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パナ製品に入ってる「ナノイー」何がすごいの? 工場で効果を体感した

グローバルでの出荷台数が1億台を突破した、ナノイーデバイスを製造するパナソニックの彦根工場

パナソニックは、ナノイーデバイスの累計出荷台数が、グローバルで1億台を突破したと、8月2日に発表した。

様々なメーカーが独自のイオン技術を開発し、それぞれの製品などに搭載させている。その多くが、消臭効果のほか、菌・ウイルスやカビ、花粉、アレル物質などの抑制効果が認められる、または期待できるとしている。そしてパナソニックの独自の微粒子イオン「ナノイー」もまた、様々な実証実験を通して、そうした効果が認められるという。

だが筆者としては、それら効果に関しては半信半疑。理由は、挙げられている多くの効果が、目で見たり実感するのが難しいからだ。

そこで改めて、いくつかの効果を視覚または嗅覚できる実験をみられるということで、滋賀県にあるパナソニックの彦根工場へ取材してきた。

広がるナノイー搭載モデル

エアコンや空気清浄機、加湿器や衣類乾燥除湿機から、洗濯機や掃除機、冷蔵庫や食洗機など、今では家庭用だけでなく業務用も含めてパナソニックの多くの製品に採用されている。

ナノイーは、様々な家電製品に搭載されている
冷蔵庫や洗濯機などにも搭載

9月1日に発売予定のヘアードライヤー「nanocare ULTIMATE」の2モデルにも、もちろん搭載。

ヘアードライヤー「nanocare ULTIMATE」
展示用のスケルトンモデル
ナノイー発生機が、吹出口のすぐそばに配置されている

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パナソニックのイチオシの技術だけに、同社製品への搭載が拡がっていることは当然の流れといえる。だが、他社のエレベーターやコインランドリー機器、そしてクルーザー(船舶)や自動車、鉄道車両にも拡がっているとのことで、影響力の大きさがうかがえる。

様々な自動車メーカーにも採用されている
ナノイー搭載自動車の一例として、トヨタのクラウンやレクサスがある
車載用のナノイー製品
自動車への後付けが可能な、ナノイーX搭載の「クリーンシーリングライト」

ちなみに、鉄道車両の場合には、1車両につき8基のナノイー発生機を搭載する。

筆者の身近な車両、または乗ったことのある車両を挙げるだけでも、JR東日本の山手線「E235系」をはじめ、都営地下鉄 浅草線の「5500形」や日暮里・舎人ライナー「330形」、東武鉄道の特急 SPACIA X「N100系」で採用されている。

鉄道車両にも拡大

これだけ多くのものに搭載されているとなると、おそらく多くの人が、知ってか知らずか、一度はナノイーに触れたことがあるだろう。おのずと「それで……ナノイーって結局何?」という疑問が湧くはず。

ナノイーとは何?

「ナノイーとは何か?」は、筆者の場合、何度聞いても心の底から理解することは、正直できていなかった。そこで改めて、ナノイーとは何かの説明を真剣に聞いてきた。

ナノイーとは何かについて、パナソニックとの共同開発に関わっていた、奥山喜久雄先生(現広島大学名誉教授)の言葉がイメージしやすかった。

まだナノイーの開発に取り掛かる前のこと、奥山先生が当時のパナソニックの開発者との話で「静電霧化により帯電した水ミストを、ナノイーと呼ぶようになった」としている。

「静電霧化により帯電した水ミストをナノイーと呼ぶようになった」と語る奥山先生

同じことを説明してくれているのだろうが、パナソニックのくらしアプライアンス社の佐々木さんによれば、「5〜20nm(ナノメートル)のものすごく小さな微粒子」だとしている。この微粒子が、「OHラジカル」という成分を多く含んでいる点が重要で、このOHラジカルが有害物質と反応することで、ニオイや菌、あるいはウイルスの抑制に効果を発揮するとしている。

佐々木さんは「ただし……」と言って話を続けた。このOHラジカルは、それ単体では、空気中の酸素イオンなどに反応しやすく、そのために寿命が短く拡散しにくい問題があるとする。つまりは、高反応成分であるため、ニオイや菌などを抑制する前に、酸素イオンに反応して効果を発揮してくれないということ。

そこで同社は、OHラジカルを水に包むことで長寿命化を実現。こうすることで、酸素イオンに反応することなく、部屋の隅々まで拡散させた後に、有害物質に反応させて、抑制することができるようにした。

ちなみにOHラジカルとは、同社が名付けた名称ではなく、専門家の間では一般的に使われているもの。「O」とは酸素、「H」とは水素のことであり、OHラジカルは酸素と水素が結合した分子のことをいう。

OHラジカルを多く含む、5〜20nm(ナノメートル)の、水に包まれた微粒子がナノイーの正体

続いて佐々木さんの説明によれば「このOHラジカルが菌と接触し、その菌が保有する水素を抜き取り、水に変えることで菌を不活化させて活動を抑制します」としている。この作用により、菌やアレル物質など様々な有害物質を抑制できると語る。

OHラジカルが菌と接触し、菌が保有する水素を抜き取り、菌を抑制する。その際に、菌から抜き取られた水素は水に変わるそう

なお、より詳しくOHラジカルが何かについて知りたい場合は、関連するこれまでの記事を参照してほしい。

関連記事:OHラジカルって何? 本当に脱臭できるの? パナソニックの「ナノイー」に迫る!

進化するナノイーを発生させるデバイス

5〜20nmという微粒子のナノイーを、どう作っているかといえば「空気中から集めた水分に、高電圧をかけることで生成される」という。この装置を「ナノイーデバイス」と呼び、同社の空気清浄機やエアコン、ドライヤーや冷蔵庫などに搭載されている。

このデバイス、ナノイー発生機の特徴は2つある。1つは、ナノイーの材料である水分を、空気中から集めている点。つまり薬剤や液体などを補給したり補填したりする必要がないこと。もう1つは説明が難しいが、集めた水分に対して高電圧をかけるため、電極自体の摩耗が防げ、定期的なデバイス交換が不要な点。つまりは、メンテナンスが非常に簡単であり、佐々木さんによれば「メンテナンスフリーで使い続けられる」という。

なおナノイー発生機は、エアコンや空気清浄機などに搭載される「空質」モデルと、ヘアドライヤーなど「美容」家電に搭載されるモデルの、2種類が開発されている。「美容」モデルについては、髪や肌により潤いを与えるため、水分量を増加させているという。

ナノイー発生機の進化。2003年に初めて製品に搭載されてから、当初は小型化を重視して開発が続けられた。その後、同じ大きさで性能を向上させることを重視して開発されている
エアコンや空気清浄機などに搭載されるタイプのナノイー発生機「ナノイーX」
ドライヤーなど美容関連製品に搭載されるタイプのナノイー発生機「ナノイー モイスチャー+」

いずれのナノイー発生機も、手のひらにコロンと載るくらい小さなもの。それを見て、筆者は「この小さなデバイスで、本当にナノイーが発生しているのか?」と思ってしまったが、彦根工場では、実際にナノイー発生機がナノイーを放出している様子を見ることができた。

顕微鏡にナノイー発生機を設置し、ナノイーが発生している様子をディスプレイに表示。放出されるナノイー自体は視認できないが、何かをやっていることは確認できた(水に電圧をかけている)
ディスプレイ部分を拡大

ナノイー発生機は、今回訪ねた同社の彦根工場で作られている。その様子も見てきたので、ここで紹介しておく。

といっても、ほとんどの工程は製作機械が行なっていて、手作業で何かを行なうという工程はない。機械の中で、ガチャン……ガチャン……と作業が進んでいくのが分かるのみだ。

ナノイー発生機を作る工程
どんどん完成に近づいているなぁというのが分かる

ナノイーに消臭効果はあるのか?

パナソニックによれば、ナノイーには様々な効果があるとしている。挙げられた効果は、菌・ウイルス、カビ、花粉、アレル物質、ニオイ、PM2.5への対策と、美肌&美髪を合わせた7つ。

この中で、比較的に短時間で効果が確認できる「ニオイ」について、彦根工場で体感できた。

1つは、カレーなどのニオイを付着させた布を、ナノイー発生機に数秒近づけて、消臭効果を試すというもの。これは、過去の製品発表会でも見たことがあるが、目の前でカレー臭が、手品のようになくなる。

そのほか、焼き肉臭の付いたTシャツを、ナノイーで消臭するというもの。工場の敷地内で、もうもうと立ち上る焼き肉の煙を浴びせられたTシャツ。そのTシャツの一部分にナノイー発生機を近づける。ナノイーを当てていない箇所は、かぐと「うっ」となるほどの焼き肉のニオイが付着したままだが、ナノイーを当てた箇所は無臭になっていた。

工場の屋外で焼き肉をして、Tシャツにたっぷりと焼き肉のニオイを付着させている
Tシャツをかぐと、しっかりと焼き肉のニオイが付着しているのが分かる。だがナノイーを当てた手前の方は、一切のニオイがない

これらの実験を通して、ナノイー自体に消臭効果があることは間違いないようだというのが分かった。単純に「ナノイーってすごいな」と思わざるを得ない。

ただし実際に過ごす空間の中で、どれだけナノイーが効果を発揮するかは、まだじっくりと使ったことのない筆者には分からない。今後、ナノイー搭載製品を使い、まずは体感しやすそうな、消臭効果について自宅で試してみたいと思う。

河原塚 英信