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少し先の未来の暮らし先取り 香港エレクトロニクスフェアで体験しました
2025年12月1日 08:05
香港コンベンション&エキシビション・センターで、香港貿易発展局主催の「香港エレクトロニクス・フェア(秋)」が10月13日~16日に開催されました。
同時期に開催された「エレクトロニック・アジア」と合わせて、世界142の国・地域から約6万人の業界関係者が来場。特に、スペイン、日本、ブラジル、オーストラリアからの来場者数が前年を上回ったといいます。
11年ぶり、3回目となる同展示会の取材を通じて、特に印象に残った製品やトレンドをご紹介したいと思います。
AIとロボティクス技術が広げるこれからの世界
今年の「香港エレクトロニクス・フェア(秋)」ではAI・ロボティクス技術、デジタルエンターテインメント、シルバーエコノミーの3つの分野に焦点を当てて展開されていましたが、中でも際立っていたのはAI・ロボティクス技術。AIが判断と対話を通じて人に寄り添う方向に進んでいることを感じさせられました。
たとえば、スマートフォンで読み取った表情を忠実に再現するロボットのデモでは、繊細な表現が見事でしたし、映画的なデザインで注目を集めていた情報官ロボット「BAOBAO」は、立ち上がって身体表現やダンスを見せるなど、感情表現の幅が広がっていました。案内や接客、教育など現場での応用が現実味を帯びてきており、単なる自動化ではなく「共感を返す」存在へと変わりつつあるようです。
中国本土の著名スマートグラスブランドRokidのブースではAI搭載のARグラスを体験しました。これまでARグラスを体験したことがなかったため、異なる言語の会話をする際に、翻訳された言葉が目の前の空間に即座に映し出される様子に感動の一言。
世界最軽量をうたっているとおり、非常に軽量で装着感がよく、会話はスマホアプリにも表示される仕組みです。搭載AIは最新の対話モデルのChatGPT-5と連携しており、単なるリアルタイムの可視翻訳機としてだけではなく、ARナビゲーションとして道案内をしてくれたり、講演やプレゼンの際にテレプロンプターとして活躍するなど、その便利さは無限に広がるように感じます。
そうした最新技術に触れた一方で、かなりの規模で展開していた音響機器を扱う企業の展示の中では、蓄音機を思わせるレトロなデザインのものが多かったneonのブースが目を引きました。日本でも1980年代のネオレトロのデザインが注目されていますが、この傾向は香港や中国でも同じなのかもしれません。
“マスク型美容家電”とオーラルケアで美と健康をかなえる
美容家電では、LEDや温冷、振動などを組み合わせたマスク型美顔器が数多く並んでいました。立体的なフォルムで顔へのフィット感を高め、個々の肌プロファイルに合わせたプログラムを提案するモデルが増えています。従来型のサングラスと組み合わせて使うLED美顔器も健在で、選択肢が広がっていることが印象的でした。
TOUCH Beautyのブースは力が入っており、グラフェンと赤色LEDを組み合わせて毛根に刺激を与え、発毛をうたう製品まで。返金保証を掲げてアピールしており、その効果にはかなりの自信があるようでしたが、実際のところはどうなのでしょうか。
筆者がバイヤーだったらぜひ日本に持ってきたいと思ったのは、ACE-TECの「フェイス&ネックマッサージャー」。EMS、マイクロカレント、真空吸引を組み合わせた多機能デバイスで、短時間でのケアや携行しやすさを重視した設計に心惹かれました。メーカー名は不明ですが、蚊に刺されたときに使うと数秒でかゆみが治まるという「BiteHealer」もアウトドアの必需品として人気が出るのではないでしょうか。
そのほか、目立ったのが電動歯ブラシやウォーターフロッサーなどのオーラルケアアイテム。特にウォーターフロッサーはこれから日本でも益々広まるのではないかと思っています。いずれにしても美容と健康の境界が曖昧になり、日常のルーティンに入り込むプロダクト群が拡充していることを感じさせられました。
高齢者の外出支援に役立つ電気モビリティやスマートステッキに注目
今回のフェアの3つのテーマの1つでもある「シルバーエコノミー」の製品群の中で筆者が注目したのは“高齢者の外出支援”です。家に引きこもらず、積極的に外に出ていくことで世界も広がりますし、買い物支援や健康にもつながります。
igoforの三つ折り電動スクーターは、折りたたむと非常にコンパクトになり、持ち運びや収納がしやすい設計です。屋内外の短距離移動に適した軽量ボディと電動駆動を備え、実際に試乗してみると安定感と取り回しの良さが印象的でした。
GilmanやMEGASTEKなどが展開していたスマートステッキも、高齢者の必需品となる大きな可能性を感じさせる重要なアイテムだと思います。一般的なステッキにもライト付きのものはありますが、それだけでなく、GPSやSOSボタン、心拍数や体温のセンサーを搭載。特にMEGASTEKのMS-100は多機能性が際立ち、日常の歩行を見守る端末として実用的です。こうした製品は高齢者の自立支援だけでなく、家族やケア提供者の安心にも直結します。
アジア諸国では高齢者が家族と暮らす文化が根強く、施設任せにしない見守りニーズが高い点がこうした製品群の背景にあると感じました。日本でも普及が期待される分野です。
ミニカメラやハンディクリーナーなどのトレンドを探る
日常の小物カテゴリにもテクノロジーの進化が見られました。TRANSTYLEのミニカメラ「Super Mini Cam」は、極小サイズでありながら液晶を備えて撮影画像を即時に確認できる仕様が魅力的。長時間稼働と省電力化を両立させた設計が進み、ライフログやクリエイティブな使い方にもより適応しやすくなっていました。
ハンディクリーナーの分野では、吸引力の向上と静音化、幅広いアタッチメントによる用途拡張が目立ちました。OEMメーカーのYEAH VACはガンタイプの新モデルを多く展示しており、よりコンパクトになって利便性を高める工夫が随所に見られます。
毛玉クリーナーや小型扇風機のような身近なデバイスにも新モデルが並び、「手軽さ」と「高性能」の両立がトレンドになっていると感じました。先に紹介した蚊に刺された際のかゆみ止めもそうですが、ニッチなニーズを突く製品開発の幅広さが印象に残りました。
会場を歩き回って実感したのは、技術革新が単に性能を高めるだけでなく、どう暮らしになじませるかを重視した設計へと向かっていることです。レトロな意匠と現代技術を掛け合わせる音響機器のように、感情や文化的価値を尊重するプロダクトが増えています。日常で触れる小さな道具が、少しずつ暮らしの質を高めてくれる──そんな兆しが感じられる展示会でした。

































