トピック

タニタ唯一の国内製造拠点・秋田工場へ潜入。高精度の体組成計はどうやって作られる?

タニタの体組成計などの生産拠点となっているタニタ秋田の工場を見学してきた

体組成計や歩数計、クッキングスケールや血圧計など、「はかる」モノづくりを通して世界の人々の健康づくりに貢献してきたタニタ。1959年にヘルスメーターの製造を始めて以来、1992年に世界初の乗るだけではかれる脂肪計を開発するなど技術的な進歩を経て、2021年にはヘルスメーターの国内販売台数が1億台を突破。体組成計をはじめとする数々の製品を通して、健康の見える化を実現してきた。

タニタの体組成計が多くのユーザーから絶大な信頼を得ている理由のひとつは「精度の高さ」にある。筆者も以前、タニタの体組成計をレビューした際に、何度か乗り降りしてみたが、数値が一切ブレない精度の高さに感心した。

そんな精密な計測ができるタニタの体組成計は、どのようにして製造されているのか? 国内唯一の生産拠点である「タニタ秋田」を訪れ、筋肉の質の数値までわかるインナースキャンデュアル「RD-505」や11項目をはかれる「BC-J03」などの製品の製造やテストの工程を見てきたので、その様子をレポートする。

秋田県大仙市にあるタニタ秋田。タニタ国内唯一の生産拠点

最大の強みは一貫生産体制。金型から手作りするこだわり

タニタは1944年、谷田無線電機製作所として設立。1959年に家庭用体重計の製造を始めた。1992年に乗るだけで体脂肪率を計測できる世界初の体脂肪計を発売し、1994年には家庭用体脂肪計付きヘルスメーターを発売。これが大ヒットし、大きな躍進を遂げることとなる。

1994年に発売した家庭用体脂肪計付きヘルスメーター

【お詫びと訂正】初出時、1994年に発売した家庭用体脂肪計付きヘルスメーターとは異なる製品の画像を掲載しておりました。お詫びして訂正します(1月7日)

一方タニタ秋田は1973年にタニタ製作所(現タニタ)の関連工場として操業を開始。東京本社の従業員に東北出身者が多かったことや、当時の秋田県で企業誘致を行なっていたことなどがきっかけとなり、この地に工場を構えたという。1993年からタニタが100%出資する別会社のタニタ秋田として運営を始めて以来、約半世紀にわたり、タニタ唯一の国内生産拠点として、タニタブランドのクオリティを担い、支え続けてきた。

現在は、家庭用の体組成計やクッキングスケール、業務用製品など、約1,000種類を超える製品を製造している。

そんなタニタ秋田の最大の特徴は「一貫生産」体制を取っている点にある。製品設計から金型・部品加工、組み立て、試験・検査、出荷までを一貫して行なっているほか、顧客からの問い合わせや修理などのアフターフォローも、一つの工場内で対応している。

CS(カスタマーサービス)課が同じ工場内にあるため、修理の問い合わせがあった場合はすぐに製造ラインに共有し、品質改善に役立てられる
CS(カスタマーサービス)課には、問い合わせに迅速に対応できるよう、各実機や取扱説明書が取りそろえられている
古いモデルも網羅している

外注に頼らず、小さな部品まで内製している点も、タニタの強みの一つ。家庭用の体組成計(RD-505)には200以上、業務用の体組成計(MC-780A-N)には1,300以上と多くの部品が使用されているが、それらの主要部分のほとんどを自社で作っている。内製することで技術力や知識・ノウハウを自社で蓄積・継承し、品質管理・改善に役立てることができるという。

その一例として、タニタ秋田では、金属のプレス加工で1つの金型で複数の工程を行なう「順送金型」を一部採用している。順送金型は作業効率が向上するというメリットがある一方で、複雑な仕組みによりコストが高くなりやすいデメリットがあるが、金型を内製できる技術とノウハウがあるタニタ秋田では、外注コストを考慮することなく自社で金型を作り、運用することができるのだ。

体組成計をはじめヘルスメーター、クッキングスケールなどに使用される内部機構部品も内製している
順送金型で作業効率がアップ
筐体のプレス機(左)をはじめ、複数のプレス機で大小さまざまな金属部品を製造する
工場内で唯一24時間稼働している射出成形機。180~200℃で樹脂を溶かし、金型に流し入れる
型から出したばかりの体組成計カバー。触ってみるとほんのり温かかった
溶剤塗料をシンナーと配合させて、樹脂吹付塗装を行なう
塗装後に目視検査をしている様子
もちろん電子基板への部分実装も内製。細かい部分は画像化し拡大して検査する
電子基板を読み込んで検査している様子

組み立てから箱詰めまで1人で作業

加工された部品は、組み立て部門へ移行する。タニタ秋田では、1人で組み立て工程を行なう「セル生産」という方式を取っており、L字型の作業スペースで1人のスタッフが製品を組み立てていく。20年ほど前はライン生産だったそうだが、より生産効率の良い「セル生産」に変更したという。

電子基板や配線を取り付けている様子
カバーを取り付ける

小さな箱の中に電子基板や配線を素早く取り付けていき、カバーをしたら終了。かと思いきや、タニタ秋田では組み立てだけでなく、動作チェックや梱包、箱詰めまでを同じスタッフが行なっていた。

1人が1製品を担当することで、より責任感を持って作業できるという狙いがあるほか、製品に不具合が起こった際に、誰が担当したのかが分かりやすいため、原因究明や対策・改善がしやすいなど、品質向上につながるのだそうだ。

機械で重りを乗せたり下ろしたりして、正しく計測できているかチェックしている様子
その後は梱包
箱詰めまで行なって完了

箱詰めまで完了したら、その後いくつかのサンプルを抜き取り検査し、問題がなければ出荷となる。

JIS規格より厳しい「タニタ基準」もクリア

多くの家庭では、体組成計の置き場所として脱衣所や洗面所などが選ばれるだろう。それらの空間は、風呂への出入りや季節により、温度・湿度の変化が激しくなりがちである。またタニタの製品は日本国内だけでなく、世界各国で使用されている。日本よりもはるかに寒く、暑い地域での使用も想定しなくてはならない。

そこで、タニタ秋田では様々な温度・湿度の環境でも正常に動作するかなどの試験を行なった上で、製品を世に送り出している。

様々な温度・湿度の環境で試験を行なう機械
体組成計が入っている箱の中は高温多湿になっている

そもそも、体組成計をはじめとした家庭用のはかりは、計量精度や耐久性などの計量法により定められた基準をクリアさせる必要がある。その基準は、日本国内における製品やサービスの品質、安全性、性能を確保するために定められた統一基準で、これをクリアしているイコール品質の安定性が保証されていると言えるのだが、タニタではさらに独自の過酷な「タニタ基準」を設け、耐久試験を行なっている。

「子供が飛び乗ってしまう」といった、メーカー側で想定していなかった使用の仕方で製品が壊れるケースが実際にあったことから、使用者がセオリー通りの使い方をすると過信せず、いくつもの想定をして厳しい試験も実施するようにしているのだそう。耐久試験では、子供が飛び乗る想定で、勢いをつけておもりを落とすなどの試験も行なっている。

秋田から世界中の人々の健康を支える

タニタ製品の精度の高さの秘密は、設計から部品加工、組み立て、検査、出荷までを一貫して行なう「一貫生産」体制や、妥協のない品質管理にあった。さらに計量法の基準をクリアするだけでなく、独自の厳しい「タニタ基準」に基づいた耐久試験を実施するなど、これらのこだわりが、人々に安心感を与える高い信頼性の製品づくりを支えている。人々の健康を守るという使命感と、優れた技術力が生み出した結晶と言えるだろう。

また近年は、アニメやゲームのキャラクターとコラボした製品にも注力。「推しと楽しく健康づくりができる」といった推し活×独自のアプローチで、人々の健康づくりのサポートに取り組んでいる。

様々なコラボ商品を発売。これらもタニタ秋田で製造している
©CFM
「家電 Watch」ロゴの温湿度計(非売品)

「はかる」モノづくりを通して培われた信頼と実績を基盤に、健康づくりの新たな可能性を切り拓いていくタニタ。これからも世界中の人々の健康を支える製品の数々を、ここタニタ秋田から送り出していくだろう。

松川 叶実