火かげんで調節できるのね」などの言葉も親近感がわき、とてもわかりやすい。「ハル」の取説チームによれば、「見開きで1つのことを伝え、“心の声”のようなものを入れることを大切にしている」という。
ホームベーカリーの取説を見てみても、表紙を眺めただけで「何が作れるのか」がわかり、どのページを見ればいいのかも一目瞭然。パン作りのページも、カラー写真を多用しているわけではないのに、やわらかなタッチで描かれたイラストとの組み合わせで、手順がすとんと入ってくるのが素晴らしい。機能説明だけではとっつきにくい。いかに使いこなせるかどうかのヒントが載っているかどうかがポイントといえるがそのあたりのバランスが絶妙なのだ。
「ハル」では、消費者モニターによるユーザビリティ調査も行ない、実操作とインタビューの中から問題点などを抽出して構成やデザイン表現、文章表現に反映させているという。
こうした専門チームとの共同作業で、炊飯器やホームベーカリーの特性をきっちりと伝え、購入した人に愛着を持って使いこなしてもらえるようにというタイガーの姿勢は目を見張るものがある。こんな取説が増えるといいなと切に願うところだ。
フリーダイヤルコールセンターを見直し、企画や取説に反映させているツインバード
新潟県燕市に本社を置くツインバード工業は、調理家電、LED照明器具、理美容健康機器、防水AV機器、生活家電、クリーナー、業務用冷蔵庫など600種類におよぶ製品を取り扱うメーカーだ。金属表面処理業として1951年に創業、その後、1977年に商品企画部を設置し、中国の工場に生産を依頼し、設計・デザインは日本で行なう“開発型企業”として成長し、家電製品への参入を果たしている。
同社では、これまで以上に顧客の声に耳を傾け、本当に喜んでもらえる商品づくりをしていこうと2011年からさまざまな取り組みを始めているが、その1つがフリーダイヤルコールセンターの見直しだ。
アウトソーシングせずに本社内に設置し、従来は50%以下だったという受電率を80%以上に強化した結果、1日あたり300~500件の声をキャッチすることができるようになった。その貴重な声を製品づくりに生かすため、コールセンターで集められた声を「VOC(=Voice of Customerの頭文字)日報」にまとめて関連部門の責任者に回覧することを徹底。さらに、「VOC会議」では企画開発部門が寄せられた声をもとに商品化を検討するという仕組みを作り上げている。
たとえば、スティック型サイクロン掃除機「パワージェットサイクロン」では、従来フィルターに関する問い合わせが多かった。そこで、コールセンターに集まった声を活かして「出荷時装着済み」であることなどをきちんと伝える案内を追加したところ、相談件数が激減。
また、ホームベーカリーの購入者は初心者が多いため、パン作りの工程を理解していないのではないか……という気づきから、年配の購入者にもわかりやすいようなガイドシートを写真入りで作成して追加。これが好評だという。パンを作ったことがない人にとっては、こねた後に“静かに発酵させる”という、いわば“待ちの時間”が長いことを知らないため、「突然静かになって何もしなくなった」という問い合わせが多かったのだ。
これまでは「苦情処理」という概念があったコールセンターを「顧客サービスの接点」と意識づけを変化させたところ、商品企画の宝庫のように思えるようになり、電話で聞き出せる範囲も広がってきたという。今では新商品の勉強会を定期的に行ない、「その機能が生まれた理由」なども把握できるようになり、単に「申し訳ございません」と謝るだけでなく、きちんと使い方の説明をするなど対応の仕方にも変化が生まれ、取説もよりわかりやすいものへと見直されてきている。
タイマー付きのスロークッカーやパワーハンディクリーナー、ポータブル防水ブルーレイディスクプレーヤーなど、顧客の声を聞くVOC活動から生まれた製品も出始めており、今後の展開が楽しみだ。
修理時に代替品を送る象印の“おいしいごはん”への想い
“毎日のごはん”のために使うものだからと、炊飯器の修理依頼時に希望があれば、修理品の価格帯と同等レベルの代替品(だいたいひん)を貸し出しているのが、象印マホービンだ。
同社では100%子会社のサービスセンターが全国に3カ所あり、コールセンターに電話で連絡してくる場合と購入店に直接持ち込む場合がだいたい半々だという。年間23万件という問い合わせの応答率は90%。たらい回しにせず、ワンストップでの対応を心掛けている。
炊飯器の問い合わせの場合、「なんだかごはんが柔らかすぎる(もしくは硬すぎる)ようだ」というものや「おいしく炊けない」という、ファジーなものが多く、必ずしも修理が必要だとは限らないケースも多いそうだ。だが、水加減の間違いなのか、好みの問題なのか、炊飯器そのものの不良によるのかを判断するためには、引き取って確認してみるほかはない。そのため、基本的にはほぼすべて引き取る方法を採用。土日を含め、6日間で返却できるようにしている。
ここで大切なのが、コールセンターで使用状況を詳細に聞き取り、不満点を明確にしておくことだ。炊飯器そのものに不具合がないのに、食味や食感などに不満がある場合は好みに応じた微調整をして、返送することで満足していただくことにしているとのこと。
ただし、近年、コールセンターでのヒアリング状況を見てみると、お米の計り方や研ぎ方や保存の仕方など、炊飯器の機能や使い方以前の「ごはんを炊く」という行為について、基本的なことを知らない人が多くなってきているという。これではどんなに高級な炊飯器を開発しても、本当においしいごはんを食べてもらえないのではないか……ということから、象印では炊飯器に「象印からのワンポイントアドバイス」というアドバイスシートや、DVDを同梱するようにしている。
また、同社が2001年から取り組んでいるサービスが、電気ポットの使用状況によって、遠く離れた家族の安否をみまもる「みまもりほっとライン」だ。無線通信機を内蔵した「iポット」を使うと、その情報がインターネットを通じて、携帯電話やパソコンで確認できるような仕組みになっている。今でこそエアコンやトイレなど、みまもり機能を備える家電製品が少しずつ増えてきているが、その先駆けと言える取り組みだ。「みまもりほっとライン」の累計利用者数は約9,100件、現在も約4,000件の利用者があるという。
買ったことに喜びを感じさせるバルミューダのような仕掛けを
最後に、もう1つ、“買ってよかった!”と喜びを倍増させるバルミューダの事例をご紹介したい。昨年末に新製品の「スマートヒーター」を購入したのだが、家に届いて外箱を開けてみると、中には写真のようなしっかりとした内箱が入っており、その中に製品が収められていた。最初は、過剰なほどの梱包だと思ったのだが、これはシーズンオフにはしまっておけるように配慮されたもの。そして何より、内箱のパッケージそのものが、「買ってくださったお客さま」へのギフトの仕様になっていることに気づき、感激したのだ。
開け口のところはリボンで結ばれ、それをほどいて箱を開けると、開発チームからのメッセージが現れる。高価なヒーターを購入したことに誇りを持てるような気分にさせられる。
特に国内メーカーの家電製品には、箱をあけると細かな部品や注意事項ばかりが書かれた用紙ばかりで、せっかく買ったのに使うのが億劫に感じられるものが多いのが残念で仕方がない。「これは、とてもいい製品なんですよ。きっと毎日の暮らしが楽しく便利に快適になるに違いありません」というメッセージが伝わる仕掛けがあったらいいのになと思う。
2回にわたって取り上げてきたメーカーの取り組みは、実際に不具合があったり何らかの問い合わせをしてみないとわからないものも多いかもしれないが、製品への想いや、購入した顧客への想いが詰まっていたと思う。海外メーカーの日本法人の場合は、自分たちが製品づくりそのものを担っているのではないからこそ、熱心にアフターサービスを心がけているという点もあるだろう。そこから、国内メーカーが学ぶべき点も多いのではないだろうか。
せっかく購入した家電なのだから、愛着を持って長く大切に使ってもらうために、取説やアフターサービスのさらなるブラッシュアップを切に望みたい。そして「買ってよかった!」「こんな使い方もあったのか、便利だな」と思ってくれる人が1人でも多く増えるようにと願っている。
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