神原サリーの家電 HOT TOPICS
インテリアにマッチした冷蔵庫が欲しい! ~塗装やリフォームなど国内での取り組み
by 神原サリー(2014/7/28 07:00)
2013年秋、IFAで見つけた素敵な冷蔵庫たち
そもそもの発端は、2013年9月にドイツ・ベルリンで開催された世界最大級のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー「IFA」の取材だった。日本市場同様、これまではテレビやAV機器などに注力するメーカーが多く、出品もそうした黒物がメインだったのが、ここ2~3年、白物家電の出品が充実している。
昨年の取材で目を引いたのが、日本とは路線の異なる「冷蔵庫」の数々。大容量&省エネを謳ったものもあったが、デザイン面では日本の冷蔵庫とはまったく異なるものが見られたのだ。
圧巻だったのが、壁いっぱいに15色のカラーバリエーションの冷蔵庫「Classic」を並べたBOSCH。1ドアで野菜室のボックスが一番下に設けられたものだが、扉を開けるとLEDライトが灯され、環境基準A++と省エネ性も十分。“プレミアム仕様”と呼ばれるガラス製の四角四面な冷蔵庫ばかりを目にすることの多い昨今、BOSCHの冷蔵庫の愛らしい形とカラーに、ただただ見惚れてしまったのだった。
ほかにも、トルコの家電メーカーVESTELでも「Retro」や「RETRO COLLECTION」と名付けられたカラフルなラインを出しており、丸みのあるフォルム、温かみのあるカラーが懐かしさを感じさせる点で共通している。
どうして、日本の家電メーカーの冷蔵庫はどれも同じようなデザイン、カラーなのだろう? キッチンでかなりの存在感を示す大きさなのに、省エネ性や機能重視で、デザインは二の次。ましてやカラーとなると選択肢が限られているのが現状だ。野菜室の位置や独自の保存機能も大切だが、愛着の持てるデザインやカラーの冷蔵庫を望むのは無理なのだろうか。もやもやしたものを胸に抱えて帰国したのだった。
600色から選べるカラー冷蔵庫!?
年明け早々、ふとしたきっかけで冷蔵庫のカラーリングを行なっている「ラシックカラーズ」という会社が高松にあることを知った。600色のカラーから選んでオーダーできるのだという。いったいどんな仕組みでどんな仕上がりなのだろうか。取材に行ってみたいが、さすがに高松は遠い。
そんな折り、「ラシックカラーズ」が、5月末にビッグサイトで開催の住宅フェア「住宅設備・建材EXPO」に出展するという情報をキャッチした。これは行ってみるしかない! と駆けつけたところ、「600色から選べるカラー冷蔵庫」というキャッチと鮮やかなピンクの冷蔵庫で、かなりの盛況ぶり。
やっぱり既存の冷蔵庫では満足していない人たちがいるようだ。スタッフ一同が、背中に「冷蔵庫はインテリアです」というメッセージが書かれたユニフォームを着用。家電製品ではなく、インテリアだという主張には納得感がある。
さっそく冷蔵庫のカラーリングの仕組みを聞いてみると、冷蔵庫は基本的に自分で家電量販店などで購入するのが大前提となる。候補機種をラシックカラーズに伝え、カラー決めなどをメールやFAXでやりとりして、見積もりを出し、納得したところで個々が家電量販店などでその機種を購入し、納品先を同社の高松もしくは大阪工場に指定。混み具合にもよるが、だいたい工場に納品後、3週間程度で塗装が完了して出荷となる。
600色のカラーと言っているが、まずはベーシックな48色の中から好きな色がないかを確認する。この場合、カラーリングの費用は10万円程度。システムキッチンなどに合わせたい場合は、600色のカラーチャートの中から選ぶと、色の調合師がさまざまな色を組み合わせて希望の色を作り出してくれるがオプションの費用がかかる。ガラストップやミラーガラス仕様の冷蔵庫は塗装できないので、その点には注意して欲しい。
そのほか、新しい取り組みとして、カラー冷蔵庫をより身近に、手軽に購入してもらえるようにと、この春からはハイアールアクアセールスと提携し、8機種を限定して仕入れ、好みのカラーにしたものを販売する方式も始めている。
でも、冷蔵庫というのは10年間使うもの。心配なのが保証問題だ。新品の冷蔵庫を塗装したことで、メーカー保証が受けられなくなってしまうことはないのだろうか。
その点についても各家電メーカーに問い合わせ済みで、塗装が原因による故障については保証しないが、そうでないものに(異音がするなどの初期不良)ついては1年未満なら保証してくれるとのこと。ただ、塗装時には機械に直接ふれることがないため、これまで手がけてきた製品では保証が受けられなかったことに対するクレームはきていないという。
冷蔵庫のカラーリングは車の塗装技術が生かされている
冷蔵庫のカラーをシステムキッチンに合わせたり、キッチンのアクセントにしたりと、自分の好みに合わせられるとはいえ、10万円以上ものコストがかかるのは、決して安いとはいえない。ビッグサイトで見たピンクの冷蔵庫の塗装は艶やかでムラがなく、とても美しかったが、いったいどのようにして行なわれているのか。
そこで、実際の塗装の現場を取材させてもらうことにした。まずは塗装の基礎知識を学ぶために、ラシックカラーズの大阪工場での塗装を引き受けている日本ペイントのショールームへ。日本ペイントには創色師と呼ばれる専門家がいて、150色の色材を調合することで、30年前の車のカラーであってもそれを再現し、修正することができるのだという。
また、数年先の車の人気カラーについて予測し、それを車メーカーに提案するなど、車の塗装と密接な関係にあるのが日本ペイント。オートカラーアウォード2006で日産の「マーチ」がグランプリ&企画部門賞を受賞した「サプライジング・ブルー」という色も、日本ペイントとの創色ワークによって生まれたものだ。
これまでにもホンダの「N ONE」で500台のカラーカスタムを手掛けたりもしている。つまり、車ですでに行なわれていたカラーリングを冷蔵庫に応用したのが、ラシックカラーズが立ち上げた「カラー冷蔵庫」だともいえる。
板金塗装会社などの技術者たちに塗装技術の研修を行なっている、同社のオートリフィニッシュ事業部・技術部リーダーの向山竜雄氏に、ダイハツの車種などに応じたカラーの調合シートがあることや、どんなカラーでもスキャンすると調合の内容がわかる機器があること、車の塗装の歴史などについてもレクチャーを受け、塗装や塗料の奥の深さを実感した。
創色師によってどんな色でも調合される塗料があり、それを使って修理される車の世界。色だけでなくきらめきや質感なども塗料や塗り方によって変わってくるわけで、塗装とは色味だけでなく、デザインそのものなのだと今さらのように気づいたのだった。
驚くほど丁寧に塗装されている冷蔵庫
「ラシックカラーズ」の代表、久保栄二氏が600色のカラー冷蔵庫の取り組みを始めたのは6年前のこと。
元々、輸入住宅会社の営業マンだったが、「せっかく家を新築してもキッチンや、リビングダイニングに合う冷蔵庫がない」という不満の声が非常に多く、カーテンで隠すにも限界があるし、使い勝手も悪くなる、これは何とかしないといけない……と思ったのがきっかけだという。
5年間試行錯誤していたが、昨年、日本ペイントと協業することとなり、これまでの高松工場に加え、大阪にも工場を持ち、事業を拡大しているところだ。
いよいよ冷蔵庫のカラーリングの現場をこの目で確かめるべく、この大阪工場(G-7・オートサービス)へ出向いてみると、ブルーやグリーン、オレンジなど色鮮やかにカラーリングされた大小の冷蔵庫が並んでいる。ここは車の修理をする板金塗装の会社で、さまざまな車種の車が運び込まれている。その一角でラシックカラーズの冷蔵庫を塗装しているのだ。
G-7・オートサービス 大阪カンパニー社長の森下健作氏は、「冷蔵庫というのは車に比べてとてもデリケートな素材をたくさん使用しているので、気を使います。でも、私たちが車の板金塗装で培ってきた技術を応用できるのだとしたら、それはとてもうれしいことです。車の塗装では経時劣化による風合いや色合いの変化さえも再現するほどの高い技術力が必要ですから、そういう意味では冷蔵庫をお客様が描いたとおりの仕上がりにカラーリングするのは、たやすいことなのです」と語る。
実際の現場を見てみると、冷蔵庫内の戸棚や引き出しなどは、汚れないように厳重にパッキングされて保管してあるのがわかる。食品を入れる冷蔵庫のため、作業には専用の手袋を使用するなど、細やかな心配りが行き届いている。
パーツごとに取り外して塗装して乾燥させるのだが、塗装の膜厚が厚過ぎると後で組み直す際にきちんと収まらなくなることもあるので、100~200μm(ミクロン)になるように調整しているとのこと。
発表会や家電量販店の売り場で見慣れた日立の「真空チルド」の冷蔵庫も、鮮やかで艶やかなブルーに塗られ、まるで別物だ。
1枚続きのドアでも異なる素材を使っている場合がよくあるのだという。その場合は、密着材を素材によって変えるなど下処理をきちんとすることで、最終的な仕上がりを均一にしている。
ゴムパッキン部分に塗料がつくこともなく、きれいな仕上がり具合に惚れ惚れしてしまう。最後の仕上げの際にはライトで照らして、傷やムラがないかを入念にチェックしている。
さらに毎日、手で触れるドアの取っ手部分は目に見えない裏側まで、手触りがいいようにと仕上げの磨きを特に念入りにしているのだという。仕上げ磨きをしてあるところと、そうでないところを実際に触らせてもらったが、その違いは歴然。ざらざら感がなく、指先に吸い付くような滑らかな手触りに、思いのこもった仕事ぶりが見事に表われていると感じた。
「車というのは直して当たり前のもの。元請けの会社から依頼された車を100点を目指してきれいに修理しても、それが当たり前のことで、決して喜ばれることはないのです。でも、この冷蔵庫の仕事はお客様の声がダイレクトに届いて、ありがとうと感謝される。こんなにうれしく、励みになることはありません」と笑顔で語る事業部長の高口浩司氏。
ラシックカラーズには全国各地から「想像以上にかわいい」「毎日見るたびに幸せな気持ちになります。ありがとうございます」など自筆のメッセージが届いており、依頼した人たちの喜びの声があふれている。こうした声が励みとなり、より丁寧な仕事へと結びついているようだ。
キッチンとの融合を目指したパナソニックの「コーディネイトドア冷蔵庫」
実はこうしたカラー冷蔵庫の取り組みは、大手家電メーカーでも行なわれている。それが、パナソニックの「コーディネイトドア冷蔵庫」だが、リフォームや新築住宅が主な販売ルートとなるため、一般的にはあまり知られていない。
2013年4月にグランフロント大阪・南館にオープンした「パナソニックセンサー大阪」地下1階に、この「コーディネイトドア冷蔵庫」が展示されている。
パナソニック エコソリューションズ社 住宅環境商品部営業企画部水廻り商品グループ ビルトイン機器チーム 冷蔵庫担当参事の大塚信哉氏は、「生涯で買う冷蔵庫の数は5~6台だが、ほとんどの人は壊れてから買う。そのため“冷蔵庫”としての機能は進化していても、キッチンと融合して成長していないのが残念なところ」とこれまでの冷蔵庫市場を振り返る。
1980年代~1990年代前半のいわゆるバブル時代には、家電メーカー各社からパネル交換型の冷蔵庫が発売されていたこともあったが、その後、省エネ型に変わっていき、現在では「省エネ性+ガラストップ」というのが主流になっているのは、文頭で述べたとおりだ。
パナソニックでは「壊れてから買う」のほかにも、引っ越しやリフォームのタイミングで冷蔵庫を新調する人が50~60%いることに着目し、リビングやキッチンとインテリアコーディネイトできる27色のドア面材から選べる「コーディネイトドア冷蔵庫」を展開している。昇華転写工法のプリント鋼板で、受注生産のため、納期は2週間~1カ月となる。熱転写技術を採用したこの工法だと、色落ちもせず、冷蔵庫の性能にも影響がない。
冷蔵庫の側面、ドアキャップ、取っ手の色は一律で、どれもシェルライトベージュで変えることはできないが、前面のドアの質感を木目などキッチンに合わせられるところは魅力的だ。塗装ではないので、色合いや縦・横の木目違いのトレンド感のある「木目調」のドアがそろっているのが、ラシックカラーズとの大きな違いといえるだろう。
冷蔵庫の性能も、エコナビ、100%全開で大容量のワンダフルオープン、パーシャルフリージングなど、最新モデルのものと同じになっている。受注生産のため、毎年モデルチェンジされる冷蔵庫にそのまま対応できるのも、消費者にとってうれしい利点。
実際に使用される面材をそのまま収めた「サンプル帖」が用意されているため、選ぶ際にカラーや質感がわかりやすく、システムキッチンと合わせて一体感を出したい、床・キッチン・冷蔵庫をコーディネイトしたいという人にはぴったりの冷蔵庫だ。
愛着のもてるデザインやカラーを冷蔵庫にも
今回、ラシックカラーズのカラー冷蔵庫の取り組みや、パナソニックのコーディネイトドア冷蔵庫を取材して思ったのは、住まいや好みにあった“インテリア”としての冷蔵庫を望んでいる人が想像以上にたくさんいることの驚きと「やっぱりね」という納得感だ。
大容量化や省エネ性の高さはもちろん大切だが、毎日毎日10年以上も使うものだからこその愛着のもてるデザインやカラーという要素もぜひ忘れないでほしいと思うのだ。愛着がもてる家電なら、きっとより大切に、より長く使いたいと思うことだろう。
パナソニックのように受注生産で構わないので好きなカラーを選べたり、冒頭で紹介したような丸みのあるレトロなフォルムシリーズを再現したりという、冷蔵庫市場の新たな展開を望んでいる。