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ナノイーが花粉アレルギー反応を抑制 細胞レベルで実証、パナソニック

国民の4割は花粉症で、そのうち9割はスギ花粉症だという

「日本の花粉症患者数は2019年時点で42.5%で、そのうち約9割がスギ花粉症」。環境省の「花粉症環境保健マニュアル2022」にはそのようなデータが掲載されている。

1998年から行なわれている全国調査で、花粉症患者数は10年ごとに10%ずつ増加が続いているとのことだ。

パナソニックはこれまで、同社のナノイー(帯電微粒子水)技術を用いて、スギ花粉を含む国内の主要な花粉13種に対して抗原性抑制効果を実証してきたが、生体に対してアレルギー反応を抑制する効果があるのかは明らかになっていなかった。

そこで、免疫細胞を用いてアレルギー反応の抑制効果を検証した結果、細胞レベルでアレルギー反応が抑えられることを実証。さらに、アレルギー反応の抑制メカニズムが判明したことで、室内に存在する他のアレルゲンに起因するアレルギー症状についても、ナノイー技術による抑制が期待されるという。なお、細胞レベルでの効果実証は今回が初めての試みとしている。

アレルギー反応の抑制効果を細胞レベルで実証

花粉症のメカニズムとナノイー照射花粉での検証

本研究は麻布大学 獣医学部 獣医学科 福山朋季准教授と共同で行なわれている。福山准教授は花粉症に至るまでのメカニズムについて解説。

麻布大学 獣医学部 獣医学科 福山朋季准教授

花粉症は花粉を吸い込んだり、花粉が皮膚に付着したりすることで抗体が生成され、抗体と肥満細胞が結合したものに花粉が付くことで症状が引き起こされるという。

花粉症が発症するまでの期間には個人差があり、子供の頃から花粉症の人、大人になって花粉症になる人などさまざま。これは抗体の許容量の差によるもので、よくコップに例えられたりもする。抗体の許容量が大きい人は発症率が低く、許容量(コップ)が小さい人は発症率が高い(水が溢れやすい)という。

花粉症発生のメカニズム。抗体の許容量はコップに例えられることがある

花粉症のアレルギー反応には「樹状細胞」「T細胞」「肥満細胞」、主にこの3つの細胞が関わっている。樹状細胞がアレルゲンを取り込むと炎症性物質を放出してT細胞を活性化、T細胞が抗体生成を指示し、生成された抗体と肥満細胞が結合した後、アレルゲンと接触すると花粉症の症状が誘発されるイメージだ。

花粉症のアレルギー反応における「樹状細胞」「T細胞」「肥満細胞」の役割
アレルギー反応の各段階

今回はアレルギー反応の初期段階である樹状細胞、そしてT細胞に対して、ナノイーを照射して抗原性が抑制された花粉を接触させ、反応を観察。

検証は45Lの試験空間にて、床面から5cmの位置にナノイー発生装置を設置。花粉(スギアレルゲン)が入ったシャーレを設置し、ナノイーを所定時間照射後、細胞へ添加、各項目を測定した。

ナノイーを照射した花粉を各細胞へ添加して検証

その結果、「1.花粉に対する樹状細胞の過剰な反応が抑制され、炎症性物質の産生が約70%抑制」「2.花粉症発症の原因となる抗体生成を指示するT細胞の増殖活性が約40%抑制」されることが確認できた。

具体的には、まずアレルギー反応の初期段階で花粉と接触した際に起こる樹状細胞の活性化割合を確認。活性化した場合は細胞外から細胞内へカルシウムイオンが流入するため、その流入量を調査した。結果、ナノイーを照射した花粉を樹状細胞に接触させた場合、通常花粉と比べてカルシウムの流入量が減少していることが認められた。

樹状細胞の活性化について検証
赤くなった部分ではカルシムイオンが細胞内に流入している

次に、樹状細胞からT細胞に情報を提供するための細胞膜抗原の発現割合を測定。2種類の細胞膜抗原において、通常花粉と比べて発現が50%以上減少したことを確認した。また花粉と接触すると、樹状細胞自体も炎症性物質を放出するが、ナノイーを照射した花粉では炎症性物質の遺伝子発現が約70%抑制される結果となった。

樹状細胞が花粉の情報をT細胞に伝えると、T細胞は増殖する。この増殖活性を確認するため、ナノイーを照射した花粉を樹状細胞に曝露したものをT細胞と共培養したところ、通常花粉を用いた場合と比べてT細胞の増殖活性が約40%抑制される結果となった。

樹状細胞からT細胞に情報を伝える細胞膜抗原の発現割合も減少
樹状細胞が放出する炎症性物質の遺伝子発現は約70%抑制
T細胞の増殖活性は約40%抑制された

以上の結果から、ナノイーを照射した花粉は樹状細胞とT細胞の反応に抑制効果があることがわかった。なお、花粉症の症状を誘発するヒスタミンなどの成分を放出する肥満細胞への影響については現在検証を進めているという。