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入社2年若手が名付けた「ゴリラのひとつかみ」なぜ生まれた?

「ゴリラのひとつかみ」製品開発の担当者であり命名者・水島英恵さんにインタビューした

ふくらはぎをケアする健康家電として今年の2月に発売された、ドウシシャ「ゴリラのひとつかみ」。ネーミングから掴みはOKで、X(旧Twitter)をはじめネットでバズり、ネットショップでは売り切れが続出している。

名前だけ聞けば何の商品だか分からないし、そもそもなぜゴリラなのか? 製品開発の担当者であり命名者である、ドウシシャ 家電事業部 家電商品ディヴィジョン・水島英恵さんにインタビューした。

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大谷翔平と並んでおめでとうメールが

――マッサージ系のアイテムとしては、かなり珍しいタイプの商品名ですよね。なぜ“ゴリラ”なんですか?

水島英恵さん(以下敬称略):長い話になっちゃうんですけど、いいですか?

――もちろん! 一言で終わったら記事にならないんで、長い方がありがたいです(笑)。

水島:このふくらはぎのアイテムは、他社に比べて少し小さめのサイズ感が特徴なんですけど、開発する中でエアバッグが小さい分、簡単に空気がいっぱいになり、めちゃくちゃ強い圧がかかるようになってしまったんです。気持ちよさを求めたつもりが、痛すぎるぐらいのものができてしまって……。ただ実際に使ってみると、めちゃくちゃ足がすっきりするので、使用感としてはバッチシだよねとなりました。

――強くなったのは偶然からだったんですね。

水島:自社の健康家電は、業界の中ではまだまだ知名度が低い状況で、そこを何とか改善したいという課題がまずありましたが、ようやく他社と勝負できそうな商品ができました。でもこのままだとなかなか手に取ってもらえなそうだなと悩んでいた時に、他社の製品なんですけど、もともと普通だった商品名を変えたことで売上が17倍に伸びたという記事を読んで、それがヒントになりました。このハイパワーを分かりやすく伝えたらいけるんじゃないかと。それで、ゴリラが足を掴んでるイメージが出てきました。

――いきなりゴリラにたどり着いたんですか?

水島:はい! 強いと思うものを考えたときに、すぐにゴリラは出てきました。アナウンサーの人が話す際、小中学生でもわかるように伝えようと意識されているように、大人が知識として持ってる名前とかじゃなくて、誰が見てもイメージが伝わるものがいいと、動物にこだわった部分はあります。

――この製品の存在を知ったとき、僕もゴリラの握力をネットで調べたんですよ。400~500kgあると書かれていて、さすがにそんなあったら骨が折れるよな……あっ、だから「ひとつかみ」なのかなと納得しました。

水島:その想像の通りです!

ご丁寧に、パッケージの隅にもしっかりゴリラの握力が明記されている

――ネーミングはすぐ社内会議で決まったんですか?

水島:ほかにも、ハイパワー○○、大根足○○といった候補はありましたが、多分いちばん皆さんに刺さったのがゴリラで、共感はしてもらっていました。ただ、健康家電でそういう攻めたネーミングでの売り方にはハテナだったようで、事業部長から「絵を描いてそのままアポイントを取って売りに行け」と言われたんです。

――発売が決定する前に?

水島:はい。バイヤーさんへのアポを営業さんに取ってもらい、今のパッケージの元になっている手描きのイラストを見せて説明させてもらったところ、前のめりで話を聞いていただき、注文してもらえました。それには営業さんもビックリしていましたが、それでこの商品の可能性を認めてもらった感じでしたね。

――実際、売れ行きとしてはどのぐらい?

水島:出荷実績を出せるのはまだ先になるんですが、発売して1カ月半で、受注ベースで10万個ぐらいです。今、楽天市場で検索してもらっても在庫がないので、売り場に出てこなくなりましたが、Xで話題になった次の週のランキングでは「フットマッサージャーランキング」の10位中7位まで全部ゴリラになってました(笑)。

――ゴリラジャックですね(笑)。

水島:ゴリラジャックと言えば、そのすごいバズった日が大谷翔平選手の結婚発表と重なったんですよ。Xのトレンドを可視化するbotみたいなのがあるんですが、「大谷翔平」とか「おめでとう」と書いてある横に、ゴリラのひとつかみが出てたのには笑いましたね(笑)。ここまで話題になるとは社内でも思ってなかったようで、皆さんから「おめでとう」のメールをけっこういただきました。

――結婚おめでとう、みたいな(笑)。

価格的なライバルは着圧レギンス

水島:価格にも、すごくこだわりました。同様にふくらはぎをケアするアイテムで、他社さんで一番売れているのは2~3万円くらいのものですが、私が意識したのは“着圧のレギンス”です。

女性であれば、スリムウォークやメディキュットなど、いろいろ試してこられたと思うんですけど、あれってだいたい3,000円とか、高くて4,000円ぐらいなんです。その商品を普段使ってる人が、2万3万の商品を簡単に買えるかというと疑問ですし、店頭でもなかなか試しづらいアイテムなので、せめて試してもらえるような価格帯にしたいと思いました。

片足だけになっても、コードレスじゃなくても、5,000円に収まったら多くの人に試してもらえるだろうと。試してもらって良かったら口コミが広がるし、もう一個買ってもらえるかもしれないと考え、5,000円(税別)に設定しました。結果としては、バズる前から売れ始めたので、価格的な要素も功を奏したと思います。

片足にすることで価格を抑えているとのこと

――もともと小さいサイズにしようとしていたのは、価格面を考慮して?

水島:そうですね。本当は足首までしっかりカバーしたほうがいいとは思うんですけど、巻くのも大変じゃないですか。毎日手軽に使えるコンパクトさもありなのかなと。

――ネットだと「弱でも痛い」「強にするのが怖い」なんて書かれてますね(笑)。

水島:そこはチャレンジしたところです。これまでは「気持ちいいもの」「効果があるもの」を展開してきましたが、この商品は斬新というか攻めた商品で「痛いけど使い終わった後の開放感が病みつきになるところ」が売りなので。それに痛さの体感って人によって全然違うんですよ。運動されてる方やマッサージを頻繁に受けられてる方は、強さをあまり感じなかったりしますし。

――熱々の銭湯とかサウナのように、強い刺激を求める人に向けての商品なんですね。

実際に取材陣もゴリラのひとつかみを試してみた。本当に人によって「弱でも痛い」「強でも余裕」と反応はまちまちである

あえてパッケージに製品写真を使わない

――パッケージで工夫されたことは?

水島:社内からはまず、商品のビジュアルを載せるべきだろうと言われました。店頭にサンプルが置いてあったとしても、写真がないってどうなのと。私は入社して2年目の若手なんですけど、そこは拒否しました。40~50代のベテラン営業さんたちに「嫌です」って。

――強い(笑)。どう説得されたんですか?

水島:大体、この商品の写真を見て、欲しいってなりますか? だったら、まずは「何だろ、これ?」と、パッケージを手に取ってもらうことにこだわった方がいいと思って、ゴリラの顔を大きくして足を掴んでるインパクトのあるイラストにしました。これで商品の使い方がある程度伝わりますし、透明の窓にすることで、色がわかるようにしています。ここは個人的に遊び心じゃないですけど、工夫したところです。

あと、このイラストもいろいろ言われましたね。もっと怖い顔のほうがいいとか。でも、これは女性に手に取ってほしいからかわいらしい顔でいくことにしました。そこは自分の中でこだわって戦ったところでもありますね。

ゴリラのイラストが大きく描かれたパッケージ
裏には製品説明も

第5弾までシリーズ化決定

――今後の展開は? シリーズ化もあるんですか?

水島:ゴリラのハイパワーシリーズで展開を考えてまして、第2弾は足裏を狙ったアイテムを展開したいなと思ってます。さらにハンドケアのアイテムなど、部位別で展開したいなと思ってて、既に第5弾ぐらいまでネーミングだけは決まってます。

今回ちょっと面白い反応があって、Xとかから商品サイトに飛んで見ていただくこと多かったんですけど、商品サイトの一番下に第2弾の予告を軽く出しているんです。シルエットだけで何のことかわかんないんですけど、「次どんな名前になるんだろう」といった反応をXでいただいたりもしているんで、せっかくなんで発表前の企画でネットを巻き込んで盛り上げていけたらいいなと思っています。

毎日出社したらゴリラのひとつかみを使っているという水島さん。終始元気に明るくインタビューに答えてくださりました。ありがとうございました!

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>