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「体脂肪率」ってなぜわかるの? タニタに聞きました

体脂肪計の疑問について、タニタへ取材しました

私たちの体つきや、肥満などの健康状態を知るうえで一つの目安として定着した「体脂肪率」。家庭にもある体組成計を使うと当たり前のように数字がでてきますが、いったいどんな仕組みでこんなに短時間で脂肪の割合が分かるのでしょうか。

先日、タニタの体組成計を普段使っている人から「体組成計を別のメーカーのものに買い替えたら、体脂肪率がすごく高い数字が出て驚いた」という話を聞きました。同じ人なのにメーカーによって体組成の表示に違いが出るのはなぜなのでしょう?

そもそも体組成計とは何をどのようにした結果の数字がでているのでしょうか。今回は1959年の初代体重計発売から累計1億台以上のヘルスメーター(体重計/体脂肪計/体組成計)を販売してきたタニタを訪れ、製品の企画・開発担当者にこの疑問に答えてもらいました。

取材は東京・板橋区にあるタニタ本社で行ないました

体組成計で測定できる項目はメーカーによって異なる

今回、体組成計の仕組みについて教えてくれるのは、ヘルスメーターの企画と開発を担当しているタニタ 新商品推進部の石坂典保さんと下村美由紀さん。

体重や体脂肪の細かな質問に答えてくれた、タニタの下村美由紀さん(左)と石坂典保さん(右)

「体組成計」といっても、実はメーカーや製品によって測定できる項目が異なります。体組成とは身体を構成する組成分を表し、タニタでは、体重、体脂肪率、筋肉量、基礎代謝量、内臓脂肪レベルなど(機種によってはそのうち一部)、が測定できるものを「体組成計」と呼んでいるそうです。

各社とも体組成計では体脂肪率の測定が可能な製品がほとんど。体脂肪率を知りたい場合は、体脂肪計と体組成計のどちらを購入しても大丈夫といえるでしょう。

この点を踏まえ、石坂さんはタニタの体組成計の精度が優れている点に自信を示します。

「乗るだけで測定できる体脂肪計をタニタが世界で初めて発売したのは1992年で、医療機関向けとなっており45万円くらいしました。開発を始めた当時『体重が重いことが肥満』だと一般の人は認識していましたが、専門家の間では『体重ではなく、体脂肪が多いことが肥満で、体脂肪がどのくらいあるかを知る必要がある』とされていました。しかし、当時は、簡単かつ正確に体脂肪率を知る方法がありません。そこで、この課題を解決する商品をつくろうと開発をスタートしました」

「2年後の1994年に操作方法を簡単にした商品を家庭用に発売し、翌1995年に2万円まで価格を下げた商品を発売したところ大ヒットしました。その後の機種では、体重や体脂肪率だけでなく内臓脂肪レベルなどをチェックできるようにし、さらに基礎代謝量や筋肉量、推定骨量など測定項目を増やしていきました。こうした多数の項目を測定できる計測機器を『体組成計』と呼んでおり、タニタでは2003年に販売を開始しました。このモデルからは『インナースキャン』という今でも後継機種が続くブランドをスタートしました」(石坂さん)

2003年に発売して大ヒットとなった体組成計「BC-522」

肥満は体重だけでは決まらない

「弊社が体脂肪率だけではなく、筋肉や内臓脂肪レベルなどもわかる体組成計を開発した背景には、肥満に対する社会の意識を変革したかったからです」

そう語るのは下村さんです。「肥満とは身体に過剰に脂肪が付いている状態をいいます。同じ身長や体重でも、筋肉が多いのか、脂肪が多いのかを確認する必要があります」

「食べないダイエットや特定の食品だけをとる偏食ダイエットで体重だけを落とすのは比較的簡単にできますが、そうしたダイエットでは筋肉が減少して、健康を害する原因になります。また、筋肉が減ると基礎代謝量が落ちるのでリバウンドもしやすく、良いダイエットとはいえません」

「無理なく健康的なダイエットを行なうには、体重だけではなく体脂肪率や筋肉量、内臓脂肪レベルなどの様々な情報を把握して、筋肉や骨などの大事な組織は落とすことなく、むしろ増やしながら脂肪だけを減らすように取り組むのが理想です」(下村さん)

タニタでは体脂肪率以外の項目も含めて身体を多角的に確認できたほうが良いと考え、現在の体組成計へと進化させてきたとのことです。

タニタ体組成計の幅広いラインナップ
ビックリな事実【1】BMIには罠がある!?

以前から「BMI」が適正体重を示す指標として知られています。
体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値で求められ、BMIの数値が18.50以上24.99以下を普通体重としてWHO(世界保健機関)などで推奨しています。

BMIを求める計算式:BMI=体重(kg)÷身長(m)2

ところが、これは気を付けて見たほうが良いとのことです。

「体形は違うのに、身長と体重が同じでBMIは同じという人は少なくありません。BMIだけでは脂肪が多いのか、筋肉が多いのかという身体の中身までは分からないので、BMIだけで肥満を判断するのは難しいのです」(石坂さん)

BMIが特に気になっていた人は、他の指標にも目を向けないと思わぬトラップに陥るかも!?

体脂肪ってどうやって測定しているの?

タニタの体脂肪計の開発歴は、1992年からすでに30年以上。乗るタイプの体脂肪計開発に至るまでにも、体脂肪に関するさまざまな研究が行なわれていました。

そんな長い歴史の積み重ねの中で培われてきたのが、体組成を高精度に測定する技術です。

特に体脂肪率は、かつての(針で示す)アナログ体重計のような電気を使わない機械的な方法で「乗っただけ」ではわかりません。では、体組成計はどのように体脂肪率を測定しているのでしょうか。

体脂肪率の測定方法について、下村さんは以下のように説明します。

「体脂肪率の測定にはいくつかの方法がありますが、主流は『生体電気インピーダンス法(BIA=Bioelectrical Impedance Analysis)』です」

「生体電気インピーダンス法は、筋肉と脂肪で電気の流れ方が違うという特性を利用しています。身体に微弱な電流を流して、電気抵抗値(インピーダンス)を測定して分析する方法です。電気抵抗値のみで体脂肪率を測定できるわけではなく、測定した電気抵抗値を他の情報と組み合わせ、アルゴリズムに当てはめて体脂肪率を算出します」

「他の情報とは、身長/年齢/性別、乗ったときにわかる体重、これを医療機関などにある専門の機器で老若男女を対象に測定して得たデータを基に開発したアルゴリズムで解析して測定値を算出します。タニタでは国内外合わせて15,000件以上のデータを収集し、アルゴリズムを開発しました」

「同じ生体電気インピーダンス法と呼ばれる方式を採用した各社の体組成計でも、流す電流の大きさや流し方、用いるデータベースやそれを基に作られたアルゴリズムがメーカーごとに異なります。タニタでは技術の進歩や研究の成果を踏まえて、過去に何度も進化させてきました」

「現行の商品に搭載している『TANITA 4C Technology』は、身体を脂肪、タンパク質、水分、ミネラルの4つの成分に分けて分析する『4C法(4 Compartment Model Method)』によって集めたデータ基に開発したアルゴリズムを採用したものです」(下村さん)

2020年に登場した「TANITA 4C Technology」搭載体組成計は4モデルで展開。写真は部位ごとの筋肉量なども細かくわかるハイスペック機「RD-803L」
ガラス素材を使ったデザインが特徴的な「インナースキャンデュアル RD-915L」

インピーダンスの測定精度とアルゴリズムの差が体組成の数値の違いに

ここまで情報が多かったので少し整理しましょう。

体脂肪率などの体組成を測定する際は、大きく3つの情報を使用します。

1.自分で入力する身長/年齢/性別の情報
2.体組成計に乗った時の体重
3.電気抵抗値(インピーダンス)の数値

これらの情報を基にアルゴリズムを用いて体脂肪率を算出します。

アルゴリズムは、回帰分析とも呼ばれる統計手法の計算式で、結果となる数値と要因となる数値の関係を調べ、それぞれを変数として計算式にするもの。具体的な計算式はタニタを含め各社とも公表はしていません。

つまり、体脂肪率は測定できるいくつかの身体データを組み合わせ、既存のデータベースから作成したアルゴリズムで近似値を求めているのです。このため、測定した体重や電気抵抗値の正確さと、データベースの量や質、アルゴリズムの妥当性によってメーカーごとに差が出ます。冒頭の疑問「異なるメーカーで体脂肪率の数字に違いが出た」に対する答えはここに起因するわけです。

入力する身長/年齢/性別の情報はともかく、体重計量技術や生体電気抵抗値の測定技術、体組成を算出するアルゴリズムなどは、ヘルスメーターの分野で長い歴史を持つタニタに一日の長があるというのが、石坂さんや下村さんの示す自信の裏付けといえそうです。

ビックリな事実【2】手で持つ「グリップ」の有り無しで正確さは変わるの?

体脂肪計は、乗るタイプのみではなく、乗ってからグリップ(手から電流を流すための電極がついたハンドルのようなもの)を手で持つモデルを知る人もいるでしょう。乗るだけのものより、グリップも使ったほうが正確にわかりそうな印象を受けますが、実際のところどうなのでしょう。

グリップを持って測定する「RD-803L」

乗るだけで体脂肪率がわかるタイプは、両足間で微弱な電気を流して主に下半身の電気抵抗値を測定しています。グリップを利用するものは両手両足間で電気を流して上半身も含めた身体全体の電気抵抗値を測定することで、腕や脚、体幹の筋肉量や脂肪量といった、部位ごとの測定ができるようになっているとのことです。

「アスリートなどシビアに鍛えたい方には、グリップが付いた部位ごとに測定できる商品が利用されています。タニタのラインナップにもありますよ。ただ、⼀般の人は、細かく測定できることより、簡単に測定できて継続しやすいといたメリットがあることから、乗るだけで測定できるグリップなしのタイプが人気です」

朝イチはイマイチ!? 体組成計に乗るならこの時間

体組成計を使ううえでのコツについても聞いてみました。「体組成計なんて乗るだけでしょ」などと侮るなかれ。下村さんは結論からズバリこう言います。

「体組成計に乗るタイミングにはコツがあります。理想は起床/朝食の2時間後、昼食の2時間後、入浴/夕食の2時間後のいずれかです」(下村さん)

起床や就寝の時間がズレがちな人は、比較的同じ時間で測定しやすい昼食の2時間後が良さそうです。とはいえ、朝食や昼食の2時間後となると、「その時間は職場で仕事中だよ」という人も多いでしょう。営業時間中におもむろに裸足になって体組成計に乗る姿はあまりにシュール。一番現実的なのは入浴/夕食の2時間後となりそうです。

もちろん、これはあくまで理想です。たとえば起床直後しか測定する時間がなくても、測定しないよりはずっと良いと考えてください。

でも、このタイミングが良い理由も気になりますね。

「生体電気インピーダンス法は電気の通りにくさが変わるような身体の変化により、体組成の測定値が変動してしまうためです。どういうことかというと、体温の上昇、体内の水分の状態、測定時の姿勢などで電気抵抗値が変わり、体組成の測定結果が変わってしまうのです」

「体内の水分は就寝中から起床後にかけて全身に満遍なく分布しています。しかし、起きてから時間が経つにつれて水分は下半身に集まります。このため、朝と夜で条件が変わってしまいます」

「こうした変化は、運動直後/食後/入浴後や、体調不良のときに起きやすいです。多量発汗による脱水症状のときは体内の水分の影響を受けますし、冷たい外気や冷房に長時間さらされた後や女性の生理周期のときなどは体温の影響を受けます」(下村さん)

運動の直前と直後での測定値を比較することで、今の運動でどれだけ体脂肪率が減ったか調べようとしても、体脂肪の変化以上に体温や体内の水分量が大きく変動しているため、正確な数値を測定できないということになります。

このほか、測定時の服装や姿勢の違いも影響を及ぼすそうです。毎回同じ服装と姿勢が望ましく、肘や膝は曲げないようにして、足元は裸足が基本。測定中に身体をふらふら動かす、しゃべるのも避けたほうが良いとのことでした。

「体重だけでなく体脂肪率や筋肉量の増減にも注目してください」(下村さん)

体組成計は「出しっぱなし」が正しい使い方

測定のタイミングや乗る時の姿勢などのほかにも、測定する場所にも注意が必要です。

体組成計を置く場所が畳の上や柔らかな絨毯の上など、本体に乗ったときにぐらつくような場所では正しく測定できません。屋内ではまれだと思いますが、傾斜になった場所でも同様です。

これは体組成計に乗るときだけではありません。製品によっては収納時も立てかけずに平らな場所に置いておく必要があります。これは「ゼロ点(0.0kg)」の基準がずれてしまうため。

最近のタニタ製品では、立てかけ収納によって起こる誤差を自動で補正する「乗るピタ機能+」がついていて、立てかけ収納が可能になっています。しかし、他社の製品やタニタ製でも少し古いモデルでは使わない時に立てかけておくのはNGな場合が多いです。

「体組成計は出しっぱなしだから収納時の向きは気にしたことがない」という人も多いかと思いますが、実は「出しっぱなし」こそが体組成計の正しい使い方なのですね。

ビックリな事実【3】北海道より沖縄で計量した方が体重は軽くなる!?

同じ体重計を使っても地球上のどこで計量するかで結果が変わるってご存知でしたか?

「地球の自転で遠心力が働くため、赤道に近い場所ほど体重(質量)は軽くなります。北極や南極などの極点と赤道直下では、体重70kgの人なら約300gの違いが出ます。日本国内でも北海道と沖縄では約100g値が変わります」(石坂さん)

こんな話を聞いてしまうと、体重計に乗る時は沖縄に行きたくなりそう。

海外など緯度の大きく異なる地域に引っ越す場合、ヘルスメーターは現地で買い替えたほうが正確に測定できるかもしれませんね。

ただし体重計や体組成計では、使用する地域を設定すると、自転による遠心力の影響を補正して体重を表示してくれるものもあります。地域を設定すれば、正しく体重を確認できるとのことです。

地域設定や「乗るピタ機能+」などにより、国内のどこでも正しく計量できる工夫をしています。測定時の注意点を踏まえて、正しく使っていただければと思います」(石坂さん)

継続的な測定がダイエットや健康促進の成功のカギになる

体組成を正確に測定するには、毎日同じ時間帯に乗ることや、運動/食事/入浴の直後は避けること、硬くて平らな床の上で測定すること、測定中は同じ姿勢/服装で無言でいることなど、意外と気を付けるポイントが多いと分かりました。

思ったよりも沢山あって、敷居が高く感じる人もいるかもしれません。しかしあまり意識しすぎないで、まずは毎日測定することが一番大切です。

記録の手間を省くため、近年はスマートフォンと連動して毎日の記録を自動化し、グラフ表示できる製品が各社から登場しています。体組成計だけでなく、手持ちの血圧計や歩数計などでも記録を取ると、よく歩いた翌日は体組成の数値も好転しているといった傾向が読み取れ、記録を続けるモチベーションにつながります。

「タニタの商品には、体重が急激に変化した場合に注意喚起する『体重急激増減お知らせ』機能や、測定の継続状況にあわせて画面上の変化する表情で日々の測定継続をサポートする『マイサポ』機能など、使う人のやる気を引き出す工夫を凝らしたものもあります。健康促進、ダイエット、身体作りなど、自分の目的に合わせて使い続けられる商品を選んでください」(下村さん)

その時その時の一回ごとの結果を見て一喜一憂するのではなく、日々の測定結果がどのように変化しているかを継続して観察しながら食事や運動、睡眠などを改善することが重要です。体組成計に毎日乗って、ダイエットや健康促進を成功させましょう!

測定の継続状況に合わせて液晶の表情が変わる「マイサポ」機能は、下村さんがかなりこだわって作り込んだそうです

【訂正】初出時、石坂さんと下村さんの所属部署を誤っておりました。お詫びして訂正します(10時16分)

諸山 泰三